50年超えのロングセラーを支える「明快な」デザイン - ブラウン「マルチクイック 9 ハンドブレンダー」

モノのデザイン 第26回

50年超えのロングセラーを支える「明快な」デザイン - ブラウン「マルチクイック 9 ハンドブレンダー」

2017.10.23

ドイツの家電メーカー・ブラウンハウスホールド(以下、ブラウン)から10月1日に発売された「マルチクイック 9 ハンドブレンダー」(以下MQ9)。ブラウンのハンドブレンダーは、1966年に初代が発売され、以降50年以上にわたり世界的に販売されているロングセラー商品。これまでにも何度も改良が重ねられてきたが、新製品も高い機能性と操作性を追求し、同社の技術力を集結させたシリーズ最高峰のモデルと自信を見せる。

10月1日発売のブラウンハウスホールド「マルチクイック 9 ハンドブレンダー」(MQ9)。1966年に初代が発売され、以降50年以上にわたって世界的に販売されている

そんな渾身の製品であるMQ9の知られざるこだわりについて、ドイツ本社から来日した、ブラウンハウスホールド ヘッド・オブ・デザインを務めるデュイ・フォン・ヴー氏(以下フォン氏)に、プロダクトデザインを中心に話を伺った。

ブラウンハウスホールドでヘッド・オブ・デザインを務める、デュイ・フォン・ヴー氏。同社のプロダクトデザインの総責任者。日本での新製品の発表に合わせて、来日した

ブラウンのハンドブレンダー"マルチクイック"シリーズは、モーターの動力を伝える回転軸の部分が「ベル型シャフト」という特許を取得した独自の形状をしている。撹拌した食材の周囲への飛び散りを防止するために産み出された形状だが、新製品では"ベル"と呼ばれる食材を掴み込む先端の形状が微妙に変わっている。フォン氏はその理由を次のように説明した。

ブラウンのハンドブレンダーのパワーベル部分。食材を巻き込み、カッターで砕く部分は「ベル型シャフト」と呼ばれる独自の形状を採用している。食材が当たらない"デッドゾーン"を解消するため、MQ9ではカッターの一部に「ミルブレード」という突起を設けた

「新製品では実はカッター部分の形状も変わっています。刃の一部に『ミルブレード』という突起を設けたのですが、カッターが回転して食材を切る"ミルカッター式"のブレンダーの場合は、刃の中心部に食材が溜まりがちでどうしても切れない"デッドゾーン"が存在するんです。その問題を解決するためにこれを設けました。ところが、カッターの形状を変更したことで、パワーベルの開口部を高くする必要があります。このため、パワーベルのデザインも見直しました。その結果、食材の流動を促し、均一につぶし混ぜられるようにするためには、すき間の部分の形状まで変えることになりました」

カッターの性能がアップしたことにより、新製品はより固い素材を砕けるようにもなった。そのため、カッターの素材自体もより耐久性の高いものを選ぶ必要があったという。また、研磨性も重要なため、双方の要素をさまざまな食材を用いて評価試験が行われたそうだ。

撹拌効率を高めるため、新製品はカッターの回転軸部分が垂直方向にも上下できるようになった

MQ9のもう1つの大きな改良点としては、"アクティブブレードテクノロジー"と呼ばれる機能の追加も挙げられる。シャフト自体が上下に伸縮するというハンドブレンダーとしては世界で初めての機能で、これにより底に溜まりやすい食材をカッターの刃がしっかりと巻き込むことができ、撹拌範囲が2.5倍に拡大。「シャフトが垂直方向に動くことにより、効果的に材料を掴み取ることができるようになりました。撹拌範囲が広がったことにより、全体をより細かく滑らかに仕上げられるようになりました」とフォン氏。

また、以前から操作性に定評があるマルチクイックシリーズだが、楕円状のグリップの形状には大きな意味がある。フォン氏は次のように明かす。

「手の大きさの違いや利用シーンに応じて、いろんな持ち方があります。例えば、スティック状のものを握った時に、"げんこつ握り"という全体を掴むようにした持ち方もあれば、鉛筆のような握り方をしたりと、人によってそれぞれ自由です。そこでまずどんな持ち方でもできるように丸くするのですが、丸いだけだとどの方向に持つべきか指向性が定まりません。ところが、楕円形にすることにより、とりあえず前か後ろというのは直感的にわかりますよね」

特徴的なMQ9のグリップ部分。どんな手のサイズの人がどのような握り方をしても持ちやすい形状が検討された。楕円形の形状はどちらが前か後ろかの指向性を使う人が持っただけでわかるようにするためのソリューションでもあるとのこと
ハンドブレンダーのグリップ部分をデザインするにあたっては、さまざまな人の物の掴み方が研究された
MQ9のコンセプトデザイン画

MQ9は、手元の操作部に近いところにわずかな"くびれ"が設けられているのも特徴だ。フォン氏によると「本体を安定して操作できるよう、握る場所が上に行きすぎないように絞ってあるんです。この部分には後ろ側もゴム素材にして滑らないようにしてあります」とのこと。

フォン氏が明かすように、MQ9の形状は操作性と機能性が熟考された上に辿り着いたものと言えるが、一般の調理家電らしからぬクールな佇まいも目を惹く。フォン氏は外観のデザイン上の哲学について次のように語る。

「我々は技術チームのテクノロジーとデザイン性がワンセットになっているのが大切だと考えています。つまりブラウンの先進的な技術をデザインでも表現するということです」

製品発表会で、その場でデッサンしながら、グリップの形状や角度に込められた意図を示したフォン氏
MQ9では、上部を押さえることで安全ロックを解除した上で、ボタンを指で押さえて操作する。このため、片手で握った際に両方のボタンにリーチしやすい配置であることが大事だという
MQ9では回転数の調整は操作ボタンの握り方で行う。強く握るほどカッターが高速で回転する仕組みで、ボタンの握り方だけで直感的に操作できるのも特長だ
上に向かって設けられたなだらかな傾斜も操作性のためのもの。裏側は滑り止めのゴム素材が用いられている

フォン氏がその具体的な一例として挙げたのが、シャフト部分のデザインだ。よく見ると上側はマットだが、下のベルの部分は光沢がある。

ハンドブレンダーは360°全面がユーザーの目に触れる部分。ゆえに全体のバランスを考慮したデザインが必要であると同時に衛生面での配慮と両立させる必要があった
間近で見ると、途中から素材が変わっているのがわかる。洗いやすさと清潔性を優先しパワーベルの部分はツヤ加工だが、全体的なデザインバランスと指紋のつきにくさから、途中からはマットな素材が用いられている

「ハンドブレンダーは要素が前面に出るので、我々は目に触れる部分はすべて美しくなければならないと考えています。ただし、調理器具なのでそれと同時に衛生的でなければなりません。一方、全体のコントラストを考えた時にはシャフトの部分はマットな質感のほうが望ましいのですが、洗浄性や機能性を考えると、パワーベルの部分はブラッシングをしたほうがよいです。そこで見た目と指紋をつきにくくするという意味でも、シャフトの上方だけをマットに仕上げる選択をしました」とフォン氏。

上下する"アクティブブレード"は、つなぎ目の内側に水が溜まらないようにするなど衛生面が優先され、スプリング式になったそうだ

同様に上下にスライドする部分についてもさまざまなアイディアがあったという。フォン氏は「例えば中にスプリングするバージョンも考えたのですが、使用後に洗ったり、食洗機で洗っても水が外に排出されるよう、衛生的なソリューションとデザイン性を両立させるという命題で最終的にはこのかたちに設計されました」と語る。

ハンドブレンダーに限らず、ブラウンの製品は、どこかハードでクールな男性的なデザインという印象がある。最後にその理由とともに、意匠デザインとしてのブランドの哲学を訊ねると次のように語ってくれた。

「製品のベースとなるのはテクノロジーですが、そのイメージをデザインとしてどう伝えていくかというのが1つです。それに加えて、製品を誰が使うのか? どのように使われるのか? という消費者像をしっかりとイメージした使い勝手としてのデザインも同時に満たさなければなりません。つまりビジュアル的な効果を追求するのではなく、ユーザーが何を求めているか? というしっかりとした論拠に立ったデザインでなければならないということです。それを我々はひと言で"クリアさ"と呼んでいるのですが、本質の部分に集中し、デザインも含めてわかりやすくて使いやすいプロダクトを目指しています。無駄のない、そぎ落としの美学と言い換えることもできるもしれませんが、ブラウンが掲げる"Everyday Home Essentials"という企業精神を誠実に体現するデザインを常に考えているのです」

歴代のブラウン ハンドブレンダーシリーズ
初代のハンドブレンダー。見た目にも機能的にも大幅に変わっているが「ユーザーを意識したデザインであることは変わっていない」とフォン氏

ユーザーがデザイン的に「あ、いいな!」と直感的に感じるデザインには、単純な美的センスだけでなく、ユーザーの想像を超える、深い機能美が詰め込まれているものが多い。そして長く愛される製品というのは、優れたテクノロジーに加えて、操作性はもちろん、見た目や所有していることの心地よさといった要素が三位一体となっていると感じる。

今回のインタビューを通じて、ブラウンのハンドブレンダーが50年以上にわたって常に消費者を意識し進化を続けてきたがゆえに、人々に長く使用され続けてきたと理解できた。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○岡安学の「eスポーツ観戦記」
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu