佐藤可士和が語る、釣り具ブランドが「アパレル」をはじめた理由

佐藤可士和が語る、釣り具ブランドが「アパレル」をはじめた理由

2018.08.02

釣り具のDAIWAから生まれたブランド「D-VEC」

ロゴ・ブランディングを佐藤可士和氏が担当

釣り具メーカーがアパレルに進出した狙いを語る

THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)やSnow Peak(スノーピーク)など、登山向けアウトドアブランドがアパレルを展開している例はいくつかあるが、2017年に「釣り」の技術を活用した機能性アパレル製品を提供する「D-VEC」が登場した。

「D-VEC」は、釣り人たちの信頼を集める「DAIWA(ダイワ)」ブランドからはじまったファッションブランド。釣り竿に使用されているカーボンファイバーを使った超軽量折りたたみ傘など、釣り具のために生まれた技術を、街で使えるようなアイテムに付加して提供している。

超軽量傘「カーボンテクノロジー ポータブルアンブレラ」は、スマートフォンの約半分の重さを実現した

DAIWAブランドでアウトドア向けのウェアを扱ってはいるが、D-VECは、明確にファッションブランドとして展開しており、原宿にショップを出店した後、2018年7月には外苑前にショールームを設置した。

すでに釣り業界で多大な支持を得ているDAIWAブランドとはあえて別の屋号でファッションに打って出た狙いは、どこにあったのだろうか。

D-VECの立ち上げからグローブライド(旧ダイワ精工)のブランディングまで一手に引き受けた、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏

今回は、DAIWA、D-VEC、および両ブランドが属するグローブライド(旧ダイワ精工)のブランディングに携わった佐藤可士和氏に、D-VECのロゴマークのデザインや、アパレルブランドを立ち上げた意図、そして今後の展望を聞いた。

「技術力」を感じさせるロゴデザイン

――最初に、D-VECブランドのみならずDAIWAブランドを含めたグローブライドのリブランディングに関わるようになった経緯を教えてください。

もう10年以上前になりますが、旧ダイワ精工が50周年を迎えるタイミングで、リブランディングを行いたい、とお話をいただいたのがきっかけです。まず、ダイワ精工という社名を現在のグローブライドへ変更しました。

そしてフィッシングブランドの「DAIWA」のリニューアルも併せて行いました。諸々の変更は2009年から展開しましたが、もちろんそれ以前から関わらせていただいています。

それから今に至るまで、さまざまなディレクションをさせていただきました。主にグローブライド、DAIWA、そしてアパレルブランドのD-VECですね。

D-VECブランドの製品は、アウトドア向けではなく、街中で着る製品としてデザインされている

――DAIWAのロゴマークとD-VECのロゴマークは同じパーツで作られています。新しくデザインされたロゴの解説、込められた意味について教えてください。

    D-VECのロゴマーク(左)と、DAIWAのブランドロゴ(右)

パーツを共通化したのは、D-VECブランドの初期段階として、DAIWAとのつながりをユーザーに感じていただくことが重要だと考えたためです。今や、釣りを趣味にしている方であれば、ロゴ全体でなくDの部分だけでもDAIWAと認識いただけています。

ですが、公開当初より、最終的にはD-VECのマークだけでコミュニケーションが行えるように設計しています。

――どちらのロゴも直線的なシルエットが印象的です。以前のロゴの曲線的なイメージと対称的ですが、どんな狙いがあるのでしょうか?

DAIWAには、カーボンなどの素材はじめ、ものすごい技術力があります。そういったことを感じさせるようなデザインにしよう、と考えたのが出発点です。

また、元のロゴでは使いにくいシーンがあったことも聞いていて、それを改善することも考えました。旧ロゴはトリコロールカラーだったので製品自体の色と干渉したり、またリールやロッドなど印刷面がごく小さいものに入れたりするのは難しかったそうです。特に後者について、金属製品に刻印したときの見え方も念頭に考えて、現在のものに決めました。

――D-VECのショップではハンガーの中央にロゴが配置されていますし、製品ごとにロゴの入れ方は異なります。各製品へのロゴあるいはマークの配置について、監修は行っていますか?

ショップのハンガーには白地に黒のシンプルな配色でロゴが配置されている

細かな製品監修は行っていませんが、ブランドごとに傾向はあります。

フィッシングブランドのDAIWAのウェア類では、かなりロゴを大きく入れています。それは、利用シーンが釣りに行った時なので、遠くからでも見えやすく、スポーティなグラフィックとして機能したほうが適しているため、大きく使うことが多くなっています。

DAIWAの衣類はブランドロゴを大きくあしらったものが多く、D-VECのラインナップとは雰囲気が異なる

一方で、D-VECはアパレルブランドで、街着を前提に考えています。あまりそこで大きくロゴを出してしまうのは日常のシーンにそぐわないので、DAIWAのロゴの扱いとはまったく異なっています。

――D-VECの各製品について、高い機能性とアパレル製品としての完成度が両立していると感じます。D-VECブランドではどのような理念で製品展開をされていますか?

超撥水糸を用いた防水性・防汚性に富んだアウター「ウィメンズ ミラノリブ テーラードジャケット」
 

すべての製品の大本には、DAIWAが快適なフィッシングのために作り出してきた防水・耐久テクノロジーがあります。一方、日常生活でも意外に通勤・通学でも雨風に悩まされることはあり、そうしたテクノロジーは活用できます。

ですが、D-VECで展開するのは「釣り用の服」ではないので、デザインは完全に日常のモノに思い切り振ってしまったほうが良いと思いました。なので、ほかのアウトドアブランドのファッション性の高いアイテムよりも、結構振り幅が大きいラインナップだと思います。

――ブランドの立ち上げの際から、アイテムの「振り幅の大きさ」を意識していたんですね。

はい。釣りブランドの服で、ちょっとだけファッション性がある…みたいなものを展開しても、あまり大きく広がらないと考えました。今あるものをまったく違うところまで振ったほうが、結果的にブランドで出来る部分が大きくなるのではないか、という意図があります。

――現在、D-VECブランドのキーになっているプロダクトは? 

キーとなる特定の製品がどれかというより、やはり機能が重要と考えています。単に華やかなデザインを追いかけている、ということはないです。

釣りをするような水辺でも滑らないソールを、ファッションに転用した「HYPER D ハイヒール レインブーツ」
ブランドの「D」マークを配置した、防滑性能の高い「ハイパーDソール」

レインブーツなどのフットウェアでは「ハイパーDソール」という、ロゴを模した靴底を採用しているんですが、本当に滑らないんですよ。釣り糸を極細にして繊維にした軽量布「モノフィラメント」で作ったウェアも今後展開していきます。どの製品でも、釣りの技術からはじまっていることは伝わるように作っています。

リブランディングと「大事なこと」探し

――リブランディングをする際、大きくわけて一新するポイントと保守するポイントがあると思われますが、「変える」のは難しい行為と考えます。「変える」ポイントはどのように見出していますか?

どのブランドでもそうなのですが、ものすごくわかりやすく言えば、「一番いいところは何だろう」ということを最初につかみます。

そして、すごく簡単な話なのですが、よいところは伸ばして、そうでないところはどうすれば改善できるか考える(笑) 言うと当たり前のことなんですけれど、意外にその整理が難しいというか。歴史があればあるほど、あれもこれも大事となってしまうので。

でも、本当に大事なことは、そんなにたくさんはないですよ。それがひとつでもあったら、素晴らしい企業です。企業が存続しているということは、それが必ずあるわけですから。

――「大事なこと」探しはどのように行いますか?

ヒアリングがメインです。経営層から新入社員、ユーザーの方々にも。ケースバイケースですが、ヒアリングですね。基本は。立場の違ういろんな人から聞いても、共通点があるとそれが本質です。必ず、何か出てきます。

DAIWAの場合、やはりものすごい「技術」を持っています。携わった当初びっくりしたのが鮎竿ですね。8~9mくらいの長い物なのに重さは約200gしかない、超ハイエンドな竿を30~40万円で販売している。その商品展開にまず驚きました。こういう製品を作れるのはすごいですよ。なので、「技術」がやはりこの会社の大事なところだとまずは確認しました。

逆に、もったいないところというか、やっていなかったところがあると僕はとらえました。まず、デザイン面が弱かった。もう少し大きく言えば、釣り具開発のためのテクノロジーの発展、いわば「縦」の進化はものすごいのですが、「横」の展開はあまりやっていないなと感じました。

――とことん釣り具のクオリティにこだわっていて、他の領域には手を出していなかった、ということですね。

そういうことです。テクノロジーは本当にすごいのに、釣りをやっていない人たちにそれを提供するような意識がなかった。DAIWAをはじめて知った人がいきなり鮎竿を買うことはないので、技術力を知る機会がなかったんです。「横」の展開にはアパレルが一番入りやすいものだと考えて、現在のブランド展開になっています。

D-VECブランドは、テクノロジーの「横展開」のために生まれた

先ほど「やっていなかった」と言いましたが、より正確には「視点が違った」のだと思います。以前のDAIWAブランドでは、アパレル関係のアイテムも竿や網、長靴といった製品の延長上で作っていました。

撥水・防水など衣類としての機能性はとても高かったのですが、たとえば女性が身につけたいと思うようなものは、ひとつもなかったように感じます。色展開もほぼ黒かグレーのみで…。そこで防水技術は残して、釣りをディープに楽しむ人でなくても、かっこいい・かわいいという視点から欲しくなるようなモノを作れば、お客様が広がっていく。なので、そこは変えましょう、と。

――ブランディングというのは製品開発の源流とも言える機軸を作る大きな事業です。D-VECの設立にあたって、佐藤さんが感じた「壁」は何かありましたか? また、どうやってそれを乗り越えましたか? 

まだ立ち上がって日が浅いブランドなので、具体的な製品に結びついた話だと難しいですね。何かを改善して売り上げが伸びた、というものはまだ出てきていないので。ですが、日々アップデートですよね。D-VECだけではなくて、DAIWAのほうのアパレルもずっと見ているので、そういう意味で言うと日々変化しています。

現場からうかがった話で言えば、撥水性のある傘の布地で、海の柄のはいった真っ青なコートのエピソードが「壁」というか、そういう局面に近いかも知れません。すごく舞台映えするのでタレントの方たちが大勢着用してくださったんですが、実売には結びつかなかったといいます。

なぜかと言えば、タレントの衣装に適していた一方で、一般の方の普段着にはインパクトが強すぎた面があると思います。そのあたりは難しい面があります。広告的な商品と実売は必ずしも一致しませんから。

――自動車で言えば、派手なカラーを広告に使う一方で、白、黒なども展開しているようなものでしょうか。

それと一緒ですね。広告的製品と実売に結びつく製品は両方必要で、数量のコントロールで調整していきます。先ほどの海柄のコートも、それを見てD-VECを知っていただいて、ショップに来ていただけた例もあるかもしれません。そういった反響も分析しているところです。

――最後に、D-VECブランドの今後の展開についてお聞かせください。

今回青山で展示を行ったのも実験の一環であって、釣りから自転車、ゴルフ、テニスと、グローブライドのブランドを一堂に並べたのもほとんど初めてです。

これらのブランドを横並びで置ける店もないですし。いきなりこういうコンセプトの店を作っても、売り上げを立てるのはなかなか難しい。ここはスタジオ、アトリエのような実験的ショールームだから実現できました。

インタビューを行ったのは、外苑前のItochu Garden内「ifs未来研究所」。グローブライドの各ブランドを一堂に展示するのはこれがはじめての試みで、今後も展示内容を変化させていく。”日々アップデートする”ブランドを象徴する場となりそうだ

ここでの反応を見て、たとえば自転車と釣りの組み合わせを追求するなど、別の展示も行います。ほかのイベントでの提案についても、ifs未来研究所の川島蓉子所長に考えていただいています。

繰り返しになりますが、D-VECにしろDAIWAにしろ、方針をガッチリ固めるのではなくて、日々更新をかけていくようなイメージですね。デザイン性についても、単に既存のアパレルブランドを追随しようとしているのではなく、釣り具メーカーが提案する新規性を実現するために、チャレンジを進めています。

――ありがとうございました。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。