小型冷蔵庫にも「家具」の質感を - シャープ 冷蔵庫「SJ-GD14C」

モノのデザイン 第15回

小型冷蔵庫にも「家具」の質感を - シャープ 冷蔵庫「SJ-GD14C」

2017.01.19

1月19日発売のシャープのプラズマクラスター冷蔵庫「SJ-GD14C」。"「家具」のような冷蔵庫"をデザインコンセプトに企画・開発された定格内容積137Lの小型冷凍冷蔵庫だ

日本の冷蔵庫市場ではここ数年、ドアパネルの素材の主流が鋼板からガラス素材へと移り、機能や性能面だけでなく、デザイン性を打ち出した製品が増えつつある。しかし、そのほとんどが定格内容積351L以上の大型クラスの製品で、それ以下の小型・中型クラスの商品はまだまだラインナップが乏しいのが現状だ。

そんな中、シャープは単身者や少人数家族世帯向けの小型・中型クラスで、デザイン性にも重きを置いた新たな冷蔵庫を1月19日より発売する。そこで今回は、同製品のデザイン担当者であるシャープ 健康・環境システム事業本部 デザインスタジオの一色純氏に、新製品における取り組みや狙いについて訊ねた。

多様化する社会と小型冷蔵庫のニーズ

製品のデザインを担当した、シャープ 健康・環境システム事業部 デザインスタジオの一色純氏

このほどシャープから発売されるのは、プラズマクラスター冷蔵庫「SJ-GD14C」(以下GD14C)と「SJ-GW35C」(以下GW35C)の2製品で、定格内容積はそれぞれ137L、350Lとなっている。

このうちGD14Cは、幅48センチ、奥行60センチ、高さ112.5センチの2ドアタイプの冷蔵庫で、1人暮らしのユーザーや、オフィスやカフェ等店頭での設置、2台目のサブ機としての需要を見込む。

シャープは11月に行った記者向け内覧会の席で、「小型・中型の冷蔵庫はこれまで他社も含めて選択肢が非常に限られてきた。しかし、多様化する昨今の社会において、インテリア志向の高い消費者が増えており、小型の冷蔵庫にもデザイン性が求められるようになってきた」と説明。こうした新たな消費者需要に応えるべく、今回の2つの新商品を企画した旨を明かしていた。

小型冷蔵庫のラインナップであるGD14Cにおいて掲げられたデザインコンセプトは"「家具」のような冷蔵庫"だったという。製品全体を通して直線的かつ平面的なデザインが貫かれ、まるでオーディオ製品のような見映えで、リビングに置かれていても違和感がない。

SJ-GD14Cのカラーは、クリアホワイト、メタリックベージュ、ピュアブラックの3色を展開。ナチュラル、モダンテイストをはじめ、昨今のトレンドである"塩系"インテリアにもマッチする色や質感が選ばれたという

一色氏によると、本製品をデザインする上で最も大切にしたのは、"周囲のインテリアに溶けこむような佇まい"とのこと。そして具体的に意識された要素としては次のように語った。

「水平、垂直のすっきりとした直線と、フラットな面で構成することを第一にしました。さらに、その上でハンドル部の見せ方や、ドアとドアとの隙間の見え方、ドアとトップテーブル(天板)の隙間の位置などにも細かく配慮して極力凹凸をなくし、隙間を見せないようにしました。要素を整理することで、すっきりとしたスクエアなデザインにすることを目指しました」

SJ-GD14Cの下段の引き出しはシルバーの板形状のデザインを採用。本体のデザイン上のアクセントにするとともに操作性を両立させたとのことだ
従来の小型冷蔵庫の引き出し部分。指の引っかかりを設けるために、上方向に凹を設けていた

また、デザインにおいて小型冷蔵庫ならではの課題もあったようだ。

「小型冷蔵庫は、ドア面積に対してハンドルの比率が大きくなります。しかし、ハンドル部分はサイズによって操作性が決まるので、大型でも小型でもほぼ同じサイズが必要なんです。ただ、小型冷蔵庫の場合はガラス面に対してハンドル部の比率が大きくなってしまうため、小型モデルの全体の大きさから見た比率で美しく見えるデザインを考えることが必要となってくるんです」(一色氏)

新製品の引き出し部は下方向に凹を設け、凸凹が視界から入らないように配慮されている

GD14Cのデザイン面で特に目を奪われるのは、薄い一枚板のハンドルだ。一色氏の説明のとおり、手前、上面、側面の外側から見える部分はほとんど凸凹がなくフラットで美しい。だが、開発現場ではこうした形状にすることには、反対意見も多かったのだという。

引き出した際にも凹凸がなく、フラットで美しいデザインが保たれている
引き出し部分のパネルは上からは見えないとはいえ、横から見た際にはでっぱりが目立つ部分でもある。複数の形状のサンプルが作成され、デザイン性を損ねない仕様が比較検討されたという

その他にも、トップテーブルとドアのすき間の段差をより目立たせないようにするために、トップテーブルが手前側に向かってなだらかな傾斜をつけるなどの、見えないところで細かな工夫が秘かに施されているのだと明かす。更に、GD14Cにはドアを開け閉めする際のハンドルの存在感を感じさせないデザインになっている。

引き出しドアのハンドルの裏側は、指を引っかかりやすくする操作性も確保しなければならないため、角の付け方や深さなどもさまざまなパターンが用意された
サイドから見た際もエッジが際立つデザインで、直線的かつ平面的にすることにより、周囲のインテリアとの調和が図られた

また、GD14Cにはドアを開け閉めする際のハンドルの存在感を感じさせないデザインになっている。

「強度の問題で、ドアフレームを薄くするというのは実はとても難しいことなんです。さらにこの製品では、ドアを左右どちら側からも開くことができる"つけかえどっちもドア"という構造を採用していて、この機構のために必要なヒンジ部分の強度を保ちながらも目立たなくして、デザイン性と両立させるのに大変苦労しました」と一色氏。

全体的に角の立ったシャープなフォルムのGD14Cだが、見た目に美しい反面、安全面との折り合いも工業デザインにおいては外せないポイントだ。

「全体的に小さなRサイズにすることでシャキッとした直線的な印象にしながら、安全面のポイントになる角にのみ必要なRを確保することでスクエアなデザインを実現しました。GD14Cのアクセントにもなっている引き出しドアハンドルの左右の角の部分は、ガラスドア面と飛び出し量のバランスと安全面の印象も配慮しながら最もなじみのいいRサイズにしました」と話す。

小型冷蔵庫のデザイン上で大型冷蔵庫とのもう1つ大きな違いは、「天面が見えていること」と一色氏。「トップテーブル(天板)とドアの上面、トップテーブルとドアの隙間というのは、大型モデルでは見えない部分であるのに対して、小型冷蔵庫では一番目につく箇所でもあるんです。それゆえ、正面、天面のつながりの見え方や構成もデザインする上での大きなポイントになるんです」

SJ-GD14Cの高さは112.5センチ。天面が人の目に触れる高さなので、「上から見た際の美しさには特にこだわる必要があった」と一色氏。ドア上部のフレームの薄さは上から見るとよくわかる
従来の小型モデルの冷蔵庫。機能性を重視したデザインとなっていた

GD14Cでは、外観だけでなく、庫内のデザインにもこだわりが取り入れられているのも従来の冷蔵庫にはなかったユニークなポイントだ。扉を開いた正面にはグレーの背面パネルを設けることで奥行感を演出し、シルバーをアクセントにしたガラス棚や透明の樹脂ケースを用いるなど、明るくて上質な印象の庫内は白い樹脂素材一色の無機質なこれまでの小型冷蔵庫とはひと味違う。一色氏によるとこれには次のような思いが込められているという。

外観だけでなく、庫内のデザインもこだわったというSJ-GD14C。大型モデル同様のガラス棚やクリアケースなどが採用されている。「扉を開けた際にも食材が美味しく見えるように」(一色氏)とのこと。ちょっとしたことだが、確かにちょっとテンションが上がる

「食材を取り出す時に食材が素敵にディスプレーされていることでおいしそうに見え、うれしくなり、幸せな気分を感じるような庫内にしたいと思い、デザインしました」

住まいにフィットする中型機「GW35C」

定格内容積350Lの中型サイズの冷凍冷蔵庫の新商品である「SJ-GW35C」。ガラスモデルにしたことでインテリア性も意識され、よりスッキリとしたデザインになっている

一方、中型モデルであるGW35Cでデザインコンセプトとして掲げられたのは、"住まいにフィットする"。同製品は、大容量の冷凍庫を備える「メガフリーザー」シリーズでもあり、既に展開している大型モデルからも次のようなデザイン上のポイントを継承しているという。

「正面をスッキリと見せるために、上下の樹脂パーツを見せないようにしたり、ガラスの端面を見せないようにするなど、ガラスと樹脂フレームの基本的な構成を継承しています。カラーバリエーションに関しても、大型モデルで展開しているホワイト、メタリックブラウンの2色を継承しました」

しかしこれに対し、既存のモデルやGD14CとGW35Cが異なる点は、ハンドル部分だ。空間に溶け込ませるデザインという意味では、同色にしてスッキリまとめるという選択肢も考えられるところだが、本体のメインカラーとは異なる配色をあえて採用した理由を次のように語った。

"どっちもドア"と呼ばれる左右両開きのドアが特徴の1つだが、従来製品(右)と比べると、ハンドル部分のエッジが際立ちよりフラットでスッキリとした印象になった

「単調にならないようにするためのデザインアクセントとしました。シンプルな中にも、全体を引き締めるポイントを作ることで、大きな冷蔵庫をインテリア空間に置いた際に、間延びしないようにしたデザインです。ガラスと金属感の質感、およびカラーの対比が美しく映える配色として各色を選びました」

カラー展開に関しては、両製品ともにホワイト系、ブラウン系を持ち、GD14Cのみブラック系を揃える。しかし、ブラウン系に関してはGW35Cがメタリックブラウン、GD14Cはメタリックベージュとトーンが違う2色となっている。ひとつに統一せずにサイズごとに微妙に色を変えた理由は「置かれる空間の質の違いや広さの違いから色を変えました」とのこと。

本体カラーは複数のサンプルを用いて色調や光沢、質感も比較検討されたとのこと。これはGD14開発で使われた物

「GW35Cは家のパブリックスペースであるダイニングキッチン、GD14CはプライベートスペースなどGW35Cよりも狭い空間への設置を想定し、圧迫感を感じないように明るめのカラーを採用しました」(一色氏)

SJ-GW35Cの内部。サイズがバラバラで整理しにくい調味料類を収納する、移動可能な"どこでもスパイスポケット"など、大型モデルで好評の機能を取り入れた

ライフスタイルの多様化により、近年、家庭内におけるパブリックスペース的存在となったキッチン。それに伴い、冷蔵庫も人の目に触れる表舞台へ置かれるようになってきた。しかし狭い場所や居住空間に置かれることを考えると、本来は小型・中型冷蔵庫こそよりデザイン性が重要視されるべきであったことを改めて実感する、今回のシャープの新製品の登場と開発秘話ではないだろうか。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。