「使い勝手」を実現するためのデザイン一新 - 日立「ビッグドラム」(後編)

モノのデザイン 第14回

「使い勝手」を実現するためのデザイン一新 - 日立「ビッグドラム」(後編)

2016.12.06

日立アプライアンスが11月19日に発売した、ドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-NX120A」。大容量のドラム槽を装備した洗濯乾燥機として同社が2006年に発売して以来、10年ぶりの大リニューアルが図られた新製品だ。

製品の機構・設計も含めて一から見直しが行われた結果、デザインも大幅に一新された。前編では実物大のペーパー模型による試作のプロセスなどが語られたが、引き続き本製品のデザイン担当の責任者である、日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 製品デザイン部CDP3ユニット 主任デザイナーの大木雅之氏にデザイン面を中心に話を伺っていく。

ユニバーサルデザインを追求

2015年6月頃から開発が始まったこのプロジェクトは、同年秋口にはプロトタイプが完成。年末にはユーザビリティーテストへと移ったとのこと。そして、大容量化を実現した次にこだわられたのは"使い勝手"だ。これを実現するため、デザインは"ユニバーサルデザイン"が追求されていく。

ユーザビリティーといって中でも特に重要なのは"操作部"である。本製品に限らず、最近の洗濯乾燥機は多機能な反面、「機能が多すぎて使いこなせない」「操作方法がわからない」といった声も多く聞かれる。 そこで新製品では、操作ボタンが階層的に配列されている。最も右側に「スタート/一時停止」ボタンがあり、その隣にコースを選択するボタン、左側に詳細設定を行うためのボタン類というように3段階に分けることで操作をわかりやすくしたという。

右から左へ行くにつれてより詳細な設定が可能になるようボタンが整理された操作パネル。「色分けして基本設定は目立たせるなど階層がわかるように整理して配置し、使いこなさなくても右側ボタンだけでも運転できるというふうに、多機能さと、手軽に使いたい人のニーズを両立させるように努めました」(大木氏)

大木氏は「操作ボタンの詳細設定は、不要な人にとってはそれがかえってノイズになってしまう場合もあります。そのため当初は詳細設定をあえて表示させないことも検討していましたが、ユーザー調査を行ってみたところ、何ができるかわからないので、書いてあったほうがわかりやすいという意見も多くありました。そこでマインドを変えて、詳細設定まで全部表示しながらも、基本設定とはわかりやすく区別する工夫をしました」と話す。

操作パネルの仕様も実際に模型にパターンを貼り付けて検討された。その数は数百にも及んだとのことだ

視認性を高めるため、操作パネルの向きや角度にも検討が重ねられた。実は最初の段階のデザインでは、操作パネルは真上の位置にあったという。しかし、模型で検証を続けていく中で「見づらい」、「使いにくい」という意見が大半を占めたことから、最終的には前方にやや裁ち落としをつけた上に操作パネルが配備されたとのことだ。

操作パネルの取り付け角度や高さなどを比較検討するために作成されたサンプルの一例
プロトタイプのモックアップ。最終形に比べると、操作パネルが真上に取り付けられており、それだけでも見た目の印象はかなり異なる

ボディはとことんシンプルに

一方、ボディについてはできるだけフラットでシンプルなデザインであることが追求されたという。「大きなドラム槽を包み込んでいるドラム式洗濯機は、ある程度ボリューム感があるもの。形が複雑だと、サニタリースペースに置かれた際にも圧迫感が出てしまいます。そこでまずは形をシンプルにすることを考えました」と大木氏。さらに角をなくして丸みを持たせた理由は大きく分けて2つある。

「開発途中で模型をいくつか作ってみましたが、幅と奥行きが一緒で丸みが違うものを比較すると、角が小さいほうが大きく見えるんです。角に丸みを持たせることで、よりコンパクトに見せることを検証しながら最大限丸みを付けていきました。置かれた時に角がないというのは、当たってもするっと抜けることができ、動線の妨げにならず、空間にもよりなじませることができるんです」

素材によって光の反射や吸収するレンジが異なるため、色味を合わせるのが特に難しかったという天面部分と前方左右パネルの違い。天面部分のみ樹脂素材が用いられている

また、新製品では高級感を出すため、前面と両サイドの素材に鋼板が用いられている。上に物が置かれる場合などもあるため、天面部分はあえて鋼板にせず、樹脂が採用されているが、特に苦労したのはこの部分の色合わせだという。というのも、鋼板と樹脂のパネルでは光の反射特性が大きく異なるからだ。

「メタリック粉が入っているカラー鋼板は光を吸収・反射するレンジの幅がプラスチックよりも広く、照明や見る角度によってもそれぞれの色味が全然違って見えてしまいます。そこで、異なる照明環境や置き方を何パターンもテストして、それぞれが最適な色や明るさになるように色合わせするのに苦労しました」

使い勝手のために「裏側」も再設計

その他にもメンテナンス性を向上するためのデザイン・設計変更も行われている。その1つが洗剤投入口だ。

使いやすさや清掃性を高めるために、角の丸みを大きく取るなど改良された洗剤投入口

「洗剤投入口は従来は縦長でしたが、横長になりました。これは2011年に発売した『ビッグドラム スリム』シリーズで既に採用されて好評だったタイプを継承しました。今回変更したのは投入口の1つ1つの角を少し大きめにして、洗剤をこぼしても簡単に拭き取りやすくするなど清掃性も向上させるデザインを採用した点です」と大木氏。

「新しいビッグドラムの造形は、四角いボディに丸いドアというドラム式洗濯機の象徴的なかたちをベースにシンプルにして、角に丸みを持たせて仕上げた。ボリューム感がある程度出るからこそ、シンプルにして空間になじませることが大事」と、新製品のデザインコンセプトを語る大木氏

また、従来の製品ではドラム槽の下に配備されていたメインの電気基板のユニットが上に移動している。防水パンの排水溝の位置によっては洗濯機の設置の際や修理・補修時にこのユニットが邪魔になることがあったのを改善するというのが変更の理由だが、「使い勝手を向上させるため、またデザイン的にドラム槽はなるべく高い位置にしておきたいんです。しかし、ユニットを上に持ってくることでドラム槽の高さに制約が生じてしまうため、少しでも高くできるよう設計者と一緒にギリギリのところまで調整しました」と、デザインと機能性の両立で最も苦労したエピソードとして挙げた。

「使いやすさ」と「わかりやすさ」

このように昨今のデザイントレンドから見ると、一見すると少々突飛なデザインにも感じられた日立のビッグドラムの新製品だが、デザインの神髄として貫かれているのは"使いやすさ"と"わかりやすさ"だ。「それらを第一に考え、デザインをアジャストさせていったのがこのかたち。それと同時に、シンプルさや、やさしさといった昨今のデザイントレンドも取り入れており、決して潮流から離れてはいないと考えている」と、今回10年ぶりにリニューアルされた新製品のデザインを評した。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。