シャープ「白物家電」国内生産から撤退の真相

シャープ「白物家電」国内生産から撤退の真相

2018.08.07

シャープが白物家電の国内生産から撤退する

ASEAN市場へシフトする象徴か

冷蔵庫事業の拡大を見据えた判断という見方も

シャープは、大阪府八尾市のシャープ八尾事業所での冷蔵庫の組立生産を、2019年9月までに終息させると発表した。

国内唯一の白物拠点から撤退

八尾はシャープにとって、白物家電の生産拠点では唯一の国内工場。今後の生産はタイにあるシャープ・アプライアンスシズ・タイランド・リミテッド(SATL)などの海外生産拠点に移行することになる。

シャープ 戴正呉 会長兼社長

シャープの戴正呉会長兼社長は、2018年8月3日に社員に向けて発信した「社長メッセージ」のなかで、この件に触れ「八尾の冷蔵工場が耐震問題を抱えていることに加え、冷蔵事業の存続にはコスト競争力強化が最重要課題であるとの認識のもと、約2年前から慎重に検討を重ねて、今回、苦渋の決断に至った。協力会社の皆様をはじめとした数多くの方々に支えられてきた工場を終息せざるを得ないことは誠に遺憾である」と経緯を説明。「今回の決断によって、日本市場のみならず、グローバル市場でシェアを引き上げ、冷蔵事業のさらなる拡大を実現していきたい」と述べている。

八尾事業所は、1959年に洗濯機の生産拠点として稼働。1960年に冷蔵庫の組立工場を竣工。その後はエアコン、扇風機、暖房機などにも生産品目を拡大し、当時は東洋一といわれたメッキ工場やプラチック成形工場なども併設していた。

・関連記事: シャープ八尾事業所の歴史と役割

現在は、2001年から稼働している第3工場で、301L以上の日本市場向けの大型プレミアムモデルの冷蔵庫だけを生産。シャープにとって日本で唯一、白物家電を生産している拠点となっていた。

マザー工場を担い、グローバル拠点でもあった

八尾事業所で冷蔵庫の生産を続けていた理由はいくつかある。

もともとプレミアムモデルの国内需要が高く物流面でのメリットがあったこと、同事業所内にある冷蔵庫の開発部門や商品企画部門、デザイン部門との連携がしやすいといった環境があったこと、高度な生産技術を擁するプレミアムモデルの生産技術を日本で確立し、それを海外に展開する役割を担っていたことなどが、その主な理由だ。

同社では、「八尾の冷蔵庫工場は、そこで培った独自生産技術を、競争力の源泉として、海外生産拠点に供給する役割を担うマザー工場」と位置づけてきた。日本市場向けの生産という側面だけでなく、冷蔵庫のグローバル展開においても重要な役割を担っていたというわけだ。

ここにきて、シャープが、冷蔵庫の国内生産を終息させるのはなぜだろうか。

最大の理由は、シャープのグローバル戦略において、最適な拠点での生産を模索した結果という点だ。

現在、シャープが推進している2019年度を最終年度とした中期経営計画においては、2018年度計画で7割強の海外売上高比率を、8割にまで拡大する目標を盛り込んでいる。

シャープの代表取締役副社長の野村勝明氏は「日本の市場はもはや伸びしろが少ない。海外をどう伸ばしていくのかが重要であり、ここに成長の軸足を置いていくことになる」と語り、シャープの成長戦略の軸が海外市場にあることを示す。

また、戴会長兼社長は「市場のポテンシャルや、シャープが持つリソースを勘案すると、海外市場のなかでも、ASEAN市場が最も力を発揮できる市場である」と語り、ASEAN市場の強化を社長直轄として自ら陣頭指揮を執っているところだ。「『守りから攻めへ』へとシフトし、早期にASEAN No.1ブランドを実現したい」と、戴会長兼社長は意欲をみせる。

ここからASEAN市場でNo.1ブランドを目指す

2017年度に累計出荷6000万台を突破し、シャープの白物事業の中核製品のひとつである冷蔵庫も、当然、海外事業強化の重要な製品であることは間違いない。

シャープの冷蔵庫は、1974年からインドネシア・ジャカルタでも生産を開始。1988年にはタイ・チャチャンサオで、1997年には中国・上海でも生産を開始している。

とくに、タイ・チャチャンサオの工場は、冷蔵庫生産のハブ工場に位置づけられており、直冷式の1ドア小型タイプから、プレミアムモデルとなるインバーター式5ドア大型タイプまで、幅広いラインアップを生産。ASEAN、中近東、オセアニア、欧州、中国、日本などに幅広く製品を供給している。

さらに、2013年にカラワンへ移転したインドネシア工場では、同工場で生産した冷蔵庫の約9割を同国内向けに出荷しているが、ここでは、独自のデザインを採用したインドネシア向けの製品を投入しているほか、不安定な電力事情を考慮して畜冷材料を使用して、10時間保冷が維持できる製品を投入。2018年5月からは、同国初となるハラル認証を受けた冷蔵庫を発売。インドネシア国民の大半を占めるイスラム教徒のニーズに対応したローカルフィット製品として、販売拡大に取り組んでいる。他社にない付加価値モデルの生産にも積極的に乗り出しているところだ。

こうしたASEAN市場への冷蔵庫事業の強化に向けては、タイを中心とした海外生産拠点に集約することが得策と考えたというわけだ。

また、戴会長兼社長は「八尾の冷蔵工場が耐震問題を抱えている」と指摘しているが、冷蔵庫の生産拠点の構造そのものにも限界が来ていたのも事実だ。

実は、冷蔵庫を生産している第3工場は5階建てとなっており、冷蔵庫のような大型製品の生産棟としては珍しい多層階構造だ。

しかも、1階で外箱成形などが行われ、2階で内箱組立、3階では庫内部品の組み込みや性能検査、4階では扉組立、そして5階で最終工程の梱包、出荷検査が行われる。つまり、1階から上に上がっていくごとに完成品に近づく仕組みであり、重たいものを上に運ぶ構造になっている。

八尾は冷蔵庫のような大型製品の生産棟としては珍しい多層階構造

「八尾市内という立地のため、地方都市の工場に比べると土地費用が高く、効率的な利用をするために多層階構造にしている」とシャープの関係者は説明する。

今後の冷蔵庫事業拡大を視野に入れるのであれば、年間40万台模の生産で、すでに飽和状態となっている八尾での生産を維持するよりも、海外生産に移行した方が得策であると判断したともいえるだろう。

さらに、八尾の冷蔵庫の生産ラインを見てもわかるが、組み立ての自動化が進展しているほか、日本品質を維持するための検査工程においても、自動化が導入されている。最終組み立て工程などでは、まだ手作業の部分も多いが、自動化による組み立て、検査などのノウハウの海外移転が可能になっており、とくに、タイの工場におけるプレミアムモデルの生産実績が高まるにつれて、八尾の工場におけるこれまでのようなマザー工場という役割が薄らいできたともいえる。

国内市場の需要変化も影響か

これまで、高い冷凍機能や高い省エネ性を実現するモノづくりでは、八尾の生産拠点が先行していたのは事実だが、海外生産拠点でのモノづくり技術の向上が進んでいる点も見逃せない。

また、八尾の生産拠点で製造していたのは、301L以上の日本市場向けの大型プレミアムモデルの冷蔵庫としているが、実際には450L以上の製品の生産が中心になっている。だが、日本におけるこの分野の製品の需要に停滞感が出てきたことも見逃せない。

調査会社などによると、200L以下の小容量冷蔵庫が市場全体の35%に達するなど、小型冷蔵庫の需要が拡大している。少子高齢化や単身および2人世帯の増加などによって、小容量の冷蔵庫の需要が増加。さらに、ガラストップを採用したデザイン性の高い製品が、この領域で増加したことも、小型冷蔵庫の需要拡大に寄与している。国内市場の需要変化も、今回の国内生産の終息に影響を与えたのは間違いないだろう。

シャープにとって、白物家電最後の国内生産の終了は、日本人としては寂しい部分もある。だが、今回の判断は、生産という点では、世界最大規模の実績を持つ鴻海グループのなかで決定したものである。その判断には、強い説得力を感じざるを得ない。

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LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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