ASUS「サブ画面」搭載ノートは、単なるアイデア商品ではない

ASUS「サブ画面」搭載ノートは、単なるアイデア商品ではない

2018.07.11

6月20日、ASUS JAPANがPCの新製品を発表した。その中で注目を浴びたのは、ノートPCのタッチパッド部分にディスプレイを埋め込んだ「ScreenPad」だ。

「ScreenPad」を搭載したASUSのZenBook Pro

これまでASUSは、ほかのメーカーにはない斬新なアイデアを何度も発表してきたが、その多くは短命に終わっている。だが、今回のScreenPadは単なるアイデア商品ではないという。どこが違うのだろうか。

タッチパッドをサブ画面として活用

ScreenPadは、タッチパッド部分にディスプレイを埋め込むことで、Windowsのサブ画面として機能する仕組みだ。指で触れた感触は通常のタッチパッドと変わらず、マウスカーソルを違和感なく操作できる。

サブ画面としては、いくつかのモードが用意されている。ScreenPad用のアプリを利用するモードでは、「音楽プレイヤー」や数字を入力するための「テンキー」などを表示できる。

左:ScreenPad用の音楽プレイヤーアプリを実行している様子。右:数字を入力するためのテンキーパッドとしても利用できる

2台目のディスプレイとして使うモードでは、Windowsのデスクトップ領域を拡張し、任意のウィンドウをScreenPad上に表示できる。文字サイズは小さく、用途は限られそうだが、マウスカーソルを動かして操作できるので見た目以上に使い勝手は良い。

2台目のディスプレイのようにも利用できる

そもそもASUSは、なぜこのようなギミックを開発したのだろうか。ASUSの調査では、PCで仕事をする人のデスクトップにはブラウザや音楽プレイヤーなど複数のウィンドウが開いており、仕事に使える領域は65%しか残っていなかったという。

仕事に使える作業領域は画面の65%との調査結果も

デスクトップPCなら複数台のディスプレイを活用し、使用頻度の低いウィンドウを脇に追いやることもできるが、ノートPCでは難しい。そこで、ノートPC本体の中で使えそうな空間を有効活用したのがScreenPadといえる。

他社の例では、アップルが「MacBook Pro」のファンクションキー部分にディスプレイを埋め込んだ「タッチバー」を製品化している。ScreenPadは、このアイデアをタッチパッド上で実現したものといえるだろう。

誰が見ても驚くほどインパクトのあるScreenPadだが、これまでにもASUSは斬新なアイデアを形にした製品を台湾のCOMPUTEXなどの展示会で披露してきた。

ノートPCの天板にディスプレイを搭載した「TAICHI」や、タブレットにスマホが合体する「PadFone」など実際に発売したものもあるが、あまりにも先鋭的すぎたのか発売には至らなかったものもある。

ノートPCの背面にスマホが合体するPCも発表したが、発売には至らなかった

だが、今回のScreenPadはそうした「一発屋」で終わる存在ではないという。その根拠は、ScreenPadがWindows 10標準のアプリの仕組みを使っている点にある。

もしサブ画面の仕組みがASUS独自のもので、用意されたアプリしか使えない仕様だとしたら、それ以上の広がりは生まれないはずだ。だがASUSは、ScreenPadの開発者向けキットを2018年内に提供し、広く一般にアプリ開発を促していくという。

また、そのアプリはWindows 10標準のストアで配布できるもので、無償はもちろん有償による販売もできるという。つまりASUSは、ScreenPadをノートPCの新機能として搭載するにとどまらず、世界中のプレイヤーが参入できるプラットフォームを立ち上げようというわけだ。

この動きを盛り上げていくためには、ASUSが今後もScreenPad搭載製品を拡大し、アプリ開発者を支援していく必要もあり、課題は多い。だが、コモディティ化が進んでいるといわれるPC製品において、それを打ち破る動きとして注目したい。

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第5回

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

2018.09.26

昔のクルマに乗って楽しみたい人には厳しい自動車大国・日本

そんな状況に憂い顔の安東弘樹さんがマツダへ

初代「ロードスター」のレストアを担当する梅下執行役員を直撃!

日本で古いクルマを楽しむのは大変だ。製造から年数の経ったクルマは税金が上がったり、維持していくのに必要な部品を見つけるのが難しかったりするので、あえて旧車を選んで乗るにはお金も手間も掛かるからだ。それであれば、どんどん新車に乗り換えていこうと考える人が多くても無理はない。

そんな状況に一石を投じたのが、1989年に発売した初代「ロードスター」のレストアを開始したマツダだ。この取り組みに共鳴する“クルママニア”安東弘樹さんが、マツダで同事業を担当する梅下隆一執行役員に話を聞いた。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

挨拶早々、試乗したばかりの新型「アテンザ」について「購入するか迷っている」と切り出した安東さん。「アテンザ」の開発主査を務めたこともある梅下さんは「たくさんのクルマに乗っていらっしゃる、その目でご覧になってもいいクルマでしたか?」と笑顔で応じていた(対談風景の撮影:安藤康之)

なぜ自動車メーカーがレストアするのか

安東さん(以下、安):なぜ今、しかも「NA」(初代ロードスターのことをNA型と呼ぶ。2代目はNB型、4代目となる現行型はND型といった具合)のレストアなんですか? ユーザーからすると「485万円か……」って感じもありますよね?

※編集部注:マツダが始めた「NAロードスターレストアサービス」の価格は、「基本メニュー」が税込み250万円、「フルレストア」が同485万円。

もちろん、色々なリバイバルプランが各メーカーにあるんですけど、でも、当時200万円で買えたNAを、485万円かけて……。そういうお客さんがいるという目算はあったんですか?

左は初代から4代目まで勢ぞろいした「ロードスター」。初代は中央右(画像提供:マツダ)

梅下さん(以下、梅):いろんな側面で語れるんですけど、体験ベースでいうと、ロードスターって、ものすごく多くのファンの方に愛していただいているクルマで。毎年、軽井沢でファンイベントがあります。ここ数年は大体、1,200台くらい来るのかな? 僕もお邪魔することがあるのですが、基本的にファンのイベントなんですよ、マツダが主催しているわけでもなんでもなく。うちはそういうの全然やってなくて、ほとんどお客様におんぶにだっこなんですけど……

安:自然発生的なね。

梅:だから、まあ、ロードスターというのは、お客様に育ててもらっているクルマだなと。僕らは“生みの親”だけど、お客様が“育ての親”になっていて。そんな気持ちでイベントを見学させていただいてたら、お客様が「ちょっと来いよ」と。

安:梅下さんの立場を分かった上で、ですよね?

梅:面白いのは……(編集部に)話が長くなっても大丈夫ですか?

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん

ファンクラブの猛者たちに出会って

梅:そこへ行くと、ファンクラブの中に、NAを買った時に40代くらいで、今は60代後半~70代の方々で組んでいらっしゃるチームがありまして、その人たちから見ると、僕なんか“ひよっこ”なわけですよ。「マツダから来たぞ(若造が、みたいな感じ)」と。で、前夜祭みたいな懇親会があって、その晩は軽井沢プリンスホテルのコテージに泊まるんですけど、そこで、「梅ちゃん、今晩、何号室のコテージにおいで」と。そこに行くと、20人くらいのおじさまたちが……

安:猛者がいるわけですね!

梅:そこへ挨拶にいくと、最初から最後まで「あの部品がない、この部品がない」と。だけど、ぜんぜん怒ってないんですよ。

安:あ、怒ってない?

梅:ぜんぜん! 「ないんだよねー」ってニコニコして、皆でそれを話してる。僕は当時、開発のマネジメントの立場で行ってたんですけど、カスタマーサービス本部の立場になって行ってみるうちに、その言葉がだんだん自分ごとになってきて、「こらなんとかせにゃいかんな」と。

ちょうど開発の部隊も同じ思いを持っていて、今でもNAは2万台以上が走ってるんですけど、そのお客様がお困りのところもあるし、そこに何とか答えたいなと。そういう気持ちが1つ。

往年の「ロードスター」ファンとの出会いがレストアを考え始めたきっかけの1つと梅下さん

梅:もう1つは、もう少し広く、会社・ブランドの立場で考えてみると、そんな風に愛されていて、あんなにたくさん走っている30年前の日本車って、たぶん今、日本にはないと思うのです。だからこれは、僕らにとっても、日本にとっても、けっこう大切なものかなと思って。なので、このクルマがもっと、日本の社会の中で長生きできないかなとシンプルに思ったし、将来これが、「日本にもこんな名車があったよね」と言ってもらえるようにと。

あるいは、そこまで僕らが言っちゃいけないのかもしれないのですが、自動車の文化に、少しでも貢献できればという思いもあって。やるなら、一部の部品の復刻だけではなくって、部品も復刻するけど、きっちりと「これがオリジナルだ」というモノを提供できるカタチがあるのではと思って、レストアにしました。

安:内容が徹底してますよね。「ここまでやるのか!」と感銘を受けました。そのかわり、「それなりのお金を出してもらえれば、復活させますよ」というところも、中途半端じゃない。これって、なかなか日本メーカーが踏み切れないことですよね。例えばテレビ局なら、番組づくりとして「8時だョ!全員集合」をもう1回、同じカタチでできるかというと、できないんですよ! そこの情熱が、他のメーカーと違うし、僕は好感を持ってますね。

「ロードスター」のレストアをテレビの番組づくりに例える安東さん

安:そもそも、日本メーカーには古いクルマの部品がないじゃないですか。100年単位の欧州に比べると、たかだか30年前のクルマでもないって、逆にすごい。そんな日本で、30年前のクルマを、全く同じように作り直すと。お客さんが持って来たクルマを、部品も新しくして、組み立てをやるというのは、これはもう、なんだろう? 欧州メーカーから遅れていたのを、一気に追い越したような……

梅:まあ、追い越してはないですけど(笑)

ロードスターにもう1人の「育ての親」

安:メーカーが責任を持ってレストアするというのは、僕の知る限り、なかなかないですよ。特別なお客さんは別ですよ、例えば、ずーっと「ロールスロイス」に乗ってる人とか。でも、ロードスターは庶民のクルマじゃないですか。庶民のクルマで、ここまでのっていうのは……

梅:あ、庶民のクルマという意味では、(ここまでメーカーがやる例は)ないですよ。そこがだから、我々のチャレンジになるんです。先行している欧米のブランドや、日本だったら一部の高価なクルマならできてるんですけど、やっぱり、このクルマ(ロードスター)でやるのは、すごく大変でした。

※編集部注:例えばホンダは、初代「NSX」のリフレッシュプランを用意している。その価格はメニューの選び方によって大きく変動するが、「エンジンオーバーホール」「足回りオール」「外装オール」「内装オール」などを組み合わせていくと1,000万円近い金額になる。

梅:正直にいって、(レストアの)値段のほとんどは工賃なんですよ。工場でクルマを預かって、部品を一旦、全部取り外すわけですよね。それから塗装し直して、部品を換えて……。作業工賃が値段のマジョリティーなんですよ。で、高いクルマだろうがロードスターだろうが、レストアにかかる工数っていうか、人手はそんなに変わらない。だから、高めのプライシングができれば「なんとかやっていけるぞ」とソロバンも作れると思うんですけど、これをフルパッケージで485万円くらいというのは、これは本当に大変。ほとんど利益ないです。“赤”ではないが利益はないという、ギリギリの線でやっているのが現状で。

レストアでは「サンバーストイエロー」など車体色も選べる(画像提供:マツダ)

安:どのくらいの受注があるんですか?

梅:大体、40人前後のお客様が待っていらっしゃる状況です。実は、今の予定では年間数台しかできない。というのも、マツダなりに自信を持っているエンジニアというか、匠(たくみ)じゃなきゃ作業をやらせないので、そういう人はやっぱり、数人しかいないんです。そういう状態なので、どうやって増やそうかと思っている。

安:妥協したくないですもんね。

梅:そこが重要で、我々からするとロードスターって、僕らは生みの親だけど、育ててくれたのはお客様と、街のショップさんなんですよ。ずーっとケアしてくれたのがショップさんで。僕らが中途半端というか、メーカークオリティでレストアできないんだったら、ショップさんにお任せした方がいいんですよ。

むしろ僕らは、少数だけど、メーカーじゃなければできないクオリティでレストアすることに存在意義がある。一方で、「485万円は出せないけど、自分のロードスターもリフレッシュしたいよ」というお客様には、僕らも部品をお渡しするので、ショップさんにも、もっと仕事をしてもらいたいという思いがあるんです。

安:今回のレストアを機に、これまでより多くの部品供給ができるようになるんですか?

梅:そうです。今回の活動で「コレは復刻しなければいけないな」という部品が見えてきたわけですよね。それをリストアップし、150部品くらいを新たに復刻して、サプライヤーさんとも相談しながら作れるようになったので。

例えば「NARDI製ステアリングホイール」(木製のハンドル)などを新たに復刻した(画像は初代「ロードスター」、提供:マツダ)

「当時のまま」へのこだわり

安:どのくらいのレベルで復活するのか、本当に楽しみ。もし機会があったら、レストアしたクルマを運転してみたいくらい。限りなく、当時のクルマに近づけるのがテーマなんですか?

梅:もちろん。当時のまま、そのものに戻したいんですよ。だから、逆にいうと、当時より良くはならないんですよ。

安:だからいいんですよねー! そこなんですよ。別に、いじらないわけですよね?

梅:お客様のクルマは、8月9日に1号車を納車させて頂いたのですが、その前に、初めてのトライアルなので2~3台、作ってるんですよ。どこが難しいかとかを見るために。

レストア1号車納車式の様子(画像提供:マツダ)
NAロードスターレストアプロジェクト第1号車の持ち主は西本佳嗣(けいじ)さん(右)と奥様の眞里美(まりみ)さん(左)。愛車のユーノスロードスターVスペシャル(1.6L、ネオグリーン、タン内装、5MT)は、1992年に新車で購入したものだという。画像中央はマツダ副社長執行役員の藤原清志さん(画像提供:マツダ)

梅:僕も昔、NAを持ってて、今回はレストアしたクルマに乗ったんですけど、本当に当時のまま。ちょっとブレーキが甘いのも含め「このままや!」と(笑)

安:原点回帰というか、とにかく元に戻したわけですね。そういうのいいな……!

「ロードスター」の原点回帰に共鳴する安東さん

ひとしきりロードスターのレストアについて話した2人。いつしか話題はNA型そのものの話に移り、なぜ最近の日本には、若者でも手を出せる手頃なスポーツカーが少ないのか、あるいは存在しないのかという、より根源的なテーマへと進んでいった。その模様は次回、お伝えしたい。

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ボルボの新型「V60」に試乗! 人気のSUVでは味わえないステーションワゴンの魅力とは

ボルボの新型「V60」に試乗! 人気のSUVでは味わえないステーションワゴンの魅力とは

2018.09.25

ボルボがステーションワゴン「V60」をフルモデルチェンジ

日本車では減りつつある車種だが、SUVにはない魅力がたくさんある

輸入車のステーションワゴン市場は激戦区! V60の持ち味は?

ボルボがステーションワゴンの「V60」をフルモデルチェンジした。最近は「XC60」や「XC40」といったSUVで評判のボルボだが、同社といえばワゴンというイメージも根強いので、その本丸ともいえる「V60」の新型は、やはり気になるところ。今回は新しい「V60」に試乗した感想も踏まえつつ、SUVブームの世の中で、あえてステーションワゴンを選ぶ意義についても考えてみたい。

フルモデルチェンジしたボルボの「V60」。本稿では、東京クラシックキャンプ(千葉県)を拠点に開催された試乗会で撮影した新型「V60」の画像も紹介していく

実用性に原点回帰? 新型「V60」はリアに注目

ボルボの「V60」は、今回のフルモデルチェンジで2世代目となった。2010年に誕生した初代V60は、「V70」など従来のステーションワゴンに比べると、後ろのハッチバック部分がクーペのように傾斜していて、その商品性は“スポーツワゴン”という位置づけだった。同じ傾向は2016年に登場した「V90」にも見えて、デザイナーは「もはやステーションワゴンに大きな家具などを積み込み、自分で家へ運ぶような時代ではなくなっている」との言葉で、格好よさ優先の外観であることを説明していた。

しかし新型V60は、かつてのV70のように、ハッチバック部分が前型に比べ直立し、荷室容量も初代に比べ100リッター近く増えている。この変更からは、V70の販売が終了した今、その利用者をV60で補完したいというボルボの考えがうかがえる。

また、いくら買った家具を自分で持ち帰ることが少なくなったとはいえ、子供のいる家族連れなど、多くの荷物を持ち歩く必要がある自動車ユーザーはいまだに存在する。さらには旅先での買い物などを考えると、ステーションワゴンの荷室容量に期待する消費者は一定数いるはずだ。

ハッチバック部分が初代に比べ直立した新型「V60」

国産ステーションワゴンは減少傾向、輸入車は充実

需要は根強いはずだが、国産車ではステーションワゴンの車種構成が消えていきつつあり、SUVへと移行する動きが顕著だ。国産車でステーションワゴンを残すのは、トヨタ自動車「カローラ フィールダー」、マツダ「アテンザ」、スバル「レヴォーグ」くらいだろうか。スバルが“リゾートエクスプレス”と銘打って発売し、ステーションワゴン時代を築いた「レガシィ」も、現在ではSUVのように車高の高い「アウトバック」こそ残っているが、一世風靡したツーリングワゴンはラインアップから消えてしまった。

米国でもステーションワゴン人気は下がり、SUV志向が顕著であるという。それに対し、欧州ではステーションワゴン需要が健在だ。日本市場においても、メルセデス・ベンツが「Cクラス」と「Eクラス」にワゴンを設定しているし、BMWは「3シリーズ」および「5シリーズ」、アウディは「A4」と「A6」、フォルクスワーゲンは「ゴルフ」と「パサート」、そしてプジョーは「308」という具合にステーションワゴンをラインアップしている。そして、それらは着実に売れている。

そんな中、日本車からステーションワゴンが消えて、SUVが車種を増やし続けているのはなぜだろうか。

ボディカラーは「バーチライトメタリック」だ

ステーションワゴン誕生の背景とSUV勃興の兆し

ステーションワゴンは、鉄道旅行が盛んな時代に、駅から人と荷物を一緒に運べるクルマとして誕生した。だから、「ステーション ‐ ワゴン」であるということらしい。飛行機で移動する時代となっても空港まで、あるいは空港から目的地へと、人と荷物を一緒に運ぶのに便利なクルマであった。米国では、日常的な通勤にはセダンやクーペを使い、家庭にはステーションワゴンが1台あるといった複数台所有が長く続いてきた。

そこにミニバンが登場し、続いてSUVの品ぞろえが充実してくると、ステーションワゴンからミニバンやSUVへと購買意欲が移っていった。

新型「V60」のフロントビュー。クルマの寸法は全長4,760mm、全幅1,850mm、全高1,435mm

米国では大都市であっても、クルマで少し走ると郊外の趣を持つ風景となり、主要道路の脇は未舗装路であることが多くなる。駐車場も、市街地はコンクリートで舗装されているが、郊外では未舗装のままであったりする。それほど、米国とは広大な国なのだ。

そこでは、いわゆる未開の悪路というほど凹凸の激しい路面でなくても、セダンやステーションワゴンよりも路面と車体との間隔が広く、床下を打つ心配のないSUVの人気が高まる。この事情は納得しやすい。

新型「V60」のリアビュー

4輪駆動車は「ジープ」などで戦後から存在したが、それは悪路走破を主体とした武骨なクルマであり、郊外では威力を発揮するだろうが、日常的に市街地で乗るには使い勝手がよくなかった。英国には、そうした本格的4輪駆動車として「ランドローバー」があり、より上級な車種としては「レンジローバー」がある。このレンジローバーにハリウッドで乗る人が現れ、セダンの高級車より目立つ存在となった。そこに、米国におけるSUV人気の萌芽を見ることができる。

また、ジープが「チェロキー」というやや小型で乗用車感覚を備えた4輪駆動車を発売し、これが人気を呼んだ。その様子を見て、トヨタが「ハリアー」を生み出した。こうして、SUV志向が盛んになり始めるのである。

ヘッドライトに横にした「T」字型の意匠が見えるのは、ボルボの特徴だ。北欧神話の雷神トールが持つハンマー「トールハンマー」をモチーフとしている。念のためにいっておくと、ボルボはスウェーデンの企業である

欧州のステーションワゴン人気を支える要因とは?

日米のSUV人気をよそに静観していた欧州にも変化が訪れる。メルセデス・ベンツは米国でSUV「Mクラス」を生産するようになり、あのポルシェでさえも、サーキット走行が可能なSUVという新たな価値を掲げ、「カイエン」を誕生させることとなった。こうして、世界的なSUV人気に火が点くのである。しかし欧州では、ステーションワゴンが根強い存在感を発揮し続けた。

荷室容量は先代が430L、新型が529L

欧州のステーションワゴン人気を考える前提としては、クルマの走行速度を押さえておく必要がある。欧州では全体的に、クルマが速く走るのだ。

日本は一般道で時速40キロ制限、高速道路で同100キロ制限が基本。米国は州によって違うが、フリーウェイは時速65マイル(約104キロ)制限である。それらに対し欧州では、一般公道であっても80キロ制限(市街中心部は50キロ制限)で、多くの高速道路は130キロ制限となっている。ドイツのアウトバーンには無制限区間すらある。

ポルシェやBMWのように、サーキット走行も視野に入れたSUVを作る勢力があるとはいえ、一般的に車高の高いSUVは重心が高く、セダンを基にしたステーションワゴンに比べれば操縦安定性で劣る傾向がある。となると、クルマを高速で走らせるシーンの多い欧州に、SUVよりもステーションワゴンを好む消費者がいるのは当然のことだ。また、ステーションワゴンであれば、セダンとワゴンが分有する走りの良さ、利便性などといった利点を1台で享受できるという合理性もある。

新型「V60」の価格は499万円から。スライドの右上に見えているが、2019年3月にはプラグインハイブリッド(PHV)モデルも発売予定だ

乗ると視界が高くなるSUVは、市街地で運転しやすいとの声があり、日本でも人気が高まっている。とはいえ、高速道路などで頻繁に長距離移動をする人にとっては、ステーションワゴンの方が走りはより安定し、疲れにくいだろう。また、車高の高いSUVは、乗り降りがしにくいのも事実である。そういう人々の選択肢として、輸入車のステーションワゴンが好まれている。

米国市場を優先する日本メーカーが、SUVに車種を絞り込むという状況はあるものの、消費者には今なお、ステーションワゴンに期待するところがあるのだ。

こちらは「デニムブルーメタリック」というボディカラーの新型「V60」

競合の多いステーションワゴン市場、「V60」の強みは

ボルボのV60は、そうした輸入ステーションワゴンの激戦区に、Cクラス、3シリーズ、A4の競合として挑戦する。実際に新型V60に乗ってみると、前型より車幅を1.5センチメートル縮めたという車体寸法は運転中に車幅感覚をつかみやすく、ガソリンターボエンジンは走り出しから十分な力で滑らかに動き出し、室内は静粛、後席の乗り心地もよいなど、いいことづくめであった。標準寸法の18インチ径タイヤも、ちょうどよい適合を見せる。そして、ことにドイツ車ではあまり見られない明るい色の内装も、開放的でおしゃれな雰囲気を室内にもたらす。

今回は、前輪駆動で2リッターガソリンターボエンジンを搭載する「V60 T5 INSCRIPTION」のみの試乗だった。この内装は競合ドイツ車に対する1つの特色になるだろう

競合に負けない走行性能と、競合にはない魅力を持ち合わせている新型V60。試乗してみて思ったのは、爽快な気持ちにさせるステーションワゴンであるということだ。