サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

サマータイムに賛否両論、何が良くて何が駄目なのか

2018.08.20

東京オリパラの暑さ対策にサマータイム

賛否はあるが、ITの側面から巨大リスク

場当たり的な対策でなく、慎重な判断を

2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会の暑さ対策として、夏期に限って時間を早めるサマータイム(夏時間)の導入を検討するとの報道が、各所を賑わせている。背景には今夏の異常とも言える酷暑を踏まえた、野外競技選手の体調を配慮する狙いがあるものの、その意見は政府内でも統一されていない。菅義偉官房長官は2018年8月6日の記者会見で「国民の日常生活に影響が生じる」と発言したとの報道もあり、その先行きは不明確だ。

ところで、過去に日本はサマータイムを導入した経緯がある。それはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本の占領施策を実施した期間の一部にあたる、1948年(昭和23年)から1952年(昭和27年)の5年間だ。当時を振り返った多数の報道記事によれば、労働時間の長期化や、睡眠不足に代表される体調への悪影響を訴える国民の意見を鑑みて、結局は廃止に至ったという。

その後も地球温暖化対策を背景に、1995年頃から国会議員による法案提出が何度か検討されたが、政局などの事情が折り重なり、導入検討は見送られてきた。つまり、オリンピック開催のタイミングでサマータイム導入の話が出てくるのは突発的なものではなく、導入賛成派の意見が再び表に出てきたものだと筆者は愚見する。

ITの側面でみるサマータイム

多くの日本人はサマータイムに馴染みがないので、導入している米国を例に説明すると、3月第2日曜日午前2時から11月第1日曜日午前2時までがサマータイム期間。この時期は午前2時に1時間の時刻繰り下げが発生し、午前1時59分の次は午前3時となる。期間終了後は午前1時59分の次が午前1時となる仕組みだ。

ヨーロッパも導入国が多く、高緯度の国で貴重な日照時間を有効活用したり、省エネへの貢献などのメリットがあるとされていた。もっとも、欧州連合(EU)ではつい最近、健康への悪影響があるという研究結果や、思ったほど省エネではなかったという指摘が相次いだことから、見直しの検討に入ったそうだ。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案しているとされるのは、2019年および2020年6~8月の2年間限定で2時間の時刻繰り下げを行うというもの。恒久化したいという意見もあるそうだ。どのような導入形式になるのか不明なものの、暑さ対策という意味合いを考えれば早朝に時刻を繰り下げる可能性が高い。つまり今まで午前7時に起床していた人は午前5時に起床することになる。

なお、NHKが2018年8月に実施した「2018年8月政治意識月例調査(pdf)」では、「東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として(中略)サマータイムを導入することに賛成ですか(以下略)」との設問に、51.1%が賛成と回答している。

もちろんGHQ時代のサマータイムを実体験したわけではないので、軽々なことを述べられないが、少なくともITの側面から考えれば、あまりにも負担が大きく、賛成しがたい部分がある。例えば環境省が1999年5月に取りまとめた「地球環境と夏時間を考える国民会議報告書」によれば、コンピューターの改修や信号機などの対応コストは約1,000億円におよぶと試算を出している。

個人に身近なパソコンであっても、例えばWindows 10はサマータイムに対応しているが、Excelは未対応。中堅中小企業などにワークシートで時間ごとの売り上げをまとめている場合、サマータイム導入時はdate関数に計算式を加えるなどの対策が必要だ。

また、日本はこれまでサマータイムを考慮する必要がないため、開発者はUTC(世界協定時刻)とローカル時刻の相互間変換を行わず、そのままローカル時刻を用いるケースが多いだろう。この改修に要する時間は短時間ながらも、過去に納品したソフトウェアのコードすべてを確認のため洗い直す手間は、想像したくもない。

そして、単なるソフトウェアなら再納品が可能ながらも、IoTデバイスなどハードウェアレベルでサマータイム未対応というケースがあれば、そのコストはさらに跳ね上がる。新しいものを生み出す可能性の低い、ただ受発注だけが増える事業に、これほど大きな社会的コストをかけてよいものかと不安になってしまう。

加えて2019年4月30に天皇陛下は退位礼正殿の儀に臨まれ、翌5月1日には元号が変わる予定だ。他にも消費税10%アップや軽減税率の対応など、ITの現場は既に負担増で余裕など存在しない。ただでさえIT界隈では開発者不足が叫ばれる昨今、新たにサマータイム導入を強いる場合、プロジェクトの遅延や停滞など、あの「Y2K(2000年)問題」を上回る混乱を起こしかねない。

場当たり的な暑さ対策に留まっていないか

確かに今年の酷暑は異常であり、あの最中に競技を実施するのは現実的ではない。だが、筆者の目に東京オリンピック・パラリンピックは、場当たり的な対応を重ねてきたように映る。新国立競技場の設計はもちろん、招致時に掲げた内容も曖昧だ。

当時、東京都知事・招致委員会会長だった猪瀬直樹氏は、「東京が擁するインフラを提供する。輸送面も交通網がすでに整備されており、確実な能力を有している」と述べていたが、築地市場移転が遅延したことで、環状2号線の全通は2022年度に見送られた。

このように機転を利かせたように見えて、先々を見通せない結果を目の当たりにすると、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が提案するサマータイム導入も、同じ結果になるのではと思えてしまう。

これまでサマータイムを導入していたロシアは2011年、中国は1992年、台湾は1979年に廃止している。我が日本は東京オリンピック・パラリンピック実施のために、来年2019年からのサマータイム導入を検討しているが、この短期間で環境を整備するのは事実上不可能だ。慎重な判断を強く望みたい。
 

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる