日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第6回

日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

2018.10.03

マツダで古いクルマの楽しみ方について聞く安東さん

ロードスターにはポルシェにも勝る“人馬一体感”がある?

若者のクルマ離れを止めるのはスポーツカーだ!

初代「ロードスター」(NA型とも呼ぶ)のレストア事業を始めたマツダを訪ね、同事業を担当する梅下隆一執行役員と話をする安東さん。長く愛される“NA”を元通りに蘇らせようとするマツダの心意気には感銘を受けた様子で、自身も「NAに乗らなかったことを後悔している」という、その思いを語り始めた。

対談する安東さんとマツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん(対談風景の撮影:安藤康之)

「ロードスター」が「ポルシェ」を超えているところ

安東さん(以下、安):先日、「愛車遍歴」という番組(BS日テレで放送中の「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR,NO LIFE!」のこと)の収録がありまして、歴代の和製オープンカーの特集だったんですけど、何に感動したかというと、「NA」を大事に乗っている20代後半の方に、そのクルマを借りて運転したんですよ。もう、「なぜ、俺は今まで乗らなかったのか! 所有しなかったのか!」と思うくらい楽しくて。

「人馬一体」は皆が使う言葉だし、NAでは特に代名詞になってますけど、「ケイマン」なり「ボクスター」なり、「911」(いずれもポルシェ)なり、「とはいえ人馬一体って、ほかにもあるんじゃないの?」と思ってたんですよ。だけど、“人馬一体感”の次元が違ったんですよね。「これか、皆がいってたのは!」っていうくらいで。手の中に収まるようなパワーユニットの出力であったり、シフトフィールであったり。

なぜポルシェに乗るかというと、ポルシェが好きというよりも、あのシフトフィールがよかったんですよ、やっぱり“シフトフィールフェチ”なんで。あの「カチッ」と入る感じ。なので、僕が今乗っている「997の後期型」(安東さんの愛車であるポルシェ 911 カレラ 4Sのこと)が一番だと思って買って、今だに一番なのは揺るがないんですけど、でも、NAに乗ったとき……なんていったらいいのかな、いい意味での敷居の低さというか。やっぱり、確かにシフトの剛性とかで比べればポルシェの方がはるかに高いんですけど、でも、カジュアルにクルマとの一体感を味わえるという意味では、その“一体感レベル”でいえば、NAの方が上に感じたんですよ。

安東さんがカジュアルにクルマとの一体感を味わえると評する初代「ロードスター」(画像提供:マツダ)

安:彼(借りたNAの持ち主)は中古で買っただけといってたんで、前のオーナーがどういう風に乗ってきたかは分からないんですけど、30年前のクルマで、これだけカジュアルな一体感を味わえるということに、目からウロコというか、感動して。逆にいうと悔しいのが、なぜ今、このクルマがないのかと。どのメーカーにもないじゃないですか。御社にすらない。なぜ、ないんだって。こんなクルマを日本のメーカーは作れていたのに。

真面目に、程度のいいNAを買ってきて、500万円かけてレストアしようかなと本気で思ったくらいで、もうちょっとお金が儲かったら頑張ろうかなとは思っているんですけど(笑)、それくらい欲しいと思う、乗らなかったことを後悔するくらいのクルマだったので。

復活の「ロードスター」に世界で最も乗りにくい国とは?

安:日本は税制もね、古いクルマは高くなる。そういうのは論外だと思っていて。本当に、ヨーロッパとは反対のロジックで、なんでこうなっているんだろうと。メーカーの方は、どんな思いなんですか? だって、メーカーとしては、どんどん新しいクルマに買い換えてもらえると、潤うという話もあるじゃないですか。これについて、レストアまでやり始めたマツダはどう思っているのか、純粋に伺いたいです。

梅下さん(以下、梅):それは、間違っているとか間違っていないとかではなく、これは日本の社会とか、経済が歩んできた道そのものなので、その中での規制の部分とか、法制の部分だけを抜き出してどうこういっても、しょうがないのかなという気はします。

でも一方で、せっかく僕らは一歩を踏み出したので(ロードスターのレストアに乗り出したので)、将来的には、マツダもどんどんやっていくし、お客様も少しずつ増えるし、という状態になって、やっぱり色んな人に認めてもらいたいというのはあります。日本にも、こんな素敵な文化があるよねと。日本にとって自動車というのは、振り返ってみても素敵なものだったよねといってもらえる状態が理想です。

マツダがレストアを続けていって、昔のクルマを楽しもうという顧客も増えれば、こういった文化を取り巻く日本の環境も変わるかもしれないと梅下さんは考える

安:世界中に愛好者もいますしね。

梅:そうなったら、何かが変わるかもしれないし。何もない中で、「よそ(欧州などの他国)はやっているから日本もやれよ」というより、僕らとしては、世の中にアピールして、お客様が沢山いますよ、僕らもやりますよという本気を見せて、それで何かが変わればいいと思っています。鶏と卵ですけど。

安:そうですよね。ただ、たぶん世界で一番、NAロードスターを維持するのが難しいのは日本であることは間違いないですよね……

梅:それはそうかもしれませんね。古いクルマを持とうと思うと、日本はハードルが高い。アメリカなんか、行って見ているとうらやましいくらいハードルが低い。

安:庭先に「SELL」と書いてクルマを置いておくと、「これください!」と買っていく人がいる。後で書類1枚を提出すれば個人売買成立。日本は、リバイバルしたクルマは基本的に、車検の頻度も高まりますし。そこは結構、大変ですよね。

梅:でも、それだけじゃなくて、例えばアメリカを羨ましいと思うのは、そもそも土地が安いから、家がでかい。ちょっとした家だと、ガレージに必ず2~3台は停まってる。タイヤなしのクルマを裏庭なんかに置いておけますもんね。

安:ニューヨークとかじゃなければね。

梅:日本の社会や、いろんな仕組みを含め、ハードルは高いですよね。

アメリカをうらやましがる2人

若い人が買える、安くて格好いいクルマはあるか

安:うーん、税金もそうですし、クルマの値段そのものも上がってますし。でも、若い人に興味を持ってもらわないと、将来がないじゃないですか。彼(NAの持ち主)が20代で、ロードスターに乗っているのは嬉しいんですけど、せっかくいいクルマに出会えているのに、車検だとか負担も多いわけで……。そんな中でも、クルマを何百万円もかけて直すという取り組みが、もうちょっと広がればいいと思うし、マツダが純粋な思いでやっていることって、本当にありがたい話。

梅:温かい目で見守っていただければ(笑)

安:NAが出たのって、大学生の頃だったんですよ。何人か乗ってました。今、一番、若い人に必要なのは、安いけど憧れるっていうクルマじゃないですかね? 「スイフト スポーツ」(スズキの小型車)あたりが近いのかもしれないですけど。高くないけど憧れるクルマが必要だと思っていて。

「スイフト スポーツ」(画像提供:スズキ)

安:僕が最初に乗ったのが“ブルドッグ”って呼ばれてた「シティ ターボⅡ」(本田技研工業)というクルマで、もちろん中古で買ったんですけど、あのクルマだったら、どこに出しても惨めな思いはしなかったんですよ。オーバーフェンダーがあって(タイヤを覆う部分が張り出した感じになっている)、メルセデスの隣でも「俺のクルマの方がいい」みたいな感じで。中古で60万円だったんですけど。

安東さんが初めて買ったクルマ「シティ ターボⅡ」(画像提供:本田技研工業)

安:NAロードスターって、もちろん、そこまで安いクルマではないですけど、大学生が例えば、親に頭金だけ借金して、ローンをバイト代で払えば買えるクルマで、憧れるクルマだったわけじゃないですか。それにNAなんか、純粋に格好いいじゃないですか、リトラクタブルライトで。

梅:格好いいですよね。

点灯すると現れるリトラクタブルヘッドライトも特徴(画像提供:マツダ)

安:格好いいのに庶民が、大学生が無理をすれば買えるクルマで、それの先駆けだし、最後という感じもしてるんですよ。そこが一番、今、足りない部分かなと思うんです。

梅:まだまだ努力が足りないのかなと思いながら聞いていたのですが、現行のロードスター(4代目、いわゆるND型)って、下は二百数十万円から始まってますよ、今でも。それが今の若者にとって、本当にアフォーダブルかというと、100%の自信はないのですが、あのクルマは、そういう意味では、めいっぱい頑張った価格にはなってるんです。もちろん、目の肥えた人にも買ってもらえるグレードも用意しながら、だけど下は、ちょっと“素”なんですけど、若い人にも買って欲しいという気持ちを込めて作っている。初代のスピリットを持ちながら作ったクルマではあるのです。

安:もちろん。NDはデザインも格好いいですしね。

梅:まあ、今のお話をうかがっていると、もっと頑張れといわれているのかなという気もするんですけどね。

現行型の4代目「ロードスター」(ND型)。安東さんも格好いいデザインだと評価する(画像提供:マツダ)

安:NAが出た当時でいうと、今より100万円までは安くないですけど、60万円くらいは安かったですよね? その時はバブル真っ只中で、単純に比較はできないですけど。若い人にNDを頑張って買って欲しいなという思いもあるんですけど、親が今、不景気ということもあるし。

梅:それはもちろん。ただ、おっしゃるように、NDがどうこうというだけではなく、若者がクルマを買ってくれない、あるいは買えないのは、「これ欲しい!」と、「これなら、いくらかムリしてお金を出してもいい」といってもらえる魅力を、まだ十分に発し切れてないんでしょうね。

安:NDは十分だと思いますけど、価値を考えれば適正価格だと本気で思ってますけど、NDが50万円安かったら……。だから、NDじゃなくてもいいんですよね、そこまで高クオリティじゃなくてもよくて、オープンカーじゃなくてもいいと思うんですけど、本当に150~200万円で。それができるのが、マツダなのか、スズキなのか。ダイハツとかも、作れないのかなと思っちゃったりするんですけど。

梅:頑張らなくてはいけないですよね。若者がクルマを買わなくなった理由を、巷ではよく携帯電話だとかいいますけど、一方で皆、お金を出して海外旅行には行くわけですし。だから、これは自分にとって特別な経験、素敵な体験なのだと分かっていれば、無理してでもクルマに若干のお金は出すと思うんですよ、若者でもね。

安:200万円以内なら出す気はしますよ。

梅:中古のロードスターなんかどうでしょうね?

安:それもあるんですけど、今の若者って“ムリしてる感”を嫌うと思うんですよね。中古を買ってまで乗りたくないというか。見栄えっていうか、“インスタ映え”もしないし。NAは当時、間違いなくインスタ映えするクルマだったんですよ! インスタが当時あったとすれば、動画なんて流しまくりですよ! ただ、今は部品の値段も上がっているし、保安部品も必要だし……

各社がギリギリでやっているのは重々、分かってるんですけど、でもなんか憧れる、高くないクルマというか、そのクルマに乗っていると、インスタ映えというか格好いいというものって、見渡すと皆無に近いというか。「ハスラー」とか「クロスビー」(いずれもスズキのクルマ)は頑張ってると思うんですけど、NAの格好良さとは若干、質が違うというか、皆がわいわいやって楽しむ感じで。NAは隣に立っているだけで絵になりますもん。

僕は成城大学出身で、当時は(ロードスターを)“パパに買ってもらった系”の人が結構いて、普通に正門にNAを停めて待ってたんですけど、めっちゃくちゃ格好いいというか。屋根かなんか開けてて、強烈な印象で。みんな見るんですよね。あれが200万円で買える世の中ってすげーなと改めて思いますよ。彼らはAT(オートマチックトランスミッション)だったんで、そこは残念だったんですけど、でも考えてみたら、ATの設定があったのは良かったのかもしれません。敷居も下がりますし、女性も乗れたりするし。

だから、オートマで乗れてオシャレで格好いいというのは、“オールドミニ”に近い感じですね。今はミニも高くなっちゃったんですけど。ローバー時代のミニ(ミニというクルマのブランド。初代はローバーミニとも呼ばれる。今はBMW傘下)は安くてオシャレで。

梅:そういうスピリットに満ちた車でしたよね。

「ローバーミニ」のよさについて共鳴する両者

若い人に乗ってもらうためには、若い人に魅力的だと思ってもらえるクルマを、アフォーダブルな価格で用意しなければいけない。ロードスターもそういったクルマなのかもしれないが、現代の若者にも手が出しやすい、もう少し安いクルマも用意しては、というのが安東さんの考えだ。

さて、話はここから、日本のクルマ文化そのものについて、そして、これからのクルマが初代ロードスターのように生き残っていくには何が必要か、というテーマに入っていく。続きは次回、お伝えしたい。

※バックナンバーはこちら!

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

恋するSNSマーケティング講座 第2回

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

2018.11.21

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第2回は、効率を上げるために必要な「ターゲティング」について

恋愛もマーケティングも、まずは「ブロードリーチ」が必要?

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

前回に引き続き、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さんに話を聞きます。今回もよろしくお願いします!

「恋愛とマーケティングは似ている」という前回の話に引き続き、今回もフェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんに、マーケティングを考える上で重要なことを聞いてきました。今回のテーマは、「ターゲティング」です。

闇雲にリーチを増やしても意味がない

「広告において重要なのは、できるだけ多くの人にこちらの情報を届けること。もちろん『数』だけではなく、誰に届けるかという『質』の部分も重要です」(丸山さん:以下、丸山)

広告の目的は、顧客となりうる層に商品やキャンペーンなどの情報を届けることであり、さらにいうと、最終的なゴールは“購入”などのアクションにつなげることである。

これを“恋愛”に置き換えると、「パートナーとなりうる層に自分の情報を届けて、最終的に“好きになってもらう、付き合う”などのアクションにつなげる」ことと言えるだろう。恋愛も広告も、まずは存在を認知してもらわなければ「コンバージョン」につながる確率はゼロのままだ。知ってもらわないことには、一向に話が始まらない。

とはいえ、絶対譲れない条件があるのに闇雲に合コンを重ねてもムダなように、広告でリーチする相手も「質」が重要だ。ターゲティング次第で広告の成果は大きく変わる。

「その点、FacebookやInstagramはユーザーデータに基づいて細かく広告を出す先を変えることができます。例えば30代を対象とした化粧品の場合、『都内に住む30代の女性で化粧品に興味を持っている層』にのみ広告を出すことも可能です」(丸山)

細かすぎるセグメントは時に機会損失につながるかも?

では、「量と質、どちらにウェイトを置くべきか?」というと、それはケース・バイ・ケースだと丸山さんは言う。大切なのはバランスなのだとか。

「商品のターゲットがF1層だったとして、最初からそこでバシッとセグメントしてしまうと、34歳から35歳になった途端、広告は届かなくなります。だけど34と35で人はそんなに変わりませんよね。セグメントすることで、実は機会損失になってしまっている、というケースも少なくありません」(丸山)

そこでオススメする方法の1つが、まずはターゲットを詳細に定めず広範囲で広告を出して、そこから反応のある層に絞ってアプローチをしていく方法だという。この方法で広告を出すことによって、機会損失の減少につなげられるとのこと。

Facebook、Instagramでは、広告に対する反応率をユーザー属性ごとに細かくチェックすることができるため、広範囲で広告を打った結果「30代に刺さると思っていたら、実際には20代の方が反響が大きかった」といったことがわかることも多いのだという。細かくセグメンテーションするのは、反響が大きい層の目星を付けてからでも遅くないというわけだ。

ちなみに丸山さん自身も、婚活においてこの「量」と「質」の罠にハマってしまった経験があるそう。

「昔は、国際感覚があって、ロジカルシンキングができて……など、色々と相手に求める条件を考えていました。でも、『自分が思うすべての条件を満たす人なんてこの世にいないんじゃないか』『そもそも本当にこの条件って必要なのか』といったことを考えはじめ、最近はあまり固く考えすぎない方がいいのかな、と思うようになりましたね」(丸山)

「マーケティングは得意なのですが、恋愛はまだまだ勉強中です……」

その後丸山さんは、まずは条件を細かく定めずに「月に10人と会う」ことを目指しているのだとか。好きな人探しの“ブロードリーチ期”というわけだ。

恋愛も広告も、タイミングが重要

ターゲティングに加えて意識しておくべきは、タイミングであるという。

恋愛においてもタイミングは重要で、相手が今どんな関係を求めているのかを意識して行動、関係性を築くことが求められる。

それは広告においても同じことが言える。セグメンテーションが適切でも、たまたまそのとき関心がないことは十分に考えられる。例えば、「若い女性に人気の旅行スポット」の情報を、ただ若い女性向けに配信しても、その人が旅行を計画しているタイミングでないと、思ったように刺さらない。ユーザーの質は良かったのに、タイミングを間違えたケースである。

「量」と「質」と「タイミング」を考えてターゲティングする――。なかなか難しそうに思えるが、これこそがFacebook・Instagram広告の得意分野だと丸山さんは言う。

「FacebookやInstagramには人ベースのターゲティングができ、リーチの数も質も親和性が高い形で届けることができるのです。ニーズが顕在化している層だけでなく潜在層にもリーチできるのが、Facebook・Instagram広告ならではのメリットです」(丸山)

広告は「一方通行」ではない

もっとも、自分のデータを勝手に参照されて広告が出ることを良しとしない人もいるだろう。興味のある記事を読んだり、シェアしたりしていると、その内容に似た広告が表示された、という経験がある人も多いと思う。ただ、Facebookではプライバシーセンター機能により、「見たい広告」「見たくない広告」を利用者側で設定することもできる。

これは、「広告は決して一方通行ではなく、広告主と利用者の『見たいもの』と『見せたいもの』がお互いにマッチすることによって、質の高い利用体験につながる」というのがFacebookの考えであるため。プライバシーセンターは、その世界を実現するための機能の1つだ。

***

今回は、マーケティングについて重要な「ターゲティング」の話を聞いてきた。しかし、「これで広告を届けるべき“質の高いユーザー”にリーチができるようになったから万々歳」……というわけにもいかないようで、次は「引きのある広告内容」について考える必要があるとのこと。

ということで、第3回では「効果的なクリエイティブのつくりかた」について聞いていこうと思う。

第3回「恋するSNSマーケティング講座」は11月28日(水)に掲載予定です

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。