時代のニーズを反映した、愛される「雑貨」的電子文具 - キングジム「“こはる”MP20」

モノのデザイン 第22回

時代のニーズを反映した、愛される「雑貨」的電子文具 - キングジム「“こはる”MP20」

2017.06.01

5月19日にキングジムから発売になった、テーププリンター“こはる”MP20。2010年に発売された、マスキングテープに印字ができるプリンター“こはる”MP10の後継機だが、デザインが大幅に変更され、ハンドメイド好きな女性を中心に注目を集めている。

5月19日発売のテーププリンター「“こはる”MP20」。雑貨としても飾っておくことができ、より愛着が持てるものとして"家"をモチーフにしたデザインが採用された

今回は、同製品の開発の中心人物であるキングジム 開発本部 商品開発部 開発1課リーダーの井上彩子氏に、新商品の開発経緯をはじめ、商品コンセプトやデザインプロセスなどを伺った。

森ガール的デザインから一新、その意図は?

キングジム 開発本部 商品開発部 開発1課リーダーの井上彩子氏

“こはる”MP20は、縦横9.7センチ×10.7センチの手のひらサイズのテーププリンター。サイズ感は旧機種とあまり変わっていないが、"家"を模した形状で、ハンドバッグのような以前のデザインから大幅に変わっている。本体だけでなく、用いられているフォントやカラーも、旧機種に比べてシンプルなテイストが選ばれている印象だ。このような大幅な路線変更について井上氏は次のように説明した。

旧製品(左)はバッグがモチーフ。選ばれているフォントやカラーなどもよりガーリッシュなデザインで、当時トレンドだった"森ガール"を彷彿させるイメージだ

「初代の“こはる”が発売されたのは今から7年前です。その当時と今では、この製品を愛好してくださるような人々の趣味嗜好もずいぶん変化しています。その当時は"森ガール"という言葉に代表されるように、ナチュラルでかわいらしいものを好む女性が多かったのですが、最近はもう少しシンプルでスッキリしたものが好まれる傾向に変わってきたと思います。シンプルでよいものを長く使いたいというニーズが高まり、そのモノが自分の暮らしをどれだけ豊かにし、いかに溶け込めるかを重視するように、マインドが変化してきていると感じています。」

新製品の開発にあたって、目指した方向性は"愛される存在"になることだったという。「機能性で売るような製品ではないですし、毎年新しいものを出すというような類の製品でもありません。消費者の方に長く使ってもらえる、愛される存在になることを目標に企画しました」と井上氏。

そうして辿り着いたのが、雑貨のように飾っておけるテーププリンターという形だ。電子文具でありながら、インテリアとして生活空間にもなじむことを重要視している。机の引き出しにしまっておくのではなく、日常的に視界に入るところにあって、いつでも手に取れる商品にするためのデザインが追求された。

SNSを手がかりに、飾ってかわいい形を追求

デザイン会社から提案された、初回のデザイン案。家のモチーフは変わらないが、最終形と比べると、より"女子"っぽいデザインだ

井上氏によると、開発チームが次に取り組んだのが、SNSなどで投稿される写真などのリサーチ。「雑貨として部屋に並べてあった時に、どんなものがかわいく見えるんだろう? インテリアの邪魔をしないものはどんなものがあるんだろう? というのをリサーチしました。その結果、何かをモチーフにしたミニチュアのようなものが雑貨らしさにつながるのかな、と感じました」。

こうしてたどり着いたコンセプトと設定したターゲットイメージをもとに、外部の会社にデザインを委託。デザイン案には他にもポット型の観葉植物やレターボックスなどがあったが、満場一致で現在の家のデザインが選ばれたのだという。

「デザインラフの段階で、ほぼ今の形をしていました。煙突の部分がテープカッターになっていたり、液晶画面が窓になっていたりというのも、すでにデザイン案の中に盛り込まれていました。おうち型のデザインは、北欧風の雑貨でよく見かけるモチーフで、まさに目指す世界観にぴったりでした。カラーに関しても、最初から今の配色でした。当初は草花の模様がポイントで入っていましたが、最終的に最もシンプルな今の案に決定しました。地味すぎないかという意見もありましたが、どんな部屋にもマッチし、使う人を選ばないということで採用されました」

ブラッシュアップ案。最終形と比べると、直線的なデザインで、少し尖がった印象だ

一方、製造のプロセスでは若干の試行錯誤もあったという。「モックアップを作った段階では、実はもう少し直線的なデザインだったんです。ところが実際に手に持ってみたところ、角の部分が当たって痛いと感じることがわかりました。そこで角の部分の"R"(アール)を再調整することにしたのですが、直線的ですっきりしたイメージは保たれるギリギリのところを追求しました」と井上氏。また、樹脂製ボディの表面にシボ加工を施してマットで落ち着いた質感に仕上げるなど、空間に違和感なくマッチするようこだわったとのことだ。

デザイン検討時に作成されたモックアップ
モックアップ段階では直線的なデザインが電子文具としてのユーザビリティーを損ねてしまうことがわかり、持ちやすく手になじみやすいように角の部分にわずかに丸みが付けられた
煙突部分がテープカッターになった新製品。前モデルにはない機能だ。マスキングテープの場合には手でも容易にカットできていたが、新たにフィルムテープを発売したこともあり、必要不可欠な機能だったそうだ
本体裏側には「窓」が。単なる装飾ではなく、テープ残量を確認する機能を担っている

テープ追加に合わせた絵文字の拡充

新製品は本体デザインの路線変更に合わせて、テーププリンターとしての機能もバージョンアップが試みられている。ひとつ目がフォントのデザインだ。従来モデルから"スリム"と"スイート"の2つのフォントが追加され、7種類になった。

新製品とともに発売されたフィルムテープ(手前)。テーププリンターと同じ世界観を持つ北欧テイストの絵柄が採用されている

また、新製品に合わせ、従来の専用マスキングテープに加えて「フィルムテープ」も発売になっている。光沢のあるフィルムテープは水はねにも強く、キッチン用品のラベリングなどにも適しているため、従来よりも利用範囲が広がった。井上氏によると、テープの追加に合わせて絵文字やフレームも一新されているそうだ。

「マスキングテープの場合はラッピング用途が中心でしたが、新たにフィルムテープを追加したことによってラベリングの利用用途が増えることを想定して、絵文字やフレームも暮らしにまつわるアイテムをモチーフにした、アイコン的なデザインを増やしました」

フィルムテープの発売により、生活シーンへの利用用途が増えることを想定し、絵文字やフレームもアイコン的なデザインが追加された

新ブランド立ち上げで「軸ができた」

今回の新製品の発売と同時に、キングジムでは"HITOTOKI(ヒトトキ)"という新ブランドの立ち上げも発表された。2代目“こはる”は、新ブランドの第1弾製品という位置付けだ。新ブランド立ち上げの経緯について、井上氏は次のように明かした。

新ブランド"HITOTOKI(ヒトトキ)"の公式ページ。画像が中心となっており、ブランドのコンセプトが直感的に伝わる。Webサイトに加え、Instagramでも展開している

「弊社は事務用品メーカーとしてのイメージが強いですが、2010年に初代“こはる”を発売して以降、ガーリー『テプラ』や“ひより“といった電子文具をはじめ、『暮らしのキロク』、『KITTA(キッタ)』といった、いわゆる"女子文具"と呼ばれる製品の開発に力を入れ、ラインナップを増やしてきました。そうした流れの中で、担当者間では単なるカテゴリーとしての“女子文具”ではなく、もっとしっかりとした世界観を伝えることができるブランドを立ち上げたいという思いがあり、昨年の夏頃から具体的に話が進んでいきました」

「HITOTOKI」のブランドコンセプトは、「ほんのひとてま加えることで、暮らしが少し豊かになる商品」だという。2代目“こはる”の開発はブランド化が進行する以前から行われていたため、新しいブランドの発表を、製品発表と同じタイミングで行えるように作業を進めていった。

「今後はブランドという1つの軸が出来たことで方向性も定まり、これまで以上にブランドイメージに合わせた製品を展開できると思います。ブランドがあることで、ユーザーの方々とよりコミュニケーションしやすくなるというのも大きなポイントですね」(井上氏)

機能性と同時に"所有欲"を満たしてくれることも重要な文具におけるプロダクトデザイン。そんな中、今回登場したこはるの新製品は、雑貨として飾っておける"インテリア性"を追求した、ひと味違ったユニークな電子文具として目を惹く存在だ。今後もブランドとして統一された世界を持つ"コレクター心"をくすぐる、どんな新たなラインナップが登場するのかに注目していきたい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu