一から作り上げた

モノのデザイン 第28回

一から作り上げた"反転"する掃除機-東芝 コードレスクリーナー「VC-NXシリーズ」(前編)

2017.12.18

東芝ライフスタイルから今秋発売された、キャニスター型のコードレスクリーナー「VC-NXシリーズ」。コードレスタイプの掃除機でありながらキャニスタータイプの吸引力を維持させるために、新たにモーターとバッテリーを開発したというメーカー渾身の新製品だ。

また、"ダブルフェイススタイル"と名付けられた、本体を裏表反転させても掃除ができる斬新な仕様を採用し、これまでになかった掃除スタイルを提案する商品としても注目を集めている。そこで今回は、本製品のデザインを担当した、東芝 デザインセンター デザイン第二部 家庭電器システム担当参事の山内敏行氏に新製品開発の背景からプロセス、秘話などを伺った。

東芝ライフスタイルのコードレス式キャニスター掃除機「VC-NXシリーズ」

最初にこの製品が開発される契機を訊ねたところ、出発点はコードレススティッククリーナーの不満点の解消にあったという。山内氏は次のように説明する。

「TOSHIBAのコードレススティッククリーナーは、他社製品に比べると軽いほうなのですが、それはあくまでカテゴリーの中での話。特に手元荷重に関しては、掃除機全体として見た場合、まだまだ十分に軽いとは言えません。しかし、どんな掃除機であれ、やはり使い勝手がよいのが最良。そこでコードレスクリーナーでありながら、軽くて使いやすい製品の開発を目指そうということになりました」

東芝 デザインセンター デザイン第二部 家庭電器システム担当参事 山内敏行氏

さらに、コードレススティッククリーナーのもう1つの難点は、"運転時間の制約"だ。バッテリーで駆動するため、コードありの掃除機に比べて連続して運転できる長さにはどうしても限界がある。しかし、「ユーザーの満足度を上げるためには、長時間運転も必須の要素」と山内氏。

とはいえ、運転時間を長くするためにはそれだけ大容量バッテリーを搭載すれば克服できるが、そうすることで今度は手元が重くなり操作性を阻害してしまう。そこでこの問題をクリアするために、手元が重くならないキャニスター型のコードレスクリーナーとして、「ハイスピードDCモーターHD45」という新型モーターと大容量バッテリーが新たに開発されたのだという。

新開発の「ハイスピードDCモーターHD45」。マグネットの4極化で効率とトルクを高め、最大回転数12万rpmを実現し、高い吸引力を実現
従来のモーター「HD25」と新モーター「HD45」の構造の比較

一方、"ダブルフェイススタイル"と呼ばれる新製品の特徴的なフォルムはどういった経緯で生まれたのだろうか。

実を言うと、本体が転がるようなスタイルの製品は、60年前にすでに存在していたことが新製品発表会の席で明かされている。しかし、当然ながら当時はコード式の掃除機だ。今回そのスタイルが改良されて再びリバイバルされたとも言えるが、山内氏はその理由を次のように話してくれた。

「今回まず、キャニスタータイプとスティックタイプの両方の問題を解決しようと考えた時、両方の良さを持った形の商品として、本体がひっくり返っても使えるスタイルというのが浮かび上がりました。そして、ひっくり返るスタイル自体は、以前から技術部門のほうでも実現したいという声があったものでした。それが今回、コードレス化によってうまく実現できるよねということで話が進んでいきました」

ホース部分が移動し、本体の表裏がひっくり返る仕組みの"ダブルフェイススタイル"
"ダブルフェイススタイル"の原型となった60年前の製品(左)。新製品と形は似ているものの、コード式でかなりの重量がある

技術とデザイン部門の意見が一致したとはいえ、製品化に至るまでの開発プロセスが容易ではなかったことは想像に難くない。山内氏によると、掃除機の通常の開発期間に比べると長い期間を要したとのこと。

「通常、掃除機の開発期間というのはだいたい1年ほどですが、この製品は本当にゼロからすべてブランニューで作ったという商品で、2年ぐらい前から構想自体は練り始めました」と山内氏。具体的には、モーター、バッテリーの開発に始まり、本体の機構・設計、ブラシヘッドや延長管など付属品を含めてすべて新規に一から開発が進められたといい、開発プロセスについて次のように明かした。

「通常は本体と同時進行で各パーツの開発を行い、最終調整が図られるのですが、今回はそれをするのが難しかったのです。というのも、まずモーターが変わるだけでも吸引力の違いからブラシヘッドや延長管の操作性や強度などすべてに影響してきます。さらに今回は、本体がひっくり返る機構や、本体を手に持ったときホースの向きに追従する可動式ハンドルなど従来の掃除機にはなかった仕様が取り入れられ、強度の問題など新たに検討・検証すべき項目が多岐にわたりました。技術部門としては掃除機としての性能がしっかり出せなければなりませんし、中途半端な製品は作りたくないという思いがデザイン担当者にもありました。そこで、今回は毎回試作機を作ってはテストを繰り返すという工程を通常とは比べ物にならないくらいに重ねましたね」

VC-NXシリーズは丸みを帯びた外観上のデザインも特徴的だ。このフォルムは、モーターやバッテリーなど今回新たに開発された部品を本体内に収めるために必然的に導かれたものなのかと思いきや、実態はその逆なのだという。

「実はこの商品は形が先行です。デザイン部門のほうで、こうしたいというのを最初に絵で描いて、バッテリーはその形に合うように技術部門のほうで考えてもらいました。その結果が、モーターの周りを一周してバッテリーセルを並べるという独特な形状につながったんです」

NXシリーズに搭載されているバッテリーパック

山内氏によると、本製品はスケッチ段階ではさまざまな案が検討されたとのこと。そして初期の段階ではボールのような球体のイメージだったそうだ。

「コードレスということで、最初はどこにでも持っていける、球体のものをぼんやりとイメージしていました。ところが、例えば持った際の重心バランスだとか、それを掃除機として考えた場合にそのままでは使い勝手がよくありませんでした。デザインも大切ですが、生活家電というのは眺めるためのものではないので、使い勝手のよさも両立していなければそれはいいデザインとは言えません。デザインで使い勝手のよさも具現化する必要があります」

そこで最終的に採用されたのが、球体をUの字にカットしたような現在の形だ。さらに、"ダブルフェイススタイル"という特異な機構の操作性を向上させるために、可動式のハンドル部分やホースの位置が動く仕組みが採り入れられたのだという。

しかし、ここでも従来の掃除機にはない工夫が必要だったと話す。「本体がひっくり返る構造もあるので、従来よりも強度が必要です。そこで、傷が付きにくい性質の高硬度なUV塗装を本体の一部に施しています」と山内氏。

転倒しない動きをイメージさせる形状として球体案から始まり、重心バランスなどが検討された結果、現在の形状に落ち着いたが、途中の検討段階では写真のように最終形よりもより球体に近いものだったという

従来のスティッククリーナーの弱点や不満点を解消することを第一に、開発が始まった「VC-NXシリーズ」。前半は本体部分の開発プロセスや秘話を伺った。後編では一から作り上げた製品ゆえに生じた、本体以外の部分についてのこだわりや苦労話を語っていただく。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

関連記事
訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

関連記事