パナソニックのミャンマー事業展開、地道な活動がいよいよ結実か

パナソニックのミャンマー事業展開、地道な活動がいよいよ結実か

2018.08.24

一度は撤退したミャンマー市場でパナソニックが反転攻勢

過去の実績が功を奏しミャンマーでのパナの知名度は高い

将来、ベトナムと同等規模の売上になると強い期待を抱く

パナソニックが、ミャンマーでの事業拡大に力を注いでいる。2015年3月に、ヤンゴン市内にショールームをオープン。さらに、ミャンマー最大の量販店であるWai Yanや、ミャンマー第2の都市であるマンダレーを中心に積極的な販売活動をするMYO THEIN Electronics、スーパーマーケットのOceanを展開するシティマートといった販売店との連携を強化している。

パナソニックがヤンゴンに開設しているショールーム兼サービスセンター
ヤンゴンにあるパナソニックのショールームの様子

ヤンゴンのショールームは、2フロア構成となっており、1階にはテレビや冷蔵庫、洗濯機、調理家電などのBtoC商品を展示。修理を行うサービスセンターも設置している。また、2階には太陽光パネルや蓄電池、セキュリティソリューションなどのBtoB商品を展示。小売やホテル、オフィスなどのシーン展示を行っているのが特徴だ。そして、ショールームには、ミャンマー支店も併設している。

一方で、BtoBに関しても、ODAを活用した大型プロジェクトに連動した提案活動を加速させるという。パナソニック アジアパシフィック ミャンマー支店の前田恒和支店長は、「2035年には、ベトナムと同等規模となる売上高5億米ドル(約560億円)を目指す。それに向けて、いまはブランディングを強化していくフェーズにある」と話す。

2階にはミャンマー支店が入っている
セキュリティソリューションの展示コーナー
エアコンの修理などに出向く専用車
壊れた電子レンジを修理に持ち込む女性
パナソニック アジアパシフィック ミャンマー支店の前田恒和支店長

前田支店長は、「(ヤンゴンのショールームは)BtoCおよびBtoBの双方を展示するとともに、サービスセンターの役割を持ち、さらに支店機能も同じ場所にあるのが特徴。パナソニックのミャンマーにおけるビジネス拡大の重要な拠点になる」と語る。

パナソニックは2013年、ミャンマー市場に再参入し、今年で5年目の節目を迎える。前田支店長は、再参入時から参画していたメンバーだ。

「この5年でミャンマーの経済や生活は大きく変化した。5年前を知っていても役には立たないほど変化したが、5年間の変化を知っていることが、私自身の強みになる」と前田支店長は語る。市場変化が速いミャンマーにおいて、変化にあわせた手を打ち続けてきた。

「ミャンマー流のビジネスを徹底的に学び、パートナーとも緊密な関係を築いた結果、現在では、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジといった商品で、ナンバーワンの市場シェアを獲得している。また、直営のサービスセンターでは、48時間以内での修理比率が70%を超えている。代理店に運営委託しているサービスセンターでも、一定数量の修理用パーツを確保することを義務づけており、今後、48時間以内での対応率を高めていきたい」と話す。

ミャンマーでの売上高は非公表だが、セキュリティカメラやPBX、デジタルサイネージなどを中心としたBtoB事業の構成比は約2割。残りの8割が、エアコン、冷蔵庫、炊飯器、テレビといった家電を中心としたBtoC事業で占める。

パナソニックが高いシェアを持つエアコン
BtoBの展示コーナーでは小売りやホテルなどのシーン別展示を行っている 
洗濯機の需要も上向いているという
調理家電は必需品になってきている

なぜミャンマーでのパナの認知度は高いのか

ミャンマーにおけるパナソニックの認知度は、意外にも高い。

それは、パナソニックが過去に、いくつもの工場をミャンマー国内で稼働させていた経緯があるからだ。

「パナソニックは、1964年に、ラングーン(現在のヤンゴン)に、ラジオ工場を建設。その後、配線器具や照明、冷蔵庫、炊飯器などを国内で生産。最大時には5つの工場を稼働させていた。2007年に、旧松下電工の配線器具工場を閉鎖してから、ミャンマー国内にパナソニックの工場はなくなったが、長年にわたる工場の稼働によって、パナソニックのブランドは広く浸透している」(前田氏)

今回のミャンマー取材では、ヤンゴン市から、クルマと船を乗り継いで片道5時間の無電化村を訪れる機会を得たが、その村で暮らす16歳の男の子も、「電気が届いていない自分の家ではパナソニックの製品を使う機会はない。だが、日本のメーカーであり、品質がいいことは知っている」と語ったのには驚いた。

この村には、このほど、パナソニックが、同社の創業100周年記念事業のひとつとして、HIT太陽光電池パネルと蓄電システムを組み合わせた「パワーサプライステーション」1基と、太陽電池パネルとニッケル水素電池、直管形および電球形LEDランプで構成する「エネループソーラーストレージ」を100台寄贈。男の子は、「パナソニックが電気を持ってきてくれたことはうれしい。夜遅くまで集中して勉強ができる」と喜んでいた。

パナソニックが無電化村に寄贈した「パワーサプライステーション」
明かりの下で、勉強する無電化村の子供たち。パナソニックの名前は知っていた

すでに、1万5000台以上のソーラーランタンをミャンマー国内の無電化地域に寄付したり、タイ王国のMFL財団や三井物産のプロジェクトでも、無電化村にパワーサプライステーションを提供したりといったような動きがある。

こうした活動も、パナソニックのブランド認知が高い理由のひとつになっている。

エアコンシェアトップの中国企業に対し巻き返せるか

市場シェアという観点でみれば、普及に加速がつき始めたエアコンでは、中国のチゴが4割強のシェアを獲得しており、パナソニックと三菱電機が、15%以下のシェアで2位と3位を争っている。また、普及率が15%程度まで高まってきた冷蔵庫では、主力となる1ドア冷蔵庫でパナソニックが7割以上という圧倒的シェアを獲得し、冷蔵庫市場全体でも約25%のシェアを獲得しているという。また、電子レンジや洗濯機でもトップシェアを獲得。乾電池市場においても圧倒的シェアを獲得している状況にある。

「エアコンは生活必需品になりつつあるが、国内の普及率はまだ20%程度。巻き返せる余地はある。また、電子レンジではトップシェアを獲得しているが普及率はまだ低い。電子レンジをどうやって活用するのか、これによってどんな調理ができるのかといった啓蒙活動から始めていく必要がある」とする。

マンダレーに本拠を持ち、マンダレーおよびヤンゴンにそれぞれ2店舗ずつを展開する家電量販店のMYO THEIN Electronicsでも、啓蒙活動の必要性を訴える。

MYOは、マンダレーの電気街にある主力店舗の近くに、8階建てのビルを建設。1階~5階までを売り場として、2019年初めには、グランドオープンする予定だ。 

新店舗では、高価格帯の家電製品の展示を行う一方で、売り場を利用して、週に1回のペースで家電の使い方を教える場を用意。さらに、6~8階フロアには、事務所エリアのほか、社員向け研修センターを設置。来店客に対して、家電の使い方やメリットを説明できる店員を増やし、市場に向けた啓蒙活動を行う体制を作ることになる。

「新店舗は、プレミアム家電を中心にした展示を行う。販売の対象になるのは富裕層だが、まだ家電を買うことができない人にも数多く来店してもらい、家電とはどういうものかを知ってもらいたい。その点では、販売店というだけでなく、博物館といえるような役割があるともいえる。それによって家電による憧れの生活を想起してもらうことも大切な要素だと考えている」と、MYO THEIN Electronicsのミョウ・ティンCEOは語る。

MYO THEIN Electronicsのミョウ・ティン(MYO THEIN)氏
MYO THEIN Electronicsが来年初めにオープンする予定の新店舗。高級家電を販売するという

パナソニックの前田支店長も、「ミャンマーでは多くの店舗がダンボールの箱に入ったままで家電を販売しているが、見えたり、触ったりできる商品を買いたいという消費者が増えている。しっかりと説明できるスタッフを育成し、商品を見てもらいながら、機能や使い方を説明できる環境を増やすことで、家電の販売に弾みをつけることができるだろう」とする。

家電の普及に向けた啓蒙活動は、これからますます重視されそうだ。

パナソニックにとっては、VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)+タイが、ASEANおよびアジア、オセアニアにおける重点市場になっており、ここにミャンマーは含まれていない。

だが、前田支店長は「将来の成長性を捉えると、ミャンマーは、次代の重点市場になることは明らかで、パナソニックにとって、いまから力を入れるべき市場のひとつに位置づけられている」とする。

電化地域が遅れているのがどう影響するか

現在、ミャンマーにおける1人あたりのGDPは約1300米ドルであり、経済の中心であるヤンゴンだけでみても2000~2500米ドルという水準だ。だが、2023年~2024年にかけて、1人あたりのGDPは3000米ドルに到達するといわれており、これをきっかけに家電の普及率が高まるとみられる。

前田支店長は「ベトナムでは、1人あたりのGDPが3000米ドルに達した時点で、自動車が一気に普及し、家電ブームが訪れた。それと同じことが起こる可能性がある」と予測する。

だが、ベトナムとミャンマーとの違いは、電化地域の比率だ。

ミャンマーは最も電化が遅れている国で、ヤンゴン管区でも、電気が通っているエリアは75%以下。ミャンマー全土ではわずか35%に留まる。

「家電ブームの到来には、どこまで電化地域が広がるかにかかっている」と前田支店長が語るのもうなずける。

パナソニックでは、2035年には、現在のベトナムと同等規模となる売上高5億米ドル(約560億円)を目指しており、そこにおいては、BtoCの成長が牽引役になるとみている。調査会社によると、2017年のミャンマーの家電市場全体で約1億4000万米ドルの市場規模である。パナソニックは、2035年度の目標とはいえ、それを大きく上回る目標を立てており、数値目標がいかに意欲的なものかがわかる。

パナソニックは、そうした高い成長を遂げると予測される市場において、代理店との連携を強化していく考えだ。

現在、家電製品を取り扱うルートは、一般家電店ルート、スーパーマーケットおよび量販店ルート、ショールームによる販売に分かれる。パナソニック製品の場合、一般家電店ルートが約65%を占め、スーパーマーケットおよび量販店ルートが約30%、ショールームが約5%という構成比だ。

だが、一般家電店ルートでは、ミャンマー支店を通さずに、タイや中国から輸入されたパナソニック製品の販売が主流になっており、正規ルートよりも安く販売されている。

タイや中国から輸入された製品については、国内における保証が受けられないこと、修理費用は正規品の2倍の設定となっているにも関わらず、製品価格の安さで選んでしまう購入者が多いのが実情だ。

前田支店長は、「サービスに価値を感じるユーザーが少しずつ増えているのは明らか。また、パナソニックと手を組んで、ビジネスを拡大したいという代理店が増えてきている。現在、約20社の代理店があるが、カテゴリーによってはまだ増やしていきたい。とくに、スーパーマーケットおよび量販店ルートとの連携を強化したいと考えており、3年後には、この販売比率を5割程度にまで引き上げたい」とする。

正規代理店を通した健全な販売ルートを目指す

ミャンマー最大手の量販店であるWai Yanを展開するTMWグループのカイン・テッ・ルイン(Khine Thit Lwin)エグゼクティブディレクターは、「パナソニックの強みは、テレビから洗濯機、冷蔵庫、小物家電まで、さらに、高価格から低価格まで幅広い製品ラインアップを揃えているのが特徴であり、加えて、認知度も高い。品質が高いというイメージも強く、多くの人が手に入れたいと考えている。家電の購入層が広がっていくのに伴い、パナソニックの家電を取り扱うことは重要な戦略になる」と語る。

TMWグループのカイン・テッ・ルイン(Khine Thit Lwin)エグゼクティブディレクター
WAI YANの店舗内の様子

ただ、その一方で、タイや中国から輸入される低価格のパナソニック製品を減らさなければ、正規販売店において、健全なビジネスが成り立たないとも指摘する。これはパナソニック製品だけに限定した話ではないが、今後、解決していくべき課題のひとつであるのは確かだ。

前田支店長は、これからのパナソニックが連携を強化する代理店の条件として、資金力があること、ミャンマー全土に商品を届けることができるディストリビューション力があること、付加価値を提供できるエンジニアリング力が持つことを挙げているが、「最近になって、経営トップが持つハングリー精神や、ミャンマーを発展させたいという強い意識も重視したいと考えるようになった」とも語る。

さらに、前田支店長は、ブランディングの強化にも取り組む姿勢をみせる。

「いまはブランディングを強化していくフェーズにある。2023年以降に訪れる家電ブームに向けて、販売網の整備と強化、そして、安心して利用できる家電製品として、国内におけるパナソニックの認知度を高めたい」とする。

ミャンマーにおいてパナソニックは、中長期的な視点で地盤を固めることが、今後の爆発的な成長につながるとみており、すでにそれに向けた準備を進めようとしている。まず注目なのは5年後の2023年、パナソニックはミャンマー家電ブームの中心にいるだろうか。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。