パナソニックが業務用「TOUGHBOOK」スマホを小型化した背景とは?

パナソニックが業務用「TOUGHBOOK」スマホを小型化した背景とは?

2018.06.08

]short=業務用タフブックの小型化の理由

5月29日、パナソニックが業務用ハンドヘルド端末「FZ-T1」を発表した。倉庫や店舗において、バーコードを読み取る用途を想定した製品になる。

これまでパナソニックは、過酷な現場にも耐える頑丈なデバイスとして「TOUGHBOOK(タフブック)」シリーズを展開してきた。だが今回のモデルはスマホに近い、小型軽量なデザインに振ってきた。どのような背景があるのだろうか。

新モデルでは頑丈さと小型軽量を両立

TOUGHBOOKシリーズは、ノートPCやタブレット、ハンドヘルド端末といった製品を展開している。世界の物流や公共分野で活躍しており、米国の警察に採用されるなど高い評価を得てきたという。

ノートPCやタブレットも展開する「TOUGHBOOK」シリーズ

その中でも、片手で持てるハンドヘルド端末の「FZ-N1」や「FZ-X1」は、音声通話にも対応した、スマホに近い位置付けのモデルだ。だがその外装は、一般的なスマホと比べてはるかに頑丈にできている。

これらのモデルは屋外の過酷な現場を想定していたが、倉庫や店舗など屋内作業の現場からはポケットにも入る小型軽量モデルを求める声も多かったという。そこで新製品の「FZ-T1」では、FZ-N1よりも一回り小さくなっている。

FZ-T1(左)は、FZ-N1(右)よりもスマホに近いサイズになった

頑丈さをほどほどに抑えたとはいえ、一般のスマホに比べれば耐久性ははるかに高い。業務用端末は手荒な扱いを受けることが多いことから、パナソニックは「コンクリートへの150cmからの落下試験」を実施。これは米軍のMIL規格(合板へ120cmから落下)を上回る独自基準だという。

現場で意外と重宝されるのが、いかにも業務用端末という外観だ。日本では、作業員がスマホを操作していると一般客から「サボっている」ように見える問題があった。だが、TOUGHBOOKシリーズのように無骨な外観なら、普通のスマホでないことは一目瞭然というわけだ。

法人向けサービスも揃っている。多数の端末にWi-Fiの設定をするなど、手間のかかる作業はキッティングサービスにより代行。販売期間も、一般のスマホでは1〜2年で終了してしまうが、TOUGHBOOKは長期的に継続するという。

端末の長期運用で問題になるバッテリーの劣化に備えて、バッテリー交換にも対応する。しかも短時間であれば電源をオンにしたまま交換できるという。まさに国内の現場を知り尽くしたパナソニックならではの機能といえる。

電源を落とさずにバッテリーを交換する「ウォームスワップ」にも対応

パナソニックは、具体的な利用シーンとして倉庫や店舗における在庫管理業務を紹介。倉庫作業では、本体に内蔵したバーコードリーダーを用いて次々と在庫をカウントできることを示した。

本体上部にバーコードリーダーを搭載

店舗では、接客をしながらすぐに在庫確認ができることをメリットに挙げた。これまでは客を待たせてバックヤードのPCに走っていたが、ポケットサイズの端末ならその場で回答できるので、売上チャンスを逃さないというわけだ。

店舗ではその場で在庫を確認できる

端末には業務用にカスタマイズされたAndroidを搭載しており、使い勝手は一般のスマホに近い。かつては業務用端末でもWindowsが主流で、パナソニックもWindows搭載モデルを展開していたが、最近ではAndroidの需要が急増しているという。

NTTドコモとKDDIが業務用端末で対抗の構図

倉庫や店舗の作業現場では、経験の浅いアルバイトが配置されることも多い。だがAndroidベースの端末なら、日常的に使っているスマホに操作感が近く、すぐに使いこなせる点も評価されているという。

また、FZ-T1の機能の一部を簡略化したモデルとして、NTTドコモが「TOUGHBOOK P-01K」を法人向けに展開する。対するKDDIは京セラ製のタフネス端末として、業務用やアウトドア用途に「TORQUE」シリーズを展開しており、ドコモとパナソニックはこれに対抗する構図となった。

かつては一般向けのスマホも手がけていたパナソニックだが、ここ数年、国内展開は途絶えている。だがTOUGHBOOKシリーズのハンドヘルド端末は、業務用スマホという市場で独自のポジションを確立したといえそうだ。

累計生産500万台を達成! なぜ三菱自動車はタイに強いのか

累計生産500万台を達成! なぜ三菱自動車はタイに強いのか

2018.06.08

1961年にタイに進出した三菱自動車工業は、同国における累計生産台数で500万台を突破したことを記念し、益子修CEO出席のもと式典を開催した。式典はタイからも政府要人など多数のVIPを招いた大々的なものとなった。

三菱自動車のタイ現地法人は「Mitsubishi Motors (Thailand) Co.,LTD」(ミツビシ・モーターズ・タイランド、略称:MMTh)という名称。タイで初めての自動車輸出を行うなど、同国における三菱自動車の存在感は非常に高いものとなっている。記念式典の模様をレポートする前に、まずはMMThとタイの事情をお伝えしたい。

500万台突破記念式典の模様

タイは“東洋のデトロイト”

タイは“東洋のデトロイト”と呼ばれるほどに自動車産業が盛んな国として知られる。1940年代には自動車産業が存在しなかったが、1950年代後半から1960年代にかけては政府主導で自動車メーカーの工場誘致を積極的に行った。加えて、輸入自動車の関税を高く設定し、自国生産の外国ブランド車の税金は抑えることで、タイ国内での生産車のシェアを高めた。

さらに、輸出にも力を入れたことで、タイが東南アジアにおける自動車産業の中心となり、現在の産業形態を形成するに至っている。2017年のタイの自動車生産台数は約200万台と世界第10位だが、東南アジアでは最も生産量が多い。そのボリューム感は、英国の約170万台と比べると分かりやすい。なお、社名がMMThとなったのは、何度かの組織変更などを経た2003年のことだ。

タイは東南アジア随一の自動車王国に成長した

タイで50年を超える三菱自動車の歩み

そうした歴史の中でも、三菱自動車はタイの自動車産業にとって重要な存在となっている。タイにおける三菱自動車の歴史は、1961年に卸売り会社の「シチポール・モーター・カンパニー」を設立したことに始まる。1964年には組立会社を設立し、1988年にはタイからの自動車輸出第1号となる「ランサー」をカナダに輸出した。2010年に累計200万台を記録してからは加速度的に生産台数を伸ばし、2013年に300万台、2015年に400万台、そして2018年に500万台を生産するに至った。

三菱自動車のタイ生産を支えているのは、バンコクの南東に位置するレムチャバンにある工場だ。第1工場の稼働は1992年で、第2工場が1996年に稼働している。さらに、2011年にはプレス工場が稼働、2012年には第3工場が稼働し、グローバルスモールカーである「ミラージュ」の生産を開始した。同年には日本への輸出も始まっている。

立地に優位性

三菱自動車のタイ工場は、同国唯一の輸出港で、自動車輸出のほとんどを担うレムチャバン港の近くに3つある。この地区に自動車組立工場を持つ自動車メーカーは三菱自動車のみ。ここで「ミラージュ」「アトラージュ」「パジェロスポーツ」「トライトン」の4機種を製造している。部品の現地調達率も高い。

MMThの生産工場があるレムチャバンは、バンコクから100キロ程度離れた場所に位置する港町だ。事務機能をつかさどる本社はバンコク市内にあるが、100キロという距離は渋滞を考えなければさほど遠い距離ではない。MMThの各事業所は、バンコクおよびレムチャバン周辺に集中する。レムチャバン工場の至近には、開発拠点となるR&Dテストコースや輸出向け補修部品庫を配置。本社のあるバンコク北側には、トレーニングセンターと国内向け補修部品庫を配置している。

三菱自動車がタイに持つ拠点

日本の各メーカーもタイのバンコク周辺に生産工場を設けているが、レムチャバンに工場を持つのはMMThのみだ。MMThの場合、接岸した輸送船にそのまま自走で船積みが可能だが、レムチャバン以外に生産工場を持つ他のメーカーは、同港までをキャリアカーなどで輸送する必要があり、MMThの優位性が見て取れる。

輸出港に近い立地が三菱自動車の優位性となっている

生産能力は年間42.4万台

レムチャバン工場を構成するのは、第1~第3までの組み立て工場とエンジン工場だ。ピックアップトラックベースの乗用車ラインを備える第1工場では「パジェロスポーツ」を生産。第2工場ではピックアップトラックラインで「トライトン」を、第3工場では乗用車ラインで「ミラージュ」と「アトラージュ」をそれぞれ生産している。エンジン工場ではガソリンとディーゼルの双方を作る。

2018年3月末でのMMThの本社とレムチャバン工場の従業員数は計6,114人。うち5,600人弱がレムチャバン工場に勤務する。3工場を合わせた生産能力は年間42万4,000台にのぼり、2017年は35万6,000台を生産、稼働率は84%となっている。

現地調達率も高く、「パジェロスポーツ」では80%、「トライトン」では86%を占める。「ミラージュ」と「アトラージュ」では、日本からのノックダウンパーツはECUやクランクシャフトなどわずかなものだけで、その現地調達率は94%にものぼる。

2018年6月4日(月)午前10時(タイ現地時間)に始まったMMThの生産500万台記念式典には、来賓として佐渡島史郎日本国大使、三又裕生JETROバンコク事務所長などが来場。タイからはソムキット副首相をはじめ、ヒランヤー首相府省副大臣ら政府関係者のほか、MMThのアドバイザリーボードメンバーや主要メディア関係者などが訪れた。

式典のスピーチで三菱自動車CEOの益子修氏は、タイの「電動車インセンティブ」に参加することを表明。ASEAN地域における電動車製造のリーダーへの第一歩を踏み出した格好だ。

三菱自動車CEOがタイで語ったこと

一寸木(ちょっき)守一MMTh社長兼CEOのウエルカムスピーチに続いて登壇した益子修氏は、MMThにて500万台の生産が達成できたことに対する感謝を述べた後、その背景について語った。

「当社は、タイの国内経済が成長を続け、世界的な製造拠点となることができることを確信していました。長期的に自動車産業の成長を促進する貴国の政策が、当社のビジネスを支えてくれました。これがあったからこそ、当社は1961年からタイで投資を行うことができました」

「当社は1987年に販売会社と製造会社を統合することで、ビジネス基盤を強化しました。2003年にはミツビシ・モーターズ・タイランドを設立し、累計生産台数100万台を達成しました。累計生産台数は2010年には200万台、2013年には300万台、2015年には400万台に達しました。そして、今日500万台が実現しました」

さらに、益子氏はタイが同社のグローバル生産拠点であることを強調しつつ、タイのモータリゼーションが進もうとしている道について、次のように語った。

式典に出席した益子CEO(中央、右から2人目)

「今後、タイは電気自動車へのシフトを図ろうとしており、電気自動車に関する包括的なインフラの開発を支えながら、メーカー向けの施策を実施しようとしています。このような状況は、三菱自動車のクリーンなエネルギーのための施策と合致し、三菱自動車はタイ政府およびエネルギー企業と力を合わせて、約10年前から電気自動車のインフラ開発に取り組んでいます」

「ソムキット副首相が提供する『タイランド4.0』というインセンティブ政策は、タイを環境に優しい技術を導入していく国家へと変えるものです。私たちもタイの自動車電動化についてしっかりと調査し、その政策にしっかりと対応して行きたいと思っています」

タイにおいて具体的にどういうクルマを発売するなどという発言はなかったが、電気自動車(EV)もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)の製造について最初の一歩を示した今回の決断は、タイ、いやASEAN地域における、三菱自動車の存在感の大きさをあらためて誇示したものとなった。

広大な研修センター設立、ASEANへの波及効果に期待

三菱自動車はバンコク北部のパトゥムタニ県に「エデュケーション・アカデミー」と呼ばれる研修センターを設立した。約8,700平方メートルと広大な敷地面積を有する同施設では、販売会社のスタッフやMMThの社員などに対し、常時100~150人体制で研修を実施することが可能だ。MMThの生産500万台記念式典の翌日には、同センターの開設記念式典を開催した。

開設記念式典には前日に続き、益子氏や一寸木氏らが参加。施設内を見学するパートでは各セクションで担当者による解説も行われたが、一寸木氏が直接、益子氏や記者たちに説明する姿や、両CEOがスタッフに積極的に声がけする姿が見られた。

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「エデュケーション・アカデミー」は2018年初旬にすでにソフトオープンし、その機能を発揮し始めていたが、今回のグランドオープンにより、全ての機能が使えるようになった。この施設は、タイ国内における研修機能はもちろんのこと、ASEAN地域諸国の研修ハブとしての機能も果たすものと期待されている。秘匿関係についてもしっかりとしているので、発売前の新型車の研修なども行える施設となっている。

作業の“見える化”が特徴

施設内は実際に存在するディーラーなどを想定していて、セールスフロントやサービスフロント、サービスピットなどを模した研修室で実際の業務に則した研修を受けられるようになっている。そこには三菱自動車が理想とするディーラーの姿がある。特徴的に感じたのは作業の“見える化”で、サービス作業を待つロビーを模したソファのあるスペースには、撮影所セットのようにイラストでサービスピットが描かれていた。

施設内の様子

サービスピットには最新の機器が置かれ、質の高い作業が習得できるようになっているほか、コンピュータ作業の研修なども受けられるようになっている。その規模感、設備などは一流の雰囲気にあふれていて、ここで研修を受けた経験そのものが、三菱車の品質、ディーラーマンの資質について、よい方向に影響することは間違いなさそうだ。

約60年、変わらぬ魅力を守るデザイン展開 - コクヨ「測量野帳」

モノのデザイン 第38回

約60年、変わらぬ魅力を守るデザイン展開 - コクヨ「測量野帳」

2018.06.07

ここ数年でじわじわと人気を集め、ちょっとしたブームとなっている「測量野帳」。1959年に文具メーカーのコクヨから発売されて以降、60年近くにわたって愛され続けている超ロングセラー商品だ

コクヨのロングセラー商品「測量野帳」。3種展開で、中の紙の罫が異なる

もとは発売の10年前に「測量法」が改正されたのを受け、測量士さんからのリクエストを受けて開発された測量用のノートで、土木・建築の現場で使われ続けてきた。それがここ10年ほどで一般ユーザーの間でも大人気となり、愛好家たちを称して"ヤチョラー"などとも呼ばれている。その人気の秘密に迫るべく、デザインを中心にコクヨ ステーショナリー事業本部マーケティング本部広報宣伝ユニットの伊藤裕美氏に話を聞いた。

60年近く変わらぬ測量野帳のデザイン

コクヨ ステーショナリー事業本部マーケティング本部広報宣伝ユニットの伊藤裕美氏

伊藤氏によると、測量野帳は品質面での改良は何度か行われているものの、デザインは60年近くにわたり、ほぼそのままだという。緑の硬い表紙に金色の箔押しというデザインは、商品の意匠として守り続けてきたものだそうだ。

「もともと測量士さんの作業向けで発売した商品ですので、デザインというよりも実用的であることが最優先。作業着のポケットに収まるサイズと形状、厚みであることと、立ったまま書きやすいようにハードな表紙が採用されています」

測量野帳は発売当初より上記の3種類が取りそろえられている。ちなみに、現在は販売されていないが、発売当時は縦開きタイプのOFFSETが展開されていた。

LEVEL=高さを測るもの、TRANSIT=角度を測るもの、SKETCH BOOK=イラストや図面用という位置づけで、それぞれの用途に適した罫を印刷。中紙にはコクヨオリジナルの紙で、幅広い筆記具に対応できるような素材が採用されている。

測量野帳は表紙が硬く、立ったままでも記入しやすい。

それ以外に、ウォータープルーフタイプもラインナップしている。樹脂ベースの合成紙を使用しているため、一般的な紙よりも水や汚れに強く、破れにくい。このウオータープルーフタイプに関しては、赤・黄・青の3色の表紙も展開。色を変えた理由は、落とした時に見つけやすく、見分けがつくように分けた意味合いが強いとのこと。実用性を重視した色選びのようだが、どこか懐かしさを覚える色選びに、オリジナルのグリーンと共通の印象を持った。

野帳ブーム、過熱の裏には「限定デザイン」

オリジナルの測量野帳は"質実剛健"とも言えるデザインだが、昨今のブームを巻き起こした理由のひとつに「限定デザイン」がある。同社の業務用名入れサービス「CUSTOM FACTORY」を利用すると、表紙をカスタマイズした測量野帳を作ることができる。そのため、企業のノベルティといったかたちで、多種多様なデザインのものが多く存在する。また、雑誌の付録や文化施設での販売などのために、限定の測量野帳が登場することもある。

2013年から開催されている同社の博覧会「コクヨハク」でも限定デザインの測量野帳が販売され、即完売するほどの人気商品となっている。「そこでしか買えないプレミアム感もあり、限定モノをコレクションしているユーザーさんも多いようです。かわいい柄や珍しい柄が特に人気ですね」と伊藤氏。

伊藤氏によると、昨今のブームの火付け役となったのが2016年に枻出版社から発売された「測量野帳スタイルブック」。それ以前より、同社は測量野帳の”普段使い”文化について把握しており、ユーザーを「ヤチョラー」と呼び、ユーザーインタビュー記事や用途がわかる写真の掲載を行っている。

測量野帳を測量以外に使っている例。こうした用途では、グリッドの罫線を備えた「SKECH BOOK」が人気だとか。

しかし、こうした「ヤチョラー」の存在は、同社が主導してプロモーションなどの活動を行った結果ではないという。「昨今の測量用途以外のご利用について、文具愛好家の間から自然発生的に広がっていきました。弊社からすれば、気づいたら”ヤチョラー”がいらっしゃった、という状況です。ソーシャルネットワークの影響も大きいかもしれません」と分析。メーカーとしてヤチョラーに特化した販促は予定しておらず、限定デザインをイベントなどで展開しつつ、ブームを静観しながら見守っているという状況のようだ。

ブームが巻き起こると、起こりがちなのが商品の"横展開"。測量野帳で言えば、罫線のバリエーションの追加や、定番デザインの増加などがそれにあたる。しかし、それに対してもメーカー側は冷静な姿勢を崩さない。

「まったく検討しないわけではありませんが、なぜ今の時代にもこの商品が受け入れられているかを考えると、"レトロ感"というのがあると思います。すなわち、"変わらない良さ"が愛されているということ。それを思うと、あえてデザインなりを変える必要はないと思っています。むしろ、ブレずにある種の伝統を守っていくことが重要だと考えています」

一方、「コクヨハク」限定の測量野帳については、毎回趣向を凝らしている。その年ごとに博覧会のテーマを設定し、それに合わせてデザインを考えているとのことで、特に測量野帳独自のデザイン上のルールを設けているわけではないそうだ。

「コクヨハク限定の測量野帳は開催年ごとに異なるテーマにあわせて作るため、限定野帳だけを通期で見た時のデザインの一貫性はあえて考えていません。今年は"レストラン"がテーマだったので、お菓子っぽいカラーリングのパステルカラーの商品を発売しました」と伊藤氏。

2018年のコクヨハク限定品として販売された、マカロンをテーマにしたパステルカラーの限定野帳。

また、今年の限定野帳を担当したデザイナーによると、スイーツの味をイメージしたカラー選びを行ったほか、「表紙の紙質もマカロンのような少しマットでザラっとしている質感の紙を選びました」とのこと。さらに「本当はそれに合った香りもつけたかったのですが、諸事情で断念しました」と明かす。

デザイナーから見た、測量野帳の魅力

デザイナーの視点からは、測量野帳のデザインの魅力はどこにあると考えているだろうか。

「カラーリングや素材を変えたり、イラストレーターとコラボレーションしたりするなど、さまざまな方向性を柔軟に取り入れているにもかかわらず、サイズ感やしっかりとした書き心地などから伝わってくる、変わらぬ"測量野帳らしさ"が魅力だと思います」(コクヨハク限定野帳担当デザイナー)

今年のコクヨハクの限定商品では、こんなデザイン検討の一幕があったという。"SKETCH BOOK"という表紙のロゴの代わりに、マカロンの味をイメージした"STRAWBERRY"や"BLUEBERRY"というロゴに変える案もあったそうだ。しかし、検討を経て、"SKETCH BOOK"の金色のロゴが「測量野帳らしさ」を担っていると気づいたことから、その案は採用に至らなかった。用途を示す箔押しのロゴも、野帳らしさを担保する大きな要素であったことが再確認できたという。

最後に、60年近くにわたり今も受け入れられ続けている測量野帳について、コクヨハク限定野帳のデザイン担当者にその理由を分析してもらったところ、次のように答えてくれた。

「約60年経ってもほぼ変わっていないデザインや、罫線・書き味など細部のこだわりから伝わる"安心感"。それでいて、ユーザーが使用シーンに合わせてより使いやすくカスタマイズしたり、好きなように表紙をデコレーションできる"汎用性"の高さが、長く受け入れられる理由のひとつではないかと感じています」

歴代の測量野帳を見せていただいた。素材変更などはありつつ、基本仕様はずっと変わっていない。表紙の角に押された企業ロゴで、何代目か判別できる。

およそ60年にわたり愛される超ロングセラー商品のコクヨ「測量野帳」。インタビューを通じて、普遍的でありながらも汎用性があることがスタンダードになるための条件であると感じた。次々と新しいものが生まれては廃れ消えていく中で、小手先だけの見た目のよさを追求するのではなく、機能美を貫くことこそが、市場で長く生き残る秘訣なのかもしれない。