宿願かなった青森米 - 「青天の霹靂」特A取得の舞台裏

宿願かなった青森米 - 「青天の霹靂」特A取得の舞台裏

2016.06.10

青森県は三方が海に囲まれ、山もあれば平野も深い森もある恵まれた環境。農産物と畜産物、水産物をバランス良く生産しており、「食材の宝庫」と表現されることもしばしばだ。しかしながら、実は日本穀物検定協会が実施する「米の食味ランキング」における最高評価「特A」を取得した米はこれまで誕生していなかった。

青森県の「青天の霹靂」。米とは思えないネーミング

そんななか、いわば青森県のフラッグシップ米といえる「青天の霹靂」が悲願の特Aを取得。2016年秋に県外での本格デビューを迎える。

青森の米作り

北海道と東北の米は、日本穀物検定協会が実施する「米の食味ランキング」における最高評価「特A」の常連だ。しかし、2014年産で"初めて"特A評価(参考品種として)を取得したのが青森県の「青天の霹靂」だ。逆にいえば、それまで長きにわたって青森には特Aのブランド米が存在していなかった。

2015年2月19日の特A取得を喜ぶ青森県の三村知事(提供:青森県)

青森の米作りは低温との闘いだ。これまでも、寒さに強いこと、安定した収量があることを重視して品種開発されてきた。現在の主力品種である「つがるロマン」「まっしぐら」は、寒さに強く食味も良い。なおかつ値段にお手頃感があることから、県内では家庭用、県外では業務用として重宝されてきた。でもこれは逆にいえば、多く収穫しないと農家へ収入として還元されにくいということでもある。

実際に、「青天の霹靂」の生産に携わって4年目を迎える工藤憲男氏は「安い米をたくさん作るスタイルでは収量が求められる。でも食味の良い米をブランド化すれば価格を高くできるので、作業量も少なくて済む」と語る。

さらに、「青森の米はおいしい」というイメージが定着すれば、既存の青森の米、「つがるロマン」や「まっしぐら」にも良い影響を与えられるかもしれない。そうして、青森県では特A取得への気運が高まっていった。2015年産でのデビューを目指し、「青系187号」という品種を新たなブランド米候補として選出。その「青系187号」こそがのちに「青天の霹靂」となる。

オリジナル品種にこだわった理由

生産者の工藤憲男氏(写真右)とその息子さん(写真左)。米の作り手にとっても、「青天の霹靂」は重要な品種だ

先ほども書いたとおり、青森県の米作りは低温との闘い。これを克服しつつも、ふっくらしていて適度な粘りを持ち、ツヤツヤとした光沢のある、おいしいお米を開発しなくてはならなかった。

青森県の担当者によれば、一般県民から「無理しないで、コシヒカリや北海道の特A取得品種を作付すればいいのでは」という声が寄せられることもあったとか(実際、コシヒカリで特Aを取得しているのは、2015年産で北は福島県から南は佐賀県まで19産地もある)。残念ながら、コシヒカリも北海道の品種も、青森県の気候では食味と収量の面からみて十分とはいえない生育状況になってしまう。「青森県に適した品種の開発が不可欠だった」と県の担当者は振り返る。

ひとつの品種を開発するには10年かかる、といわれている。「青天の霹靂」も例外ではなく、交配に使用した品種の親、そのまた親……と気が遠くなるような歳月をかけて改良に改良を重ね、誕生した。

生産者の工藤氏は「青天の霹靂」がデビューする前から栽培に携わっている。「青天の霹靂」の栽培は「(他品種と比べて)生産基準が厳しくて守るのが大変」というが、それでも「世に出すからにはおいしいものでないと、というプライドを持って米を作っている。だからむやみに作付面積を増やすのではなく、おいしく作れるだけの量を栽培していきたい」と話してくれた。「青天の霹靂」は特殊な青森の気候にピッタリな品種であり、かつ「青森でしか作れない」米だ。「初めて試食したとき、これはいけるなと直感した。津軽でしか作れない米としてブランディングに成功したら、高価格を維持できる」と期待を寄せている。

5月中旬~下旬にかけて田植え(写真左)が行われ、9月中旬頃から稲刈りシーズンを迎える。写真右は津軽平野に実った「青天の霹靂」。生産者の工藤氏によれば、「青天の霹靂」はムダな籾をあまり付けず、必要な分だけ均質に実るという

随所にみえる"米らしくなさ"

さて、「青天の霹靂」と聞いて米を連想する人はほとんどいないだろう。この"米らしくない"ネーミング、そして目をひくパッケージも青森県の戦略のうちだ。

「青天の霹靂」とは、「晴れわたった空にいきなり起こる雷」から転じて「突然起こる大事件」を表す。その斬新なネーミングは、晴天に現れる稲妻のように「鮮烈な存在になりたい」という思いから付けられた。

特別に提供してもらったPR用の2合パック(写真左)。紙袋もおそろいで、目を引くデザイン(写真右)。まさか米が入っているとは思うまい。ちなみに、紙袋を提げているのは弊誌「マイナビニュース」のグルメ担当・F

パッケージに描かれるロゴも、『空がパカッと割れて「青天の霹靂」が飛び出してきた様子を表現』(「青天の霹靂」公式ページより)しているという。米らしくない抽象柄で、印象的なデザインだ。

しかも、パッケージには食品で一般的にタブーとされる青色を採用。さわやかで鮮やかなブルーだが、「ここに米が入っています」といわれると怪訝な表情になってしまう。しかし、スーパーの米売り場に並んだら目立つこと間違いなしだろう。一般的な売り場は白が基調で黄色やピンク、緑が多いというのが筆者の感覚。ここまでビビッドな色があったら目を引きそうだ。

こういった"米らしくない"点が注目されて、各種メディアに取り上げられたことも、おそらくは青森県の狙い通り、といったところなのだろう。

特A取得がもたらしたもの

2014年産、2015年産と2年連続で特A取得を果たした「青天の霹靂」。青森県の担当者によれば、「特A取得をキッカケに、地元生産者は良食味米の生産へ意欲的になったと感じます。青森でもおいしい米を作れるんだとプライドを持って米作りに臨んだ、といった声もあがりました」とのことだ。デビュー以来「A'」評価だった「まっしぐら」が、2015年産では「A」評価とワンランク上の評価を取得したのもその証左といえよう。

品質と生産量を安定させるため、「青天の霹靂」は生産地域が「やませ」の影響を受けにくい津軽中央(一部除く)と津軽西北の13市町村に限定されている。現在は、そのほかの地域で作付可能な良食味米についても、品種開発を進めているところだ。

「青天の霹靂」の初出荷時テープカット。特A取得は青森県の悲願でもあった

栽培基準と出荷基準を厳格に設定し、両方を満たした米を基準達成米として販売。ほかのブランド米と同様、評価を確立するために栽培基準の遵守はもちろん、品質管理を徹底するべく生産者登録制度を採用している。そのほか、青森県の生産指導プロジェクトチームを中心に、衛星画像を分析して水田ごとの食味や生育を推測するリモートセンシング技術を導入。水田ごとの状況を見つつ、きめ細やかな指導をしているという。

ちなみに、出荷基準を満たさない米については日本酒や菓子などの加工品に使われる予定。2016年度に青森県の研究機関にて日本酒の醸造適性試験、ライスミルクの試作などに取り組んでいく。

首都圏でのPRイベントは好評

特A取得で弾みをつけた「青天の霹靂」。2016年産から作付面積を2015年産の約3倍となる約1,560haに拡大し、本格栽培を開始した。いよいよ県外で全国の上位クラス米と並んで販売される。青森県としては、「青天の霹靂」を牽引役として「あおもり米」の認知度を上げる考えだ。

青森県の担当者は、「ブランド化の正念場を迎えるので、首都圏を中心に宣伝を強化する必要があると考えています。これまで得られた高い評価や注目度を維持して継続的に情報発信をしていきます」と意気込む。2015年産も実は、銀座三越など首都圏にて試食PRイベントを行っている。一般向けだけでなく、スクウェア・エニックスやヤフーといったクリエイターが多い会社の食堂へ出張し、PRするというユニークな試みも。こうしたイベントでは「もちもちしている」「甘みがある」など、好評価を得られたそうだ。

スクウェア・エニックスでのPRイベントの様子
六本木ヒルズの田植えイベントには140名が参加した

2016年5月28日には森ビルと連携し、六本木ヒルズの屋上庭園(普段は立ち入り不可)で田植えイベントを開催した。六本木ヒルズに住んでいる、もしくは働いている人とその家族を対象にしたイベントで、これもPRの一環。青森県の担当者は「東京の屋外で栽培するのはこれが初めて」と期待半分、不安半分といった表情だった。そんな様子をよそに、子どもたちは初めての田んぼに大興奮。当日は大人90名、子ども50名の計140名が参加し、にぎわいを見せた。

話題作りに努める

おいしい米の産地としてのブランディングが強烈に成功したのは北海道だろう。気候の変化といった要因もあるが、いまや「ゆめぴりか」や「ななつぼし」などで「北海道の米はおいしい」というイメージをみごと定着させた。

一方で、北海道の対岸にある青森県というと、リンゴやマグロ、ニンニクといったイメージがどうしても先行してしまい、米は思い浮かばないというのが正直な感想だ。生産者の工藤氏も「青森にブランド米は必要ない、とか、業務用の米を作っていればいいんだよ、と言われたことがある」そうだ。今後の課題はまさにここ。作付面積が増えても高い品質をキープするという生産上の課題ももちろんあるが、県内県外問わず青森県の米について知ってもらうのが肝要だ。青森県の担当者は「青森の米はおいしいと認知してもらいたい」としたうえで、「話題性のあるイベントなどを実施していく」と今後について教えてくれた。

冒頭でも述べたとおり、青森県はおいしい食べ物に恵まれている。「青天の霹靂」は食材のおいしさを引き出すような味わいで、青森県の三村申吾知事は「さっぱりしているのに、甘さと旨みが後をひく。いろんなおかずとの相性が素晴らしい」と表現している。晴れわたった空に突如として現れる稲妻のように、数ある米のなかで存在感をアピールできるか、2016年は試される年となりそうだ。

まずは2016年産も特Aを取れるかどうか、というところもポイントになってくる
NewsInsight 更新終了のお知らせ

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2019.06.17

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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu