流体力学から導き出された、ボールのような扇風機 - パナソニック「創風機 Q」

モノのデザイン 第23回

流体力学から導き出された、ボールのような扇風機 - パナソニック「創風機 Q」

2017.06.09

2015年にパナソニックから発売された「創風機 Q」。直径約25センチのボーリングの球のようなかたちをした、これまで見たことのない扇風機で消費者を驚かせた。

翌2016年には、首振り機能を追加するスタンドが発売。2017年4月には、LEDによるイルミネーション機能を追加した第3世代となる新製品「F-BP25T」が発売となった。

パナソニック エコシステムズ 技術部 除加湿・ファン開発課の田井泰氏

市場に登場して以来毎年進化を続ける同商品について、パナソニック エコシステムズ 技術部 除加湿・ファン開発課の田井泰氏に、開発の経緯から製品化に至るプロセスなど、プロダクトとしてのデザインを軸にお話を伺った。

球状の扇風機は何故生まれたか

最初に、6つの穴が開いた球体という、これまでなかった扇風機のデザインはどういった経緯で生まれたのかを単刀直入に訊ねたところ、「デザイン先行ではなく、いかにコンパクトで効率的に、脈動のない風を静かに遠くまで届けられるかを追求してきた結果、辿り着いた形状」と田井氏は語った。

同製品が風を発生させる仕組みは、内蔵のターボファンを回転させることで背面の吸気口から取り込まれた空気が高圧化されて、噴出気流として風を送り出している。しかし、ターボファンによる風は全周に均一に発生する性質があるため、一方向に風を直進させるためには、円筒型の外装が必須になるのだという。内部はファンに対して同心円状に風路をつくることにより、風がスムーズに流れて静音性を保つことができるとのことだ。ターボファンで発生された風は、さらに"誘引気流技術"を組み合わせることで増幅されている。

「ユーザー自身が自由な使い方ができるように」と、"送風機"ではなく「創風機Q」という名称が用いられたというとおり、これまでにない扇風機の使い方をしたという意味でも革新的なデザインだ

「噴出気流が噴き出し口周辺の空気を誘引することで、内側の空気も誘引されて負圧となります。この誘引効果により風量が約7倍にまで増幅され、少ないファンの風で多くの風を発生させることができます。この誘引吸気のために必要な吸気口が、6つの穴を持つ球というデザインにつながりました」(田井氏)

ちなみに本製品の開発は、2012年ごろに社内で開催された「ヤングワーキング」というプログラムで出された、若手の技術担当者からの発案が発端になっているという。田井氏は「最終的な製品と最初のスケッチの形状はほとんど変わっていません。そのことからも分かるように、球状のフォルムははじめから奇抜なデザインを狙ったものではなく、誘引気流の特性を最大限発揮する構成を考えた、流体力学から導き出されたものなんです」と語る。

製品の内部構造。ターボファンと誘引気流技術を掛け合わせた仕組みであることがよくわかる

パナソニックでは、1988年度モデルの扇風機から"1/fゆらぎ"と呼ばれる独自の機能を搭載している。「扇風機は100年もの歴史がある中で、台座・支柱・モーター・羽根・ガードという構成は、現在まで変わっていません。各社は性能面や使い勝手、品質、デザイン、コスト面などで、長年改良を重ねてきましたが、"ストレスのない風"ということが課題にありました」と田井氏。

一般的なプロペラファンの扇風機というのは、1枚1枚のブレードで空気を切って前に押し出せて風を発生させる仕組み。田井氏によると、人工的に作り出した、いわば自然界には存在しない速い脈動の風であるため、人が浴び続けるとだるく感じてしまう性質があるのだという。そこで、“ターボファン”と“誘引気流”の技術を利用して脈動のない風をつくるだけでなく、実際に蓼科高原の風を計測解析し、自然現象にある心地いいと感じる自然のリズムをDCモーターで制御することで再現したのが"1/fゆらぎ"という独自の機能だ。本製品はプロペラファン以外の扇風機でこの機能を初めて搭載した商品でもある。

量産化に立ちはだかった成形の壁

一方、研究部門から引き継ぎ、実際に製品化するにあたっては、やはり一筋縄ではいかなかったとのこと。田井氏は具体的なエピソードとして次のように明かした。

操作部。5段階の風量の他に、パナソニック独自の"1/fゆらぎ"モードを搭載。球体で自由な角度で設置ができるため、ボタンの位置をどこにするかも議論の1つだったという
6つの穴を持つ形状を実現するための金型作成は至難の業。成形の際には、接合部分から少しでも風が漏れてしまうのは製品上NGのため、調整には並ならぬ苦労が費やされたとのことだ

「成形金型は外側に6方向、内側に6方向にスライドを設けなければ形状を実現できないため、高度な金型設計技術が必要で、金型メーカーと何度も検討・打ち合わせを繰り返しましたが、製造現場では、金型はできても成形ができないといった問題なども多くありました。例えば、誘引された空気の吸い込み口になっている6つの穴どうしの内部空間はファンの吹き出し口へ導く風路にもなっているので、接合部分から少しでも風が漏れてしまうと風圧が変わってしまいます。穴の部分は、スタンドの上で吹出し方向を変えるときなど、触れる場所にもなっているので、触った時のひっかかり具合や痛くないかなども含めて、かなり細かな嵌合調整が必要で、大変苦労しました」

首振り機能を独立させた理由

空気の吸引口であると同時に、持ち手の役割も果たす穴の部分は、持った際の引っかかりや手なじみのよさなどさまざまな角度から調整が図られている

冒頭で述べた通り、同製品は第2世代のモデルから首振りの機能が追加された。専用のスタンドをドッキングすることで360°回転できるようになるというものだが、本体と連結しなかったのには、次のような理由があるのだという。

「通常であれば本体と台を一体にするのがセオリーですが、球状のユニークな形を活かして、ユーザーがそれぞれ自由な使い方ができるのが製品のコンセプトでもあるので、あえて分離する構造を採用しました。営業部門からも、既存ユーザーでも使えるように別売品にしたいという要望もありました」

首振りスタンドのコードは、本体が動作していることを電気的に感知するためのものとしてあえて追加されているパーツだ
Qを首振りスタンドに置いた状態

ところが、独立して動く首振りスタンドを採用すると、上に他の物が置かれて別の用途に使われてしまう可能性があり、それが課題として生じたとのこと。そこで取られた方策は、創風機が動作していることを電気的に監視する方法。これにより本体が動作していることを認識して、スタンド単体では動作しない仕様にしたそうだ。

"新たな風と生活スタイルを想像する"

第3世代の新モデルでは、吸い込み口と吹き出し口から、ブルーとオレンジの2色LEDライトを発光する機能が加わった。新機能の狙いと、この2色を採用した理由を訊ねてみた。

「創風機 Qの新たな使い方の提案として、"風+光"による空間演出という価値の創出というのが狙いです。LEDは照明器具ではなく、イルミネーションという位置付けなので、運転中のみ点灯する仕組みになっています。LEDのカラーについては、リビングや寝室など"癒し"を求める空間にマッチする色を目指して検討しました。緑や紫といった色も候補にはありましたが、夏は扇風機、冬はサーキュレーションとして使用できる機能とも併せて議論を重ねた結果、涼しい印象を与える寒色系のブルーと、温かみのある印象を与える暖色系のオレンジの2色を採用しました」

本体のカラー展開はクリスタルレッド、シャンパンゴールド、パールホワイトの3色。LEDイルミネーションの色はブルーとオレンジの2色に統一されているが、本体色が異なるだけで雰囲気も大きく変わる。どの本体にも適したLED色や明るさの選択も試行錯誤の上、社内アンケートにより決定したとのことだ

カラーバリエーションとしては、パールホワイト、クリスタルレッド、シャンパンゴールドの3色を展開する本製品。5月には、本体がシルバー、首振りスタンドがレッドという『宇宙戦艦ヤマト』を彷彿させるコラボレーションモデルも限定で発売されている。

田井氏は今後も「"創風機"の名に込めた"新たな風と生活スタイルを想像する"というコンセプトに沿ったバージョンアップや新製品の開発を考えていきたい」と語る。これまでになかった扇風機の登場で市場にインパクトを与えた同製品の次期製品も楽しみだ。

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

2019.03.20

モバイル業界を変える「携帯値下げ議論」が過熱

ファーウェイは日本を取り巻く環境を「歴史的チャンス」と発言

コスパ高いミッドレンジ端末でシェア拡大を目指す

20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
関連記事
Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

2019.03.20

Googleが新しいゲームプラットフォームを発表

配信方式でゲーム機不要、「ゲーム機」の時代の終焉?

2019年内にローンチ、性能はプレステやXbox以上か

3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

関連記事