【キヤノン】東芝メディカルシステムズの買収の先に見据えるものは?

【キヤノン】東芝メディカルシステムズの買収の先に見据えるものは?

2016.06.11

【キヤノン】東芝メディカルシステムズの買収の先に見据えるものは?

 キヤノン<7751>は、光学機器、OA機器の製造からソフトウェアの開発まで、多角的に経営を行う企業だが、そのツールの1つとして、M&Aを活用している点が特徴的だ。

 現在は「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅤ」と銘打った5カ年計画(2016-20年)を策定し、①原価率の低減、②新規事業の拡大と創出など5つの戦略を掲げている。また、20年の業績目標として、売上高5兆円以上、原価率45%以下、株主資本比率70%以上などを掲げている。

 同社は、フェーズⅡ-Ⅳまでの計画実行の1つの手段として、M&Aを活用してきた。さらに、フェーズⅤにおいても同社史上最大のM&Aを行なっている。16年3月に東芝から6655億円もの巨額の金額で買収(競争法規制当局の許可が下り次第株式を取得予定)した東芝メディカルシステムズ(売上高2800億円)である。最終的には富士フイルムらと入札で競った上で買収を果たしている。

 買収金額の高騰の裏には医療関連事業をフェーズⅤにおける目玉にしたかったキヤノンの思惑があったと思われる。医療機器市場が拡大基調にあり東芝メディカルシステムズが日本トップシェアであることを考慮しても、同社の経営指標(営業利益177億円、純資産704億円)からすると、33年以上分もののれんを乗せている計算になる。これだけの大型買収を敢行したキヤノンを過去のM&Aや、業績・財務状況などの観点から分析していきたい。

キヤノンの沿革と行った主なM&A
年月 内容
1933 精機光学研究所を開設
1937 精機光学工業として創業
1947 キヤノンカメラに社名を変更
1949 東証一部に上場
1956 秩父英工舎(現キヤノン電子)が関係会社となる
1969 キヤノンに社名を変更
1992 キヤノン精工とキヤノンケミカルが合併し、キヤノン化成となる
1996 「グローバル優良企業グループ構想」スタート
2000 ニューヨーク証券取引所に上場
2001 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIIスタート
2004.3 プラスチックの金型を製造するイガリモールド(純資産15億円)の全株式を株式交換により30億円で取得し、完全子会社化
2005.9 電子部品の製造用真空装置を製造するアネルバ(売上高464億円、営業利益19億円、純資産31億円)の全株式を日本電気から取得し、完全子会社化
2005.10 自動化機器の試作製造をするNECマシナリー(売上高167億円、営業利益14億円、純資産64億円)の株式66.18%を公開買い付けにより63億円で取得し、子会社化
2005.12 医療機関にシステムソリューションを提供するFMS(売上高28億円)の全株式をアステラス製薬から取得し、完全子会社化
2006 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIIIスタート
2006.12 キヤノン電子は、顧客管理情報システムの開発等を行うイーシステム(売上高43億円、営業利益▲3億円、純資産35億円)の第三者割当増資を引き受け、株式62%を35億円で取得し、子会社化
2007.1 東芝との合弁会社で、テレビ向けSEDパネルの開発をするSED(資本金105億円)の全株式を取得し、完全子会社化
2007.4 ソフトウェア開発を行う蝶理情報システム(売上高40億円、経常利益1億円、純資産39億円)の株式69.58%を旭化成、東レなどから子会社を通じて取得し、孫会社化
2007.6 情報システムの構築などを行うアルゴ21(売上高242億円、営業利益14億円、純資産115億円)の株式83.17%を公開買い付けにより子会社が124億円で取得し、孫会社化
2007.12 有機ELディスプレイパネル製造装置などの開発を行うトッキ(売上高72億円、営業利益▲22億円、純資産11億円)の株式63.7%を公開買い付けと第三者割当増資の引き受けにより100億円で取得し、子会社化
2008.3 OA機器の製造などを行うニスカ(売上高367億円、営業利益14億円、純資産168億円、子会社の持分割合51.04%)の株式46.84%を公開買い付けにより子会社が96億円で追加取得
2008.11 システム開発などを行うアジアパシフィックシステム総研(売上高67億円、営業利益1億円、純資産53億円)の株式87.87%を公開買い付けにより子会社が51億円で取得し、孫会社化
2009.4 企業向けIT研修などを行うエヌ・アール・アイ・ラーニングネットワーク(売上高14億円)の全株式を野村総合研究所から取得し、完全子会社化
2010.3 オランダで文書・産業用印刷システムなどを開発するオセ(売上高3442億円、純資産707億円、持分割合28.3%)の株式43%を公開買い付けにより380億円で追加取得し、子会社化
2011 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズIVスタート
2011.6 医療関連用品・機器の製造を行うエルクコーポレーション(売上高214億円、営業利益7100万円、純資産71億円)の株式96.73%を公開買い付けにより子会社が36億円で取得し、孫会社化
2011.11 日立ディスプレイズ(資本金352億円)の保有株式24.9%を日立製作所に売却
2011.12 高速漢字情報処理システムの開発などを行う昭和情報機器(売上高104億円、営業利益2200万円、純資産52億円)の株式88.55%を公開買い付けにより子会社が21億円で取得し、孫会社化
2014.6 ビデオ管理ソフトウェアの世界最大手であるマイルストーンシステムズ(売上高75億円)の株式を取得し、子会社化
2015.4 監視カメラ最大手のアクシス(スウェーデン、売上高770億円、純資産155億円)の株式75.5%を公開買い付けにより2540億円で取得し、子会社化
2016 「グローバル優良企業グループ構想」フェーズVスタート
2016.3 東芝メディカルシステムズ(売上高2800億円、営業利益177億円、純資産704億円)の全株式を東芝から6655億円で取得する契約を締結(株式取得日は未定)

 上記年表を見ると、徐々にM&Aの規模が大きくなっていることが分かる。これは、それぞれの時期(フェーズ)によって同社の戦略が転換してきていることを示している。

 例えば、フェーズⅠ(96-00年)の期間は一切のM&Aをおこなっていないが、このフェーズは「全体最適」と「利益優先」を掲げて体質の強化を図っていた時期である。この時期にグループ全体の最適化を図ったことが、これ以降に積極的にM&Aを行えた要因であると思われる。

 フェーズⅡ(01-05年)では、「全主力事業世界No.1」を掲げ、製品のデジタル化を図っていた時期である。この時期のM&Aは、電子部品の製造用真空装置を製造するアネルバ(現キヤノンアネルバ)や自動化機器の試作製造をするNECマシナリー(現キヤノンマシナリー)など既存事業の強化を目的としたものである。

 フェーズⅢ(06-10年)では、現行事業の強化に加えて、新規事業拡大などの新たな成長への戦略を進めていた時期である。その戦略はM&Aにも顕著に表れており、リーマンショックの最中においても積極的にシステム開発会社を買収している。特に、この時期はリーマンショックの影響で業績に陰りが見えていたが、オランダで文書・産業用印刷システムなどを開発するオセ社(売上高3442億円、純資産707億円)について、株式43%を380億円の金額で買収している(現在は完全子会社)のは英断だったと言えよう。オセ社を買収した10年12月期は、同社の買収効果もあって前年比で5000億円の増収を果たした。

 次にフェーズⅣでは、引き続き多角化を推進し、特に「メディカル」と「産業機器」を注力分野とした。その注力分野である「メディカル」分野では、医療関連用品・機器の製造を行うエルクコーポレーションを買収した。その一方で、後発分野であった「監視カメラ」市場において、世界トップシェアを誇るスウェーデンのアクシス(売上高770億円、純資産155億円)の株式75.5%を2540億円で買収している。当時、「監視カメラ」市場においてはまったく存在感のなかったキヤノンは、この買収を通じて一気に世界トップに躍り出た。「監視カメラ」市場は、現在のトレンドであるビッグデータ解析などへの応用も期待され、これからも堅調に推移すると見込まれる。キヤノンがもともと持つデジタルカメラ技術との相乗効果も期待され、多額の投資と引き換えに成長性のある新規事業を手に入れた格好となった。

 さらにフェーズⅤでは、先述した東芝メディカルシステムズの買収を通じて、医療機器分野における存在感を高めることとなった。

 ここで、下記のセグメント別売上高の推移を見てみると、リーマンショック以後は売り上げが横ばいにとどまっていることが見て取れる(セグメントを多少変更している時期もあるが、おおむね下記のとおりとなる)。

■セグメント別売上高推移

 主要事業である、OA機器(オフィス事業)、光学機器(イメージングシステム事業)の売り上げは頭打ちになっている。いずれの事業も市場に大きな成長は見込めず、新規事業の創出が急務であることが分かる。また、M&Aにより獲得した売上高の単純積算値をグラフにすると、既存事業はむしろ縮小傾向にあると言える。

■売上高に対するM&A効果

 上記グラフを見れば、東芝メディカルシステムズに多額の投資を行ったこともうなずけるのではないだろうか。キヤノンは日本を代表する超優良企業であるが、その内実は非常に切迫していると言えよう。

 次に、財務状況の分析を行いたい。下記グラフは、キヤノンの総資産額などの推移を示している(のれん代については14年12月期より個別表示が開始されたため、それ以前の年度について下記グラフにおいてはゼロ表示となっている)。

■総資産額等の推移

 15年12月期現在で総資産額4兆4千億円強、自己資本比率は70%を超えており、財務状況は一見すると非常に安定している。しかし、アクシスの買収の際に発生したのれん代は2500億円を超えている。キヤノンは、米国会計基準により決算書が作成されているため、全額が資産計上されていて費用としては計上されていない。

 これに加えて、16年12月期は東芝メディカルシステムズののれん代が加算される。東芝メディカルシステムズの買収で発生するのれん代は推定6000億円、のれん代が総資産に占める割合は推定で合計20%近くにも上る。のれん代は減損テストによる減損が認識されない限りは費用として顕在化しないため、たちまちに業績や財務に影響を与えるとは考えにくい。また、成長の見込まれる「監視カメラ」及び「メディカル」市場にも陰りは見られないため問題はないものと考えられるが、リスクを内包していることには変わりない。

 東芝メディカルシステムズの買収までは、現在に至るまでに築き上げてきた内部の蓄積があったが、今後はこの内包したリスクを考慮した上でのM&Aが余儀なくされる。今やグループ全体で4兆円もの売上高を誇るキヤノンではあるが、今後の巨額M&Aには大きなリスクを伴うこととなり、動向に注目したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

2019.01.24

ソフトバンクの通信障害、総務省が行政指導へ

再発防止のためのさまざまな対策立案を支持

上場前後で「運がない」ソフトバンクに求められるもの

総務省は1月23日、昨年12月に大規模な通信障害を起こしたソフトバンクに対して行政指導を行った。

通信障害は、ソフトバンクのLTEに関する交換機の不具合が原因で起こったもの。それによって同社の4G LTE網に障害が発生し、音声・データ通信ともに圏外になる、もしくはつながりにくい状態が長時間続き、大きな話題になっていた。

通信障害は12月6日の13時39分頃発生し、その後同日18時4分頃まで、4時間25分に及び、約3060万人の利用者に影響を及ぼした (ソフトバンク ニュースリリース)

総務省は今回、同社の代表取締役取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏宛に「電気通信事故に関する適切な対応及び報告について」と題した文書を提出。

ソフトバンクの宮内謙代表

文書では、ソフトバンクが2018年中に同件を含めて3回の重大事故を発生させていることを挙げ、「このような事故の発生は利用者の利益を大きく阻害するもの」とし、社内外の連携体制の改善や利用者への周知内容・周知方法の改善、通信業界内での教訓の共有等の実施を勧告。さらに、それぞれの具体的措置の内容を2月末までにまとめ、報告するよう義務付けた。

携帯電話は、通話やメッセージのやり取りはもちろん、決済サービスや災害時の情報収集ツールとして、今や国民のライフラインになっている。

総務省は同文書で「事故における教訓を業界全体で共有することが重要である」ともしており、今後の再発防止策等の詳細について、ほかの携帯電話事業者に説明し、情報共有する機会を設けることも求めた。

昨年末に鳴り物入りで上場したが、なかなか株価が振るわないソフトバンク。その背景には、通信障害や「PayPay」のクレジットカードの不正利用、さらには同社が通信設備を使用している中国・ファーウェイの米中対立やCFOの逮捕などの問題などが影響していることだろう。

ソフトバンクグループは昨年11月に行われた2018年度第2四半期決算説明会で、「RPA(Robotic Process Automation)の導入により通信事業の人員を削減し、新規事業に力を入れていく」としていたが、新規事業の前に、まずは逆風吹く通信事業の早急な立て直しが求められている。