YouTuber社員、根羽清ココロに教わる「心身ともに健康な働き方」

YouTuber社員、根羽清ココロに教わる「心身ともに健康な働き方」

2018.08.24

ロートでは2つの部署の仕事をする「兼務制度」で社内交流を促進

ロートネームの普及で意見の出やすい雰囲気を醸成

公式YouTuberとしての活動目標数は登録10万人!

「8000歩のウォーキングで何km移動できるか」と問われて、すぐに答えがわかる人はどの程度いるだろう。歩幅を70cmと仮定すると、距離にしておよそ5.6km。歩くには少なからず覚悟が必要な数字である。

平日は取材を除いて基本デスクワークで座りっぱなし。休日はエアコンの効いた室内で、朝から晩までテレビゲームをしたり、マンガを読んだりして過ごす。そんな筆者からすると、5km歩くというハードルは思いのほか高く、長距離の徒歩移動なんて考えただけでも疲れてしまう。

だが、世の中は広い。筆者にはできないことを平然とやってのける企業があった。ヘルスケア事業を展開するロート製薬だ。なんと同社では、全社員に活動量計を配布し、「毎日8000歩&早歩き20分」運動を実践しているのだという。さらに、毎朝9時から社員全員で「オリジナル体操」を実施したり、社内の喫煙率ゼロを目指す「卒煙推進」に取り組んだりと、健康経営に余念がない。

では、どのような考えのもとで、社員の健康づくりをサポートしているのだろうか。同社の広報室に話を聞いてみた。

兼務制度の社内交流が「自分たちは関係ない」を取り除く

「ねばーーー! こんにちは。よろしくお願いします!」

ね、えっ? ねば? え? 何?

「ロート製薬 スキンケア製品開発部 兼 広報・CSV推進部の根羽清(ねばせい)ココロです。広報部の活動もしていますが、ロートには社内兼務の制度があって、普段はスキンケアの研究をしています」

今回はロート製薬 広報の根羽清ココロさんが取材に対応してくれるという。スキンケアの研究も行っているというココロさん。なるほど、どうりで。まるでCGのように美しい肌をしているわけだ。

ロート製薬 スキンケア製品開発部 兼 広報・CSV推進部の根羽清ココロさん

よし。早速だが一度、情報を整理しよう。ロート製薬には根羽清ココロさんという社員がいて、スキンケアの研究を行いながら、広報としての業務も行っていると。……大丈夫だ。おかしな点はどこにもない。このまま取材を続行しよう。

しかし、1つだけ、どうしても気になることがあった。

それは「社内兼務」というワードだ。

「ロートでは、希望があれば2つの部門に所属し、異なる業務を担当することができるんです。『営業と人事』とか、『健康経営の推進と商品企画』とか、知識やスキルを横展開させて、相乗効果に期待できそうな組み合わせで兼務する人が多い印象ですね」

なんと、同社では2つの部署の仕事をする「兼務制度」によって、キャリアの幅を主体的に広げることができるのだという。興味のある新しい仕事にチャレンジしたり、関連する仕事を掛け持ちしたりと、理由はさまざまだが、自分のやりたい仕事に携われるチャンスが増えるという意味では、社員にとってうれしい制度なのではないだろうか。

さらに、兼務制度の狙いはキャリアの拡大だけにとどまらないのだと、ココロさんは説明を続ける。

「カッチリした縦割りの組織だと、部門間で情報が遮断されたり、『これはあの部署の仕事だから自分たちは関係ない』という考えが生まれたりする恐れがありますよね。そのためロートでは、横のつながりを深めるために、フラットな組織にしていかねばー! と思っていました。1人で2つの部署をまたぐ兼務制度には、社内交流を一層促進させるという狙いもあるんです。兼務制度をはじめてから今年で3年目。現在は60人ほどの社員が利用していますよ」

たしかに、行き過ぎたセクショナリズムは多くの弊害を生み出しかねない。同じ会社に属していても、知らない部署や面識のない社員は、完全に他人。同じフロアのよく知らない社員たちが雑談に花を咲かせた際に、「うるさくて集中できない」というストレスを感じるのは筆者だけではないはずだ。

もし、自分が兼務制度で近くの部署の人たちと仕事をしていたら、ストレスは感じなくなるのだろうか? ……その点については正直あまり自信がないが、仕事の相談は行いやすくなり、社内の連携がスムーズになることは間違いないだろう。ココロさんを見習って、横のつながりを深めていかね、ね、ねばー。

意見しやすい雰囲気づくりは、呼び名改革から始まった

「社内コミュニケーション促進の取り組みとしては、“ロートネーム”って呼ばれるあだ名制度もあるんです! 全員の社員証にも記載されていますし、けっこう浸透しているんですよ。ちなみに私のロートネームはココロ。『ココロ、ランチ行こう~』とか『ココロ、休日何してたの~?』とか、ちょっとした雑談の際に使います。オフィスの雰囲気も和やかになりますね」

取材中のココロさん

ココロさんは社内連携の話のなかで、もう1つ、ロートネームという取り組みについて紹介してくれた。

かつてロート製薬は、「いわゆる“OL風"の制服を身にまとった女性社員がお茶くみをする」ような会社だったという。しかし、そのような光景に違和感を覚えた代表取締役会長 兼 社長の山田邦雄氏は、仕事をするうえで関係のない上下関係を撤廃すべく、まずは社内でコミュニケーションをする際、名前に役職を付けることをやめて、あだ名(ロートネーム)で呼び合うようにしたのだ。

「すぐに普及したわけではありませんが、年齢関係なく自由に意見が言えるようにと、山田が社内の改革を実施していきました。今では山田も若手社員から『邦雄さん』って呼ばれていますよ」

アイデアを出すのに立場や年齢は関係ない。偉いからといって部下のアイデアを頭ごなしに否定したり、自分の感性を押し付けて意見が出にくい雰囲気をつくったりすることは、企業の成長にも悪影響を及ぼしかねないはずだ。ロート製薬では、まずはお互いを柔らかいロートネームで呼び合うことで、意見の出やすい雰囲気を醸成することに成功した。きっと、ココロさんも活発にアイデアを発信しているのだろう。

公式YouTuberとして健康を推進せねばーーー!

「社内兼業制度」や「ロートネームの定着」によって、社内コミュニケーションを活性化しているロート製薬。身体的な健康もさることながら、健全な働き方の追及にも力を注ぐ。ココロさんからも、イキイキと働くイメージが伝わってくる。

「たしかに、ロート製薬はめっちゃ働きやすい職場やと感じています。私を公式YouTuberに起用するなど、おもしろい取り組みもしていますしね」

おっと、またしても無視できないワードが登場した。「公式YouTuber」。その仕事内容が気になるので、ちょっと聞いてみよう。

「ロートのことを皆さんにもっと知ってもらえるよう、YouTubeに動画をアップしています。私はもともと副業でYouTuberの活動をしていたのですが、今回、会社公式のYouTuberとしても活動するようになりました。LIVE配信もしたんですよ! 想像以上にたくさんのコメントをもらって、盛り上がったので、ぜひまたやりたいですね!」

LIVE配信の様子

ココロさんは動画でも広報活動を行っているらしい。最近話題のYouTuberだが、企業の公式というのはまだ珍しいだろう。公式YouTuberになってからまだ日は浅いが、実際のところ反響はあるのだろうか。

「思っていた以上に反響は大きいです。公開してわずかな期間しか経っていないにもかかわらず、1万以上の方にチャンネル登録していただきました。私のイラストを投稿してくださる方や、動画をきっかけにロートの新商品を購入された方もいらっしゃって、うれしかったですね! ただ、目標は10万人なので、まだまだ頑張ります(笑)」

公式YouTuberの反響はなかなか大きく、社内でもいろいろな人に声をかけられるようになった。「ねばー」というあいさつもにわかに流行り始めているのだとか。どのようなシーンで使うのだろう。

「今後も、健康に挑戦するロートの公式YouTuberとして、みなさんに健康情報をお届けしていきたいと思っています。特に、これまでロート製薬にあまり興味なかった方にもぜひ見ていただいて、ファンになってもらいたいですね。あと、みなさんから『こんな健康情報を配信して欲しい』というリクエストがあれば、取り入れたいと思っています!」

リテラシーの向上が健康への第一歩

ココロさんのインパクトが大きくてすっかり忘れていたが、同社の健康経営に関する取り組みについて聞いてみたい。「毎日8000歩&早歩き20分」運動を実践しているとのことだが、どの程度浸透しているのだろうか。

「2017年は41.0%の社員が実践できました。私は内勤なので8000歩ってなかなか難しくて。通勤時に意識して歩かないといけないんですよ。ちなみに、今はチームに分かれて歩数ポイントを競い合うイベントを実施中です。健康は一日でできるものじゃありませんからね。継続できるきっかけづくりが大事なのです」

ココロさんはそう言って、全社員に配布されている活動量計を見せてくれた。

社員に配られる活動量計

「また、社員の健康リテラシー向上のために、『日本健康マスター検定』の積極的な受験を推奨しています。健康の知識ってなんとなく覚えていることも多いですが、しっかり理解することで、取り組みの必要性もわかりますからね。人々に健康を提案するためには、まず自分たちが健康でいないといけません!」

たしかに、「脂肪を落とす漢方薬」を提案する営業が太っていたら説得力に欠ける。自分たちが健康になってはじめて、世の中に健康を提案できるというわけだ。なんと、ココロさんも入社以来風邪をひいていないという。

「ロートが考える健康とは、単に病気でないということだけではなく、心身の健康を基盤として、情熱をもって日々の仕事に取り組める状態のことです。社員自らが前向きに健康であり続けようとする“きっかけづくり”に注力することで、これからも“健康人財”を育成していきたいですね。私も、まずは自分が健康経営を実践していかねばー! と思っています。そして、周りのみなさんも健康にしていけるような情報をたくさん発信していきたいです!」

ココロさんは力強く答えた。

ココロさんの話を聞いて、改めて「のびのびと働ける環境がいいアイデアを生み出す」ことを実感した。

おそらく、公式YouTuberを起用するというアイデアは、若手社員が思いついたものだろう。年齢関係なく自由に発言できる環境があり、その意見を受け入れてチャレンジする文化が、ココロさんの起用につながったのではないだろうか。

「否定されてもいいからどんどん意見を発信していこう」というマインドは大事だが、「こんな企画は通らないのではないか」「またアイデアを否定されるかもしれない」と若手社員が委縮してしまうような職場では、決していいものは作れない。フラットに意見を言える職場で、心身ともに健康な状態で働くことが、画期的なアイデアを生み出すのだと、楽しそうに働くココロさんに教えてもらった気がした。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。