画面をタップするだけで、BOP層を手助けできる

コミュニケーションツールとしてはもちろん、動画や音楽、ゲームやニュースなどがアプリでさくさく楽しめる。スマホは今や最も身近で、誰しも手放せない必需品だ。新聞、雑誌、システム手帳にMDウォークマン、ゲームボーイアドバンスまで持ち歩いたあの日々よ…(遠い目)。

カウ株式会社の大木大地代表。1982年東京生まれ。日本大学中退後、モバイルコンテンツ事業、ゲームソフト関連の仕事を経て、IT系スタートアップの取締役に。その後、「社会をよくする事業を!」と2016年にカウ株式会社設立。2017年に「COW」をローンチさせた。http://COW.tokyo/

大木大地さんは、そんなスマホの多様な用途に「社会課題を解決する」という意識高い機能を実装させた、社会起業家だ。2017年夏に『COW(カウ)』というスマホアプリをローンチさせたからだ。

「ご存知のように、いま世界には開発途上国を中心にBOP(Base Of Pyramid)と呼ばれる年間所得が3000ドル以下という低所得者層が40億人ほどいる。そうした方々がもっと収入のチャンスを得られる機会を創りたかった。一方で、そうしたBOP層を支援したい人がカジュアルに応援支援できるような場を介してつくりたかったんですよ」と大木さんは説明する。

両者をつなげるコンテンツは写真。BOP層がスマホで撮った画像である。

カンボジアの学生が撮った画像に、どんな価値があるのか

『COW』のビジネスモデルをひとことでいえば、CtoCの画像販売プラットフォームだ。

まず売り手となる開発途上国の人が、スマホにアプリをダウンロード。するとスマホで撮った画像を『COW』のプラットフォーム上に投稿できるようになる。加えて、投稿画像は1枚2ドルから販売できる、という仕組みだ。

買い手となるのは、日本を中心とした先進国の人々。もちろん『COW』にアップされるような、BOP層が生活する遠方の国の風景、あるいはそこにある文化などの画像は、既存のストックフォト会社にもある。ただし使用量が高額だったり、またプロが撮った写真過ぎて、「どこかでみたような画」になりがちなものだ。

しかし『COW』にアップされる写真は先述通り1枚2ドル、日本円で220円程度と、格段に安い。またリアルな生活者がスマホで撮ったものだから、プロ、あるいはセミプロのフォトグラファーでは気づかないような視点や視座があるユニークなものがストックされることがありうる。結果、完成された写真が集まる既存のストックフォトよりも、コンテンツ制作者の琴線にひっかかる画像が多々アップされることが期待できるわけだ。

『COW』上で画像売買が成立すると、お金が販売者に振り込まれる。売上の30%を『COW』が手数料としてうけとるが、極めてカジュアルに、ムダなく直接的な富の再分配が、スマホアプリを通しておこなえる、というわけだ。

現在はカンボジアで積極的にPR。学生層を中心にダウンロード数を増やし、「売り手」ユーザーをじわじわと取り込んでいる。

「じわじわ…というのは本当です(笑)。正直、アプリのダウンロード数も売上もまだまだで、ビジネスモデルを含めて、いろんな改善をする必要性は感じている。だから新機能のリリースを続けていますが、しかし、スマホを通して気軽かつ持続的に社会課題を解決するスタンスは変えたくないし、それこそが私が本当にやりたいことですからね」(大木さん)

COWのビジネスモデル。スマホ写真の売買で「世界から貧困をなくす」のが狙いだ

どうせ起業するなら「社会のため」に

大木さんはそもそも大学中退後、IT系企業に就職。ガラケーのコンテンツを手がける企業でプロデューサーやゲームソフトの卸会社で障害や広報などを従事してきた。その後、自社でサービスを起ち上げたスタートアップ企業で仕事をしてきた。

「ゲーム会社時代の知人に誘われて、起ち上げメンバーに。事業そのものにも魅力を感じましたが、創業者利得に目がくらんで…という側面もありましたね」(大木さん)

ところが、そのスタートアップは経営的な舵取りがまずく、業績が急降下。事業は休止状態に。優秀なエンジニアと大木さんは、そこで起業のアイデアを考え始めたという。

「そこから、初めて起業のアイデアを考えました。『COW』のアイデアはまだなかった。ただ、そんなぼんやりとした時期ながらも、はっきりと決めていたのが『世の中の問題や社会の課題を解決する手伝いができないかな』ということだったんです」(大木さん)

理由は大きく2つあった。1つは「ただ金儲けのために」というモチベーションでは長く続かないことを前職で実感したこと。2つめはこれまでIT事業などを手がけてくる中で多くの優秀なエンジニアたちと仕事をしていたこと。彼らの技術とスキルを活かすことができれば、これまでにないプロダクトを形にできるかもしれないという意識があったという。

「30歳を過ぎて、子供もできて…という人生のタイミングもあったと思います。自分が、周囲が成功したい、というよりもできるだけ多くの人、世の中のためになにかをしたいという意識が自然と芽生えた。加えて、一緒に仕事をするエンジニアがすばらしいものづくりの才を持っている。今ここで離れてしまったら、何かを形にすることはできないな、と思うようになっていたんです」(大木さん)

そんなときに、自然と目に入ってきたのがBOP問題、世界の所得格差だった。かつてように、食べるものも困窮する大変な貧困ではなく、仕事がなくて貧困を抜け出せないBOP層が多いことを知った。それでいて彼らは自分たちと同じように、コモディティ化しててにいれやすくなったスマホというツールは、そうした途上国でも実は普及率が高く、大勢が手にしていた。

世界の若者たちを応援するアプリ「COW」の画面。発展途上国のBOP層が撮影した画像をスマホアプリを介して売買。写真売買を通して、先進国から途上国への支援ができる仕組みだ

「そこで『スマホというすでにあるインフラを通して途上国と先進国にお金の行き来ができないか?』とひらめいた。単なる寄付では持続性がもたない。物販では余計なコストがかかる。『データでやりとりできる写真の売買ならどうだろう?』と、今のスタイルに辿り着いたわけです」(大木さん)

それが2016年の秋。実現するプラットフォームとアプリケーションは、エンジニアがスピーディに仕上げた。もっとも、売り手にどうこのサービスを利用してもらうか、は大きなネックだった。

転機はプノンペンの日系企業とのコネクションを紹介されたこと。現地のクメール語への翻訳や、PRなどを手伝ってもらうことに。道が開けた。何よりカンボジアは『COW』を使ってもらうのに、ふさわしい地でもあった。BOP層が多いという理由だけではない。

「様々な歴史がありましたからね」(大木さん)

「COW(カウ)」という、サービス名に込めた思い

1970年代後半。知っての通り、急進的な共産主義政権だったポルポト政権が牛耳っていた頃、カンボジアでは大虐殺の悲劇があった。そのため、一定年齢より上の世代の人口が極端に少なく、平均年齢は25歳ほどと若年層が多いのだ。

「結果として、金銭的に厳しい若い世代がたくさんいた。かといって日本のようにアルバイト先が簡単にみつかるわけでもなく、時給も安い。それがアプリで撮った写真を売れる、という簡便な稼ぎ口があったら喜んで参画してくれるだろうと。一方で、カンボジででも、若い人こそスマホは持っていますからね。参入障壁も少ない」(大木さん)

こうしてニーズが合致したカンボジアの若者たちに新たなカジュアルな収入源として『COW』が提案された。

同時に、日本にいながら「なにか社会的な課題の解決を手伝いたい」「格差を是正する一助となりたい」という思いを抱いている層にPR。さらに最近は「カジュアルに持続的に、カンボジアの彼らが勉強を続けるための手助けになる」という部分を押し出している。肩肘はらずに参画できる、“BOP支援の新しいカタチ”として利用者を少しずつ増やすことを狙っているわけだ。

サービス名、会社名としてつけた『COW』は、もちろん「牛」の意味だ。理由がある。

「牛って農作業で使ったり、大切な栄養素となったり、世界中の人々の生活に生活に密着して、重宝され続けている。それくらい身近な存在として、このサービスが根付かせていきたいんですよ」 遠い過去ではなく、近い未来を見つめつつ、大木さんは力強く言った。

なぜアウディはレンタカー「アウディ オン デマンド」を始めるのか

なぜアウディはレンタカー「アウディ オン デマンド」を始めるのか

2018.06.04

アウディ ジャパンはレンタカーサービス「アウディ オン デマンド」を開始した。コンパクトカーから高性能なスポーツカーまでの幅広いラインアップで、望みの場所にクルマを届けてくれる充実のサービスが売りだが、なぜアウディは自社でレンタカーに取り組むことを決めたのか。

アウディ版レンタカー「アウディ オン デマンド」が始まった

シンプルな使い方、クルマの受け渡しはコンシェルジュに

「アウディ オン デマンド」はネットでクルマを予約するレンタカーサービス。小型車「A1」やSUVの「Q2」、同社のフラッグシップスポーツカーである「R8 Spyder」など、12モデル14台からクルマが選べる。借りるクルマは「コンシェルジュ」が指定した場所に届けてくれて、使い終わったら引き取りに来てくれる。返す時にガソリンを満タンにする必要はない。

同サービスは2015年に始まっており、東京は世界で7番目の都市、9カ所目の拠点となる。2018年末までに世界で79の拠点を設ける方針だ。

利用可能なクルマは12モデル14台。この秋に日本導入予定の新型「A7」もラインアップに加わるそうだ

具体的な使い方だが、まず専用サイトに行って利用日時を入れると、利用可能なクルマの一覧が出るのでそこから選ぶ。あとはクルマを受け取る場所と返す場所を入力すれば、予約確認メールが届いて完了だ。コンシェルジュからは利用日の前に電話がかかってくるので、そこで詳細な受け渡し場所を決める。

コンシェルジュが来てくれるエリアは都内13区

気になる利用料金だが、最も安い小型車「A1」で4時間7,200円、1日あたり1万8,000円、最も高い「R8 Spyder」で4時間5万1,200円、1日あたり12万8,000円の設定となっている。一般的なレンタカーよりも高いが、アウディ ジャパンの斎藤徹社長は「価格で勝負するつもりはない」と強気。コンシェルジュをはじめとするプレミアムな体験が既存サービスとの差別化につながるとの見方だ。

利用料金は一般的なレンタカーより高いが、普通であればオプション扱いの自転車用ルーフラックやチャイルドシートなどは無料で付けてもらえるし、冬場であればスタッドレスタイヤが無償だ。走行距離は無制限で、満タン返却の必要もない

自動車メーカーがレンタカーに参画する理由

それでは、同サービスをアウディ ジャパンが自社で展開する狙いとは何か。単純にタッチポイントを増やしたいというのが理由だとすれば、既存のレンタカー事業者と組んで、車両を提供するような手法もあったはずだ。

まず、同サービスに参画する背景として斎藤社長は、「世界中で都市化が進む中、東京のように過密な都市ではクルマを手放す、あるいは所有しない顧客が増えると予想されている。クルマは所有するのにコストも掛かるので、必要な時に、必要な分だけ乗る、文字通り『オン デマンド』なサービスに対するニーズは増える」との見方を示した。想定する客層は、「大都市に住んでいてクルマを所有していないが、質の高いモビリティを求める人、あるいはクルマを所有しているが、アウディを体験してみたい人」だという。

この「R8 Spyder」も借りて乗れる

将来的に、同サービスでクルマを借りてくれた人にクルマを販売するのが狙いなのか、それとも同サービスそのものをビジネスとして成立させたいのかとの問いに斎藤社長は、「どちらかといえば後者」と答えた。自動車業界ではカーシェアリングの普及などを受けて「所有から使用へ」という言葉が聞かれるようになっているが、「アウディ オン デマンド」もこの流れに沿った動きといえる。

既存のレンタカーやカーシェアリングでアウディに乗ることも可能ではあるが、アウディ ジャパンでデジタリゼーション モビリティ マネージャーを務める坂田真一氏は「フルラインアップはインポーターの強み」とした。また、自社でレンタカーを手掛ける理由の1つとして斎藤社長は「ノウハウの蓄積」を挙げ、「サードパーティーに頼むとブラックボックスになるので、最初の駆け出しのところは自分達でやって、ノウハウを貯めるのが大切」と語った。

斎藤社長(中央)とコンシェルジュの皆さん

例えばトヨタ自動車もそうだが、自動車業界では「モビリティサービスプロバイダー」を目指すメーカーが増えている。クルマを作って売るという既存のビジネスモデルだけでなく、クルマをコアとしつつ、周辺の多種多様なサービスも手掛けて収益を多角化しようとする動きだが、アウディが目指すのもそんな姿だ。その流れから見ると、アウディがレンタカーを自ら始め、ノウハウを貯めようとするのも自然な動きといえそうだ。

70周年のポルシェに変化の兆し? 時代に対応するスポーツカーメーカー

70周年のポルシェに変化の兆し? 時代に対応するスポーツカーメーカー

2018.06.04

1948年6月8日に、ドイツでポルシェというスポーツカーが誕生してから70周年を祝う記者会見が開かれた。その舞台に飾られていたのは「356」でも「911」でもなく、次期型「カイエン」であった。この舞台設定に、スポーツカーメーカーにおける時代の変化を感じた。

東京都渋谷区のTRUNK (HOTEL)で開催されたポルシェ70周年記念記者会見では、舞台に「カイエン」が飾られていた

スポーツカー以外の販売台数が増えるポルシェ

ポルシェの名を冠した最初のスポーツカーである「356」は、フェルディナント・ポルシェ博士の息子らが開発した。今日、ポルシェは「911」や「ボクスター」、「ケイマン」だけでなく、2002年に発売したSUVの「カイエン」や2009年の「パナメーラ」、そして2014年の「マカン」など、いわゆるスポーツカー以外の車種が大きく売り上げに貢献している。とはいえ、ひとつの節目となる70周年を代表する車種として、カイエンが主役となったことは何かを示唆するものといえた。

日本で発売が近いことが新型「カイエン」展示の理由だろうが、その光景は示唆に富んでいると感じた

スポーツカーやGTカーといえば、何より速さと走行性能の高さが売りであり、従来は消費される燃料のエネルギー効率が顧みられることはあまりなかった。少なくとも、それらを愛用する顧客が燃費を意識することはほぼなかったといえるだろう。

だが、世界は今、環境問題が全てにおいて優先され、衣食住の全てにおいて効率が高く、無駄を省いた生活の実現に向かっている。移動手段としては、クルマはもとより鉄道やバスにおいても省エネルギーであることが求められる時代だ。スポーツカーやGTカーも、この流れと無関係ではいられない。

スポーツカーも世の中の流れと無関係ではいられない(画像は「911 タルガ 4 GTS」)

クルマの技術挑戦の場としても捉えられるモータースポーツの世界においても、燃料使用量の規制が1990年代から始まっていた。F1やル・マン24時間レースでは、スタートからゴールまでに使える燃料が制限されてきた。あるいは、減速時のエネルギー回生やハイブリッド(HV)技術がレーシングカーの動力に組み込まれたのである。

ポルシェの電動化も待ったなし

ポルシェも、すでにプラグインハイブリッド(PHV)車の販売をカイエンやパナメーラで始めており、今日、例えばパナメーラのEU域内での販売は、60%(2018年第1四半期)がPHVであるという。

2015年には、「ミッションE」と呼ぶEVを開発中であることを表明していたポルシェ。このクルマは2019年に欧州で発売する。七五三木(しめぎ)敏幸ポルシェ ジャパン社長は今回の記者会見で、ミッションEを2020年の早い時期に日本市場に導入すると公式に明らかにした。

ポルシェは、中期戦略『ストラテジー2025』において、2025年に販売する新車の50%をEVまたはPHVとすると公約している。

もちろんスポーツカーメーカーである以上、速さや動力性能、走行性能の高さは第一の要件であるとはいえ、それを損なうことのない形での電動化が着実に進行している。またクルマだけでなく、生産を行う工場においてもポルシェは、自然エネルギーの導入を進め、社会的責任を持った事業化を推進中であると七五三木社長は付け加えた。

ポルシェ ジャパンの七五三木社長

世界最大の折り込み広告を展開

ポルシェ ジャパンとしては、70周年記者会見を行った5月から7月にかけて、「スポーツカー・トゥギャザー」の概念に基づき、様々な施策を講じていくと記者会見の中で執行役員の山崎香織マーケティング部長は語った。

まず朝日新聞に、ギネス登録されることになった世界最大の折り込み広告を展開した。その他にも、70周年記念の特別WEBサイトを立ち上げ、投稿写真によるモザイクアート「#ポルシェ70」を始める。また、スマートフォン向けとして、ドライブルートを画面で確認できる「ザ・ローズ・バイ・ポルシェジャパン」を展開する。これは自分がドライブした道のりを後で辿れるだけでなく、他の人が走った道も知ることができるアプリだ。

ポルシェ ジャパンが朝日新聞に展開した折り込み広告は、約3.55㎡の広告面面積でギネスから世界最大の認定を受けた。会見にはギネス世界記録公式認定員も駆けつけた

6月には正規販売店での催し、また富士スピードウェイでのパレードや展示・試乗会を実施し、神奈川県の箱根ターンパイクにおいては、ル・マン24時間レースを制覇したマシンをEV化した「919EV」による同乗走行などが行われる。7月にはグランピングの体験と試乗会を実施する。これらのイベントについて山崎マーケティング部長は、「ポルシェオーナーはもちろん、ポルシェに興味のある方々にもぜひ参加していただきたい」と熱く語っていた。

ポルシェ ジャパンの山崎マーケティング部長

そして、その7月には、記者会見当日の舞台を飾った新型「カイエン」が発売を迎えることになる。

日本に販売台数増加の余地あり

昨年ポルシェは、世界で24万6,000台余りを出荷した。これは、世界で販売される新車の0.3%であるという。日本の状況はというと、2017年の国内新車販売は軽自動車を含め523万台強であったのに対し、ポルシェは過去最大の販売台数を記録したとはいえ6,923台であった。この国内の状況に0.3%の市場占有率をあてはめてみると、1万5,000台規模を目指す必要がある。軽自動車分を除いた339万台の登録車市場においても、1万台が目標と試算できる。

「911」などのスポーツカー系だけでなく、「カイエン」「パナメーラ」「マカン」を含めたSUVあるいは乗用スポーツカーの車種をさらに強化し、台数を積み重ねていく上で、必ずしもスポーツカー志向ではない見込み客へ向け、ソーシャルメディアやイベント活動が強化されていく。それを示したのが、今回の70周年記者会見であったといえそうだ。

ポルシェらしからぬ静かな室内空間

社会的な要求性能である環境適合性とスポーツカーの醍醐味の両立、また中核の「911」などスポーツカー以外の車種での商品性強化の一面を探るため、最新の「パナメーラ ターボ S E ハイブリッド」(PHV)に先頃、試乗してきた。「ポルシェである以上、単なるエコカーではない運転の楽しさを味わってください」との言葉に送られ、ガレージを出発した。

「パナメーラ」のPHVに試乗してきた

搭載されるリチウムイオンバッテリーにあらかじめ充電がされていれば、通常の走行はモーター駆動のみで十分だ。エアコンディショナーの効いた室内は、モーター走行による静かで快適な空間に保たれ、このクルマがポルシェであることを忘れそうな感覚だった。高速道路へ向かい速度を上げていっても、電力が残されていればモーター走行は続く。このモーター走行が、イグニッションを入れた際の標準設定となる。

ハイブリッド走行に切り替わっても、走行感覚は決して猛々しくない。ドイツの高級乗用車に乗っている感触だ。そこから、アクセルペダルをやや深く踏み込んでスポーツカーの顔をのぞかせてみた。

ドイツの高級乗用車といった感触の「パナメーラ」。スポーツカーとしての顔も見てみたくなった

そうはいってもポルシェはポルシェ

パナメーラの上級車種として、550馬力のV型8気筒ガソリンターボエンジンと100kWのモーターを搭載することにより、最高速度が時速310キロという超高性能車であるから、装着されるタイヤは超偏平で接地幅が広い。ことに後輪用は、接地幅が32.5センチメートルもある。速度を上げていったとき、太いタイヤが路面に適切に密着し、直進安定性はもちろん、カーブにおいてもハンドル操作に対し的確な進路を定める抜群の安定性と安心をもたらした。

スピードを上げた時の安心感はポルシェそのもの

ドイツでは、速度無制限区間のあるアウトバーンで時速200キロ以上の速度を維持しながら、長距離移動をすることが日常的である。いくら高い速度が出せたとしても、そこに安定性に基づく安心が無ければ、とても長時間運転を続けることはできない。

ポルシェが、瞬間の速さを楽しむスポーツカーの魅力だけでなく、グランドツーリングカー(GT)として、高速での長距離移動を快適に提供するクルマであるという独自性を、このパナメーラPHVでも体感することができた。その上で、走行モードを切り替えると、その瞬間から勇ましい排気音を轟かせる演出も備えていた。

ポルシェでありながら、イグニッションを入れた際にエンジン音が響かないのは不思議な感じだったが、走行中にモードを切り替えると勇ましい排気音を聞かせてくれた

1年半後には、EVの「ミッションE」が日本にも導入される。それも、単なるEVスポーツではなく、ポルシェのEVであることを体感させてくれるだろう。そんな期待が高まった。