17年ぶりの新製品となる「丸くない」ロボット掃除機 - エレクトロラックス「PUREi9」

モノのデザイン 第35回

17年ぶりの新製品となる「丸くない」ロボット掃除機 - エレクトロラックス「PUREi9」

2018.03.05

スウェーデンの家電メーカー・エレクトロラックスからこのほど発売された、ロボット掃除機「PUREi9」。同社としては2001年に発売された「トリロバイト」以来のロボット掃除機の発売となる。

3月2日発売のエレクトロラックスの「PUREi9」。2001年に商用ロボット掃除機として初めて発売された「トリロバイト」以来の製品

新製品のコンセプトをはじめ、開発の経緯とプロセス、デザインについてのこだわりについて、日本法人であるエレクトラックス・ジャパンで、アシスタント・プロダクトライン・マネジャーを務める、小林麻梨亜氏にお答えいただいた。

同社から17年ぶりに発売されることになったロボット掃除機だが、新製品の開発にあたっては、現状のロボット掃除機が抱える問題点を克服した製品を出すという目標が掲げられた。同社では、掃除機としての基本性能が高いうえに、家具を移動させるなどロボット掃除機を動かす前に準備をする必要がないように、障害物を的確に認識し、最初から最後まで任せられる製品が目指されたという。

野球のホームベースのような形状が特徴の本体。高さ8.5センチ、奥行28センチと、ロボット掃除機市場の中でもコンパクトかつスリムさが際立つ。マットなメタリックボディーで、先進性を想起させながらも上品で洗練されたデザインが特長だ

そこで採用されたのが、"3D Visionテクノロジー"という、ロボット掃除機の性能を左右する自立走行のための技術。他社の高価格帯のロボット掃除機にも採用されている"SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)"と呼ばれる技術のひとつで、周りの環境と自分の位置を認識して地図を作成しながら自走するための仕組み。もとは自動車などの自動運転技術として開発されたものだ。

しかし、同じSLAMでも、PUREi9の場合は、前面の両サイドに備えられた発光部からのレーザーを、その間にあるカメラによって捉えることで、環境認識をするのが独自な点。カメラで認識した障害物をソフトウェアで分析し、行動パターンを決定する総合的なシステムでもあり、部屋のレイアウトと障害物を同時に認識できているのが特長だ。主に赤外線センサーと天井部にあるカメラで別々のものを検知して判断する他社の仕組みとは異なり、わかりやすく言うと、「人間が目で見ているように部屋の状況が見えている」というものだという。

本体前方には両サイドにレーザーの発光部を備え、それを受信するカメラが真ん中にある。センサーとカメラが同じ方向にあるため、人間の目と同じように物体を捉えられる

だが、これらのセンサーと、各々3つのサーキットボードと個別のプロセッサー、さらには掃除部分のすべてのシステムを、幅32.5センチ×奥行28センチ×高さ8.5センチというコンパクトな筺体の中に、性能や自立性に妥協することなく搭載するというのは至難の業だったと小林氏は次のように説明する。

「スウェーデン本社の開発チームの話では、ミリ単位で障害物や敷居などの小さな段差、落ちてはいけない大きな段差などを確実に検知できるレベルの3Dビジョンセンサーを自社開発しなければならなかったそうです。3Dビジョンセンサーの開発には、もちろん光学センサーと、レーザーの安全認証、工場での最終試験、画像処理・分析といったイメージプロセス部分も含まれます。そして、実環境での長年のテストの間に発見された、イレギュラーな環境でも問題なく対処できるお掃除パターンとナビゲーションを検討しなければならず、とても苦労したとのことです」

「3Dビジョンセンサー」により捉えた障害物を解析するイメージ画像

他のロボット掃除機に比べてPUREi9が特殊な点としては、形状も挙げられる。17年前に発売したトリロバイトをはじめ、現在も市場において主流になっている円形は採用されなかった。三角形がベースではあるものの、3つの角を断ち落とした野球のホームベースのような形だ。この形状が採用された理由について、「丸型のような内転機構で方向転換に長けながらも、丸型よりコンパクトでしっかり角までリーチできるようにするため、研究を重ねた結果、現在の特殊な形に至りました」と小林氏。

2001年に発売された「トリロバイト」(写真右)と比較すると、サイズも形状も何もかも変わっているが、デザインの印象にはどこか似通ったものも感じられる

PUREi9は、本体の操作部も洗練された印象を持つ。三角形の一辺に細長い帯状のタッチパネル液晶が採用され、操作時にのみバックライトが点灯してボタン類が表示される仕組みだ。小林氏によると、操作部のUIは特にこだわった部分で、「UIは直感的に分かりやすく、シームレスで操作しやすい洗練されたタッチパネルが採用されています」と話す。

コーナー部分にもアプローチしやすいよう緻密に計算された、PUREi9の形状。吸引口が本体前方のギリギリの位置にあり、サイドブラシの位置も吸引口に極力近づけられており、集めたゴミを取りこぼしにくい
本体操作部のUIもこだわられた部分。タッチパネルを部分的に採用し、シームレスで操作しやすい上に操作時以外はボタンが消灯するなどデザイン性も損ねない

PUREi9は、排気口のデザインもユニークだ。本体後方の左右2ヶ所に丸いパンチ穴が複数設けられたデザインで、一見するとオーディオスピーカーを彷彿させる。このデザインにはどのような意図があるのだろうか。

「排気口部分のデザインは、消費者テストでの結果をもとに研究・開発したものです。小さな排気口は、ゴミが排出されずに中に留まる高いフィルター性能を象徴しています。実際に排気されている部分はダイナミックなパターンですが、デザイン上はシームレスにフェードアウトすることで掃除機と調和させています。この手法はエレクトロラックスの掃除機製品群に共通した、デザイン上のキーエレメントとなっています」

オーディオスピーカーの穴のような洗練されたデザインが採用された排気口

PUREi9のホームベースのような形状は、機能的な意図だけでなく、先進的でユニーク、かつオリジナルなロボット掃除機であることを示しシンボリックな意味もあるとのことだ。

「PUREi9は"ウェルビーイング(暮らしをより豊かに)"というビジョンに沿った新しいデザインパターンを採用しています。このデザインは、デザインのトレンドと、ご家庭のインテリアにもっとも自然になじむようなものをというさまざまな発想から生まれたものです。全体的には、"フィット"と"フィール"に最も重点を置き、それを実現する頑丈さ・しなやかさと同時に、精密な形状を目指しました。そして、前面の3DVisionのカメラやレーザーのウィンドウ部分が目立つように、またPUREi9の主要コンポーネントの最先端の賢さにスポットライトが当たるようにデザインされています」と小林氏。

停止中の充電台も薄型で目立ちすぎないデザインで周りのインテリアと調和力が高い

さらに、マットでメタリックなカラーを採用した理由は、「最高にプレミアムな製品にするため、高級感を与える仕上げにしました。この重厚感により、本体のコンパクトさをさらに強調する狙いもあります」と説明した。

17年ぶりに登場したエレクトロラックスのロボット掃除機。商用のロボット掃除機を初めて発売した先駆者としての意地をかけ、技術面においてもデザイン意匠においても独自性ある製品を投入し、市場に再参入するかたちとなるが、消費者の間にどのように受け入れられるかを楽しみにしたい。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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