中堅企業が世界最大の見本市「ミラノサローネ」に挑戦 - 担当者が語る出展の裏側

中堅企業が世界最大の見本市「ミラノサローネ」に挑戦 - 担当者が語る出展の裏側

世界規模の家具見本市「ミラノサローネ」

住宅設備のサンワカンパニーが同展に出展

成長中の企業がミラノに打って出た狙いと成果は

はじめまして。サンワカンパニーで広報を担当しています矢頭ユミと申します。

2018年4月、私たちはイタリア・ミラノで開催された「ミラノサローネ国際家具見本市」(以下、ミラノサローネ)にて同時開催されたキッチンの見本市「エウロクチーナ」に出展しました。これで、ミラノサローネへの出展は2回目となります。

2018年4月、ミラノサローネ(エウロクチーナ)でサンワカンパニーが出展したブース

サンワカンパニーはキッチンをはじめとする住宅設備の企画・開発・インターネット販売をしている会社で、主力商品のひとつがキッチンということもあり、キッチンの見本市に出展しています。今年のミラノサローネでは、8種類のコンパクトキッチンを展示しました。

まだ国内でも成長途上のサンワカンパニーですが、わたしたちがなぜ、世界最大の家具見本市に複数回出展しているのか、その理由について、本年の展示の成果と共にご紹介します。

世界中の関係者が集まる「ミラノサローネ」

そもそも「ミラノサローネ」とは何なのか、最初にご説明いたします。「ミラノサローネ」は2018年で57回目を迎える、世界最大の国際家具見本市のことです。ビジネスの場であるため、平日の入場は業界関係者およびプレス関係者に制限され(週末は一般開放されています)、今年は過去最大の43万人以上が来場しました。

巨大な会場は端から端までおよそ2kmの長さがあり、1日ではとても回り切れないほど。各社の最新デザインの商品が趣向を凝らして展示されており、有名なブランドでは、ブースに入場するために長蛇の列をなすようなところもあります。業界関係者が心を踊らせながら、新しい商品・デザインを発掘するのが「ミラノサローネ」です。

出展が難しい本会場にあえて挑戦

「ミラノサローネ」に出展するきっかけになったのは、社長である山根太郎の考えからでした。それは「私たちが目指すのは”世界”のサンワカンパニーであり、そうなるためには世界最大の家具見本市で勝負をするべきだ」というものです。

とはいえ、前述したとおり、私たちはまだまだ国内でも成長の余地があり、客観的に見ても、「まずは国内の市場に注力するべきでは?」と考えられるかと思います。ですが、少子高齢化が進む日本では、日本の住宅に関する市場は縮小していく見込みです。そこで、企業として成長している今の段階から、海外での販路の拡大、そしてブランディングの種まきをすべく、「ミラノサローネ」出展に挑むことになりました。

ところが、「ミラノサローネ」は一般的な展示会と異なり、出展したいと希望を出し、出展料を払えば出られるというものではなく、非常に出展のハードルが高い見本市です。

昨今、ミラノサローネに参加したという大手の日本企業は多くありますが、家具見本市の会場の中ではなく、その周辺で会場を借り、個展のようなかたちでインスタレーションなどを展示されています。そちらも当然大変な事業ではありますが、今回、私達はキッチンを中心に展開する会社として、あえて参加条件が厳しい本会場での参加を選んだのです。

2016年出展時のサンワカンパニーブース

出展を現実のものとするため、当社の商品や出展プランの提示だけではなく、社長の山根が直接、イタリア語でプレゼンをするなど、粘り強く交渉を続けた結果として、2016年、はじめて出展が叶いました。

初出展から、レッドカーペットが敷かれ、人気企業のブースが建ち並んでいる素晴らしい位置で出展させていただきました。これはミラノサローネ主催者からの期待を反映した配置で、光栄な思いとプレッシャーの両方が感じられました。

コンパクトキッチンで世界のライフスタイルを提案

さて、ここからは2018年の展示についてお話したく思います。「The Impact of Compact」をテーマに、コンパクトキッチン8種を展示しました。

デザイナー・Kicco Bestetti氏とのコラボレーションで生まれた、カートのように移動できるキッチン「QB 01」。

このテーマに設定した理由は、ひとつが世界の都市部で住宅の狭小化が進む中、小さい空間に対応しうる、デザイン性の高いキッチンが少ないということ。もうひとつは、コンパクトキッチンを使用する場所が、家の中だけでなくオフィスの中、屋外など現代のライフスタイルの変化とともに広がりをみせているという点に可能性を感じたからです。

実体験からしても、2016年の「ミラノサローネ」出展の際、他のブランドの展示を見たところ、ラグジュアリーなもの、非常に大きなキッチンが多く、コンパクトなキッチンは皆無だったと記憶しています。

デザイナ-・Alessandro Mendini氏とのコラボレーションキッチン「AM 01」。アイランド型として利用できるキャビネットとなっている。

同年はそれに対して、4点のキッチン(ミドルサイズのキッチン2点、コンパクトキッチン2点)を出展しました。中でも特に、「ミニマリズム」デザインをコンセプトとした《セラジーノ》というコンパクトキッチンが会場で注目を浴びました。こうした体験から、コンパクトキッチン自体が、世界市場において大きな可能性を秘めていると感じました。

2016年出展時に注目された「セラジーノ」。2018年の展示商品(写真)では、イタリアのタイル技術と日本の匠の技を組み合わせ、全面タイル張りを実現し展示した。

そこで、2018年の出展時には、世界的に有名な建築家・デザイナーとコラボレーションした新モデルなど、さまざまなコンセプトを持ったコンパクトキッチンを提案することで、ほかの出展企業との差異化を図ることが出来るのではないかと考えました。

イタリアで生産した新製品だったということもあり、初めて今回出展するキッチンと対面したのは、開催直前の会場設営時でした。キッチンだけでなく、そのキッチンがある生活を想起させるような食器やインテリア、照明とともに、8種のキッチンが展開されている様子は、それぞれのキッチンの個性を最大限に引き出したものになっていました。

デザイナー・Elisa Ossino氏とのコラボレーションキッチン「EO 01」。壁面の裏にIHヒーターやシンクを格納したミニマルな設計。

業界関係者の方が、今回の私たちの展示をどのように捉えていただけるのかワクワクしながら2018年の開催を迎えました。

想像を超えた成果

そして、いよいよ本番。サンワカンパニーのブースは周りの展示ブースと異なり、4面開放の白を基調としたブースでした。その中でも8種のキッチンそれぞれの世界観が独立して展示される構成となっていて、展示の美しさを示すと同時に、「このキッチンがあればこういった暮らしができそうだな」と、その先にある生活をイメージできるものになりました。

白を基調とした展示ブース内に、8種のキッチンの世界観を個別に展示した

さらに今回のブースではスタイリング面で、中川政七商店さん、堀田カーペットさん、DYK(高儀さん)と協業させていただき、キッチンスタイリングに使用させていただきました。日本製の品質の高さとデザイン性の高い商品で、スタイリング材自体にもご注目いただきましたし、キッチンのスタイリングともマッチして、これによって、展示自体をワンランク上のものにしていただけたと感じています。

ブース内のスタイリングには、日本の協業先の取り扱う国産製品を活用した

開催初日から、私たちのブースに多くの業界関係者が訪れました。商談の数やプレスの来場者が前回出展時をはるかに超えていたため、「海外販路拡大」「ブランディング」という目標に対してひとつの成果になるな、と期待していました。

そんな中、会期中に当社が「ミラノサローネ・アワード」を受賞したという吉報が舞い込んだのです。来場者の方のお声でもご好評をいただけていたことは認識していましたが、1,841の出展企業の中から最も優れている3社のうちの1社であると評価をいただけるとは想像できなかったため、非常に驚きました。

また、受賞理由も商品・空間展示やコンセプトをトータルで評価していただけたことは、とても名誉なことだと感じています。2年以上、プロジェクトメンバーとともに試行錯誤を続けながら「ミラノサローネ」と向き合い積み重ねてきたことがアワード受賞というひとつの成果になったことは、とても喜ばしいことでした。

​「ミラノサローネ・アワード」受賞時の記念写真

国内にも還流を

当社では現在、東京ショールームにて「凱旋展」という形で「ミラノサローネ」に出展した商品の展示を行っています。

ぜひ「ミラノサローネ」で認められたコンパクトキッチンをご体感いただき、多様なコンパクトキッチンがもたらすこれからの暮らしを想像していただければと思います。

ミラノサローネ2018凱旋展

開催期間:10月28日まで
開場時間:10:00 ~ 18:00 ※入場無料
会場:サンワカンパニー東京ショールーム
詳細は特設Webページにて

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。