欠かせない

モノのデザイン 第19回

欠かせない"インテリア"としての空気清浄機 - ブルーエア「Blueair Sense+」

2017.03.22

スウェーデンの空気清浄機専業メーカー・ブルーエア。"CADR"と呼ばれる世界標準の空気清浄機の性能評価指標でも高い数値を示すなど性能の高い製品でも知られるが、北欧メーカーならではのデザイン性の高い製品でも消費者から支持されている。

そこで今回は同社アジア統括ディレクターを務める、ヨナス・ホルスト氏に製品デザインにおける考え方やそれを実現している具体例について話を伺った。

ブルーエア アジア統括ディレクターを務める、ヨナス・ホルスト氏

欠かせない"インテリア"としての空清「Blueair Sense」シリーズ

同社では現在、大きく3つのシリーズを展開している。その中でも特にデザイン性を前面に打ち出した商品として2013年に発売されたのが「Blueair Sense」だ。インテリアに合わせて選べる6色のカラバリを用意した個室向けのラインナップで、強化ガラスを使用した天面にモーションセンサーを備え、その上に手のひらをかざすことで電源のオン/オフと風量の切り替えができるという新たな操作インターフェースを採用した。この操作方法により、本体には操作用のボタンを廃し、スッキリとしたデザインを実現した。

2015年12月に発売された「Blueair Sense+」。デザイン訴求を前面に打ち出し、2013年に初めて発売された「Blueair Sense」の後継機種として登場した

2015年にはさらに進化させた後継機「Blueair Sense+」を発売。基本構造やデザインは従来モデルを引き継いでいるが、ブルーエア製品として初めてWi-Fi機能を搭載した。

「Blueair Aware」と呼ばれる空気のセンシングとモニタリングのための別売のデバイスも合わせて発売。スマホアプリをハブとして連動させることで、空気の汚染度に応じた風量の自動制御やCO2濃度などの数値をアプリ上でリアルタイムで視覚化できるように拡張性を持たせられる空気清浄機として、業界にインパクトを与えた。

こうした空気清浄機そのものの"あり方"を新たにデザインすると言える同社の挑戦的な試みの意図をホルスト氏は次のように説明する。

「ブルーエアは、常にすばらしいデザインの製品を提供することに努めており、10年以上にわたり、スウェーデンの名誉あるデザイン賞であるExcellent Swedish Design賞を受賞しています。Senseの開発は、部屋の中に欠かせない"インテリア"としてのもう一歩進んだ空気清浄機を作りたいと考えていました。そこでスウェーデンのデザイン集団であるClaesson Koivisto Runeとともに開発を進めました。後継機として発売したSense+はSenseで採用したノンタッチセンサーによる操作インターフェースを引き継ぎつつも、Wi-Fi機能を搭載したことによりスマートフォンによるコントロールを実現しました。我々としては、今の時代を考えるとこれはとても自然な進化だと思っています」

Blueair Senseで初めて搭載された"ノンタッチセンサー"。本体に操作ボタンを排除し、手をかざすことで電源のオン/オフや風量の変更が行える仕組みの新たな操作インターフェースとして注目を集めた
「Blueair Aware」。高度な空気のセンシング機能を持ち、Wi-Fi経由で空気清浄機本体やスマートフォンと接続し、空気情報の表示や風量の自動制御を行う
"360°どこから見ても美しいデザイン"をテーマに掲げたBlueair Senseシリーズ。空気の吸引部や排出口も性能と見た目の美しさが両立するデザインが検討された

Blueair SenseからBlueair Sense+へと変わった際は、両者のカラーバリエーションの違いも消費者の目を惹きつけた。初代であるBlueair Senseはブラック、グレー、ホワイトの他に水色、ピンク、ブラウンの淡色系のカラーラインナップだったのに対して、後継機種となるBlueair Sense+は、ブラック、ホワイト、グレーの他は、レッド、グリーン、ブルーの"北欧カラー"とも呼ばれる彩度の低い原色系のカラーに一新された。

こうしたカラー展開の変更理由やカラバリの選定基準について、「Blueair Senseの発表から3年後に顧客調査を実施しました。すると、3年でインテリアデザインのトレンドが大きく変わっていることがわかりました。我々がカラーバリエーションを考える際には、消費者にとってより身近で、よりニーズを的確に捉えた色を反映させることを第一に考えています」とホルスト氏。

初代Blueair Senseのカラーラインナップ
後継機であるBlueair Sense+では、よりビビッドでインパクトの強いカラーが選択された

全製品に共通するデザインの理念は?

一方、ブルーエアが創業以来、同社の中核機種として位置付けているのが「Classic」と呼ばれるシリーズだ。コンシューマ向け商品の中ではフラッグシップとなる製品群でもあるが、こちらも2016年秋に6年ぶりに大幅なリニューアルが図られている。機能面での変更は、Blueair Senseに続いてWi-Fiを搭載。外観上は、操作パネルに目隠し用のカバーを設けるなどこれまで以上にスッキリとしたデザインに改良されている。

同シリーズのみならず、ブルーエアの製品は多機能化しながらも操作インタフェースや見た目のデザイン上はそれを感じさせない工夫がなされているようにも感じられるが、全製品に共通するデザインの理念としてはどういった要素が意識されているのだろうか。

6年ぶりに刷新されたClassicシリーズ3機種。ブルーエアのコンシューマ向け製品のフラッグシップで、Wi-Fiが搭載された他、より空間に溶け込みやすいデザインに若干改良が加えられた
デザイン面で最も大きく変更されたのが操作部。モノクロの液晶部から、LED表示のより直感的なボタンに。カバーがあり、未使用時には隠しておける
同社の業務用モデルの操作部の一例。機能が多くなると増えてしまいがちな操作インターフェースをいかにして簡潔で見映えよくするかがどのモデルにも常に考えられている

「ブルーエアは、20年前に創立されて以来、プロダクトデザインを大切に考えてきました。ブルーエアでは製品開発をする際、構想段階からデザインについても考慮しています。使用する素材や部品すべてがユーザー体験の一部となり、さらにその体験が世界中の人々にきれいな空気を提供するという目的達成につながると考えているからです。また、私たちの製品の共通したカギとなっているのは"品質"。スチール製の頑丈な筐体を使用しているのもそれを示すためのものです」

ホルスト氏が語るように、ブルーエアの製品は筺体にスチールが用いられている点も特長として挙げられる。それはインテリアとしての高級感にもつながっていると同時に、機能美でもあると次のように話す。

「筐体にスチールを使用することで、費用効率や耐久性、サステイナビリティなどのベネフィットも多くあります。その1つとしてまず、スチールは性能に影響を及ぼしません。硬いスチール製の筐体は、素材としても安定しており、ファンの振動を抑える効果もあるため運転音の低減にもつながります。半永久的にリサイクルも可能で、地球環境にも配慮した持続可能な素材とも言えます」

シンボル的素材を半分にしたカジュアルラインも追加

スチール製の筺体が同社製品の象徴でもあったブルーエアだが、2016年秋に発売された「Blue by Blueair」ではボディの上半分をプラスチック製とした。ブルーエアの製品はスチール素材を用いていることなどにより他社製品よりも高価であるために購入を躊躇う消費者に対して、手頃な価格で提供できるようにと新たに企画された製品だ。

価格や素材の違い以外にも、プロペラファンの採用や縦型の構造にするなど同社の他のシリーズとは一線を画したモデルだ。見た目の印象も他とは大きく異なるが、デザイン上はどのような点にこだわって開発されたのだろうか。

「デザイナーは、ユーザーにとって可能な限りシンプルで効率の高いデザインにしたいと考えていました。その特徴の1つと言えるのがユニークなモジュール化された構造です。主にファン、イオンチャンバー、フィルターのシンプルな3構造であるため、フィルターの交換やその他パーツを、まるでゴミ箱の中身を捨てる感覚で簡単に交換できます。段階の風量設定や電源のオン/オフを行う操作部も中央のボタン1つに集約し、ワンタッチで切り替えられるようにしました」

ブルーエアのカジュアルラインの新製品として、2016年秋に発売されたBlue by Blueair

前述のとおり、Blue by Blueairは本体下部から吸い込みフィルターでろ過した空気を内部のプロペラファンにより風を増幅し、天面から放出する仕組みを持つ、縦型の構造になっている。その際、空気が放出される穴の部分は幾何学模様のような配置で、デザイン上のアクセントのようにも感じられる。ホルスト氏によると、この配置はコンピューターによるシミュレーションの上に生み出されたものとのこと。「流体力学に基づき、最大限の気流を生み出しつつも運転音を最小限に抑えることができる形状として、このような双曲面の幾何学的な配置になりました」とホルスト氏。

Blue by Blueairの構造。吸引部とファンをそれぞれキューブ型に収めて積み重ねるというブルーエアの製品としてはこれまでにない構造が採用された
入れ子状に本体下部にセットする新しい仕組みのフィルターが導入された
Blue by Blueairのボタンも真ん中に1つあるのみ。表示もLEDで周辺が光るだけというブルーエアらしいシンプルな仕様だ
天面にある空気の排出口は、送風効率を考えコンピューターシミュレーションにより生み出されたものとのことだが、それ自体がデザイン的でもある

このように、空気清浄機の性能面と合わせてインテリアとしてのデザイン性にも早くから取り組みを続けてきた同社。しかし、空気清浄機そのものやデザインに対して、他国に比べて日本の消費が求めるニーズや傾向に違いはあるのだろうか。ホルスト氏は印象を次のように語ってくれた。

「日本のユーザーは、他国に比べると室内の空気を"管理したい"と考えている人が多くいると感じています。その志向に応えて、日本ではセンサーとダストフィルターが標準搭載されたモデルを販売しています。また、デザイン面については、質感やスマートかつコンパクトで、家の空間に馴染むデザインを好む傾向があると思います。北欧デザインに対する興味や関心もとても高いと感じていますね」

ここ数年、空気清浄機のデザイン訴求にも力を入れる日本のメーカーが増える中、外観だけでなく操作インタフェースとしてのデザイン性に至るまで、専業メーカーとして常にリードを続けるブルーエア。そんな中、2016年秋に発売されたBlue by Blueairはそれまで高級路線を歩んできた同社としては少し毛色の違うラインナップで、業界を驚かせた。

とはいえ、ホルスト氏のお話からは性能や機能美をデザイン性に反映させるという同社のポリシーはしっかりと守られているということが伝わってくる。今後もトレンドや消費者のニーズに合わせながらも、業界のリーダーとしてこれまでにない新しい製品を出し続けてくれることを期待してやまない。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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