歯磨きを「やりたい」コトに変換するガジェット - サンスター「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」(後編)

モノのデザイン 第12回

歯磨きを「やりたい」コトに変換するガジェット - サンスター「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」(後編)

2016.11.22

サンスターが今年4月に発売した「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」。歯ブラシにBluetoothと加速度センサーを内蔵したシリコン製のアタッチメントを取り付けることでスマホと接続し、検知したデータをもとにアプリ上でブラッシングの採点やゲームなどが楽しめるというガジェットだ。

サンスター「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」。アタッチメントを装着することでマニュアルの歯ブラシに通信機能と位置情報を検知する機能をアドオンすることを可能にした

古くから存在している身近でアナログな製品をIoT(モノのインターネット)化することにより新たな価値を付与した代表的な例として、「2016年度グッドデザイン賞」をはじめ、「コードアワード2016」のベスト・イノベーション賞などに選出されている。

前回は同製品のプロダクト的な側面についてのエピソードが明かされたが、今回はゲームなどソフト面を中心に、経緯や狙いについて、商品開発担当者であるサンスターグループ オーラルケアカンパニー 日本ブロックマーケティング部の松富信治氏に話を訊いた。

歯磨きを"やらなくちゃ"から"やりたい"へ

そしてG・U・M PLAYのコンセプトとして掲げられたのが「"やらなくちゃ"から"やりたい"へ」。歯磨きというのは、虫歯や歯周病などの病気の予防を目的に"義務感"で行わなければならない生活習慣として認識されているが、それを"楽しい""進んでやりたくなる"ものへと価値観を変えるために、エンターテイメントの要素が取り入れられた。

そしてそのための手段として、Bluetoothで歯ブラシがスマートフォンと接続し、アプリと連動して楽しみながら歯磨きができるという方式が採り入れられた。

歯ブラシを押し込むとLEDが点灯。スマートフォンとの接続はその間にアプリを操作して行うというシンプルな方法が採用されている

「電動歯ブラシの場合、うまく使いこなせれば非常に有効なのですが、適切な使いこなしをしなければどうしても磨き残しができてしまうんです。それに、G・U・M PLAYは歯ブラシがゲームのコントローラーのようになるツールですが、電動歯ブラシだと使う側の動きはあまりありません。あくまで体験ベースとしての新しい形の歯磨きを提案したいということもあったので、"マニュアル"の歯ブラシを採用したという理由もあるんですよ」と松富氏。

「MOUTH NEWS」。下側のタイマーとガイドを参照しながら歯磨きを行う。歯磨き中はニュースや天気予報、占いなどが表示される

そこで用意されたのがアプリだが、歯ブラシの動きでモンスターを退治する子ども向けの「MOUTH MONSTER(マウスモンスター)」、ブラッシングに合わせて楽器を演奏することができる「MOUTH BAND(マウスバンド)」、ブラッシング中にニュースや天気予報、占いなどを表示し音声で読み上げてくれる「MOUTH NEWS(マウスニュース)」の3種類がある。

「MOUTH MONSTER」。歯ブラシの動きや位置を検知し、画面に表示される"モンスター"をやっつけながら歯磨きが行える子ども向けのアプリだ

松富氏によると、他にもさまざまなコンテンツが検討されたが、「あくまでもオーラルケアメーカーとして提供するもの。楽しいだけではなく、入り口はゲームでもちゃんと磨けるもの、幅広い層が楽しめるように」ということで、まずはこの3つに絞り込まれたという。また、「開発中はコンテンツについて、様々な議論があったが、真面目過ぎてもおもしろさが失われてしまうのでバランスを取るのが非常に難しかったです」と明かす。

「MOUTH BAND」。歯ブラシの動きで楽器を演奏するアプリ。曲に合わせながら歯磨きにより演奏し、高スコアを目指すモードもある

「正しい歯磨き」のデータ化に四苦八苦

その他、各アプリには共通の基本機能として、歯科衛生士が推奨するブラッシング方法に近いほど高得点が得られる「MOUTH CHECK(マウスチェック)」と、ブラッシングデータの記録と分析を行う「MOUTH LOG(マウスログ)」の2つも用意されている。松富氏によると、ソフト面で特に難しかったのがこれを実現するための基準となる正しい磨き方の実装だ。

歯科衛生士が推奨する適切なブラッシングの速さを習得するための「マウスチェック」機能

というのも、これまで正しい歯磨き方法というのは感覚値としてはあったが、データとしての基準が存在していなかったからだ。そのため、開発にあたっては社内の複数の歯科衛生士に体験をしてもらってログを取ることから始め、そのデータを平均化していくという作業が何度も繰り返されたという。しかし、実際行ってみると歯科衛生士によってもバラつきがあり、年代によっても傾向が異なるなど一筋縄ではいかなかったそうだ。

また、G・U・M PLAYの歯磨きの位置情報の検知には加速度センサーが利用されている。「もともとはジャイロセンサーと3軸センサーを組み合わせでやろうとしていましたが、コストが高くなってしまうために実現できませんでした。そこで加速度センサーだけでどうやって動きを検知するかが課題で、独自のアルゴリズムをもとに再現できるようにしました」と松富氏。

ハード側がBluetoothの電波を出していてもソフト側が上手く受信できないといったトラブルや、3軸の向きや動きを解析したものをログとして表示する際、どのように標準化して表示するかなど、ハードウェアとソフトウェアの連携が思った以上のハードルだったと明かす。

「マウスログ」機能では、過去の歯磨きの記録を参照できる。毎回のブラッシングピッチやブラッシングエリアといった情報も参照できる

このように、歯磨きの新しいユーザーインターフェースデザインと言えるかたちで製品化されたG・U・M PLAYだが、歯磨きのデータを活用した行動変容に向けたインフラツールとして、歯科業界はじめ様々な業界から期待が寄せられているという。医療費の削減という社会的課題を解決する仕組みづくりとして、健康保険組合からも大いに注目されているとのことだ。

今後はその他のヘルスケアアプリとの連携など、新しいサービスの仕組みなども検討中。まずは、マウスバンドとマウスモンスターの英語と中国語版をリリース予定。新しいアプリも構想中で「早い段階で届けられるようにしたい」と展望も明らかにされた。

新しいかたちの歯磨きのユーザーインターフェースによって、人々の意識と常識を大きく変えたG・U・M PLAY。次期バージョンではどのような仕掛けが用意されているのか楽しみに待ちたい。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。