モノのデザイン 第17回

"まだ買ったことがない人"に向けたデザインを追求 - ダイキン「ストリーマ空気清浄機 MCK70T / MCK55T」(後編)

2017.01.24

空調総合メーカーとして、エアコン、空気清浄機などをグローバルに展開しているダイキン工業。業務用の空調機器のシェアが高いこともあり、性能面においては業界内で高い信頼と実績を獲得してきたものの、家庭向けの商材においてはデザイン面で他社に少し引けを取る……という印象を持っていた人も多いのではないだろうか。

しかし、そんな同社が2015年に発売した当時の新商品「ストリーマ空気清浄機 MCK55S」(以下MCK55S)では、加湿空気清浄機としては目新しいスリムタワー型という機構を採用し、省スペース性やポップなカラー展開などで消費者の注目を集めた。そして、同社は今秋市場に新商品「ストリーマ空気清浄機 MCK70T」(以下MCK70T」)と、「ストリーマ空気清浄機 MCK55T」(以下MCK55T)の2製品を投入した。

ダイキン工業「ストリーマ空気清浄機 MCK55T」。個室向けの加湿空清として、同社が昨年初めて発売したスリムタワー型加湿空気清浄機の2016年モデル
「ストリーマ空気清浄機 MCK70T」(以下MCK70T」。デザインが刷新されたリビング向けの加湿空清の新モデルだ

前編では、空清としては目新しいカラーの選定理由などを伺った。後編では近年空気清浄機のデザイン性の向上に力を入れるダイキン工業の取り組み・こだわりについても、同社テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループの吉川千尋氏に話を聞いていく。

操作部インターフェースを整理した狙い

MCK70Tの操作部においては、新たな機能として"おまかせボタン"が追加されている。これは、ボタン1つで部屋の状況に応じて加湿機能も空清機能も自動で制御してくれるというモードだが、今回を機に操作パネル全体のインターフェースの見直しも図られている。

MCK70Tの操作部は、色と形の違いで差異を示していた従来のインターフェースを見直し、新搭載の"おまかせボタン"を中心に、優先度の高いボタンから中央部に配置する構成に変更されたという

具体的には、優先度の高さによって操作ボタンが大きく3つの構成に分けられており、中央部分に電源や自動設定機能などのよく使われるボタンを配備。その右側に加湿、風量設定といったマニュアルで操作するボタンを設け、タイマー設定や表示ランプの明度などオプション的な設定が行えるボタンが左端に整理された。その狙いを吉川氏は次のように説明する。

「空気清浄機が多機能になるにつれ、操作ボタンの数も増え、だんだんと煩雑になってしまっていました。今までのモデルを見直してみると、ボタンの優先順位を色と形の両方で説明しており、ユーザーが迷いやすいのではないかということに気付きました。そこでボタンのサイズ感と文字の大きさだけで説明するように変更しました。それにより過度な説明情報をそぎ落とすことができた上に、見た目的にもスッキリさせることに成功しました」

一方、スリムタワー型のMCK55Tに関しても、操作パネルや表示部のデザインが密かに変更されている。「例えば、操作ボタンの縁取りのシルバーの印刷を前のモデルよりも少し控えめにしてあります。表示ランプの窓の部分も各サイズを統一しました。全体的に機械的な印象を少し落ち着かせるようにデザインしているんです」と吉川氏。

操作パネルの新旧比較。上が旧製品。LEDの表示部分の窓のサイズが統一され、ボタン部分を縁取るシルバー色もトーンを落とし、メカメカしさがより薄くなり、女性的なデザインに

役割に応じたかたち・カラーを選定

確かによく見ると、非常に細かい部分でところどころ前年モデルとは異なることに気が付く。例えば、旧機種では本体上部の中央にあったロゴマークが新製品では右端に移動している。

MCK55Tの操作部と表示部。一見、旧製品と同じように見えるが、ロゴの位置なども微妙に変わっている

また、カラーに関しては、MCK55T同様にMCK70Tもホワイトとブラウンの2色を展開する。しかし、同色ではありながら、ニュアンスや質感は大きく異なる。吉川氏によると、その理由はそれぞれ設置される空間が異なるためだという。

「リビングは幅広い年代の家族が集まる場所なので、高級感のあるしっとりと落ち着いた色が望ましいということで、ダークトーンで細かいパール加工を施してあります。これに対して、小部屋の場合は空気清浄機の色自体が部屋のインテリアの一部として映えるようにトーンも明るめで、ツヤのある質感に仕上げました。リビング向けに比べると、小部屋空間の中でユーザーにフレンドリーな立ち位置で愛着を持ってもらえるようにという思いが込められています。しかし、色選びはどのような光源下に置かれるものか、量産する上での再現性なども考慮する必要があり、そのせめぎ合いの中で繰り返しサンプルをチェックして妥協できるギリギリのところまで追求しています」

MCK55Tの新色で使用されたカラーチャートやカラーサンプル。インクによる印刷である操作部分とプラスチック自体の色である本体部分との色差や質感の違いを近づけるために、デザイナー自身が製造の現場に何度も足を運んでチェックをしたそうだ

空気清浄機市場のトレンドを聞く

前述のとおり、「空気清浄機にデザインの追い風が吹いている」と語った吉川氏だが、昨今の空気清浄機市場全体におけるデザインのトレンドについてはどのように分析しているのだろうか。

テクノロジー・イノベーションセンター 先端デザイングループの吉川千尋氏

「空気清浄機に限らず、大型家電はこれまでは丸くすることによって小さく見せる傾向があったとように思います。ユーザーもコンパクトに見えるものを選びたい、という思いがあったと思うんです。ただ、最近は大きさだけでなく、置いた時に空間でどう見えるかということをユーザーも重視して選ぶようになってきていて、作る側としてもそういうニーズに応えるデザインを出していかなければいけないと思っています」

そうした思いの上で、同氏が担当する空気清浄機に関しては、「家庭内にあって当たり前の存在にまで普及してきたので、登場時の"目新しさ"はもうなくなり、製品の存在自体を主張する必要はなくなってきたのかもしれません」と、時代の変化についてコメントした。

ダイキン工業は、2015年11月に大阪府摂津市内に「テクノロジー・イノベーションセンター」という大規模な技術開発拠点を設置している。それまで国内3拠点に分かれていた研究・開発技術者約700人を集約し、日本発のイノベーションの創出に力を注ぐ。吉川氏が所属している部署もその中にあり、内部では"ダイキンらしさとは何か?"というテーマで議論されることも多いという。

「空気を扱う会社として、空気を"キレイ"と感じさせたり、いい空気を生み出す空調機器でることを感じさせるデザインというのはどうあるべか…といった議論をよくしています」と吉川氏。

そんな中、最近の同社におけるデザイン哲学を表わすキーワードとして掲げられているのは、"セクシー"だという。一般消費者からすると、長年業務用空調メーカーとして硬派で質実剛健なイメージのあった同社だが、その意外なキーワードの真意について吉川氏は次のように説明した。

「セクシーと言うと官能的な意味に捉えられてしまうかもしれませんが、そうではありません。外国のクルマに対して"セクシーだ"と形容することがあると思いますが、それに似たイメージです。決して華美でも派手なものでもないけれど、よく見ると細部にまで気配りやこだわりがあって、どことなく惹きつけられるような感じです。弊社が長年培ってきた信頼感や質実剛健なイメージは大事にしつつも、ユーザーに愛着を持ってもらえるもう一歩上の次元を目指していきたいと考えています」

空気清浄機のみならず、エアコンについても高いデザイン性の追求に力を入れ始めた同社。空調機器専業メーカーとして、機器のデザインも含めて空間を快適にするというさらなる高みを目指して舵を切り始めたことが伺える。今後の同社の新製品にも注目したい。

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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