日立、IoTプラットフォーム「Lumada」をグロバール展開し成長路線へ

日立、IoTプラットフォーム「Lumada」をグロバール展開し成長路線へ

2018.06.11

日立製作所は、2018年6月8日、アナリストや報道関係者を対象にした事業戦略説明会「Hitachi IR Day 2018」を開催した。

日立製作所 システム&サービス事業 執行役副社長 システム&サービスビジネス統括責任者兼社会イノベーション事業統括責任者の塩塚啓一氏

そのなかで、日立製作所 システム&サービス事業 執行役副社長 システム&サービスビジネス統括責任者兼社会イノベーション事業統括責任者の塩塚啓一氏は、システム&サービス事業、ヘルスケアビジネスユニット、ディフェンスビジネスユニットの合計の分野において、「トリプルスリー作戦」を打ち出し、2021年度には、売上収益で3兆円、IoTプラットフォームLumadaコアによるデジタルソリューションが占める売上収益比率を30%、営業利益で3000億円超を目指す方針を明かにした。

「現時点では、これは、私自身の腹づもりであり、次期中期経営計画に反映するものになる」と位置づけながらも、「Lumadaを中核としたデジタルセントリックな事業体を確立し、デジタルの力を最大化。日立全体の社会イノベーション事業を牽引していく役割を担う」などとした。

また、システム&サービス事業部門として、「我々がグローバルトップクラスと定義している調整後営業利益率10%超、年平均成長率5%超であり、これを、2021年度までに達成する。なんとしてでもこのボジションにたどり着きたい」とし、「これまでは営業利益率の向上にこだわり、その成果はあがってきている。だが、世界に目を向けると、利益率および成長率はまだ十分とはいえない。2021年度までに、グローバルトップクラスのシステムベンダーになるためには、現在の収益性を維持、向上させるだけでなく、売上収益を伸ばす必要がある。とくに海外の売上収益を伸ばす必要がある。2021年度には、海外売上収益を1兆円規模に高めたい」とした。現在、海外売上収益は、システム&サービス事業の売上収益2兆円のうち、約2~3割を占めているという。

さらに、海外事業においては、アジアを中心に、1万人規模での人員増強を計画していることを明らかにした。北米およびアジアでの成長を軸にした成長戦略を描くという。

「重要なのは海外におけるデリバリー力。いまはデリバリー力が十分ではない。北米においては、今後、市場成長が見込まれ、事業機会が拡大する。また、アジアでは、日系企業のアジア拠点向けなどで国内事業の強みを活用できる。付加価値が高いソリューションを届けるためには、買収や資本提携によって新たなリソースを獲得し、自社のOTおよびITのノウハウをかけあわせて、シナジーを発揮することを目指す。ここでは、大きな投資も辞さないという覚悟でプランニングをしている」などとした。

情報・通信システムセグメントにおいては、「この3年間は収益性を高め、営業利益を稼ぎだし、手元のキャッシュを厚くすることに徹底的に取り組んできた」とし、2015年度には売上収益が2兆1093億円、調整後営業利益率は6.7%、EBIT率は5.2%であったものが、2017年度には、売上収益2兆89億円、調整後営業利益率9.4%、EBIT率が6.9%に達したことを示しながら、「事業ポートフォリオを変革し、経営基盤を強化し、事業部のリスクをマネージしながら、きちっとリターンにつなげることができる筋肉質な事業体になったと実感している」とこれまでの取り組みを総括。

情報・通信システムセグメントの業績の推移

2018年度見通しでは、売上収益で2.4兆円、営業利益率9%台半ばを目指し、「営業利益率は2桁の直前まで到達してきた。今後は10%を目指すことになる」とコメント。「筋肉質な体質にするために、ソリューションおよびサービスを中心とした事業ポートフォリオに変革してきた。ITサービスのoXyaや、ビックデータアナリティクスのPentahoの買収などにより、新たな事業リソースを獲得したり、シスコシステムズやSAPなどと協業したりといった取り組みに加えて、日立ソリューションズなどのグループ企業の事業統合や新会社の設立を行う一方で、ハードウェア分野においては事業所の閉鎖なども行った。この3年間で約2500億円の事業を遠ざけたが、それでも売上収益を落ち込ませることなく、2兆円規模を維持し、営業利益率を着実に伸ばしてきた。売上収益は伸びていないが、マーケットの変化にあわせて、事業の中身を大きく変えてきた」と述べた。

事業ポートフォリオの変革

さらに、「日々状況が変化する情報・通信分野の構造改革には終わりがないが、この2、3年間で、一定の目処がつき、次の成長に向けた準備が整った」と、これまでに成果に自信をみせた。

さらに、ロスコスト削減や生産性向上の取り組みとしては、プロジェクトライフサイクルを通じたリスク管理や、損益悪化時の早期検知の強化などによる「プロジェクト管理の徹底・強化」、AIやRPAの活用によるアプリケーション開発やSE作業の効率化、Lumadaの活用促進とOSSやDevOpsによる開発環境整備および強化による「デジタル技術を活用した生産性向上」、40カ所に設置したサテライトオフィスの整備による業務効率化やRPAの導入による「働き方改革による生産性向上」の3点に取り組んできたことを説明。「これらに愚直に取り組むことで、生産性を高め、収益性を改善できた」と振り返った。

ロスコスト削減や生産性向上の取り組み

また、ここ数年の体質強化によって、情報・通信システム事業は、2017年度に成長戦略に転換したと述べ、「当社の成長戦略において最も重要な役割を果たしているのがLumadaである。これまで日立が培ってきたOTと先端技術のITを組み合わせて、これをユースケース化することで、素早くソリューションを届けることができ、顧客のデジルトランスフォーメーションを支援してきた」とコメントしながら、Lumadaに向けた具体的な取り組みとして、「グローバル提供体制の構築」、「グローバル横串機能の整備」、「デジタル人財の強化」の3点に取り組んできたことを示した。

成長戦略への転換

「グローバル提供体制の構築」では、2017年9月に設立したHitachi Vantaraや、2018年4月に発足したHitachi Global Digital Holdingsによるグローバルにソリューションをデリバリーする体制の構築や、ファナックやPreferred Networksなどとの協業によるオープンエコシステムの推進に向けたパートナーリングの強化を紹介。KDDIとの協業では、Lumadaと、KDDIの「IoT世界基盤」を連携し、様々な産業において、IoTを活用した新たな価値の創出や、ビジネス変革を支援することを目指すことを紹介した。

「グローバル横串機能の整備」は、フロントビジネスの成長を支える取り組みに位置づけ、「ここでは、グローバルで共通に利用できるLumadaのユースケースやソリューションコアの整備を進めた」とした。

Lumadaのユースケースは現時点で550件に達し、わずか1年で300件以上増加し、倍増以上となったこと、これを2018年度中には1000件を目標にするとしたほか、ソリューションコアの数は、2018年度中には100種類以上に拡大する計画も示した。

「2016年度からの3年間で、Lumada関連投資は、1000億円を計画しており、これまでに毎年300億円ずつ投資してきた。2018年度は、次期中期経営計画に向けた準備の年でもあり、投資額が少し厚くなる」などとした。

「デジタル人財の強化」では、AIやセキュリティの最新デジタル技術を持った人材の獲得と育成強化を開始することに触れ、「ものすごいスピードで変化している日立グループの事業環境にあわせて、人材の厚みを増すことは欠かせない取り組みだ」と述べた。

日立製作所 産業・流通事業 執行役常務 産業・流通ビジネスユニット CEOの阿部淳氏

なお、Lumadaの売上収益は、2017年度実績で1兆60億円のうち43%が産業・流通事業によるものであり、「日立の大みか事業所の高効率生産モデルをソリューションコア化するとともに、協創を通じた新規顧客の開拓や新たなサービスを創生などにより、Lumadaを活用したデジタルソリューション事業を拡大した」(日立製作所 産業・流通事業 執行役常務 産業・流通ビジネスユニット CEOの阿部淳氏)という。

大みか工場には、年間で300社の見学に訪れている実績があり、スマートファクトリーに対する関心が高まっていることも示した。

また、産業、流通分野では、SAP S/4 HANAをコアに高付加価値化を図っていく考えを示し、保守期限が2025年に迫っていることを背景にした置き換え需要を取り込む考えを見せた。

「SAP S/4 HANAは好調であり、日立のOTの強みを生かして、経営から現場までのソリューションを提供していく。だが、SI事業全体では受注前の時点で、ロスコストが発生しており、プロジェクトマネジメントの強化や人材育成により、SI事業の収益性を高めたい」(日立製作所の阿部執行役常務)とした。

日立グループは、SAP関連ビジネスで国内トップクラスの構築実績を持つほか、日立グループ内においても32カ国400社612拠点にSAPを活用している実績があるという。

日立製作所 産業・流通・水分野 インダストリアルプロダクツビジネスユニット執行役副社長 産業機器統括本部長兼日立産機システム 取締役会長の青木優和氏

また、日立製作所 産業・流通・水分野 インダストリアルプロダクツビジネスユニット執行役副社長 産業機器統括本部長兼日立産機システム 取締役会長の青木優和氏は、「産業・流通分野では、プロダクトの強化、デジタルソリューションの拡大、SALLAIRの買収による北米を中心とした顧客基盤の獲得の3点に取り組んでいる。このなかでは、製造業を中心とした顧客との協創推進を進める。産業系の顧客に対して、ベストソリューションパートナーになることを目指す」と述べた。

日立製作所の塩塚副社長は、「Lumada事業は順調に拡大しており、この勢いを2018年度も継続したい」と語る一方で、「2018年度は、中期経営計画で掲げた目標数値を達成することに加えて、次なるステージに向けたステップアップの年と位置づけて、次期2021中期経営計画の準備に入りたい」と宣言。「そのために、Society 5.0の実現に向けたデジタルソリューションによって社会イノベーション事業をさらに加速させるとともに、事業をより強化するために、買収や資本提携なども視野に入れて、グローバルでのさらなる成長を目指す」と語った。

一方、日立製作所の東原敏昭執行役社長兼CEOは、「4月27日の決算発表以降、多くの投資家と話をしたが、『日立はだいぶ変わった』、『ようやく有言実行の会社になった』という声をいただく一方で、『改革をもっとスピードをあげなくてはいけない』といった指摘もあった。

日立製作所 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

日立は、2016年4月に、情報・通信カンパニーや社会インフラカンパニーなどの大きな括りであった社内カンパニー制をやめて、管理がしやすく、直接、ビジネスユニットのCEOと会話をしながら改革を進めることができるスモールビジネスユニット制に変えた。ビジネスユニットにおいても、ソリューションを顧客と一緒に考えるフロントビジネスユニット、Lumadaを中核に日立グループ全体で活用するプラットフォームビジネスユニット、製品を担当するプロダクトビジネスユニットの3階層に変えて、組織の特徴づけをした」などとし、「この結果、収益性が高まってきた。そこで、成長へのギアチェンジを図った。2017年4月には、電力・エネルギー、産業、アーバン、金融・公共の4つのグループに分け、それぞれに副社長をアサインし、成長戦略を考えるというミッションを与えた」と、2017年度までの取り組みを振り返った。

さらに、「2018年度を最終年度としている2018中期経営計画では、営業利益率8%を超えこと、当期純利益4000億円を目指している。これを達成することは達成することはもちろんだが、2021年度に向けた日立グループの形を示すことがもっと大切である。日立はデジタル技術を用いて、高度な社会インフラをグローバルに提供し、人々のよりよい暮らしを実現する会社でありたい。この目標は、SDGsやSociety 5.0の動きにも合致するものになり、2021年度に向けて、社会イノベーション事業を推進する。一方で、世界で戦えるためには2桁の営業利益率が必要であると考えている。そのためには、コスト構造を意識したトランスフォーメーションを推進していくことになる。日立のこれからは大きく変わる」などとした。

2021年度までに達成したい目標氏

また、Lumadaについては、「2016年5月に発表して以来、ユースケースも集まり、認知度もあがってきた。日立グループ内の工場や営業部門でもさらに活用できると考え、各ビジネスユニットに、CLO(Chief Lumada Officer)を配置し、Lumadaを活用する動きが出てきた。多品種少量生産や大量生産など、様々な工場で導入し、その成果が出たときには、顧客に公開するようにした。さらに、顧客の課題を解決するために、リードタイムの短縮や品質向上といった課題を見える化し、ビジネスモデルを変革する提案を推進。顧客協創方法論のNEXPERIENCEを用いて、顧客とのコラボレーションによってプロセスを明確化。このソリューションが有効であれば、Lumada上に乗せるといった取り組みを行っており、すでに500件以上のユースケースを蓄えることができている」などと述べた。

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

高すぎるiPhoneは売れる? 奔走するキャリアと余裕のApple

2018.09.21

iPhone Xs、Xs Maxが発売。価格は最大17万円越えと高価

キャリア各社による、これまでとこれからのiPhoneの売り方は?

Appleの強気の価格設定の裏に「型落ち機」の存在感

9月21日、いよいよ新型iPhoneが発売となった。iPhone XSは昨年発売されたiPhone Xの後継モデルで、iPhone XS Maxは6.5インチの大画面が特徴だ。

性能とは別に、話題となっているのが本体価格だろう。今回、いずれも64GB、256GB、512GBの3つの容量が用意されているが、64GBモデルでも12万円を超え、512GBモデルとなれば17万円を超える値付けとなっている。もはや、スマホとは思えない価格設定だ。

ついに発売された「iPhone Xs」と「iPhone Xs Max」

他国に比べ圧倒的にiPhoneのシェアが高い日本だが、そんな状況が生まれた理由の1つとして、これまでは「安価に買えた」というポイントは無視できない。

「安いiPhone」が日本普及の鍵だった

かつてソフトバンクはiPhoneを販売するにあたり、「Everybodyキャンペーン」と銘打ち、端末代が実質ゼロ円となる施策を実施。ガラケーに使い慣れていたユーザーに、iPhoneをお試し的に使えるキャンペーンがハマった。また、KDDIとNTTドコモが相次いでiPhoneの取り扱いを始めたことで、同じ機種を3キャリアが同時に扱うという競争環境が生まれ、各社でキャッシュバックや実質ゼロ円での販売が横行。結果として「Andoridスマホを買うより安い」という状況が生まれた。

さらにiPhone人気に拍車をかけたのが「下取り」だ。iPhoneを販売する際、各キャリアが持ち込まれた”使用済み”iPhoneを高値で買い取ったため、「iPhoneはリセールバリューが高い」という認識が広まったのだ。

分離プラン、4年縛り……奔走するキャリア各社

しかし、ここ数年は総務省がキャッシュバックや実質ゼロ円販売に歯止めをかけた。これにより、過剰な端末割引は表向きは鳴りを潜めた。

総務省としては、端末の割引をやめることで、余った原資を通信料金の値下げに回すべきという考えを持っている。その意向に賛同したのが、KDDIが昨年始めた「ピタットプラン」だ。ピタットプランは、端末の割引をやめ、ユーザーが使った分だけ料金を請求するという、いわゆる分離プランになっている。

データ利用量に応じて支払い金額が変動する「ピタットプラン」

しかし、端末の割引がなくなってしまうと、10万円以上するiPhoneを購入するのはかなり心理的な負担が大きい。ユーザーの負担を抑えつつ高価なiPhoneを売るため、KDDIが始めたのが4年割賦、いわゆる4年縛りだ。iPhoneの本体価格を4年、48回払いにすることで、月々の負担額を下げた。

ただ、これでは機種変更が4年に1回になってしまいかねないだけに、メーカーが痛手を被る可能性がある。そこで、同じ機種を2年間使い続けたら、残債の負担なしに機種変更できるという決まりを作った。ただし、機種変更する際には、今使っている端末を回収するという条件となっている。

そういったユーザーとメーカーに配慮した売り方に対して、待ったをかけたのが公正取引委員会だ。

4年割賦で購入した場合、2年後に機種変更すると、さらに同じプログラムに加入しなくてはならず、さらに4年の割賦が発生する。そうなると結局、半永久的に縛られることになるため「それはよろしくない」ということで、KDDIとソフトバンクに改善を求めたのだ。そこで両社は、機種変更時に、同じプログラムの加入を強制しないと改めた。

ただ、これで4年割賦がなくなるかと思いきや、今年のKDDIとソフトバンクのiPhone商戦は、やはり4年割賦がメインの売り方となっている。

本体価格を見ると、「実質価格」として、2年間で支払う金額が強調してある。まるで、半額でiPhoneが買えてしまうような見せ方だ。機種変更時に端末の回収が必須だということは、本当に小さくしか書かれていない。

SoftBank 「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

KDDI「iPhone Xs」「iPhone Xs Max」料金ページ

とはいえ、総務省に端末割引に対して厳しいメスが入れられたことで、4年縛り以外売る方法がないというのが実情だ。高価なスマホを購入するために、4年も拘束されることが本当にユーザーのためになっているのかは、改めて検証する必要があるだろう。

「売れ行き不調」でも強いApple、型落ちiPhoneが暗躍

ここまで高価な値付けをしてくるAppleの自信は一体どこから来るのか。

Appleとしては、iPhone XS、iPhone XS Maxをフラグシップモデルと位置づけているが、必ずしも「主力商品」とは考えていないのかも知れない。最新バージョンとなるiOS12は6年前の機種となるiPhone 5sから利用可能だ。Appleは、iPhone XS、iPhone XS Maxを売るにあたって、iPhone 7やiPhone 8を1万円ほど値下げしている。

日本では、サブブランドのワイモバイルや、KDDI子会社のUQモバイルがiPhone 6sを販売。また、NTTドコモも毎月1500円、通信料金が割引される「docomo with」でiPhone 6sの取り扱いを開始した。

docomo withの対象機器に追加された「iPhon 6s」。最新iOSへのアップデートが可能であるため、そこまで高い性能を求めなければ、十分に使える

関連記事:分離プラン普及の試金石"docomo with"に「iPhone 6s」追加のワケhttps://biz.news.mynavi.jp/articles/-/1950

Appleはこうした型落ち端末で、ガラケーユーザーからiPhoneへの乗り換えを促し、新規ユーザーを獲得しつつ、iPhoneから離れられなくなったユーザーに高価な最新機種を売っていくという戦略なのだろう。

実際、海外市場では型落ちiPhoneや中古iPhoneがよく売れている。iPhone 6sなどの型落ち機種でも、iOS12をインストールするとサクサクと動くという声も多く、意外と評判がいい。

今後、iPhone XS、iPhone XS Maxが「高くて売れていないようだ」といった報道が出てくるかもしれない。しかし、それだけでAppleの勢いが落ちていると見るのは早計だ。じわじわと売れ続ける型落ちiPhoneこそが、Appleの本当の実力を表しているといえるだろう。

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

新Apple Watchは「医療」で成功する、Appleは本気だ

2018.09.21

9月21日、「Apple Watch Series4」が発売

最新機はフィットネスの成功を土台に、より健康志向に

心電図機能の追加で、医療業界に影響をもたらす存在となる

9月12日に行われたAppleの発表会で、新iPhone「XS/XRシリーズ」と、新Apple Watch「Series 4」が登場した。iPhoneの市場の大きさから、発表会後の話題はiPhone一色になっているところがある。

新しいApple Watchである「Series4」。日本では9月21日より発売

しかし、発表会に参加し、現場を取材した筆者の感触でいえば、Apple Watchの発表は、iPhoneと同等、いやそれ以上に戦略的な意味合いをもっていたように思える。ではそれはなんなのか? 解説してみよう。

Apple WatchはAppleの「ヒット製品」に返り咲く

Appleのティム・クックCEOは、「Apple Watchは、世界で一番人気のある時計になった」と発表会で語った。人気とは売り上げ金額なのか数なのか、集計期間はいつからいつまでなのかなど、まあ、いろいろ突っ込みたい部分はある。

Appleのティム・クックCEO

だが、Apple Watchが当初の「過大な期待と持ち上げの時期」を過ぎ、Appleの中でも「重要な、売れるプロダクト」になったのは間違いない。ヒット製品の少ないウェアラブル機器の中で、Apple Watchは累計では数千万本が売れ、iPhone・Mac・iPad「以外」のApple製品の中では、圧倒的な稼ぎ頭に成長している。

Apple Watchが登場した時、市場は「ポストスマホ」的な期待を抱いた部分がある。だが、実際のスマートウォッチはそうしたものではなく、スマホの周辺機器の域を出ていない。そのことを「期待外れ」と考える人はまだ多いようだ。

だが、結果的に言えば、Appleはじっくり取り組むことで、この市場でも成功を収めつつある。ポイントは「フィットネス」だ。iPhoneからの通知を表示する、というもっとも基本的だが誰もが使う機能に加え、フィットネスの状況を可視化し、より楽しく効率的に体を動かすことに役立つ機器としてApple Watchに磨きをかけることで、非常に底堅いニーズを生み出し、顧客を掴んだ。

「スマホがあるし、普通の腕時計でいいからApple Watchはいらない」という方もいるだろう。それも真実だ。だからこそ「スマホだけでも、普通の腕時計だけでもダメな部分」を見極めることで、Apple Watchは成功に近づきつつある。

フィットネスの成功を土台に「より健康志向」へ

では、今年のApple Watchはどこを狙うのか?

昨年まで、Apple Watchの発表は「フィットネスの発表会」のようだった。だが、今回の製品ではその要素は見えない。フィットネスへの対応はすでに「基本機能」だし、Apple WatchのOSである「WatchOS」のアップデートにより、機能の洗練は進んでいる。

次にAppleが狙ったのは、より広い層だ。「腕時計の代わりに、なぜApple Watchを身につけるのか」という問いに対する答えを、Appleはついに示しつつある。

それは「万一のためのアシスタント」という考え方だ。普段はiPhoneからの通知を受けたり、音楽を聴いたり、フィットネスの情報を知ったりするのに使いつつ、「いざという時の助け」のために、自分の生体データを記録しておいてくれるデバイスとしても働いている……。これが、Appleが見つけた答えなのではないか。

Apple Watchのように腕につける機器は、体が発する情報をより多く取得することができる。これまでは歩行や心拍数などのデータが中心だったが、Apple Watch Series 4はモーションセンサが強化された結果、「転倒」も把握できるようになった。心拍の異常低下を検知し、心房細動の徴候を掴むことも可能になっている。

なによりインパクトが大きかったのは、「心電図」を計れるようになったことだろう。竜頭型のデジタルクラウンに指をあてると、内蔵の電極を使って心電図をチェックできる。

「デジタルクラウン」にセンサを埋め込むことで「心電図」の記録に対応。ただし日本では当面利用できない

心拍にしろ転倒にしろ心電図にしろ、専門の機器に比べると精度は劣るかもしれない。出番はそれこそ「一生に一度」かもしれない。

だがそれでもいいのだ。なにもなければ通報が遅れたり、医師が適切な判断を下すのが難しくなったりする。精度が劣ったとしても「いままでは見過ごされてきた徴候や状況に対応できる」ことで、誰かの命が救われるかもしれない。そうした部分を持つことが、「より良いスマートフォン・コンパニオン」である、とAppleは判断したのではないだろうか。

こうした要素は、ハードウェアの進化なしには実現できない。AppleはiPhone同様、Apple Watch用の半導体(SoC)も自社で設計し、いっきに量産する戦略を採っている。SoCの内容だけでいえば、Qualcommも同じようなことを考えているようだ。だが、「同じスペックのものをいっきに量産し市場にばらまく」という観点でいえば、Appleのように人気のあるメーカーが独自に展開する方が有利である。

医療機関との関係を強化、「医師に必要とされる」製品へ

一方、医療の世界に足を踏み込むなら、厳密かつ責任あるハードウェア作りが必要になる。関係法令を守り、審査と査読を経て、医療業界から認められる必要があるのだ。

今回Apple Watch Series 4は、アメリカの担当省庁であるFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を得た、と説明された。そこには相応の時間とコストがかかったことだろう。

だが、日本を含む他国での認可はこれから行われる。いつ認可され、心電図の機能が使えるようになるのか? 法令対応が終わったアメリカですら「年末以降」とのみアナウンスされている状況で、日本は目処すら立っていない。日本でApple Watch Series 4が医療機器として認定されるのは非常に困難である、との専門家の指摘もある。

ただどちらにしろ、こうしたことは必要だ。フィットネスとは話が違う。心電図機能にしても、消費者がそれを見て「自分で健康になる」ことを目的としているわけではない。あくまで医療機器として「医師が判断する情報」として、「医師のすすめとともに」使うものだ。そうした部分を勘違いしてはいけない。

特にアメリカの場合、日本と違い、「国民皆保険」制度にはなっていない。健康を保つために自ら機器を使って管理することは、コストを削減する面でも、健康そのものの面でも「望ましい」とされている。Apple Watchはフィットネスを切り口に、そうした流れの先頭にいた。今後はさらに「医師との窓口」としての役割を果たし、医療費削減の切り札として使われていくだろう。

日本においては、医療機器は専業メーカーの領分であり、機器メーカーが医療機関や関係省庁と話す量が少ないように思う。Apple Watchは、そうした変化の先駆けになる製品だ。

日本で心電図を含めたすべての機能が使えるようになるには、年単位での時間が必要である可能性が高い。だが数年以内に、「保険を割り引く条件として、Apple Watchをつけることと、そのデータを保険会社が管理すること」といった条件の健康保険が増えて来る可能性は高い。

垂直統合によってそうした未来を自らの力で引き寄せる……。これこそが、Appleが描いている「スマートウォッチ戦略」なのだ。