使ってない人はどうする? 上場で世界進出を目指すメルカリの宿題

使ってない人はどうする? 上場で世界進出を目指すメルカリの宿題

2018.06.21

メルカリが東京証券取引所マザーズへの新規上場を機に開催した記者会見に足を運んだ私は、「世界進出」を真剣な表情で語る創業者・山田進太郎氏の話を聞きながら、何か自分が、別の時代から現代に迷い込んだ人間であるかのように感じた。なぜなら、破竹の勢いを誇示する当のメルカリというサービスを、私は使ったことがなかったからだ。

上場記者会見に登壇したメルカリ創業者の山田進太郎氏

世界を目指すメルカリを見て感じた不安

誰かにとっては価値のないものでも、他の誰かにとっては価値がある。ここに目をつけて、中古品を個人間でやり取りするスマートフォン用アプリを作ったのがメルカリだ。既存サービスもある中で、メルカリがこだわったのは使いやすいアプリであることだった。

会見では、創業者で代表取締役会長兼CEOの山田氏が、なぜメルカリを作ろうと考えたかを語る場面があった。世界一周の旅で多くの新興国を巡り、全ての人が豊かさを求めているにもかかわらず、資源が限られているためにそれが困難である状況を目の当たりにした山田氏。2012年に帰国すると、日本ではスマートフォンが急速に普及し始めていた。山田氏は回想する。

「全世界の人が、このパワフルなツールを使うようになると確信した。スマホで個人と個人をつなげることができれば、もっと資源を大切に使うことができて、皆が豊かな生活を送ることができるかもしれない。そこで、スマホ上で個人間取引に特化したマーケットプレイスを作ることにした」

メルカリは東京証券取引所マザーズに上場した

「成し遂げたいのは、テックカンパニーとして世界を目指すこと」。インターフェースを改善することにより、メルカリで日本の個人間取引を牽引し、最近はAIも実装するなどテクノロジーの進化に更なる磨きをかけてきたと語る山田氏が、今後の目標とするのは「日本を代表するテックカンパニーといわれる存在」だ。テクノロジーは世界展開の武器になるという。

利用者数と流通額は右肩上がりだ

山田氏のスピーチが進行するうちに私は、だんだん不安になってきた。会見場に詰め掛けた多くの報道陣はもちろん、世の中の人の大半は、この壮大な目標を語る山田氏が作ったメルカリというアプリを、当然のように日常的に使っているのでは、と感じ始めたからだ。陳腐を承知でいわせてもらえば、それは群衆の中の孤独とでも表現したくなるような感覚だった。

山田氏によれば、ユーザーエンゲージメントが強力であることもメルカリの大きな特徴だという。利用者の平均使用時間は、日本国内ではフェイスブックやインスタグラムをも上回るという。「いかにメルカリが、日常的に使われるアプリとして日本市場に根付いているかが分かってもらえると思う」(山田氏)

ところが、そこまで悲観する必要がないことはすぐに分かった。メルカリで売買されている商品の多くはアパレルだと聞いて、どちらかといえば多くのユーザーが若者であることは容易に想像できたし、利用者層の拡大がメルカリにとって課題であることが、同社取締役社長兼COOの小泉文明氏と話してみて了解できたからだ。

メルカリが直面する“0から1”の難しさ

「メルカリを使わない理由は機能面というより、『何となく面倒くさそう』と『何となく不安』の2つ」。メルカリ未使用者も意外に多いのではと踏んで、そういった人達にいかにしてリーチするのかと質問してみると、小泉社長はこのように切り出した。「一度(不用品を)売った人のリテンション(継続して使うこと)のレートは極めて高い」(以下、発言は小泉社長)し、不用品の出品・配送も「百聞は一見にしかず」で簡単だそうだが、メルカリを使ったことのない人にとって、やはり最初の1回はハードルが高い。

囲み取材に集まった報道陣を見回しつつ、「皆さんの家でも、非稼動のモノがかなりあるはず。でも、ある人にとっては絶対に使いたいモノだったりする。まだまだ流動化できる領域は大きいと思う」と話した小泉氏。ユーザー層の拡大に向けて大事なのは「まず、ジャンルを広げること」だという。

日本における不用品の価値は年間7.6兆円とメルカリは見る。勝手な推測だが、その半分以上はスマホを使っていない人、あるいはスマホに慣れ親しんでいない人の持ち物なのではないだろうか

小泉氏によると、メルカリに出ているモノの多くはベビー・キッズ向けをはじめとするアパレル商品で、その次に多いのは本・DVDの類だという。このほかに「家電、家具、スマホ、ゴルフ用品、アウトドア用品(例えばテント)など」が増えれば、アプリ使用者の幅が広がるのではないかというのが小泉氏の考えだ。「例えばゴルフ用品などは、1シーズンくらい使って『ダメだな』という感じで売られているのだが、知られていない」

テック企業としては意外? 「ウェブ」の拡充が鍵に

もう1つ、ユーザーの年齢層と商品のジャンルを広げる上で小泉氏が注目するのが「ウェブ」だ。スマホを主軸とし、アプリの使い勝手を磨きこむことに傾注するメルカリでは、意外な感じもするのだが、ウェブに「リソースを割けていない」のが現状。ただ、年齢層が高い人や、より高額な商品を売買したいと望む人などからは「ウェブが欲しい」という声も聞くそうだ。「アプリが主軸であることは不変だが、補足的なところでウェブを強化できれば、ジャンルの拡大、ユーザー層の拡大が期待できるのでは」と小泉氏は分析する。

いかに商品のジャンルを増やし、ユーザーの年齢幅を広げるか。これが日本におけるメルカリの課題であり、可能性でもある部分だ

ユーザーの平均年齢を引き上げる上で、今回の上場は効果的かもしれない。上場企業なら信頼できると考える人が、一定数はいそうだからだ。今回の上場に関連し、多くの証券会社を訪れたであろう小泉氏によると、40~50代の証券会社社員が、ここへきてメルカリの利用を始めたとの話も耳にしたことがあるそうだ。

何はともあれ、誰かにとっては価値があるであろうモノが、灰にならずに済むのであれば喜ばしいことではあるし、そのための仕組みを使い勝手にこだわって作りこむメルカリが、上場で得る資金の振り向け先として「テクノロジー」を挙げていることにも期待が持てる。その価値は7兆円を超えるとメルカリが推定する日本全国の“不用品”が、少しでも多く欲しい人に届けばいいと思ったし、自分でもメルカリのアプリくらいは落としてみようかなと考えた次第だ。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。