「道具」の質感を大切に

モノのデザイン 第4回

「道具」の質感を大切に"持ちやすい"機構を追求 - スティック型掃除機「iT」

2016.06.07

パナソニックから6月20日に発売される、スティック型コードレス掃除機の新製品「iT(イット)」。手首を軽くひねるだけで床に対してヘッドが垂直にも立ち、狭いすき間にも入り込める「くるっとパワーノズル」を採用し、上から見ると製品名のように"i"にも"T"にもなるユニークなスティック型掃除機だ。

6月20日発売のパナソニックのコードレススティック掃除機「iT」

それ以外にも、本製品はデザイン面でも大いにこだわった製品。そこで今回は、本製品のデザインを担当した、パナソニック アプライアンス社 デザインセンターの山本侑樹氏に、デザインに込められた意味や開発裏話を伺った。

「片手で操作」するためのデザイン

掃除機市場においてもここ数年で急伸長している、コードレススティッククリーナー。また、5万円前後からそれ以上という高価格帯の製品の売れ行きが好調だ。いわゆる"高級掃除機"と呼ばれるカテゴリーだが、その市場を切り開いたのは、もちろん言わずと知れたダイソンである。ダイソンの製品の発売を機に、スティッククリーナーはコードレスであっても高い吸引力を保持できることや、部屋に出しっ放しにしていても"サマ"になるインテリア性の高いデザインが注目されるようになった。

パナソニックの新製品「iT」も、この流れを汲む製品。吸引力の高さはもちろん、デザイン性にも注力して開発された製品だが、ダイソンの掃除機が男性ウケするガジェット感満載のデザインであるのに対して、本製品は老若男女を問わず受け入れられそうな中性的なデザインで、パナソニックらしさを感じさせる。

カラーバリエーションはレッド、ブラウン、シルバーの3色

だが、本製品の開発の出発点はデザイン性の追求ではないという。というのも、本製品の原点は旧三洋電機のキャニスター型掃除機「The持久力マラソンサイクロン」シリーズ。このシリーズが、iTの「くるっとパワーノズル」の原点となった縦横に回転するノズルを搭載していた元祖なのだ。しかし、iTとは違い「Wハンドル」と呼ばれるスタイルで、ノズルの回転は両手で行う必要があった。これを「片手でどうにかできないか?」というところからiTの開発はスタートしたという。

手元のハンドルを軽く回転させるだけでヘッド部分がこのように縦になり、すき間に入り込むことができるのが「iT」の特長
「iT」の原型となった三洋電機のキャニスター型掃除機のノズル

「キャニスター型の掃除機だった前機種とは違い、新製品はスティック型。スリムなデザインでなければならないのはもちろんですが、スティッククリーナーとしての使いやすさを追求しなければならなかったんです。もともとかっこいいものを作ろうというスタートではなく、使いやすさを追求していった結果、無駄をそぎ落とした現在のシンプルなデザインに辿り着いたんです」と山本氏。

そこで山本氏をはじめとするデザインチームは、ペットボトルを棒に取り付けて重心バランスを研究することからはじまり、さまざまな形状のハンドルのモックアップを試作。ヘッドが回転するという特徴を持つスティック型掃除機において、ハンドルの回転のしやすさや切り替え時にかかる手首への負担の軽減といったことをポイントに、モーター部など製品を構成するパーツの配置や形状、重量などが最適化されていったという。

iTの開発にあたって作成されたデザインラフ

スリム化を図るため、モーターは新しく開発したものを採用し、回路や制御基板やバッテリーといった重要部品も最適な配置が検討された。山本氏は「イメージしたのは、スコップのハンドルを持って回転させるような感じ。グリップポジションを本体重心の中心軸上に設けることで、最小限の力で"i"と"T"の回転切り替えが可能になりました」と説明する

新製品の開発にあたって行われたデザインチームの合宿では、このようにペットボトルなどを組み合わせた実験モデルを多数製作し、重心バランスや使いやすさが研究された

デザインチームが使いやすさへの追求として次にこだわったのが"握りやすさ"だ。最近の掃除機では"ラウンドハンドル"と呼ばれる形状などでユーザーが握りやすい位置を握れるように自由度を高めたデザインを採用しているものが多いなか、本製品ではあえてグリップの位置を固定させるという真逆の方向を選んだ。山本氏はその理由を次のように話す。

ハンドル部分の試作用のモックアップの一例。原型となったキャニスター型掃除機のハンドルは、写真右側のような形で、両手を使って回転させるスタイルだった
ハンドル部分のグリップは、握る場所を完全に決めた上で、ユーザーがひと目で握る場所だとわかるようなデザインを採用

「どこでも持てるというより、いちばん握りやすい位置をはっきり決めたほうが本当は使いやすいんです。そこで、I字型でのすき間掃除にも、T字型での床掃除にもどちらでも持ちやすく快適な使い心地のグリップの角度や形状の検証を重ねた結果、この形になりました。そして、ユーザーがグリップを目にした時、直感的に握る位置がわかるようにこのデザインを採用しました」

信頼できる「道具」のかたちを目指して

新製品をデザインするう上でもう一つ大切にしたのは”道具感”だ。「プロフェッショナルが扱う道具というのは、用途に特化することで生まれた造形が持つ”信頼感”がある。これを掃除機のデザインに反映させたかった。」と山本氏。

パナソニック アプライアンス社 デザインセンターの山本侑樹氏。新製品をデザインするにあたっては、電動工具などの過去に担当したプロダクトの意匠が大いに参考になったと話す

山本氏は以前は電動ドライバーなどの電動工具や、ドライヤーなどの理美容商品のデザインを担当していたのだそう。グリップを握った際のフィット感も重視して、そうした製品に用いられている形状やテクスチャが取り入れられているのも特徴となっている。

デザインで道具感を出すためには最低限必要な各パーツをブロックのように足していき、そのつなぎ目は必要以上になだらかにしない手法がセオリーだという。しかし、スティッククリーナーとして部屋に置かれることを考えるとインテリア性も両立させる必要がある事から「全体の道具感は持たせたうえで、もっとも潔くインテリアとしての見え方を美しく表現できるデザインは何かを突き詰めた」とのことだ。

山本氏がそう話すとおり、iTは壁に立てかけておいても目立ちすぎず、シンプルで美しいシルエットを保つ。これを実現するために採用されたのが表面だけに採用されている金属調のパネルだ。フラットなストレートのパネルだが、ヘアラインシボと高輝度メタリック塗装を合わせた加工を施し、さらにエッジ部分を光沢で仕上げることでコントラストを出し、上品で高級感ある金属感を演出している。

色はシルバーとレッド、ブラウンの3色を展開するが、「もともとは2色だったが、カラバリによって優しい印象を出すこともできる。メカニックなデザインに抵抗を感じる層にも受け入れられるように配慮した」と話す。

ハンドルの裏側のゴムで自立させることができる
iTには壁掛け式のスタンドも付属。表からは見えないようにデザインされている

上方向にモーターやバッテリー、ダストカップなどを備えるスティッククリーナーはそのままでは自立できない。iTではこの問題をハンドル部分の裏側に滑り止めのゴムを取り付けることで、壁に立てかけられるようにして解消。また、スタンドには付属品の2点のノズルを収納しておくこともでき、本体をセットするとわずか7センチの幅の下に隠れるのも秀逸だ。

掃除機のみならず、デザイン志向が強い家電製品が増える昨今。本製品はそんな中でもデザインと機能性を両立させる"プロダクトデザイン"の意味や真髄を改めて考えさせてくれる新製品だ。また、他のカテゴリーの製品から着想を得たユニークなアイディアなど、多種多様に事業展開するメーカーだからこそ生まれた製品だとも思える。同製品が市場でどのように受け入れられていくか、注目していきたい。

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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