LDKをひとつに重ねた未来のキッチン -クリナップ「DAIDOCORO 2016」

モノのデザイン 第18回

LDKをひとつに重ねた未来のキッチン -クリナップ「DAIDOCORO 2016」

2017.03.10

2016年4月、日本のシステムキッチンメーカーであるクリナップが、世界最大級の家電見本市「ミラノサローネ2016」と同時開催の「ミラノ・デザインウィーク」に、「DAIDOCORO 2016」という名のコンセプトモデルを出展した。

"日本の食文化を世界に発信する"という目的のもと、同社としては2014年に次ぐ2回目の出展となったが、キッチンとダイニング、リビングを融合させた従来にはない発想のプロダクトで注目を集めた。

今回はそのコンセプトモデルのプロジェクトの中心となった同社 開発本部開発1部デザイン課主任の間辺慎一郎氏に、開発に至った経緯をはじめ、コンセプトモデルに込められた思いや制作過程における秘話を伺った。

2016年3月の「ミラノ・デザインウィーク」に、クリナップが出展した「DAIDOCORO 2016」。”未来のキッチン”をテーマにしたコンセプトモデルとして発表された(c) Sohei Oya(Nacasa&Partners)

LDKをひとつに重ねた「DAIDOCORO 2016」

「DAIDOCORO 2016」と名付けられたコンセプトモデルは、ひと言で説明するとしたら、LDK(リビング・ダイニング・キッチン)という食にまつわる空間を、"キッチン"という形で1つに重ねたようなプロダクトだ。従来はそれぞれ個別に存在していたものを1つに融合させて、「リビングの真ん中に置いてもらうことをイメージした」と間辺氏。

「DAIDOCORO 2016」のプロジェクトの中心となった、クリナップ開発本部開発1部デザイン課主任の間辺慎一郎氏

クリナップでは2014年にも「FURUMAU」と「CONVINO」という2つのコンセプトキッチンを発表しているが、それぞれ"つくる""食べる"という発想から生み出されたものであるのに対して、今回は"くつろぐ"の要素を加えたという。

「前回の"DAIDOCORO"のコンセプトを引き継ぎ、未来のキッチンとしながらも、当社が培ってきた技術を生かすこと。そして日本の食・住文化を少しでも発信できるものをと考えた時、囲炉裏という日本伝統の台所文化に思い当たりました。家族が集まり、調理をしながら食事をし、くつろぐ空間は日本独自の食・住空間です。これを今、そして未来に受け継ぎ新しい型として発信するには?と突き詰めて考えていきました。」

そんな中、間辺氏が強く意識したのが"重なり"。「プロジェクトが始まった時、結婚したばかりだったのですが、リビングでくつろいでいる時にキッチンで料理をしている妻の顔が見えないなとふと思いました。妻のほうも、私の背中しか見えない。そこで、料理をする人と食事をする人、くつろぐ人全員の視線が合うようにしよう……ということでコンセプトが固まっていきました。そこで導き出されたのがLDK空間と視線を"LDK空間と視線を"重ねる""というテーマです」と出発点を明かす。

「重ねる」ことでコンセプトを実現

キッチン、ダイニング、リビングという、視線の高さが異なる3つの空間の高さを合わせるという課題を解決するために、最終的に辿り着いたのが“積層構造”。質感の異なる素材を組み合わせるという大胆なアイディアだ

次に検討された課題が、"重ねる"というテーマをどのように表現していくか。視線を重ねるために欠かせない要素は"高さ"だ。

「キッチンやダイニングテーブルの高さは、日本人の体型を基準にだいたい決まっています。調理作業をするキッチンは、椅子を使うダイニングテーブルより10~15センチほど高い。そうすると、どうしても視線が合わなくなってしまうので、高さをどう組み合わせるかというアイディア出しでかなり試行錯誤しました。この流れで座りながら調理をすることを新しく提案し、それに適した調理台と椅子の高さを検討しました。ただ、これをどのように一体感を持たせ、デザインするかが思案のしどころでした」と間辺氏。

視線を"重ねる"高さの課題を解決するために採用されたのは、複数の板を積み重ねていく"積層構造"だ。一枚のステンレス天板を用いる案もあったが、優れたステンレス加工技術を持つメーカーとしても知られる同社がこの手法を取らなかったのは、空間としての"くつろぎ"を意識したためだという。

「もちろんステンレス加工の技術力を見せたいという思いはありますが、まずそれぞれのシーンにあった素材を使うことが大切だと思いました。料理を楽しむためのステンレス。暖かみがあり会話の弾む天然木。高級感がありながらゆったりくつろげる人工大理石…。高さだけでは無く素材にもバリエーションを持たせ、一体化するためにも、この"重ねる"という構造が最適でした」

間辺氏が明かしたように「DAIDOCORO 2016」の積層構造では、ステンレスをはじめ、天然木の屋久杉、人工大理石、京友禅着物の柄付技法による塗り物など表面加工技術が施された複数の素材で構成されているのも特筆すべきポイント。それ自体がまさに日本の伝統文化の表現ともいうべき特徴で、ミラノにおける展示でも来場者の目を惹きつけていたとのことだ。

”座りながら調理をする”というスタイルを提案するために、キッチン側に設けられた椅子。元来はダイニングやリビングよりも目線が高いキッチンの問題を解消するために生まれた発想だそう

ミラノでの反応は?

「ミラノサローネの現場では、作業性やデザイン性を進化させたカッコいい、近未来的なキッチンは溢れているんです。同じようなジャンルにとらわれてしまっても、弊社が発信したいものとはつながらないのかな、と。なので、今回のコンセプトモデルではライフスタイルとしての台所の提案を第一としたのですが、とても好評でした。特にヨーロッパでは、囲炉裏や鍋を囲むというのは新鮮だったようです。『社会性をもたらすキッチンだ』との声をいただけたのがうれしかったです」

「また、日本のエッセンスとして伝統柄などを取り入れました。意外だったのは、テーブルカウンターに用いた"麻の葉"や京友禅、コンセプトでもある"囲炉裏"そのものを、会場を訪れた一般のイタリア人の方で知っている人が多かったことですね。"JAPAN"というブランドは思っている以上に浸透しているのだと感じました」と、展示当時の現地の反応を振り返った。

キッチンとリビングの間を取り持つのが真ん中に設けられた”ふるまいカウンター”。寿司屋のカウンターのようなイメージで、料理する人と食事をする人の間をつなぐ

囲炉裏の再現は「挑戦」だった

「DAIDOCORO 2016」では、日本の囲炉裏を再現したIHヒーターや下側のフードから蒸気を吸い込む換気扇、キッチンシンクの水道蛇口が外から見えないように中に内側に収めた水栓など、技術的にも新たな試みが盛り込まれている。

間辺氏によると、「せっかくなので、販売モデルの開発ではできないことにチャレンジしました。製品化となれば、工業規格や法律など多くの壁がありますから」としながらも、「まずはこういう提案をしなければ何事も進んでいきませんから」と、「DAIDOCORO 2016」のプロジェクトとミラノでの出展の意義を語る。

ダイニングスペースである”囲炉裏テーブル”。囲炉裏をイメージしたIHヒーターを取り囲むように屋久杉天然木のテーブルが配されている。IHヒーターは中央に向かって高火力となる仕様で、日本のガス・調理器具メーカーと共同で開発。換気フードもテーブル下に収納されている
水栓部分が外から見えないように内側に隠したキッチンシンク
キッチンシンクは使わない時にはプレートでカバーができる。プレートの表部分にも「たたき染め」と呼ばれる京友禅の柄付技法をモチーフにした重ね塗りが施されている

コンセプトモデルだからこその苦労も

「アイディアを出して、試作をして……という開発プロセスそのものは、通常の製品開発とほぼ同じ流れでした。しかし、通常は販売モデルという枠組みがあり、量産技術の下地の上にプラスしていく考え方で進めていくのですが、今回のコンセプトモデルの場合はチャレンジしたいアイデアに対して、追って作り方を考えていくという流れなので、コンセプトモデルならではの苦労もありました」

さらに、このモデルにはコンセプトモデルならではの挑戦もあった。たとえば、くつろぎながら食事ができる大理石のリビングテーブルには、繊細な麻の葉があしらわれている。「この模様は、プリント加工ではなく職人さんが1つ1つ削った異なる色のピースをはめ込んでいるんです。これを量産化するとなると、工程をどれだけ減らせるかなど、生産性のハードルがものすごく高くなります」(間辺氏)

また、このほかにも、シンク前の「ふるまいカウンター」にはエッチングを施したステンレスと、漆器をイメージした深い彩色で、麻の葉の柄が浮かび上がるようにデザインされている。これも現状では職人の腕に支えられている部分だ。

積層構造を活かし、重ねた板の間には調理器具を設置したり、小物を整理するためのトレーなどを設け、収納性も高められている

ミラノサローネの家具見本市という性質、そしてコンセプトモデルでありながら利用シーンが具体的に示されたDAIDOCOROには、買い付けのオファーが複数あったという。「だからこそ、今回実現できた製造技術を今後にどう生かしていくかが課題になる」と間辺氏は語る。

”和”をイメージさせるために、囲炉裏IHの他、ふるまいカウンターや人工大理石のテーブルトップには日本の伝統柄である「麻の葉」模様があしらわれている

最後に今回のプロジェクトを振り返り、「実使用を想定していますが、コンセプトモデルということでデザインを重視した点もありました。例えば、ルーバーの部分。ミラノでは好評でしたが、11月に日本でお披露目した際に日本の方からは"掃除がしにくそう"といった評価を多く受けました。想定はしていましたが」と間辺氏はほほえむ。「逆に言えば、日本の方のほうがコンセプトモデルとはいえ、より現実的に捉えてくださったのかなと思います。"未来のキッチン"として提案したものが、ここまで現実的にとらえていただけたのは自信にもなりますし、、今後さらに新しい発想へチャレンジする原動力にもなります次回以降の参考にしたいと思います」と評価を総括した。

日本の台所文化を"キッチン"というかたちで表現して世界に向けて発信を続けるクリナップ。「DAIDOCORO 2016」はもはやプロダクトデザインというよりも、建築デザインやライフスタイル、家族のあり方の再デザインと言ってもよいほどだと感じられる。同社の今後の展開に注目したい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu