定番家電・オーブンレンジを

モノのデザイン 第31回

定番家電・オーブンレンジを"再パッケージ" - 「BALMUDA The Range」

2018.01.12

バルミューダから2017年12月に発売された「BALMUDA The Range」。2015年に発売し大ヒットした「BALMUDA The Toaster」を皮切りに、電気ケトルや炊飯器など次々にデザイン性の高さと独自性をウリに新しいキッチン家電を送り出すバルミューダが手掛けた最新の商品だ。

そんな中で今回登場したのは、オーブンレンジ。"バルミューダらしさ"を追求して生まれた同製品にかけるデザイン面から見た思いや秘話を、デザインを担当した同社クリエイティブ部でデザイナーを務める比嘉一真氏に伺った。

2017年12月発売の「BALMUDA The Range」。庫内容量18Lのオーブンレンジで、ステンレス、ホワイト、ブラックの3色をラインナップする

前述のとおり、商品の企画の開発にあたっては、やはり"バルミューダらしさ"に最もこだわったとのこと。しかし比嘉氏によると、初期の段階ではその方向性は少し違ったものだったという。

バルミューダ クリエイティブ部 デザイナー 比嘉一真氏

「調理家電のカテゴリーの中で、そもそもレンジの企画がありました。他の製品同様にバルミューダらしいものをということで、当初は超小型のオーブンレンジの案がありしました。最近は小さなチップ状のマグネトロンなど新しい部品があるので、それを使えば可能だよねとなったのですが、紆余曲折を経て保留になりました。しかし、家電量販店で並んでいるオーブンレンジを見た時に、パッと目に飛び込んでくるのがワインレッドや白のカラーが多く、カラバリが少ない印象を受けたのと、ボタンや文字が多すぎてわかりにくい製品ばかりだということに気付きました。レンジはそもそもが火を使わずに食品を温められる素晴らしい発明なのに、その良さがわかりづらくなっていると感じたので、わかりやすさを重視した製品を作ろうということになりました」

モード選択のつまみ。文字を最小限にし、アイコニックな表示で直感的なわかりやすさにした。カメラの設定ダイヤルのようでもある

次に検討されたのが、必要な機能の取捨選択だ。「社内でアンケートを実施したところ、自動調理メニュー派の人はそれしか使わない。手動設定派の人もそれしか使わないとはっきり分かれました。そこで自動調理メニューは必要なものだけに最小限に絞り込み、もっとユーザーが使いやすいオーブンレンジを目指しました」と比嘉氏。

その結果、絞られたメニューは5つ。お弁当などを温める「自動あたためモード」と、ワット数・時間を選ぶ「マニュアルモード」、「飲み物モード」、「冷凍ごはんモード」、「解凍モード」だ。飲み物モードは、コーヒー、ミルク、熱燗から選択できる。4つのレンジ機能に加えて、100~250℃まで選べるオーブンモードも搭載した。

タイマーと温度の設定用ダイヤル。金庫のダイヤルやオーディオ製品のボリュームコントロールのような"回す"楽しみの遊び心が盛り込まれている

オーブンレンジを「親しみやすく、使いやすいものにしたい」という思いは操作インタフェースにも表される。本体は左側にモードを選択するつまみと右側に温度や時間を設定するダイヤルを備える。国内の主要メーカーの高価格帯モデルがタッチパネル式を採用しているのが主流であるのに対し、同製品は時代に逆行するかのように、あえてアナログな仕様を採用しているのがかえって目を惹く。比嘉氏は操作部についてのこだわりを次のように話す。

「クラシック感というのをすごく大事にしました。真ん中に液晶の表示部があるんですが、この部分のフォントにもこだわりました。ユーザーがわかりやすいという意味で日本語はマスト。レトロ感を出すためにカタカナを採用し、懐かしさのあるフォントを独自に作成しました。"反転液晶"と呼ばれる昔のデジタル腕時計のような黒バックに白文字の液晶をあえて採用しています。現代の主流なタイプの液晶ではないため、部品代も高くなってしまいますし、液晶が庫内の温度に耐えられる仕様でなければならないなど課題が多くありましたが、妥協せずによいデザインを追求しました」

表示部には"反転液晶"を採用。オリジナルのフォントを作成し、レトロ感が演出されている

この製品が目指したもう1つのコンセプトが、"楽しくなるレンジ"だ。操作部のこうしたこだわりは見た目だけでなく、それを実現するための要素でもあるという。

「ダイヤル部分を回すと『金庫みたい』という声も上がります。オーディオ製品のボリュームコントロールなど、昔は何かを"回す"という、最近の家電製品にはないある意味での楽しさがありましたよね。それをユーザーに体験してもらうというのも狙いの1つなんです」

そうした体験を提供するもう1つの方法が、製品の最も大きな特徴とも言える"音"へのこだわりだ。本製品では本体下部にオーディオ用のスピーカーを搭載し、音というより"音楽"を奏でるオーブンレンジとして、その前代未聞さに消費者に大きなインパクトを与えた。

プロのミュージシャンがスタジオ録りをしたという音楽を再生するために、スピーカーはオーディオ用を採用。スピーカーボックスの位置は容量の関係から必然的に本体下部に決まったとのこと。穴は排気の役割も果たすという。

モード選択のスイッチを切り替えることに、「ジャジャジャーン」とアコースティックギターの旋律が流れ、マニュアル設定用のダイヤルを回すとカチカチとドラム音が鳴り、初めて聞いた人は想像を超える出来事にだいたい笑ってしまう。しかも、レンジのためにプロのミュージシャンに依頼してスタジオ録音されたというほどのこだわりだ。「レンジからこんな音が鳴るというだけでもう楽しいですよね。音楽については、他にもさまざまな候補がありましたよ」と明かす比嘉氏。

同製品で掲げられたデザインコンセプトは"レストラン"。開発中はそれがそのままプロジェクト名にもなっていたという。ワクワクとしたレストランの楽しい雰囲気の記憶をオーブンレンジでどのように表現・演出できるかをフックにデザインの詳細が徐々に詰められていったとのことだ。

「レストランの入口によくあるカウベルの音とか、カチャカチャとお皿が鳴る音などレストランの雰囲気を彷彿とさせる音楽も検討段階ではありました」

イメージは"レストラン"。厨房機器のような道具感あるデザインを意識しながら、音と光、操作方法などの要素でレストランならではのワクワクとした雰囲気が表現された
デザインと技術との両立で最も難しかったのがハンドル部分。外装が樹脂よりも熱伝導性が高いステンレスを採用しているため、ハンドル部分がそのままでは火傷をしてしまうほど熱くなってしまう問題を解決するため裏に断熱材を用いるなど、従来のオーブンレンジにはない試行錯誤が繰り返されたという

扉の外側に装備された3灯のLEDライトもレストランを表現する演出のひとつだ。この部分はレストランの雰囲気を出すために、扉の素材もいくつも試作してグラデーションのパターンを調整・検討が図られたという。

このようにレストランのイメージをオーブンレンジの中でさまざまに表現していく中で、最も大切かつ難しいと思われるのがその"さじ加減"だ。比嘉氏はシンプルさとポップさを調和させる秘訣を、バルミューダ製品全体に共通する意匠デザインの考え方とともに次のように語ってくれた。

「今回の製品はただ引き算をしてシンプルにしていくだけでなく、"再パッケージ"だと捉えています。そこにポップさや斬新さを加えることでバルミューダらしいテイストの製品に仕上げました。ただし、新しさと言っても未来的な形は追求しません。あくまでも美しさです。新しさはいずれ飽きてしまいますが、美しさというのは永遠に変わりません。バルミューダのデザインはそういうものを目指しています」

庫内底面は、秘かにレコードのターンテーブルを模したデザインになっている
単にシンプルであるだけでなく"美しさ"にこだわってデザインされているというバルミューダのキッチン家電。そのため、道具感を意識しながらも佇まいを大切にしているとのこと

斬新でユニークなオーブンレンジとして華々しくデビューを飾った同製品。一見すると、その独自性ゆえに、奇をてらったデザインで話題を集めた製品という印象を受けてしまうが、その開発の背景やデザインに隠された意図を知ると、実は奥の深い製品だと感じる。各社が高機能や高性能を競い合う市場において、冷や水を打つかのようないろいろな意味で挑戦的な製品だ。

「落合陽一×鈴木えみ」が魅せる、現代の東京と服

「落合陽一×鈴木えみ」が魅せる、現代の東京と服

2018.10.19

落合陽一と鈴木えみがコラボ、インスタレーションを実施

東京の街を切り取った光で、”日常”の中の服を演出

「ランウェイを歩くより、恰好いい」と演出に好感触

モデルの鈴木えみ氏がデザインするオリジナル服飾ブランド「Lautashi(ラウタシー)」は10月18日、「Amazon Fashion Week TOKYO」のスペシャルプログラム”AT TOKYO”にて、2019年初夏コレクションをインスタレーション形式(作品の展示方法の1つ)で発表した。

メディアアーティストの落合陽一氏が演出を担当することで注目を集めたこのイベント。開催に先立って行われたインタビューで落合氏は、「『光』にフォーカスした演出を行います。”日本らしいものは出てこないけど、なぜか日本を感じてしまう”演出に注目して欲しい」と話していた。

その発言の意味するところを実感してみようと、会場を実際に取材することにした。

東京の日常の中の”服”を演出したい

イベント会場に入ると、暗闇の中にLautashiの新作に身を包んだモデル達が後ろを向いて立っていた。

「工業社会っぽいが、それが自然に溶け込んできている風景」を演出に組み込んだという落合氏。独特の光を用いた演出に加え、会場そのものの選択にもこだわったようだ

インスタレーションが始まると、モデルが振り返り、”東京の日常に溢れる音”をイメージしたという、騒がしく、どこか聞き慣れた音が鳴り始める。その後、天井や壁、モデルの合間に設置されたいくつものLED照明がさまざまに光り出す。そして、その色を青、赤、灰色と複雑に変化させ、照らす服の印象を次々に変えていく。

光の変化で、服の見え方も変わってくる
インスタレーションが始まり数分経つと、「是非自由に見て回ってください」との場内アナウンスが。モデルの間を自由に歩き回り、服を間近で見ることができた

僕らの日常とは、松屋やセブンイレブンの光

今回のインスタレーションを終え、鈴木、落合の両氏は以下のように語る。

「ファッションショーや雑誌って、服を完璧な照明や状態で見せることが多いんです。でも、日常にはさまざまな光が溢れています。今回のように、服をいくつもの照明条件で見せることで、”日常感”を感じさせられるような演出にしました。来場者が期待以上にモデルに近づいてくれて良かったです」(鈴木氏)

「光の演出には、日常に溢れるさまざまな光景を使っています。例えば、松屋やセブンイレブン、車のヘッドライトなどをあえてぼかして撮影して、(その画像をLEDで映し光源とすることで、街の光を再現した)照明に使っているんです。それらは普段、意識しないと目にも止めないようなものですが、そういうものから出る光が、たとえ人工的であっても、現代においては”自然”な存在となっています。私たちは普段、そういう照明条件で服を着ますよね」(落合氏)

左から、アマゾンジャパン バイスプレジデント ファッション事業部門 統括事業本部長のジェームズ・ピーターズ氏、メディアアーティストの落合陽一氏、モデル・デザイナーの鈴木えみ氏、サウンドアーティストのKAITO SAKUMA a.k.a BATIC氏

イベントの音楽を担当したサウンドアーティストのKAITO SAKUMA a.k.a BATIC氏は、街でサンプリングした音と会場での音を組み合わせることで、こちらも「どこか日本らしい」音楽でインスタレーションを彩っている。

Amazon Fashionを擁するアマゾンからは、日本でバイスプレジデントを務めるジェームズ・ピーターズ氏が来場。「消費者と非常に近い距離で服を見せられる。非常に素晴らしい演出だった」と、感銘を受けたことを語っていた。

落合氏の「なぜか日本を感じてしまう演出」という言葉通り、ありふれているようで、これまでにない体験を得られるインスタレーションとなったのではないだろうか。

5G実装まで1年、CEATECで未来を先取りしてきた

5G実装まで1年、CEATECで未来を先取りしてきた

2018.10.19

5Gの実装が1年前倒しされることに

「CEATECH」で5G技術を体験してきた

恐竜ハントや建機の遠隔操作などの技術を紹介

「5Gで世の中が大きく変わる」とは、ここ数年で聞き飽きた言葉だ。同時に、変わる未来に期待を持たされるのも確かである。

5Gとは第5世代移動通信システムの略。あらゆる物がインターネットに繋がるようになったIoT時代をさらに次の次元へと導く技術であり、世界中で研究開発が進められている。もっとも身近な存在であるスマホはもちろん、遠隔医療や自動運転などへの活用も期待されている。

さまざまな業界から社会実装が待ち望まれる5Gであるが、数年前から語られていた「2020年の実用化」を目前にして、「実用化を1年前倒しする」との報道がなされた。まず大手キャリア3社は、5G対応端末の貸与で限定的なサービスを開始し、2020年からユーザー所有のスマートフォンで使えるようにするとのことだ。

では具体的に、5Gの登場によって世の中がどう変わるのか? 2018年10月16日~19日にかけて千葉県・幕張メッセにて開催されている「CEATEC JAPAN 2018」における携帯キャリア各社の展示から、変わる未来の一部を覗いてきた。

例えば、無人島で恐竜を狩れる

まずはauのブースから紹介する。ブース内でもっとも目を引いたのは、森をモチーフにした大きな展示とそこに吊るされた大きなモニター、そして何やら楽し気にしている高校生。気になって近づいてみると、なぜか大きな銃を手渡された。

ブースに入ると、大きな銃を渡された

「CEATEC会場内に恐竜が侵入しました…! おちおちブース見学なんてしてられませんよ!」(auブースの説明員)

ただならぬ緊張感が漂うauブース……。もちろんブース内に恐竜なんていない。銃をよく見てみるとそこにはスマホが搭載されており、『ジュラシックアイランド』という表記が。

スマホを覗くと『ジュラシックアイランド』と表示されている

数秒経つと、スマホがカメラモードに切り替わり、恐竜の足跡が表示された。その足跡を辿って銃先を向けると、スマホ越しにCEATEC会場を歩き回るティラノサウルスを見つけた。

登場したティラノサウルス(のイメージ)。筆者が片手で銃を持ち、画面を撮影していたところ「銃は重いので両手で持ってください」と注意されたので、実際のプレイ画像は撮れなかった

実はコレ、長崎のハウステンボスですでに実装されているもので、一世を風靡した『Pokemon Go』よろしく、AR技術を用いて現実世界で遊ぶことのできるゲームだ。

現状、このアトラクションは4Gにて提供されているそうだが、5Gを使用することで、より多くの人数でプレイができたり、恐竜の出現位置を共通化させたりできるようになるそう。筆者が体験したのも4Gを用いたものであったが、ティラノサウルスのほか、『ジュラシック・ワールド』で活躍したヴェロキラプトルなども登場して、思いのほか楽しめた。

「5Gによって大量のデータを迅速に端末に送信できるようになれば、従来モバイル側で行っていたデータ処理を、クラウド側で担当し、それをモバイルに送信することができるようになります。現在はハウステンボス内の特定のエリアにいるユーザーがプレイできるこのゲームですが、この技術を応用することで、将来的には遠隔地にいる人同士でも同じ恐竜を狩ることができるようになるでしょう」(技術説明員)

例えば、空を飛べる

次に目を引いたのは、大きな半球体のスクリーンに映された綺麗な映像だった。

「半球体スクリーンによる非日常体験」と題された展示。auブース内でもっとも行列が長かったのがこの展示だった

これは、エアレースやドローン、もしくはSUPER GTのマシンで撮った映像を、リアルタイムでスクリーンに映して体験できるというもの。ブースで実際に使用されていたのはすでに撮影された映像であったが、それでも雄大な映像を見ながらまるで自分が飛んでいるかのような体験ができるため、多くの人たちが並んでいた。

例えば、建機を遠隔地から動かせる

次はKDDIブースへ移動。こちらでは、同社がコマツと共同実験を進めている「5G活用による建設機械の遠隔制御」などの展示が行われている。

少子高齢化が進み、かつ職種が徐々に増えている今、人手不足に悩まされる業界は多い。建設業界もその1つであり、その問題を解決しようと開発されているのが同システムである。

遠隔操作コクピット。実際の建機と同じような操縦感で操作することが可能
遠隔で動く建機側で撮った映像を、リアルタイムで確認することができる

「これによって、例えば東京にいる建機の操縦者が、地方の建機を動かせるようになります。建機を操縦するタイミングは、ほかの工程との兼ね合いによって決まるため、デッドタイムが多いという問題がありました。しかし、このシステムを用いることによって、人が1カ所に留まりながら複数の場所で建機を動かせるようになります」(技術説明員)

ほかにもau、NTTドコモブースでは、好きな場所からスポーツを観戦できるシステムや、遠隔でのロボット操縦を実現するシステムなど、数多くの展示を行っており、そのどれもがどこか未来を感じさせるようなものであった。

5G実装まで1年

CEATECでは、紹介した2ブースのほかにも多くの企業が5Gに向けた取り組みを展示していた。それらを見ていると、「5Gで何ができる?」という疑問に対して「なんでもできる」と解答したくなるほど、どの技術も、仕事や日常生活がより便利に、より楽しくなりそう、と思えるものばかりであった。

なお、NTTドコモはラグビーワールドカップが開幕する2019年9月に「プレサービス」を始め、2020年春から「商用サービス」をスタートする予定だとしている。つまり、5Gの実装まで残り1年を切ったこととなる。

CEATECで体験したいくつもの技術が社会実装される日は近い。5Gという、どこか未来的な技術の足音が、もうすぐそこまで迫ってきている。