樋口泰行氏が語るパナソニック1年の成果

樋口泰行氏が語るパナソニック1年の成果

2018.06.01

パナソニック コネクティッドソリューションズ社長 樋口泰行氏

パナソニックは、2018年5月30日、アナリストを対象にした「Panasonic IR Day 2018」を開催。そのなかで、パナソニック入りしてから1年を経過した前日本マイクロソフト会長であり、現在、コネクティッドソリューションズ社の社長を務める樋口泰行氏が、この1年の成果について振り返った。

「昨年、25年ぶりにパナソニックに戻り、既存ビジネスにモメンタム(勢い)をつけて、正しいことを正しくやるということに注力してきた。その一環として、コネクティッドソリューションズ社の本社機能を東京に移し、同時に組織の活性化を図ってきた。また、今後のビジョンや、将来の姿を考えてきた1年でもあった。顧客接点の最大化や、カルチャーおよびマインドの健全化、風土改革を並行して行ってきた。こうした経験をもとに、持続可能な収益体質を確立するための一歩を踏み出すのが、2018年度になる」と位置づけた。

東京移転で顧客の訪問数が増加

2017年10月に、本社機能を大阪から東京に移したことで、顧客の訪問数は2.7倍に増加。社長室を廃止し、部門を超えたフリーアドレスを採用したことや、ビジネスチャットの活用を積極化したことで、社内外とのコミュニケーションが活性化したという。

「これまでやってきたことは、26年前に、私がパナソニックを辞めた理由を排除するような取り組みともいえる。これによって、いい会社にしていきたい」とし、「会社は歴史を積み重ねると、足し算のように内向きの仕事が増える。その分、外に攻める時間が減る。週報を無くし、馬鹿らしいと思うことはすべて止めた。こうしたことをしているうちに、社員自らが変革しなくてはいけないという意識を持つようになった。これを逃したら二度と変わるチャンスがないという意識も出てきた。2018年度もこの勢いで、各事業を伸ばしていくことになる」などと語り、社員マインドの変化をはじめとした、この1年間の変化の様子を示して見せた。

業績をみれば、樋口氏が率いるコネクティッドソリューションズの初年度の通信簿は、評価されるものだといっていい。

コネクティッドソリューションズの売上構成

2017年度業績は、売上高は前年比6.5%増の1兆1193億円、営業利益は17.8%増の1057億円。前身となるAVC社時代からみれば、2015年以来、2年ぶりの増収増益。営業利益率は9.4%と、パナソニックの4つのカンパニーのうち、唯一、2桁近い水準を達成している。

内部目標では、アビオニクス事業およびプロセスオートメーションを除く同社全体で、2018年度には営業利益率5%の達成を目指していたが、これも、1年前倒しで2017年度に達成したという。

樋口社長は、「これを組織の意識改革によるものと結論づけることは難しい」としながらも、「働き方改革が注目を集めるなかで、信頼性が高く、軽くて、薄くて、バッテリー駆動時間が長いと評価されるレッツノートが、前年比130%という成長を遂げたほか、iPhoneの発売にあわせて、プロセスオートメーションのビジネスが拡大するなど、追い風の要素もあった」とする。

新たなソリューション導入も成果

だが、その一方で、羽田空港に導入した顔認証ゲートを採用した入出国手続きソリューション、高輝度プロジェクターを活用したプロジェクションマッピングによる大型イベント向け空間演出ソリューション、北米警察向けに証拠映像をクラウドで管理する警察向け映像管理ソリューション、電子棚札などを活用して商品陳列や価格変更作業を効率化する小売り向け電子棚札ソリューションといった、新たなソリューション導入などの成果も見逃せない。

そして、これまでパナソニックが行ってこなかった「エンタープライズマーケティング」にも着手。関東圏を中心にしたテレビCMや、デジタルメディアでの訴求、展示会でのメッセージなどを、統一したトーン&マナーで展開したことで、ビジネス領域における認知度向上を果たしたことなども示してみせた。

だが、就任2年目は厳しい状況になりそうだ。2018年度は売上高で前年比1.6%減の1兆930億円、営業利益は19.9%減の830億円と減収減益を見込む。スポーツ界で言われる「2年目のジンクス」の様相ともいえる。

樋口社長は、減収減益の計画の理由をね「アビオニクスの大型機生産の減少の影響が大きい。アビオニクス事業を除くと増収増益になる」と説明。「できれば、アビオニクス事業の減益幅を減らし、アビオニクス事業を含めても増益を目指したい」と意気込む。

もともとコネクティッドソリューションズ社は、前身となるAVC社時代から、アビオニクス事業が収益と成長の柱となり、カンパニーを支えてきた経緯がある。だが、2019年度までは、パナソニックにとって収益性の高い大型機(ワイドボディ機)の生産、出荷サイクルの端境期に入り、同事業は減収減益の状態が続くことになる。カンパニー全体を牽引していた事業が、この数年は「お荷物」となるタイミングに入ってきているのだ。

しかも、そこに2つの要因が追い打ちをかけている。ひとつは、BYOD(Bring your own device)の動きだ。

スマホやタブレットを多くの人が所有し、これを機内に持ち込む人が増加。それによって、機内エンターテイメントの姿が変わろうとしている。自分のスマホで音楽を聴いたり、自分のタブレットで映像コンテンツを楽しんだり、ゲームをプレイしたりといった利用者が増え、これに伴い、航空会社のサービス内容も変わることになる。とくに国内線などに用いられる中型機などではその影響が大きいと見られている。

樋口社長は、「確かにBYODの流れはあるが、ワイドボディ機でのビルトインのニーズは根強く、あまり影響がないといえる」としながらも、「ここでは、機内でのインターネット接続が前提となり、あらゆるサービスが可能になる。スマホなどにWi-Fi接続をしたり、クラウドを活用したプレミアムコンテンツの提供のほか、新たな広告や幅広い機内ショッピングなども提供できる。従前のオンプレミス的なエンターテイメントから、クラウドベースのサービスや、搭乗者ごとにパーソナリゼーションしたサービスが可能になる。そして、4K対応といったことも始まってくることになる。これを1社で提供できるのはパナソニックだけであり、様々なニーズに対応するために投資を続けたい」とし、「業績は短期的には凸凹するが、長期的には成長させたい」と語る。

アビオニクス事業は、2020年度以降は成長軌道に戻ると予測しており、それまでに、アビオニクス事業のうち7割の売上げ構成比を占める機内エンターテイメントへの依存率を下げる一方、年率20%以上の売上げ成長を遂げながらも、現在は赤字となっているデジタルソリューション&サービス事業の黒字化、リカーリングビジネスとして安定的な収益を確保するには欠かせないリペア・メンテナンス事業の強化などが課題となる。

大型機の需要が回復するタイミングまでに、パナソニックのアビオニクス事業の体質改善を進める一方、ハード、通信、クラウドを組み合わせた統合型プラットォームの開発により、航空会社の付帯収入に向けた新たな提案や、サービスの多様化に向けた提案ができるかどうかが鍵になる。

アビオニクス事業に課せられた制裁金は?

もうひとつの要因は、アビオニクス事業における制裁金の支払いだ。

米司法省(DOJ)と米証券取引委員会(SEC)は、パナソニックと米国に本社を置くパナソニックアビオニクスに対し、連邦海外腐敗行為防止法およびその他の米国証券関連法に違反したとして、2億8060万ドル(約310億円)の制裁金を課し、2018年5月1日、その支払いに合意した。

これは、航空会社との特定の取引およびその取引に関連するエージェントやコンサルタントの起用に関する活動に問題があったとして、調査を受けていたもので、今後2年間は、第三者によるコンプライアンスに関するモニタリングを受け、その後1年間は、コンプライアンスに関する自主報告をDOJに対して行うことになる。

樋口社長は、「制裁金の支払いによる2017年度の連結業績への影響は、2017年度第3四半期までに引当て済みであり影響はない」としながらも、「パナソニックアビオニクスの経営陣を入れ替え、財務監査の専門家を採用することでコンプライアンスを強化。第三者のエージェントやコンサルタントも撤廃し、監督を徹底している。顧客をくまなく訪問し、信頼回復に向けて、当社の姿勢を理解してもらっている。従業員も前向きに仕事に取り組み始めたところだ」と説明する。

米パナソニックアビオニクスは、アビオニクス事業の本丸となる企業であるとともに、パナソニックが海外に事業部門の本社機能を置く先行事例としても、その取り組みが注視されていた。そこで起きた問題を、次の成長のバネに変えられるかが注目される。

一方で、注視しておくべきなのが、プロセスオートメーション事業である。

パナソニックでは、事業部門ごとの利益率は開示していないが、2017年度実績で、コネクティッドソリューションズ社が達成した営業利益率9.4%を開示情報から逆算してみると、アビオニクス事業とプロセスオートメーション事業を除くと、営業利益率は約5%。しかも、アビオニクス事業が全体の足を引っ張る減益基調にあることを考えると、コネクティッドソリューションズ社全体の高い利益率の達成は、プロセスオートメーション事業の極端に高い営業利益率によって成しえたものであることが想定できる。

ちなみに、プロセスオートメーション事業には、樋口社長が、大学卒業後、パナソニックに入社した際に、初めて配属された溶接機事業も含まれている。

樋口社長は、「2017年度は、iPhoneの製造設備向けの特需があったが、2018年度は堅調な自動車関連ビジネスを伸ばして、2017年度と同程度の利益を確保したいと考えている。なかでも2つの新たな技術に期待しており、ひとつは、スパッターが極端に少ない高品質な溶接技術を持つSuper Active TAWERS。もうひとつは、テラダイオードの買収によって商品化した小型で高出力のダイレクトレーザー。ダイレクトレーザーは、EV時代に求められるパナソニックならではの技術であり、小型であることからロボットのヘッドにもつけることができる。レーザーの高出力を安定的に確保するには、アナログともいえるノウハウの蓄積が必要であり、そこにパナソニックの強みを発揮できる」とする。 地味な事業の集合体であるが、ここがコネクティッドソリューションズ社の高収益を支えている。

樋口氏が打ち出した「現場プロセスイノベーション」とは?

今回の説明会において、樋口社長は、「現場プロセスイノベーション」という言葉を新たに打ち出した。

現場プロセスイノベーションとは、パナソニックが製造業として培ったノウハウやロボティクスをテコに、顧客の「作る」、「運ぶ」、「売る」のプロセスを革新。これを、製造業だけでなく、物流、流通、小売りなど、あらゆる業種において、現場やサプライチェーンをイノベーションし、現場業務の生産性向上と、継続的な価値創出によって、顧客の事業の成長に貢献することを目指すコンセプトだ。

「労働力が不足し、賃金が上昇、省人化がまったなしという状況のなかで、画像認識やAIを活用することで、サプライチェーンにおけるお役立ちのチャンスが増大している。パナソニックは、100年間の歴史を持つ製造プロセスと、ロボティクスや画像解析といった差別化した技術を生かすとともに、現場から得られた情報をクラウドに蓄積し、AIで分析。次の現場に生かすことができる仕組みを提供できる。ここでは、すり合わせの技術が重視され、他社に模倣されにくいという特徴もある。ソリューションの厚みや付帯ビジネスの継続性もある。長年にわたる高い信頼関係を実現してきた企業姿勢、お客様とのライストワンマイルまで、現場で寄り添ってきたパナソニックだからこそ実現できるものである」と自信をみせる。

そして、樋口社長は、現場プロセスイノベーションを、「コネクティッドソリューションズ社が、今後、フォーカスすべきエリア」と表現。「パナソニックにとっては、立地がいいブルーオーシャンといえる領域になる。パナソニックが持つ商品を、部品として納めるのではなく、側面からプロセス全体を支えることを目指す。コネクティッドソリューションズ社が『塊』として展開し、お役立ちができるインテグレータになることを目指す」とする。

継続的な高収益体質を維持するためにも、「現場プロセスイノベーション」はキーワードになると位置づける。

コネクティッドソリューションズ社では、営業利益率10%を達成し、パナソニックの高利益体質のモデルを確立するというのが、樋口社長に最初に課せられたテーマであった。 それは、就任1年目でほぼ達成したともいえる。

だが、樋口社長は、「この延長線上で事業を進めれば、10%の達成は可能だろう。しかし大切なのは、持続可能な高収益事業体を作ることである」とし、「サスティナブル」という言葉を強調してみせた。

コネクティッドソリューションズ社の経営は、2017年度の実績をベースに、ギアを一段入れかえることになったともいえる。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。