星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

2018.08.09

星野リゾートの温泉宿泊施設「界 仙石原」がオープン

「アート」を柱にした“アトリエ温泉旅館“

アーティストとの協業に特色、今後の展開は?

星野リゾートが2018年7月に開業した、神奈川県・箱根町の「界 仙石原」。温泉旅館ブランド「界」としては15カ所目となる同施設の特色は、施設の柱となるテーマに「アート」を据えたところにある。

また、開業前にアーティストと協業し、客室ごとに作品を設置するなど、「界」の既存の施設とはやや異なるアプローチであるように映る。このテーマ設定の狙いと、開業前に行われたアーティストとの協業について、内覧会の様子を中心にお届けする。

温泉旅館を、訪れた人の「アトリエ」に

「界」では、各地の伝統文化などに親しむ体験を提供する「ご当地楽」、そして地域文化を表現した「ご当地部屋」によって、立地に応じた個性を出している。箱根エリアにはすでに「界 箱根」があり、「界 仙石原」は同一エリアで2カ所目の施設だ。

説明するまでもなく、箱根は日本有数の観光地。2015年の噴火で一時客足が遠のいてしまったものの、昨今のインバウンド効果などもあり、2017年には噴火前の水準(約470万人)にまで戻っている。

箱根町宿泊者数推移のグラフ

同じエリアでの第2の施設ということで、開業にあたって、界 箱根の「宿場町」とは異なる土地の「個性」を探したという。ポーラ美術館、箱根ガラスの森美術館など、「界 仙石原」周辺には数多くの美術館があるが、ひとつのエリアにこれだけの美術館が集まっているのは世界有数である、と、池上総支配人は語る。そうした土地の個性から、同施設を「アトリエ温泉旅館」と銘打った。

アトリエとしての側面を象徴するスペースには、筆や画材などが並ぶ

アートを「見る」のではなく、「体験」する

あえて「アトリエ」と枕につけたのは、「見る」イメージの強いアートを、宿泊者が実際に「体験」してほしいという思いが込められているため。

「単にアートを鑑賞するだけなら、周囲に良質な美術館がたくさんあります」(池上総支配人)

宿泊客だけでなくスタッフを含めた人々がアートに触れあうためのアトリエとしての魅力を提案していく。「ご当地楽」として手ぬぐいの着彩体験を提供し、週末・日曜の朝には、アーティストを講師としたアクティビティを複数展開する。

手ぬぐいの着彩体験を行うロビー付近のエリアは、絵筆や絵の具、顔料などが展示されており、「描く」行為を想起させるインテリアが置かれている
手ぬぐいは型染作家・小倉充子氏の線画を用いた塗り絵

筆者も手ぬぐいの着彩を体験したが、言われてみれば、絵をみずから描いたのは学校での授業が最後だった。絵の完成度もあって、素人でも色をつければそれなりに見られるものになるのも嬉しいし、手ぬぐいであればよいお土産になる。「アート」と言えば美術館で見る側という意識が強かったが、この体験を経て「アート」の楽しみを再発見させられた。

館内入り口には、隈研吾氏が信頼を置く左官職人としても知られる久住有生氏の作品が。
温泉旅館としての魅力は、大涌谷温泉から引いた酸性泉を大浴場と客室露天風呂の2カ所で提供している点。大浴場では、酸性泉と、肌を休める為のぬる湯が分けて用意されている

アーティストの「滞在」を「作品」に昇華

もちろん、「アート体験」だけが同施設のウリではない。「アトリエ温泉旅館」を標榜する同施設の成立には、生業として作品を生み出すアーティストの存在があった。開業前にアーティストが同施設に宿泊して作品を制作する「アーティストインレジデンス」(以下、AIR)が実施されたのだ。

「AIR」は、一定期間の滞在を経て、その土地の風土を感じながら作品制作するプロジェクトを指す言葉。日本でも行われてはいるが、越後妻有トリエンナーレなどに代表される地域型芸術祭と比べると、知名度は低いかもしれない。

今回のAIRは「アーティスト イン レジデンス 箱根仙石原」と銘打ち、すどう美術館、そしてアーティスト・朝比奈賢氏が率いる湘南アートベースが主催したもので、星野リゾートは共催という立場。また、星野リゾートが宿泊・食事の提供と、一部画材の補助を行った。

参加アーティストの面々。 国内外より12名のアーティストが仙石原へ集結した

アーティストは、原則として滞在した部屋に自身の作品を飾ることを念頭に置いて制作を実施。開業後は、客室「仙石原アトリエの間」として、1室ずつ異なる個性のある空間として提供されている。作品を通じ、アーティストがこの土地をどう感じたか実感してほしいとの意図が込められた。

ドイツからやってきたジュリア チーグラー氏が制作したアート。キャンバスに神社の紙垂(しで)のかたちにマスキングテープを貼り付けた後、ひとつのキャンバスの上に富士山、大涌谷など訪れた場所の印象を重ねて描き、最後にテープを剥がしたことで、同氏が神社で感じたリラックス感を表した
国内から参加したアーティスト・田中紗樹氏が手がけた作品を展示。芦ノ湖の遊覧船に乗ったとき感じた風のイメージをキャンバスに描きとめた。静かな部屋の中に風が吹くような、ダイナミックな動きを表現した。
「界 仙石原」池上総支配人。制服の花柄は、当地の植物をモチーフにしている。

日本におけるAIRは自治体主導で、地方創生の意味合いが強いものが多い。その一方で、星野リゾートのような勢いのある企業が、自社施設のコンセプト実現のため、アーティストの力を借りるためにAIRが行われたのは非常に興味深い。池上総支配人に、今後、AIRあるいはそれに準ずるようなイベントを行う予定はあるか、問いかけた。

「現段階で具体的な予定はありませんが、今回の取り組みで得た経験値はノウハウとして社内に還元いたします。また、今後もアーティストの皆様とは継続して関わりを持ち続けていきたいと考えております」(池上総支配人)

AIRなのか、その他の形になるかは未知数だが、「界 仙石原」でのアート体験が実を結ぶごとに、次の展開が近づくに違いない。温泉とアートを楽しめる同施設の今後に期待したい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

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なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
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○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu