発想が”平成マイナス30年“な「東京医科大の入試不正」

カレー沢薫の時流漂流 第1回

発想が”平成マイナス30年“な「東京医科大の入試不正」

2018.08.06

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派新連載!

ビジネスパーソン必読の話題をテーマにお届けします

第1回は「東京医科大の入試不正」について

ついこの前、マイナビニュースでやっていたITコラムの連載が終わったような気がするが、装いも新たにビジネスコラムを書くことになった。体感としては1週間ぐらいしか経っていないような気がするが、30過ぎてから時間の経ち方が雑なので、本当は3年ぐらい経っているのだろう。

そのITコラムが始まった時にも言ったことだが、基本的に私は原稿料さえ払ってもらえれば、コラムがどこに載ってもいいし、テーマがビジネスに変わろうが、仮に発注相手が犬になっても構わないと思っている。

残念ながら担当が御ドッグ様に変わったわけではないが、何と本連載では豪華カラー挿絵を楽しめるので、前コラムからの読者は要チェキである。ただ、いざカラーにしてみても使っている色は3色ぐらいなのでモノクロと大差ないと言える。

さて、ビジネスコラムと言っても、ビジネス用語を解説するわけではない。そんなの前のITコラムと被るに決まっている。ビジネスに大切なのは時代遅れにならないことだ。よって当コラムは、最近話題になった話を、できるだけ腐らない内に、最悪「よく焼けばギリいける」の段階で取り上げていきたいと思う。

平成最後の夏、いろんな意味でアツすぎるニュース

そう思っていたのだが、急きょNewsInsight編集部より、「他のことはどうでも良いから、今すぐこの話を書け」とメールがきた。

ご存じの通り、今、気温よりも不悪口(ふあっく) in ホットと言われている「東京医科大の入試不正」の件である。簡単に言えば、女子受験者の点数を一律減点し合格者を減らしていたというものだ。

まさか21世紀にもなって、こんな古典的女性差別のニュースを聞くことになろうとは。さすが平成最後の夏、いろんな意味でアツすぎる。

もちろん、私に医大を受験して落ちた経験があるというわけではない。仮に受けたとしても「正当に採点した結果不合格」だろうし、身長より高い下駄を履かすか、他の受験者を全員抹殺しない限りは受からないと思う。

しかし、今回の件は東京医科大だけではなく「学校や、職場、いたるところで似たようなことが行われている可能性がある」と思わせるに十分な、日本に住む女の多くを絶望させるニュースだったのである。

あまりに陰惨な事件を目にすると、人は「俺様が住んでいる世界がこんなに酷いはずがない」という防衛本能が働き、目を逸らし、なかったことにしようとしてしまう。この事件も日本の女としては、正直、直視するのも辛い。

しかし、そうやって黙って目を逸らしていると「女はこの件にそんなに怒っているわけではないし関心がない」と世間にみなされるし、何故こんなことが起きたか詳細を知ろうとしなければ、いつまでも「拙者(とりあえず関係者を全員)コロ助ナリよ」という感情的な怒りから抜け出せない。

野蛮に野蛮で返していたら、世界はあっという間にマッドマックスだ。

東京医科大の「言い分」

まず、何故、東京医科大がこのようなことをしたかというと、関係者の弁では、「男が女より頭が良いと示したかったわけではなく、むしろテストの点通りだと女性の合格者が多くなるが、女性はどうしても出産や育児などで離職率が高く、そうなると周りの負担が大きくなる。よって男性医師の数が多い方が医療業界のためになる」、ということらしい。

これに関しては、妊娠や出産という、現在では揺るぎなく女にしかできないことをとりあえずの言い訳にしているだけという意見もある。確かに、これではあたかも、この世に「妊娠出産育児」以外の離職理由が存在しないないかのようである。

しかし実際はそれらの理由より、「給料が安い」「あいつが気に入らねえ」など男女関係ないことで辞める人間の方が遥かに多いだろう。また当たり前だが、女だからといって必ず子どもを産むわけでもない。よって妊娠出産で離職するから女性医師を減らすというのは、理由としてはあまりにも弱すぎる。

やはり東京医科大側もこれだけだと弱いと思ったのか、「女性は遠方での勤務、外科のようにハードな現場を嫌がる傾向がある」「体力が男性より少ない」など、他の言い分も出てきた。だがそれ以前に、どんな理由があろうと、高い受験代を払い、ガリ勉して臨んだ試験の点数を、裏で上げ下げしていいわけがない。

それだったら最初から募集要項に「女も受けて良いけど減点するよ」と明記しておくべきだ、そうすれば、女性受験者が激減し、不正など働くことなく大学の思惑通り男性合格者だらけにできたはずである。これでは受験料詐欺と言われても仕方がない。

平成マイナス30年の発想

また、先の「女は出産育児で辞める」という言い訳を聞くと、まるで「妊娠出産子育ては女特有の単独行為」のようだ、ワシらはアメーバか。

もちろん一人で出産という選択肢もあるが、そこには多くの場合男が存在しているはずである。今回の件に絶望して、男不在でナメック星人みたいに口からタマゴ産みてえ、と思った人も多いかもしれないが、現時点ではそれは無理だ。

よって、妊娠出産は無理にしても、育児に関しては女の復職が上手く行くよう男が子育てに積極的に参加する、そのために男が子育てに参加しやすい環境を作る、などの対策をすっとばして、単純に「女の医者を減らして男の医師を増やせば解決です」としてしまうのは、平成マイナス30年の発想である。

またこの事件は、男にとっても「俺たちは優遇されてて良かった」などという話ではない。むしろ全然優遇されていない。東京医科大の「女は結婚や育児など家庭を優先させるから使えない」という言い訳が本心だとしたら、同時に「男はプライベートや家庭など無視で、いかなる時も仕事最優先で使っていい」と思っている、ということである。

そんな世の中で、男がもし育休など取ろうとものなら「男のくせに仕事より家庭を優先させるのは何事か」と言われてしまうのである。

つまり「女は一人で子育ての任を負い、その間男は社畜たれ」というのが我が国の現状である。

今回の問題は主に「女は妊娠出産するから使えない(だから合格者を減らす)」という女性差別だが、その根底には「男は便利使いしていい」という男性差別も潜んでいるのだ

この件で「男は全員敵だ」と絶望してしまった女もいるかもしれないが、そんなことはない。私の知人が病院に勤めているのだが、そこの女医さんがあるとき妊娠した。制度としては産休も育休も十分にとって良いのだが、上司の「そんなに休みいる?周りが大変なんだけど」という嫌味に負けて、最低限の産休で復帰してきたという。ちなみにその上司は女性だそうだ。

このように「子持ちの働く女にとって男は敵」ではなく「全員敵」なので安心していただきたい。ここだけは男女平等だ。外に出れば七人の敵がいるし全員侍、という、暗黒面に墜ちた黒澤明の世界である。

しかし「休まれると、周りが大変」はただの嫌味ではなく、事実ゆえに件の女医さんも早々に復帰を決めたのだと思う。実際、「現場のことを考えると、東京医科大のやったこともわからないではない」みたいな現役医師のコメントも散見される。

つまり医療現場の状況は過酷で、医師他関係者のプライベートの犠牲で成り立っている部分が多い、というのも確かなようだ。だからと言って「プライベートを犠牲にしやすい男性医師の方がいい」というのもまた差別的だ。それより男女問わず無理をしなくて良い現場に変える方が先決ではないか。

そして、この件は男女差別以前に、「優秀な医者になり得た人が落とされ、そうじゃない人間が下駄を履かされ医者になっているかもしれない」というホラー案件でもある。東京医科大はこのスキャンダルの前に「役人の息子の裏口入学」でもすっぱ抜かれているので、怖がらない方が無理である。

この事件は海外からの関心も高く、フランス大使館には「そんな国捨てちゃって、優秀な日本女子はフランスに来なよ」というエスプリのきいた嫌味をかまされている。しかし、これはジョークではなく、本当に今回の件で、優秀な人材が海外に流れることも予想される。

日本から優秀な医者が減る、というのは「日本人全員の命」に関わることである。これほど男女関係なく「他人事」ではない事件もないのではないか。

■本連載は毎週月曜更新です。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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