ブランドの象徴「金のリング」を

モノのデザイン 第6回

ブランドの象徴「金のリング」を"再定義" - タムロン 一眼レフ用交換レンズ「SPシリーズ」(前編)

2016.07.22

2015年秋にレンズメーカーのタムロンが発表した、一眼レフ用交換レンズの新製品「SPシリーズ」。ズームレンズのイメージが強かった同社が発売した、35mmフルサイズセンサー向けの単焦点レンズで、カメラファンの間では話題となった。また、新シリーズはタムロンの意匠とも言うべき外観デザインも含めて大幅なリニューアルを行ったことも注目を集めた。そこで今回は、同シリーズのデザイン・設計に携わった人々に、そのプロセスや秘話を伺った。

一眼レフ用交換レンズ「SPシリーズ」

SPシリーズをデザインするにあたり、タムロンが手を組んだのが「takram design engineering (タクラムデザインエンジニアリング)」(以下takram)。同社は、"デザインエンジニア"の枠組みで、ハードウェアはもちろん、ソフトウェアからインタラクティブアートまで幅広い分野のデザイン設計を担うプロフェッショナル集団として知られている。過去に担当した主なプロジェクトには、トヨタ自動車「NS4」のUI設計や、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム-」のプロトタイピングのディレクション、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなどがある。

ハイエンドモデルレンズ「SPシリーズ」に携わった面々にインタビューを行った。左から、タムロン 映像事業本部 設計技術部 技監 戸谷聰氏、takram design engineering 代表 田川欣也氏、takram design engineering デザインエンジニア 松田聖大氏

SPシリーズの開発を総括したタムロン 映像事業本部 設計技術部 技監 戸谷聰氏によると、takramにデザインを打診したのは、同社の"デザインエンジニアリング"という考え方が、「機能面・性能面・デザイン面すべてにおいて一から見直した新製品を開発したい」という今回のプロジェクトに最も合致するのではないかと考えたからだという。

「今回のプロジェクトは、外観だけでなく、ありとあらゆるものを見直そうという、タムロンの中でも非常に大きな挑戦でした」(戸谷氏)

そう語ったのは、このプロジェクトでは製品の開発フローが既存のものとはまったく異なるからだという。

「以前はデザインよりも製品の小型化が優先されていたため、製品の機構が完成した後で"外側から被せるもの"としてのデザインを外部の方にお願いしていました。しかし今回は、設計段階からtakramさんに加わっていただき、デザインと性能、機能を同時進行で追及しながら一から一緒に作り上げていきました。設計面でもデザイン面でも妥協したところが一切ありません」(戸谷氏)

これまでにない開発プロセスだったため、エンジニアとデザイナーの意思疎通の難しさを実感したということだが、「これまでと違うアプローチによって、いいものを作るとは、こういうことなんだと改めて実感しています」とも言い足した戸谷氏の顔には笑顔が浮かんでいた。takramとタムロン、2社の間にはクライアントとデザイン会社という枠を超えた信頼感が生まれていたように感じた。

徹底したインタビューを行うtakramの方法論

SPシリーズのリリースの1年前、2014年から始まったSPシリーズのプロジェクト。初期の段階から加わったtakramのデザインチームはまずはタムロンの関係者をはじめ、あらゆる人へのインタビューを徹底して行い、実際に図面を引く前のリサーチ段階に約2カ月を割いたという。そのリサーチについて、takramの代表を務める田川欣也氏は次のように語る。

「僕らはどんなプロジェクトでも、はじめにインタビューを必ず行います。まずは会社の中の技術と近いところで仕事をしている人。会社のブランドとかアイデンティティーは経営者層に聞けばわかるけど、実際に図面を引いたりしている現場の人に話を聞きます。それから会社の外の人、アドバイザー的な中のような外のような人。そして最後に"ソーシャルインタビュー"と言って、TwitterをはじめSNSで会社名や製品名などを検索することも必ず行っています」

takram田川代表

対面のインタビューとは異なる手法"ソーシャルインタビュー"は、社内外の関係者への聞き込みとは違った効果があるという。「ソーシャルインタビューを行うと、その会社やブランド、製品に対する思いというのが把握できます。SNSの投稿というのは、非常にテンションの高い時に書き込むものなので、あるひとつの物事を絶賛していたり、批難していたりと、両極端な意見が見えてきます。投稿を見ていくとキーワードやキーフレーズ、コンセプトが7~8個は出てくるので、それらの点を線で結んでデザインに結びつけていく手法です」

そして「手掛かりなくデザインは進められない」と語る田川氏は"円筒形で色は黒"というレンズという物理的にある程度制約があるなかで、どこをポイントにしてデザインするか?を考えていったのだという。

次回は、タムロンのレンズの象徴ともなっている「ゴールドのリング」をいかにリデザインしたのかに迫っていく。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu