日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第6回

日本には手頃なスポーツカーが必要だ! 安東弘樹、マツダで語る

2018.10.03

マツダで古いクルマの楽しみ方について聞く安東さん

ロードスターにはポルシェにも勝る“人馬一体感”がある?

若者のクルマ離れを止めるのはスポーツカーだ!

初代「ロードスター」(NA型とも呼ぶ)のレストア事業を始めたマツダを訪ね、同事業を担当する梅下隆一執行役員と話をする安東さん。長く愛される“NA”を元通りに蘇らせようとするマツダの心意気には感銘を受けた様子で、自身も「NAに乗らなかったことを後悔している」という、その思いを語り始めた。

対談する安東さんとマツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん(対談風景の撮影:安藤康之)

「ロードスター」が「ポルシェ」を超えているところ

安東さん(以下、安):先日、「愛車遍歴」という番組(BS日テレで放送中の「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR,NO LIFE!」のこと)の収録がありまして、歴代の和製オープンカーの特集だったんですけど、何に感動したかというと、「NA」を大事に乗っている20代後半の方に、そのクルマを借りて運転したんですよ。もう、「なぜ、俺は今まで乗らなかったのか! 所有しなかったのか!」と思うくらい楽しくて。

「人馬一体」は皆が使う言葉だし、NAでは特に代名詞になってますけど、「ケイマン」なり「ボクスター」なり、「911」(いずれもポルシェ)なり、「とはいえ人馬一体って、ほかにもあるんじゃないの?」と思ってたんですよ。だけど、“人馬一体感”の次元が違ったんですよね。「これか、皆がいってたのは!」っていうくらいで。手の中に収まるようなパワーユニットの出力であったり、シフトフィールであったり。

なぜポルシェに乗るかというと、ポルシェが好きというよりも、あのシフトフィールがよかったんですよ、やっぱり“シフトフィールフェチ”なんで。あの「カチッ」と入る感じ。なので、僕が今乗っている「997の後期型」(安東さんの愛車であるポルシェ 911 カレラ 4Sのこと)が一番だと思って買って、今だに一番なのは揺るがないんですけど、でも、NAに乗ったとき……なんていったらいいのかな、いい意味での敷居の低さというか。やっぱり、確かにシフトの剛性とかで比べればポルシェの方がはるかに高いんですけど、でも、カジュアルにクルマとの一体感を味わえるという意味では、その“一体感レベル”でいえば、NAの方が上に感じたんですよ。

安東さんがカジュアルにクルマとの一体感を味わえると評する初代「ロードスター」(画像提供:マツダ)

安:彼(借りたNAの持ち主)は中古で買っただけといってたんで、前のオーナーがどういう風に乗ってきたかは分からないんですけど、30年前のクルマで、これだけカジュアルな一体感を味わえるということに、目からウロコというか、感動して。逆にいうと悔しいのが、なぜ今、このクルマがないのかと。どのメーカーにもないじゃないですか。御社にすらない。なぜ、ないんだって。こんなクルマを日本のメーカーは作れていたのに。

真面目に、程度のいいNAを買ってきて、500万円かけてレストアしようかなと本気で思ったくらいで、もうちょっとお金が儲かったら頑張ろうかなとは思っているんですけど(笑)、それくらい欲しいと思う、乗らなかったことを後悔するくらいのクルマだったので。

復活の「ロードスター」に世界で最も乗りにくい国とは?

安:日本は税制もね、古いクルマは高くなる。そういうのは論外だと思っていて。本当に、ヨーロッパとは反対のロジックで、なんでこうなっているんだろうと。メーカーの方は、どんな思いなんですか? だって、メーカーとしては、どんどん新しいクルマに買い換えてもらえると、潤うという話もあるじゃないですか。これについて、レストアまでやり始めたマツダはどう思っているのか、純粋に伺いたいです。

梅下さん(以下、梅):それは、間違っているとか間違っていないとかではなく、これは日本の社会とか、経済が歩んできた道そのものなので、その中での規制の部分とか、法制の部分だけを抜き出してどうこういっても、しょうがないのかなという気はします。

でも一方で、せっかく僕らは一歩を踏み出したので(ロードスターのレストアに乗り出したので)、将来的には、マツダもどんどんやっていくし、お客様も少しずつ増えるし、という状態になって、やっぱり色んな人に認めてもらいたいというのはあります。日本にも、こんな素敵な文化があるよねと。日本にとって自動車というのは、振り返ってみても素敵なものだったよねといってもらえる状態が理想です。

マツダがレストアを続けていって、昔のクルマを楽しもうという顧客も増えれば、こういった文化を取り巻く日本の環境も変わるかもしれないと梅下さんは考える

安:世界中に愛好者もいますしね。

梅:そうなったら、何かが変わるかもしれないし。何もない中で、「よそ(欧州などの他国)はやっているから日本もやれよ」というより、僕らとしては、世の中にアピールして、お客様が沢山いますよ、僕らもやりますよという本気を見せて、それで何かが変わればいいと思っています。鶏と卵ですけど。

安:そうですよね。ただ、たぶん世界で一番、NAロードスターを維持するのが難しいのは日本であることは間違いないですよね……

梅:それはそうかもしれませんね。古いクルマを持とうと思うと、日本はハードルが高い。アメリカなんか、行って見ているとうらやましいくらいハードルが低い。

安:庭先に「SELL」と書いてクルマを置いておくと、「これください!」と買っていく人がいる。後で書類1枚を提出すれば個人売買成立。日本は、リバイバルしたクルマは基本的に、車検の頻度も高まりますし。そこは結構、大変ですよね。

梅:でも、それだけじゃなくて、例えばアメリカを羨ましいと思うのは、そもそも土地が安いから、家がでかい。ちょっとした家だと、ガレージに必ず2~3台は停まってる。タイヤなしのクルマを裏庭なんかに置いておけますもんね。

安:ニューヨークとかじゃなければね。

梅:日本の社会や、いろんな仕組みを含め、ハードルは高いですよね。

アメリカをうらやましがる2人

若い人が買える、安くて格好いいクルマはあるか

安:うーん、税金もそうですし、クルマの値段そのものも上がってますし。でも、若い人に興味を持ってもらわないと、将来がないじゃないですか。彼(NAの持ち主)が20代で、ロードスターに乗っているのは嬉しいんですけど、せっかくいいクルマに出会えているのに、車検だとか負担も多いわけで……。そんな中でも、クルマを何百万円もかけて直すという取り組みが、もうちょっと広がればいいと思うし、マツダが純粋な思いでやっていることって、本当にありがたい話。

梅:温かい目で見守っていただければ(笑)

安:NAが出たのって、大学生の頃だったんですよ。何人か乗ってました。今、一番、若い人に必要なのは、安いけど憧れるっていうクルマじゃないですかね? 「スイフト スポーツ」(スズキの小型車)あたりが近いのかもしれないですけど。高くないけど憧れるクルマが必要だと思っていて。

「スイフト スポーツ」(画像提供:スズキ)

安:僕が最初に乗ったのが“ブルドッグ”って呼ばれてた「シティ ターボⅡ」(本田技研工業)というクルマで、もちろん中古で買ったんですけど、あのクルマだったら、どこに出しても惨めな思いはしなかったんですよ。オーバーフェンダーがあって(タイヤを覆う部分が張り出した感じになっている)、メルセデスの隣でも「俺のクルマの方がいい」みたいな感じで。中古で60万円だったんですけど。

安東さんが初めて買ったクルマ「シティ ターボⅡ」(画像提供:本田技研工業)

安:NAロードスターって、もちろん、そこまで安いクルマではないですけど、大学生が例えば、親に頭金だけ借金して、ローンをバイト代で払えば買えるクルマで、憧れるクルマだったわけじゃないですか。それにNAなんか、純粋に格好いいじゃないですか、リトラクタブルライトで。

梅:格好いいですよね。

点灯すると現れるリトラクタブルヘッドライトも特徴(画像提供:マツダ)

安:格好いいのに庶民が、大学生が無理をすれば買えるクルマで、それの先駆けだし、最後という感じもしてるんですよ。そこが一番、今、足りない部分かなと思うんです。

梅:まだまだ努力が足りないのかなと思いながら聞いていたのですが、現行のロードスター(4代目、いわゆるND型)って、下は二百数十万円から始まってますよ、今でも。それが今の若者にとって、本当にアフォーダブルかというと、100%の自信はないのですが、あのクルマは、そういう意味では、めいっぱい頑張った価格にはなってるんです。もちろん、目の肥えた人にも買ってもらえるグレードも用意しながら、だけど下は、ちょっと“素”なんですけど、若い人にも買って欲しいという気持ちを込めて作っている。初代のスピリットを持ちながら作ったクルマではあるのです。

安:もちろん。NDはデザインも格好いいですしね。

梅:まあ、今のお話をうかがっていると、もっと頑張れといわれているのかなという気もするんですけどね。

現行型の4代目「ロードスター」(ND型)。安東さんも格好いいデザインだと評価する(画像提供:マツダ)

安:NAが出た当時でいうと、今より100万円までは安くないですけど、60万円くらいは安かったですよね? その時はバブル真っ只中で、単純に比較はできないですけど。若い人にNDを頑張って買って欲しいなという思いもあるんですけど、親が今、不景気ということもあるし。

梅:それはもちろん。ただ、おっしゃるように、NDがどうこうというだけではなく、若者がクルマを買ってくれない、あるいは買えないのは、「これ欲しい!」と、「これなら、いくらかムリしてお金を出してもいい」といってもらえる魅力を、まだ十分に発し切れてないんでしょうね。

安:NDは十分だと思いますけど、価値を考えれば適正価格だと本気で思ってますけど、NDが50万円安かったら……。だから、NDじゃなくてもいいんですよね、そこまで高クオリティじゃなくてもよくて、オープンカーじゃなくてもいいと思うんですけど、本当に150~200万円で。それができるのが、マツダなのか、スズキなのか。ダイハツとかも、作れないのかなと思っちゃったりするんですけど。

梅:頑張らなくてはいけないですよね。若者がクルマを買わなくなった理由を、巷ではよく携帯電話だとかいいますけど、一方で皆、お金を出して海外旅行には行くわけですし。だから、これは自分にとって特別な経験、素敵な体験なのだと分かっていれば、無理してでもクルマに若干のお金は出すと思うんですよ、若者でもね。

安:200万円以内なら出す気はしますよ。

梅:中古のロードスターなんかどうでしょうね?

安:それもあるんですけど、今の若者って“ムリしてる感”を嫌うと思うんですよね。中古を買ってまで乗りたくないというか。見栄えっていうか、“インスタ映え”もしないし。NAは当時、間違いなくインスタ映えするクルマだったんですよ! インスタが当時あったとすれば、動画なんて流しまくりですよ! ただ、今は部品の値段も上がっているし、保安部品も必要だし……

各社がギリギリでやっているのは重々、分かってるんですけど、でもなんか憧れる、高くないクルマというか、そのクルマに乗っていると、インスタ映えというか格好いいというものって、見渡すと皆無に近いというか。「ハスラー」とか「クロスビー」(いずれもスズキのクルマ)は頑張ってると思うんですけど、NAの格好良さとは若干、質が違うというか、皆がわいわいやって楽しむ感じで。NAは隣に立っているだけで絵になりますもん。

僕は成城大学出身で、当時は(ロードスターを)“パパに買ってもらった系”の人が結構いて、普通に正門にNAを停めて待ってたんですけど、めっちゃくちゃ格好いいというか。屋根かなんか開けてて、強烈な印象で。みんな見るんですよね。あれが200万円で買える世の中ってすげーなと改めて思いますよ。彼らはAT(オートマチックトランスミッション)だったんで、そこは残念だったんですけど、でも考えてみたら、ATの設定があったのは良かったのかもしれません。敷居も下がりますし、女性も乗れたりするし。

だから、オートマで乗れてオシャレで格好いいというのは、“オールドミニ”に近い感じですね。今はミニも高くなっちゃったんですけど。ローバー時代のミニ(ミニというクルマのブランド。初代はローバーミニとも呼ばれる。今はBMW傘下)は安くてオシャレで。

梅:そういうスピリットに満ちた車でしたよね。

「ローバーミニ」のよさについて共鳴する両者

若い人に乗ってもらうためには、若い人に魅力的だと思ってもらえるクルマを、アフォーダブルな価格で用意しなければいけない。ロードスターもそういったクルマなのかもしれないが、現代の若者にも手が出しやすい、もう少し安いクルマも用意しては、というのが安東さんの考えだ。

さて、話はここから、日本のクルマ文化そのものについて、そして、これからのクルマが初代ロードスターのように生き残っていくには何が必要か、というテーマに入っていく。続きは次回、お伝えしたい。

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日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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