日本のクルマ文化を見直すべき時期? 安東弘樹がマツダと考える

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第7回

日本のクルマ文化を見直すべき時期? 安東弘樹がマツダと考える

2018.10.10

日本のクルマ文化と高度経済成長期の関係

大変革の自動車業界で重要性を増すブランド力

クルマ離れを止めるにはクルマを知ってもらうこと

初代「ロードスター」のレストア事業に関する話から始まった安東さんとマツダ・梅下隆一執行役員の対談。日本で古いクルマを楽しむためには何が必要かというテーマから、最終的にはクルマそのものの楽しみ方について、話題は移っていった。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

クルマ文化の東西比較

編集部:日本で古いクルマを楽しむ文化が育たなかったのって、どうしてなんでしょうか。日本にも、古いモノを愛でる土壌はあると思うんですけど……

安東さん(以下、安):でも、家電とかになると……

梅下さん(以下、梅):そうなんですよ。工業製品における古いモノっていうのは、日本では難しいですね。十把一絡げにはいえませんけど。

安:例えば冷蔵庫ですら、アメリカでは古いモノを気に入って使ってる人が結構、いますからね。まあ日本人にはいない。流行を取り入れたものがどんどん出てくるし。

梅:高度経済成長期に、欧米に追いつけ追い越せで、庶民でも色んなものが買える状態にしなきゃいけないというのが、国民みんなの目標だったわけですよね。だから、家電もクルマも、少しでも安く、高機能なモノをたくさん作って、お届けするというのが多分、僕たちの使命だったし、それが国を豊かにしてきたはずなんですよ。少なくともバブルまでは、そうやってきたと。一部の裕福な人に向けて、趣味性の高いクルマをお届けするよりも、むしろ当時は、なるべく安くて高機能なクルマを競って作るという時代だったわけですよね。

バブル崩壊の後、もしかすると、どこへ向かうのかという明確な方向性がないままに今を迎えたのかもしれないですね。時計だってオーディオだって、クルマだって、高級で趣味性の高いものは結構、海外製になった。だけど、1980~90年代までは、おそらく時計だって、趣味性の高いものが死に絶えそうになっていたところに、日本の高機能で、まったく狂わない時計が、全てを席巻するがごとき勢いになった。オーディオだって、日本の高機能なメーカーはすごく元気がよくて、クルマもそうだった。だけど、いろんな業界が、次のステップをなかなか見出せない状態で、今に至っているのかもしれない。

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん(対談風景の撮影:安藤康之)

安:根本的に日本って、終戦で何もなくなって、財閥も解体になって、良くも悪くも、本当に豊かな人って一回、いなくなりましたもんね。豊かな文化がゼロになった。それで、物質に豊かさを感じるようになったのかも。

梅:ヨーロッパだと、一部の貴族がクルマであれ、食であれ、文化を作ってきた側面はありますものね。近代になって、別の文化が米国にも生まれていますけど、米国というのは何をするにも、極めて安上がりの国なので、庶民でもさまざまなゆとりを持っているし、欧州とは違う形で文化が芽生えた。庶民レベルでの文化的な趣味は非常に豊かなものがある。だけど、アメリカとヨーロッパでは、クルマの文化がだいぶ違いますけど。趣がね。

安:そういう意味では、「ロールスロイス」って日米では生まれようがないのかもしれませんね。そこは永遠に追いつけないところかもしれない。クルマ文化を大切にしていけば追いつけるのかもしれないですけど、残念ながら今は、反対の方向に向かっている感じがします。便利で、自動ブレーキが付いてて、みたいに、何が付いているかということが豊かさの象徴、というところから脱却できない。

「ロールスロイス」は英国で生まれた(画像は1934年に作られたロールスロイスの「ファントムⅡ」。「AUTOMOBILE COUNCIL 2018」にて編集部撮影)

梅:作る側は一生懸命にそれを作っているんですが、お客様は、もうそこに魅力を感じなくなっているのかもしれませんね。だから、買ってもらえない。そういうところで、作り手側も悩んじゃっている。

安:ジレンマあるでしょうねー。

大変革のクルマ業界、生き残りの鍵はブランド力?

編集部:でも結局、自動運転の電気自動車ばかりが走る世の中になったら、そのクルマは、どこのメーカーが作ったものでも関係なくなってしまうという怖さはないですか?

梅:そうなったら、うちも大変だ(笑)

安:どうなっても、電気でも自動でも、ロールスロイスというブランドは磐石だと思いますよ。自動運転の電気自動車であっても、ロールスロイスを買うお客さんはいる。そこの部分って、逆にすごく大事になりますよね。そうなると、ブランドが逆に問われると思う。

梅:まさにそう。自動でもEV(電気自動車)でも、みんながクルマをシェアリングする時代になっても、「フェラーリ」を買う人は絶対に買う。

安:絶対に買う。運転しなくても買うと思います(笑)

梅:それはやっぱり、そこに文化的、あるいは資産として、あるいは商品の魅力として、際立ったものがフェラーリにあるからで。

安:日本メーカーは、そこを危機だと思って欲しいです。だから、マツダの方向性はすごく正しいと思うんですよ。ヘリテージを大事にすることとか。「アテンザ」の方向性も、ミニバンをやめたことも含めて。

※編集部注:安東さんがマツダ「アテンザ」に試乗した。その模様はこちら

マツダのフラッグシップモデル「アテンザ」のセダン

安:私は今、輸入車しか基本、興味なくて、日本メーカーには少し失望しているというか、なんでコストでしか戦わないのか、価値を高めようとしないのかって思ってるんですけど、ミニバンをやめると聞いたとき、マツダは本気で考えているのかもって感じました。例えば、ディーラーでCI(コーポレート・アイデンティティ)の刷新も進めてますよね。

※編集部注:マツダはブランド価値向上に向けて販売店の改装を進めている。詳しくはこちら!

安:やっぱり、クルマを買う時は私、個人的には、のぼりが立ってる所に行きたくないって気持ちがあるんで。もちろん、ハードルが高くなったという人もいると思いますよ、マツダが急に、高級路線で入りにくくなったと。だけど、僕はそれでいいと思ってるんですよ、そういう思い切りが今まで、日本メーカーにはなかったと感じてるんで。だからアテンザも、もう100万円、高くてもいいと思ってるくらい。

サーキットの敷居を低くしたい2人

梅:クルマは何より、楽しいですけどね。僕なんか、リフレッシュに使ってますよ、行き帰りの通勤で。

安:全く同じです。今、私は千葉市に住んでいるので、(東京都内に通勤すると)往復で100キロなんですけど、楽しくて仕方がないです。仕事に向かうときは集中力が高まるし、帰りはクールダウンになるし、100キロは何の苦にもならない。日本人には、もっとたくさんクルマに乗って欲しいですよ。長い時間を乗ることになれば、より運転が楽しいクルマの方がよくなるでしょうし。クルマに触れる時間が短すぎるんですよね、ショッピングセンターに行くとか、乗る距離も短い。

梅:僕は思うんですけど、クルマってやっぱり、通勤で往復していてもリフレッシュできて楽しいですし、そこから先、足として使う以外にも、色んな趣味性が広がっていくものですよ。レストアまでいかなくても、何かアクセサリーを買ってきて付けるだけでも“自分のクルマ”になる。あるいはモータースポーツも、もっとお客様に楽しんでもらえるようにしたいし。

安:そうそう! サーキットのハードルって、もうちょっと下がらないんですかね?

梅:下げたいんですよ!

安:「ボウリング場」のレベルになればいいんですけど。

梅:そうなんですよ!

安:ニュル(ニュルブルクリンク、ドイツにある有名なサーキット)の20キロのコースでさえ、向こうではチケットさえ買えば、コースインですから。日本だと面倒だからなー! もちろん、旗の色とか、最低限の知識は必要ですけど、なんでこんなにハードルが高いのかな。やったらはまりますよ、絶対。信号もないし、人も飛び出してこないから危なくないし。

梅:手間も時間もお金も掛かるんで大変なんですけど、なんとかできればね。

安:持論なんですけど、サーキット教習を、教習所でやったらいいと思うんですけどね。サーキットって、実は日本に沢山あるし、希望者だけでもいいので。サーキットで思い切り走ってみてくださいよと。初めて免許を取る時、最初に高速教習とセットでサーキット教習をやったら、ほとんどの人がはまると思うんですけど。だからサーキット教習は是非やって欲しいんですけど、誰に言ったらいいんだろう?

免許取得時のサーキット教習を検討して欲しいと安東さん

梅:僕も思い当たることがあって、マツダは主催じゃなくて協賛なんですけど、「ドライビングアカデミー」というのがあります。初めてクルマをお買い上げになったお客様から、そうじゃない人まで、多くの場合はサーキットでやるんですけど。でも、いきなり走るのではなく、クルマというのは、こういう状況になったら、こんなことが起こりますよというのを体験してもらうんですよ、わざと滑らせたりとか。

安:普通の人って、フルブレーキもフルアクセルも経験したことないですからね。

梅:そうそう。で、最後はサーキットも少し走っていただく。年間二百数十枠しかないんですけど、募集すると、瞬く間に一杯になる。

安:だから、興味はあるんですよね。

梅:今から僕らは、そういうことの枠も広げていくべきかもしれない。200万円で買ったクルマを、そこで使い切れると。

安:いいと思います。安全上もいいですよね。子供を乗せてミニバンでかっ飛ばしているお父さんもいるわけじゃないですか。「この人、ここでフルブレーキをかけたらどういう挙動になるのか、分かってるのかな」と思うと恐怖で。サーキットでも、飛行場でもいいと思うんですけど、一回でも、クローズドコースで、とりあえず思いっきり踏んでみて、急ブレーキをかけるとクルマがどう動くのか、経験するだけでも変わってくると思うんですけどね。そういう教習ってすごく必要だと思う。僕は山形の合宿免許だったんですけど……

梅:山形の合宿免許? ぼくもそうでした!

「山形の合宿免許」という共通点が発覚した両者

安:2月だったんですけど、夜に水を張って、氷路教習みたいのがあったんですよ。

梅:そんなのあったんですか?

安:スタッドレスが出たばっかりの頃で。40キロくらい出してツーって、ブレーキが全く効かないような状態を経験させてもらったんで、それはすごくよかった。そういう経験をしておいた方がいいじゃないですか。

梅:その方が絶対、安全ですよね。知っている方が。

安:たかだか40キロでも、フルブレーキ踏んでロックしちゃったら、どうにもなんないと体で感じることができた。それをクローズドコースとかサーキットでやるのが、必修くらいになれば……。クルマって“凶器”であり“棺おけ”でもあるわけじゃないですか。

梅:だけど、正しく使えばね。

サーキットで1度、クルマの能力を極限まで試してみることは、確かにためになる経験かもしれない。画像はマツダの美祢自動車試験場(山口)にあるサーキット(画像提供:マツダ)

安:クルマって「魔法の絨毯」じゃないですか。しかも、「どこでもドア」と違うのは、行程も楽しめるところ。その楽しさは、ぜひ知ってほしいですよね。

梅:駅もないところに、自分の意思で行ける。だけど一方で、普及させることに重きが置かれたのもあると思いますけど、危険性もある乗り物なのに、専門的な知識なしで乗れるようにしなきゃいけないものって、クルマしかないですよ、考えてみれば。

安:場合によっては、自分のクルマのことも本当に知らない。ガソリンかディーゼルかも知らないし、気筒の数も分からない。僕なんか運転しながら、ピストンが上下しているのを想像して悦に入っているタイプなので、そういうのを分かって運転しているから危険も、整備の具合も分かりますし。運転スキルには自信ないですけど、スキルを過信しない自信はあります。

エンジンが動いているさまを想像しながらクルマを運転しているという安東さん(「アテンザ」試乗時に編集部撮影)

安:ヨーロッパには、国自体がクルマ好きって感じのところもあるじゃないですか。でも日本は……

梅:それはでも、マツダでも少しやってますと申し上げましたけど、もっと僕らが努力して、数を増やしていって、たくさんのお客様が体験して、クルマとはこういうものだと理解して頂いて、中にはサーキットを走って見たいと思う人がいるかもしれないし、そういう(機会を増やす)努力を僕らはしうるわけで。そういう人が増えていくと、国に「やっぱりこっちだよね」と思ってもらえるかもしれない。国の仕組みと僕らの努力って、鶏と卵なので。僕らとしては、国がやってくれない、変わってくれないといって待っているよりも、自分達で、こうあればいいなということを少しずつ、実現できればいい。

安:例えば、全てのマツダオーナーに、そういうドライビングアカデミーみたいなものを勧めるとか、そういうところから始めるのがいいんじゃないですか? 新車を買う人に勧めてみる。もちろん任意で、興味ある人だけでいいんですけど、全てのお客さんに働きかけることって、メーカーさんができることなのでは。

梅:がんばろう! がんばります。

安:そういう提案もありかなと今、思いましたね。

梅:現時点でそういう状況にはなくて、もちろん、それなりのインストラクターも必要ですし、フルフルでやって年間、二百数十人という状況なんで、道は長いですけど、頑張らなきゃいけない。

もう少しキャパが増えるといいですよね。この間、鈴鹿でやったアカデミーを視察に行ったのですが、お客様とお昼を食べた時、これに参加するのに2回も有給休暇を取ったと。一回は今日で、もう一回は予約を取る時だと。それを聞いて嬉しい反面、ものすごく申し訳なくて。今はインストラクターも足りないし、サーキットが中々、空いてないってのもあるのですが、もう少し多くのお客様を受け入れられれば。せっかくクルマを買ったのだから。

転換点を迎えたマツダの今後、「FD」復活も視野?

編集部:マツダは先日、今後のクルマづくりに「ラージ」と「スモール」という考え方を導入すると発表されました(詳しくはこちら)。そういう意味で転換点にあると思うんですが、ロードスターに限らず、今後もマツダは、お客さんに長く乗ってもらいたいと考えてクルマを作っていくんですか?

梅:そういうことなんでしょうね。うちのクルマは、自分でいうのもなんですけど、哲学と情熱に満ちてると思いますよ。

安:「FC」とか「FD」(「RX-7」というクルマの型式で、「FC3S」と「FD3S」のこと)なんて、もう伝説になっているじゃないですか。「頭文字D」を読んでない人でも。

※編集部注:漫画「頭文字D」には、「FC」と「FD」を操る高橋兄弟というキャラクターが登場する。

「RX-7」。これは「FC」と呼ばれるモデル(画像提供:マツダ)
こちらは「FD」(画像提供:マツダ)

梅:ええ。ただ、本当に申し訳ないんですけど、そういうクルマってだんだん、車検が通らなくなってきていて。次は、ロータリーをお持ちのお客様をどうするかなんですよ。自動車会社として、これは次の非常に大きな責任なので、頑張んなきゃ。

安:FCとFDって、規制を通るように作り変えてでも、復活させて欲しいなと思いますよ。FDなんて、デザインは今だに本当に格好いい。欲しかったなー! でも、あのフォルムはロータリーエンジンじゃないとできないですよね。

梅:難しいですね。あのボンネットの高さ、できないですよ。

安:マツダって、漫画にクルマが登場したりする、数少ないメーカーであることは間違いないので。FDは乗りたいですけど、今は難しいんでしょうね、あのままロータリーでというのは。排ガスも燃費も。

梅:いや、でも、「やります」とお約束はできないですが、うちの会社はあきらめてないので(笑)

安:あのまんまで乗りたいですね!

ロータリーエンジン搭載スポーツカーの復活に期待をにじませた安東さんと含みを持たせた梅下さん

「日本で古いクルマを楽しむには?」というテーマを設定していた今回の対談。話題は初代「ロードスター」のレストアから、ロータリーエンジン搭載スポーツカー復活の可能性まで多岐にわたった。自動車メーカーにとって、これまでにどんなクルマを作ってきたかという歴史は、その会社のブランドイメージに直結する部分。マツダのように自社のヘリテージを大切にしようとする姿勢は、そのブランド力が生き残りの鍵になるかもしれない今の時代に、ますます重要になるのではないかと感じた。

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折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。