「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第5回

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

2018.09.26

昔のクルマに乗って楽しみたい人には厳しい自動車大国・日本

そんな状況に憂い顔の安東弘樹さんがマツダへ

初代「ロードスター」のレストアを担当する梅下執行役員を直撃!

日本で古いクルマを楽しむのは大変だ。製造から年数の経ったクルマは税金が上がったり、維持していくのに必要な部品を見つけるのが難しかったりするので、あえて旧車を選んで乗るにはお金も手間も掛かるからだ。それであれば、どんどん新車に乗り換えていこうと考える人が多くても無理はない。

そんな状況に一石を投じたのが、1989年に発売した初代「ロードスター」のレストアを開始したマツダだ。この取り組みに共鳴する“クルママニア”安東弘樹さんが、マツダで同事業を担当する梅下隆一執行役員に話を聞いた。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

挨拶早々、試乗したばかりの新型「アテンザ」について「購入するか迷っている」と切り出した安東さん。「アテンザ」の開発主査を務めたこともある梅下さんは「たくさんのクルマに乗っていらっしゃる、その目でご覧になってもいいクルマでしたか?」と笑顔で応じていた(対談風景の撮影:安藤康之)

なぜ自動車メーカーがレストアするのか

安東さん(以下、安):なぜ今、しかも「NA」(初代ロードスターのことをNA型と呼ぶ。2代目はNB型、4代目となる現行型はND型といった具合)のレストアなんですか? ユーザーからすると「485万円か……」って感じもありますよね?

※編集部注:マツダが始めた「NAロードスターレストアサービス」の価格は、「基本メニュー」が税込み250万円、「フルレストア」が同485万円。

もちろん、色々なリバイバルプランが各メーカーにあるんですけど、でも、当時200万円で買えたNAを、485万円かけて……。そういうお客さんがいるという目算はあったんですか?

左は初代から4代目まで勢ぞろいした「ロードスター」。初代は中央右(画像提供:マツダ)

梅下さん(以下、梅):いろんな側面で語れるんですけど、体験ベースでいうと、ロードスターって、ものすごく多くのファンの方に愛していただいているクルマで。毎年、軽井沢でファンイベントがあります。ここ数年は大体、1,200台くらい来るのかな? 僕もお邪魔することがあるのですが、基本的にファンのイベントなんですよ、マツダが主催しているわけでもなんでもなく。うちはそういうの全然やってなくて、ほとんどお客様におんぶにだっこなんですけど……

安:自然発生的なね。

梅:だから、まあ、ロードスターというのは、お客様に育ててもらっているクルマだなと。僕らは“生みの親”だけど、お客様が“育ての親”になっていて。そんな気持ちでイベントを見学させていただいてたら、お客様が「ちょっと来いよ」と。

安:梅下さんの立場を分かった上で、ですよね?

梅:面白いのは……(編集部に)話が長くなっても大丈夫ですか?

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん

ファンクラブの猛者たちに出会って

梅:そこへ行くと、ファンクラブの中に、NAを買った時に40代くらいで、今は60代後半~70代の方々で組んでいらっしゃるチームがありまして、その人たちから見ると、僕なんか“ひよっこ”なわけですよ。「マツダから来たぞ(若造が、みたいな感じ)」と。で、前夜祭みたいな懇親会があって、その晩は軽井沢プリンスホテルのコテージに泊まるんですけど、そこで、「梅ちゃん、今晩、何号室のコテージにおいで」と。そこに行くと、20人くらいのおじさまたちが……

安:猛者がいるわけですね!

梅:そこへ挨拶にいくと、最初から最後まで「あの部品がない、この部品がない」と。だけど、ぜんぜん怒ってないんですよ。

安:あ、怒ってない?

梅:ぜんぜん! 「ないんだよねー」ってニコニコして、皆でそれを話してる。僕は当時、開発のマネジメントの立場で行ってたんですけど、カスタマーサービス本部の立場になって行ってみるうちに、その言葉がだんだん自分ごとになってきて、「こらなんとかせにゃいかんな」と。

ちょうど開発の部隊も同じ思いを持っていて、今でもNAは2万台以上が走ってるんですけど、そのお客様がお困りのところもあるし、そこに何とか答えたいなと。そういう気持ちが1つ。

往年の「ロードスター」ファンとの出会いがレストアを考え始めたきっかけの1つと梅下さん

梅:もう1つは、もう少し広く、会社・ブランドの立場で考えてみると、そんな風に愛されていて、あんなにたくさん走っている30年前の日本車って、たぶん今、日本にはないと思うのです。だからこれは、僕らにとっても、日本にとっても、けっこう大切なものかなと思って。なので、このクルマがもっと、日本の社会の中で長生きできないかなとシンプルに思ったし、将来これが、「日本にもこんな名車があったよね」と言ってもらえるようにと。

あるいは、そこまで僕らが言っちゃいけないのかもしれないのですが、自動車の文化に、少しでも貢献できればという思いもあって。やるなら、一部の部品の復刻だけではなくって、部品も復刻するけど、きっちりと「これがオリジナルだ」というモノを提供できるカタチがあるのではと思って、レストアにしました。

安:内容が徹底してますよね。「ここまでやるのか!」と感銘を受けました。そのかわり、「それなりのお金を出してもらえれば、復活させますよ」というところも、中途半端じゃない。これって、なかなか日本メーカーが踏み切れないことですよね。例えばテレビ局なら、番組づくりとして「8時だョ!全員集合」をもう1回、同じカタチでできるかというと、できないんですよ! そこの情熱が、他のメーカーと違うし、僕は好感を持ってますね。

「ロードスター」のレストアをテレビの番組づくりに例える安東さん

安:そもそも、日本メーカーには古いクルマの部品がないじゃないですか。100年単位の欧州に比べると、たかだか30年前のクルマでもないって、逆にすごい。そんな日本で、30年前のクルマを、全く同じように作り直すと。お客さんが持って来たクルマを、部品も新しくして、組み立てをやるというのは、これはもう、なんだろう? 欧州メーカーから遅れていたのを、一気に追い越したような……

梅:まあ、追い越してはないですけど(笑)

ロードスターにもう1人の「育ての親」

安:メーカーが責任を持ってレストアするというのは、僕の知る限り、なかなかないですよ。特別なお客さんは別ですよ、例えば、ずーっと「ロールスロイス」に乗ってる人とか。でも、ロードスターは庶民のクルマじゃないですか。庶民のクルマで、ここまでのっていうのは……

梅:あ、庶民のクルマという意味では、(ここまでメーカーがやる例は)ないですよ。そこがだから、我々のチャレンジになるんです。先行している欧米のブランドや、日本だったら一部の高価なクルマならできてるんですけど、やっぱり、このクルマ(ロードスター)でやるのは、すごく大変でした。

※編集部注:例えばホンダは、初代「NSX」のリフレッシュプランを用意している。その価格はメニューの選び方によって大きく変動するが、「エンジンオーバーホール」「足回りオール」「外装オール」「内装オール」などを組み合わせていくと1,000万円近い金額になる。

梅:正直にいって、(レストアの)値段のほとんどは工賃なんですよ。工場でクルマを預かって、部品を一旦、全部取り外すわけですよね。それから塗装し直して、部品を換えて……。作業工賃が値段のマジョリティーなんですよ。で、高いクルマだろうがロードスターだろうが、レストアにかかる工数っていうか、人手はそんなに変わらない。だから、高めのプライシングができれば「なんとかやっていけるぞ」とソロバンも作れると思うんですけど、これをフルパッケージで485万円くらいというのは、これは本当に大変。ほとんど利益ないです。“赤”ではないが利益はないという、ギリギリの線でやっているのが現状で。

レストアでは「サンバーストイエロー」など車体色も選べる(画像提供:マツダ)

安:どのくらいの受注があるんですか?

梅:大体、40人前後のお客様が待っていらっしゃる状況です。実は、今の予定では年間数台しかできない。というのも、マツダなりに自信を持っているエンジニアというか、匠(たくみ)じゃなきゃ作業をやらせないので、そういう人はやっぱり、数人しかいないんです。そういう状態なので、どうやって増やそうかと思っている。

安:妥協したくないですもんね。

梅:そこが重要で、我々からするとロードスターって、僕らは生みの親だけど、育ててくれたのはお客様と、街のショップさんなんですよ。ずーっとケアしてくれたのがショップさんで。僕らが中途半端というか、メーカークオリティでレストアできないんだったら、ショップさんにお任せした方がいいんですよ。

むしろ僕らは、少数だけど、メーカーじゃなければできないクオリティでレストアすることに存在意義がある。一方で、「485万円は出せないけど、自分のロードスターもリフレッシュしたいよ」というお客様には、僕らも部品をお渡しするので、ショップさんにも、もっと仕事をしてもらいたいという思いがあるんです。

安:今回のレストアを機に、これまでより多くの部品供給ができるようになるんですか?

梅:そうです。今回の活動で「コレは復刻しなければいけないな」という部品が見えてきたわけですよね。それをリストアップし、150部品くらいを新たに復刻して、サプライヤーさんとも相談しながら作れるようになったので。

例えば「NARDI製ステアリングホイール」(木製のハンドル)などを新たに復刻した(画像は初代「ロードスター」、提供:マツダ)

「当時のまま」へのこだわり

安:どのくらいのレベルで復活するのか、本当に楽しみ。もし機会があったら、レストアしたクルマを運転してみたいくらい。限りなく、当時のクルマに近づけるのがテーマなんですか?

梅:もちろん。当時のまま、そのものに戻したいんですよ。だから、逆にいうと、当時より良くはならないんですよ。

安:だからいいんですよねー! そこなんですよ。別に、いじらないわけですよね?

梅:お客様のクルマは、8月9日に1号車を納車させて頂いたのですが、その前に、初めてのトライアルなので2~3台、作ってるんですよ。どこが難しいかとかを見るために。

レストア1号車納車式の様子(画像提供:マツダ)
NAロードスターレストアプロジェクト第1号車の持ち主は西本佳嗣(けいじ)さん(右)と奥様の眞里美(まりみ)さん(左)。愛車のユーノスロードスターVスペシャル(1.6L、ネオグリーン、タン内装、5MT)は、1992年に新車で購入したものだという。画像中央はマツダ副社長執行役員の藤原清志さん(画像提供:マツダ)

梅:僕も昔、NAを持ってて、今回はレストアしたクルマに乗ったんですけど、本当に当時のまま。ちょっとブレーキが甘いのも含め「このままや!」と(笑)

安:原点回帰というか、とにかく元に戻したわけですね。そういうのいいな……!

「ロードスター」の原点回帰に共鳴する安東さん

ひとしきりロードスターのレストアについて話した2人。いつしか話題はNA型そのものの話に移り、なぜ最近の日本には、若者でも手を出せる手頃なスポーツカーが少ないのか、あるいは存在しないのかという、より根源的なテーマへと進んでいった。その模様は次回、お伝えしたい。

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新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。