肉を回して焼く

モノのデザイン 第32回

肉を回して焼く"特別感"あふれる家電 - パナソニック 「ロティサリーグリル&スモーク」

2018.01.17

パナソニックが2017年11月に発売した「ロティサリーグリル&スモーク」。内部に肉を回転させる機構を持ち、家庭で手軽にロティサリー料理や燻製料理などを楽しむことができるこれまでなかった調理家電で、今流行りの"インスタ映え"する家電としても話題をさらった新製品だ。

今回は、同製品の企画やデザインに携わったパナソニック2人の担当者に、開発秘話やデザイン上のこだわりについて話を伺った。

2017年11月発売のパナソニック「ロティサリーグリル&スモーク」NB-RDX100。内部で肉を回転させながらあぶり焼きができる"ロティ"をメインとしたグリル機能をはじめ、燻製、トーストの1台4役の新ジャンルの調理家電

冒頭でも述べたとおり、これまでにない調理家電として世に送り出された同製品だが、企画段階として挙がったテーマは"新しい食の提案"だという。パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏は、その背景について次のように語った。

パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏

「女性の就業率の上昇に伴い、近年夫婦共働き世帯の家庭が増え、ライフスタイルにも変化が見られます。夫婦共働きのため平日の食事は手早く済ませる一方で、週末は時間をかけてでも調理を楽しんだり、多少お金をかけてでも美味しいものを食べたいといった家族が増えるようになりました。そういうニーズに応えられる調理家電、かつ加熱調理が強みである弊社の技術を活かした製品で何か新しい価値を提供できないだろうかと、社内で検討が始まりました」

社内におけるカジュアルな議論を経て辿り着いたのが、肉を回転させて焼き上げることができる調理家電。当初賛否両論はあったものの、「こんな商品はなかった! 」という前代未聞のインパクトが評価され、2015年末ごろから「ロティサリーグリル&スモーク」という商品の方向性でプロジェクトがキックオフしたという。

その際に掲げられた商品のデザインコンセプトは"おうちバーベキュー"。キャンプなどのアウトドアで楽しむバーベキューのイメージをそのまま製品デザインとして表現するために採り入れられたのは"五感に訴えるデザイン"だ。

パナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏

デザインを担当したパナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏は次のように説明した。

「キャンプ場のバーベキューを楽しむ時のワクワクするシーンをご家庭で再現してもらえるようにデザインを考えていきました。肉を包み込むように覆い、回転させることで美味しくなることを造形で表現したかったんです。」

そしてデザイン上のもう1つの大きだなこだわりとして挙げられたのが、表面処理だ。「特別な調理器具をイメージしていただくために色は黒を基調に、手触りでも美味しさを感じていただけるよう質感にもこだわりました」と小林氏。

しかし、このこだわりが製品開発の上では大きなハードルにもなったともそれぞれ次のように打ち明ける。「中でもハンドルの部分に苦労しました。正面が湾曲しているゆえに、そのままハンドルを取り付けると、開閉の際に手が本体に当たってしまったりと安全面のハードルもありました。そのため、デザイナーも操作性や構造まで入り込んで検討しました。 」(小林氏)

お肉が回転するというイメージをデザインで具現化するために採用された円筒形。独自の形状ゆえに、操作性や安全性と両立させたハンドルの取り付けに想像以上に苦労したという

「円筒形は、板金で形作るなど成形に関しても通常よりも高い技術が必要です。表面の塗装に関してもそれくらいの質感が出せるかを何度もチェックしました」(石毛氏)

側面から見た本体。手前部分が円筒形になっており、一般的な立方体の製品ではない、高い成形技術が要求された

同製品は、ロティサリーをメインとしたグリルの他に燻製とオーブン、トーストの4つの機能を持つのも特徴だ。石毛氏によると、技術面で最も難しかったのはそれらを1台の調理器具として集約しなければならなかったことだという。

「この製品は、弊社のオーブントースターなどの加熱調理製品のフラッグシップ機という位置付けで、4つの調理機能を持たせています。しかし、それぞれの機能を一定の性能を維持しながら両立させるのは本当に苦労しました。というのも、何かの機能を作ったり、改良すると別の機能に影響があり、性能が変わってしまうということが起こります。本来相反する要求事項をひとつひとつ丁寧に折り合いをつけて、落としどころを決めていく作業は非常に難航しましたし、それを何度となく繰り返しながら設計を固めていきました」

ロティ調理の際には、肉を専用のカゴにセットし、オーブン/グリルでも使う受け皿と組み合わせて使用する。左右に渡された軸を本体内部の歯車にはめ込むことでカゴを回転させられる
専用の容器に食材を入れ、アルミホイルでフタをして庫内にセットすることで燻製調理にも対応する

中でも難しかったのがトーストの機能。ムラなく焼くことが実はとても難しく、4つの調理機能のそれぞれパラメーターを取った上で、徐々に優先事項の最適化が図られていった。

もう1つデザイン上のこだわりは"特別感"だ。前述のとおり、週末の"ご馳走"を楽しむための機械として開発された同製品は、使用する際の動作の上でもそれを体験できるよう、扉側には覗き窓のようなサイズ感の窓がデザインされていたり、トースト用の網がわずかに前に飛び出すような仕組みがあえて採用されている。

トーストを焼く時は焼き網をセット。網は着脱式だが、一般的なトースターのように扉を開くと網がわずかに前に飛び出す仕組みがわざわざ考えられた

同製品の操作部分は、右側にワンタッチのボタンをまとめ、左側にはダイヤル式の操作インタフェースを配備しているのも特徴的だ。この仕様も実は"ユーザー体験"を意識したものだと明かす。

「右側は全部オートメニュー用のボタンですが、左側のダイヤルは手動用です。オートで調理したい時にはワンタッチで簡単にできますが、手動で手作りする場合には、自分で操作するという"体験"を楽しんでもらえるようにあえて2通りの方法を採用しました。しかし、階層を深くすると操作方法がわかりにくくなってしまうので、プラグをコンセントにつないだ時に、それぞれの操作方法がLEDで交互に点灯して全機能がわかるように秘かな仕掛けをしています」(石毛氏)

調理時間の表示画面を境目に、左側のダイヤルが手動メニュー、右側のボタンがオートメニュー用に分かれている。わかりやすさと、手作りの楽しみを操作性でも体験できるようにした
ロティ用のかごを受け皿にセットするためのカゴ受けはあえて台形になっている。これはカゴとカゴ受けをセットする左右の方向をユーザーが直感的に理解できるようにするためにあえて採用されたという

調理する楽しみをユーザーに提供するだけでなく、その体験がわかりやすく使いやすいものでもなければならないと、熟考が重ねられた末に誕生した同製品。他にも受け皿にセットするロティ用のカゴのセットの方法を直感的に理解できるような形状を採用するなど調理家電としての使い勝手にも手を抜かず、パナソニックとして初めて作った製品とは思えぬ仕上がりだ。調理を面倒な"ルーティンワーク"というイメージから"エンターテイメント"な体験へと価値観を転換する製品としても、一目置かれるべき存在だ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。