"クールジャパン"をスマホで普及、新ビジネスモデルが秘める大きな可能性

2016.01.22

マンガ、ゲーム、音楽など海外から注目される日本のポップカルチャー。スマートフォンアプリを介して、世界各国にコンテンツを届けることは可能だが、一歩踏み込み、新たな仕組みで広めようとする動きが出てきた。シンガポールに本社を置く日系企業のGoouteだ。

Goouteの取り組みを簡易に説明すると、クールジャパンコンテンツの接点となる専用アプリをAndroidデバイスに製造過程でプリインストールして、ユーザーに届けるというものだ。日本国内でも大手携帯キャリアが特定のアプリをプリインストールし、ユーザーに端末を販売するという手法はあった。

その点では、従来の方法とは変わらない。興味深いのは、同社のビジネスモデルがアジアのスマホ端末メーカーの課題を解消し、かつ、海外にプリインストール端末を一挙に広げる可能性があること。ひいてはそれが外国人との接点を生み出し、クールジャパンコンテンツを一気に広める可能性を持っていることだ。

端末メーカーの食えない事情

その仕組みを知るには、まず端末メーカーの事情を知る必要がある。現在、スマホのOS別出荷台数は、Androidデバイスが8割を超えている。ただし、OS別営業利益シェアではiOSが9割弱を占めており、端末自体で多くの利益は生み出せていない。こうした状況について、Goouteの横地俊哉代表は、「市場の主役になっている低価格スマホメーカーの採算が厳しい。年間1000万台ペースでつくってようやく利益が出せる」と話す。

スマートフォンのOS別シェアとOS別営業利益シェア

薄利多売に陥ったのは、スマホ製造の参入障壁が低くなったからだ。同氏の説明によると、かつてのように、自社内に開発部門を擁する必要はなく、組み立て設備を持ち、部品、デザインさえ手当てできれば、製造可能になったとする。

そうした端末メーカーが増えた結果、起きたのはダンピング競争だった。スマホに付加価値をつけるより、いかに製造数を増やし利益を確保するかという流れになったという。

Goouteの役割

現状、端末メーカーが望むのは、他社との差別化材料と、利益確保の手段。その課題解決法として注目されたのが、日本のデザイン、クールジャパンコンテンツだった。Goouteはそこにニーズがあることを把握し、うまく突いた。

Goouteの立ち位置はプラットフォーマーだ。日本の契約コンテンツプロバイダーからクールジャパンコンテンツの供給を受ける。契約端末メーカーには、クールジャパンコンテンツの接点となるアプリをプリインストールしてもらう。そして端末は主にアジア諸国に向けて販売される。日本の契約クリエイターから端末デザイン、UIを提供してもらい、アジアの契約端末メーカーに日本デザインの端末を製造してもらうフルセットのサービスも提供するが、数としての主流はアプリのプリインストールとなる。

もちろん、タダではプリインストールはしてもらえない。このアプリには端末メーカーを救うプラスアルファの収益獲得の仕組みがあるわけだ。

Goouteは端末デザイン、コンテンツの供給を受け、契約端末メーカーに提供する
Goouteのサービス提供形態は3つ。デザイン、UI、アプリ(図表内ではNETと表示)の3点フルセットでの提供可能。ただし、日本デザインの端末は年内30万台以上とし、それほど多くはなく、アプリ単独の採用が最も多い。どの形態でも契約メーカーの全端末にアプリはプリインストールされる

端末メーカーの悩みを解消する仕組み

では、端末メーカーの悩みをアプリでどう解消するか。キモになるのは「ルーカス」と呼ばれる低価格スマホを広告メディア化する仕組みだ。

ルーカスはGoouteが契約する端末メーカーのスマホに、ウィジェットアプリとしてプリインストールされる。ウィジェットは、各国のキュレーション記事、オススメアプリ情報、後述するクールジャパンコンテンツの接点となる「GOOUME JP」の情報が入る。注目すべきは広告も表示されることだ。この広告収益は、Gooute、端末メーカーでシェアされる。

ルーカスが配信する情報。このうち広告がキモとなる

そして、ルーカスと一体となって、端末メーカーのスマホにプリインストールされるのが、コンテンツプラットフォームアプリ「GOOUME JP」だ。「GOOUME JP」は、日本の最新トレンド、コンテンツの配信プラットフォームの役割を持つ。

具体的には、Goouteと契約したクリエイターが、壁紙、アイコン、動画、音楽、漫画、ゲームのほか、エンタメ、ファッション情報、観光情報をGOOUME JPを通じて配信する。コンテンツは課金型のものもあり、有料コンテンツによる収益も、クリエイターほか、Gooute、端末メーカーで分け合う。

ウィジェットのルーカス、コンテンツプラットフォームのGOOUME JP、その両者から上がる収益が、端末メーカーの収益源になり、低採算という課題を解消、プリインストールの促進剤にもなるというわけだ。

Gooute提供のUI。契約メーカーの端末には、画像のように「GOOUME JP」というアプリもプリインストールされる
GOOUME JPのコンテンツ。クリエーター、ライターらが日本の情報を発信する

アプリ搭載端末の規模は?

端末メーカーを救う仕組みはそろったが、クールジャパンコンテンツの接点を広げるには、端末の出荷台数が気になるところだ。同社によると、2016年内の1年で計5000万台から1億台と莫大な数となるという。

2014年出荷数をベースに考えれば、世界のスマートフォンの約5%から10%に搭載されることになり、数多くの外国人へクールジャパンコンテンツのリーチが容易になる。向け先は中国、ベトナム、台湾などのアジア圏、北米、南米、EU諸国だが、日本のコンテンツが受け入れやすいアジア圏がメイン。すでに複数の端末メーカーと契約しており、その手はずも整えたという。

同社の取り組みに関して、「たかがプリインストール、利用者が自由にアプリをダウンロードすればいいではないか」という見方もあるかもしれないが、アプリが多数あるなかで、障壁なく接点が持てるか否かが成否を分ける。それがスマートフォンの世界だ。その意味で、多くの外国人とクールジャパンの接点が持てる同社の仕組みは、非常に面白い。

Goouteはクールジャパンコンテンツを広めるか

ただし、こうした取り組みが、ユーザー視点から見た場合、多くの人に望まれるとは限らない。端末購入者が日本に興味を持っているわけでもない。そもそも、コンテンツに魅力がなければ、仕組みそのものが否定されかねない。これらの点についてはどうか。

まず、コンテンツについては、当初は日本発のものがメインとなるが、いずれかのタイミングで、出荷先のものも取り入れていくという。ルーカス上に表示されるコンテンツの表示設定(非表示も可)も細かくでき、利用者に配慮したものになるという。

次に、コンテンツの提供者について。当初、提供するコンテンツは、デジタルハリウッドやフジスマートワーク等に所属する日本のクリエイター、ライターとなる。個人、法人を問わずにGOOUME JPを通じて、多数の国へのコンテンツ配信が可能だ。

だが、現段階で、提供コンテンツに有名なクリエイターは参画していない。その理由については、知的財産の都合上としている。同社では、このあたりも課題として認識しており、将来的には有力コンテンツを投下していきたい考えだ。

一連の話をまとめれば、Goouteはまず、多数の端末にアプリを搭載してもらい、コンテンツを見てもらう"場作り"に注力、その後にコンテンツの充実化を図っていく流れとなるだろう。

新たな仕組みで広がるか

同社の取り組みは、今のところ、低採算に苦しむ端末メーカーを救う手段となりうる。そのビジネスモデルには隙もないように見える。端末も一気に販売することで、クールジャパンコンテンツの普及にも弾みがつくと期待できそうだ。

ただし、それはルーカスの広告収益やGOOUME JPの収益が端末メーカーにとって魅力のあるものになっていることが前提だ。それは同時に、アプリが利用され、ユーザーに受け入れられたことも意味する。一にも二にも、アプリのコンテンツがユーザーに響かなければ、元も子もなくなる。ユーザーにとって関心のないコンテンツが表示され続ければ、それはノイズでしかなくなってしまうだろう。

ユーザーを引き付けるコンテンツやクリエイターをどれだけ集め、それらをいかにタイミングよくユーザーに提供できるか。これからが正念場であり、舵取り次第で成否が大きく変わりそうだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。