高校選手権でeスポーツを文化に! ゲーム未経験社員が抱くアツい想い

高校選手権でeスポーツを文化に! ゲーム未経験社員が抱くアツい想い

2018.08.07

「全国高校eスポーツ選手権」を企画したのは、ゲーム未経験の女性だった

仲間と一緒に努力する経験をしてほしいという願いが込められている

新聞社がeスポーツに取り組む意味は、新たな文化として認めてもらうため

いーすぽーつ【eスポーツ】――。

「エレクトロニック・スポーツ」の略で、いわゆる“ゲーム”を競技化したもの。
<例文:2018年7月9日に、毎日新聞は高校生を対象にしたeスポーツ選手権を開催すると発表した>

EVO Japan 2018に足を運び、eスポーツの熱を肌で感じる

待ち合わせ場所に到着すると、2名の社員が出迎えてくれた。1人は取材を依頼した際、窓口を担当してくださった広報の方だ。もう1人の女性も広報のメンバーだろうか? などと考えているうちに、会議室に案内されて、名刺を交換する。受け取った名刺には「毎日新聞社 新規事業グループ eスポーツ担当 田邊真以子」と書かれており、思わず目を見張った。

「ゲームはほとんどやったことがありませんでしたが、いまはeスポーツがおもしろくてしかたないですね」

田邊氏は目を輝かせる。

毎日新聞が「全国高校eスポーツ選手権」を開催すると聞いて取材をお願いをした際、「大会概要についてはまだ発表できない部分が多いので、担当者のアツい想いをお話したい」という連絡がきた。そのときは「ははーん、これはきっと相当コアなゲーマーか、ヘビーな動画勢がeスポーツの大会を企画したに違いない」と踏んでいたのだが、大きく当てが外れたわけだ。

毎日新聞社 新規事業グループ eスポーツ担当の田邊真以子氏

「全国高校eスポーツ選手権」とは、毎日新聞とサードウェーブが主催する高校生を対象としたeスポーツ大会。2018年12月下旬にオンライン予選を開催し、2019年3月にオフラインの決勝を行う予定だ。

しかし、なぜ、ゲームほぼ未経験の女性が、eスポーツ選手権を担当しているのだろうか。

「きっかけはお正月、親族の集まりで、高校生のいとこにeスポーツのことを知っているか興味本位で聞いてみたところ、海外の状況や競技人口について力説されたことです。eスポーツが流行っているとは聞いていましたが、もしかすると私の思っている以上に大きな波が来ているのかもしれないと思うようになりました」

最近は、メディアでeスポーツ関連の話題を目にする機会が増えた。とはいえ、本当に盛り上がっているのか、半信半疑だった田邊氏。いとこの話を聞き、彼女の中で「eスポーツの活況ぶり」が真実味を帯び始めたのだ。

「ただ、それだけだと決め手に欠けるので、1月にあった格闘ゲームイベント『EVO Japan 2018』にボランティアとして参加することにしたのです」

行動力の化身……。正月に聞いたいとこの話からeスポーツの盛り上がりを察知し、1月にすぐ『EVO Japan 2018』に参加する。そのフットワークの軽さは、さすが新聞社といったところだろうか。

ラスベガスで開催される世界最大級の格闘ゲームイベント『EVO』。その日本版である『EVO Japan 2018』は、総来場者数が1万3000人以上、動画配信による視聴者数が世界で1000万を記録したという。選手の延べエントリー数は7119人。ここまで多くの選手が参加するイベントは、そこまで多くないのではないだろうか。

「実際に行ってみて驚いたのが、女性の割合が意外と多かったことです。2~3割は女性だったのではないでしょうか。自分ではゲームをしていなくてもファンとしてプロの応援に来ていたり、好きなゲームのプレイヤーたちの盛り上がりを観に来たりと、まさにスポーツと一緒だと感じました。ちなみにボランティアは100人くらいいたようです。日本だけでなく世界中から、会社を休んでまで参加している人がいたことにも驚かされましたね」

イベントの熱気を肌で感じた田邊氏。その興奮を社内にも広めようと、すぐに同僚をEVO Japanに連れていき、eスポーツを実際に見てもらったのだという。行動力の化身……。

「EVO Japanに行って、すでにeスポーツ界にはすばらしいファンがいて、コミュニティの人たちが育ててきた文化があることがわかりました。ただ、eスポーツと名の付いたオフラインの大会は、そこまで多くはありません。そこで、オフラインの大会をもっと増やしたいと思い、選手権開催に向けて取り組み始めました。『プレイヤーに受け入れてもらえるか』という不安はありますが、いただいたご意見などを参考に、トライアンドエラーを繰り返していければと思います。まだ構想段階ですが、将来的には大会を軸にほかの事業にも展開していきたいですね」

高校生にかけがえのない経験をしてほしい

EVO Japanのプレイヤーや来場者、ボランティアと直接触れ合い、心を打たれた田邊氏は、すぐ事業開始に向けて動き始めた。最近、プロリーグ開催のニュースを耳にすることは増えたが、高校生を対象にしたのはなぜだろうか。

「一般向けの大会はすでに数多く存在します。賞金を出してプロを育てていくよりも、未来ある高校生に、仲間と1つの目標に向かって努力する経験をしてほしいと考えたため、今回、高校生の大会を開催することに決めました。高校生が優勝するために練習して、仲間と一緒に協力し、戦略を立てて試合に臨む。そこにある喜びや涙は、観る人に絶対感動を与えてくれるはずです」

選手権開催が発表されたあとは「いままで部活に入ったことがなかったけれど、大会を機に部活を作って日本一を目指したい」などの声が寄せられた。

また、高校生だけでなく、教師からの声も届いた。たとえば、ある高校の先生からは、「メンバーを集めた生徒から部活を作りたいというリクエストを受けています。生徒の熱意には応えてあげたいのですが、部活を作るのは簡単ではありません。なので、できるだけ早く詳細を教えてほしい」という問い合わせもあったという。

たしかに、学校内の承認だけでなく、専用のパソコンを学校に導入する、インターネットの回線を引くなど、高校でeスポーツ部を創るには多くの壁が立ちはだかる。教師や保護者の理解を得るのも、容易ではないだろう。

「子どもたちが一生懸命動いているのに、大人の事情をクリアできないのは本当に申し訳ないので、我々も全力で協力していきたいと思います」

田邊氏は力強く答えた。

新聞社が取り組むことでeスポーツを新しい“文化”へ

毎日新聞が「全国高校eスポーツ選手権」を開催する意味は、高校生にかけがえのない経験を提供するだけに留まらない。田邊氏は、eスポーツ事業を新聞社が展開することの価値を次のように語る。

「まずはメディアとしてeスポーツの認知度アップに貢献したいです。まだまだゲームに対するネガティブなイメージやプロゲーマーに対する間違った理解があると思うので、それを払拭したいですね」

日本にはまだまだ「ゲーム=子どもの遊び」というイメージが強く、エンターテインメントとしての認知度はそこまで高くないのが実情だ。

「またもう1つ、新聞社が選手権をやることで、eスポーツが文化として認められることを目指します。いままで毎日新聞では、『選抜高等学校野球大会(通称、センバツ)』や囲碁の『本因坊戦』、将棋の『名人戦』などを開催し、応援してきました。eスポーツもそれらと同様に、“文化”として根付かせたいと考えています。そのためにも、すでにeスポーツ事業に乗り出している企業だけでなく、“興味はあるけどeスポーツにまだ参入していない”という企業を積極的に巻き込んでいきたいですね」

たしかに、「毎日新聞主催」というだけで、なにやら畏まったイベントのように感じる。新聞という伝統的なメディアがeスポーツに乗り出すことは、信頼感の醸成につながるのだろう。とはいえ、カタそうなイメージの強い新聞社がeスポーツ事業に乗り出すにあたって、社内の反対などはなかったのだろうか。

「社内の反対はほとんどありませんでした。ほかの部署の社員や、海外在住の記者からも『手伝いたい』と言ってもらえたくらいです」

毎日新聞の海外支局に常駐する記者もeスポーツに注目しており、選手権を開催するという情報はすぐに海外支局にも届いたという。

「協力をお願いする企業の方からも『うちならこういうことでお手伝いできますよ』とおっしゃっていただくことが多く、助けてもらってばかりですね」

開催前から多くの反響が届いている全国高校eスポーツ選手権。今回の目標はあるのだろうか。

「目標は参加100校です! 今回一緒に事業を行うサードウェーブさんが、100校にパソコンをレンタルする予定なので。ただし、たとえ何校だとしても、それは成功だといえるでしょう。高校生がチームを結成して出てくれること自体が、文化のスタートとして重要だと思っています。ゆくゆくは地方予選なども開催して、すでにある部活のように、保護者の方がわが子の活躍をその目で確かめられるようにしていきたいですね。そのためにも、まずは予想やイメージで判断せず、高校生の雄姿を目に焼き付けてください」

およそゲームとは無縁の人生を歩んできたであろう1人の女性は、EVO Japanに足を運び、すぐeスポーツに魅了された。このおもしろさをもっと多くの人に伝えたい――。ゲーム未経験者がここまでアツく語り、大会を開催するまでに至るほどの魅力がeスポーツにはあるのだ。

現在発表されているeスポーツ選手権の概要は、高校生が5人以上のチームを組んで『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』で戦うということのみ。ほかのゲームタイトルなどの詳細は8月下旬の公式HPで発表されるという。

百聞は一見に如かず。ぜひ高校生のアツい戦いを、そしてeスポーツが文化として踏み出す一歩目を、その目で確かめてほしい。

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。