「4G」で満足している人が多いのに「5G」が必要とされるのはなぜか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第21回

「4G」で満足している人が多いのに「5G」が必要とされるのはなぜか

2018.07.12

2020年に日本でも、携帯電話の次世代通信規格「5G」のサービスが提供される予定だ。携帯電話の通信方式は、約10年毎に世代交代が進んでいるのだが、そもそもなぜ、一定期間毎に新しい通信規格を導入する必要があるのだろうか。

日本では2020年に「5G」の商用サービスを開始

携帯電話の通信規格、要するに音声やデータをやり取りするための仕組みは、約10年毎に世代交代がなされる傾向にある。現在多くのスマートフォンで用いられている主流の通信方式「LTE-Advanced」は、「4G」、つまり「第4世代」の通信方式であり、2010年に標準化がなされている。

そしていま大きな注目を集めているのが、4Gの次の通信規格「5G」だ。2018年6月には5Gの通信方式「5G NR(New Radio)」の主要機能の標準化が完了したことが発表されており、日本では2020年、米国や韓国などより早い国では2019年から、5Gを用いたサービスを提供する予定となっている。

日本に先駆けて2019年の5G商用サービスを実施予定の韓国では、2018年2月の平昌冬季五輪で5Gの実証実験が実施されていた

5Gは従来の4Gと比べ、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特徴を備えている。高速・大容量は文字通り、4Gより通信速度が速いことで、4Gの最大通信速度は3Gbpsといわれているが、5Gでは最大20Gbpsの通信速度を実現するという。

2つ目の低遅延は、IP電話で通話した時に、自分が話した声が相手に遅れて届くといった、いわゆるネットワーク遅延が非常に小さいことを示す。4Gの遅延が約50ミリ秒であるのに対し、5Gの遅延は1ミリ秒と大幅に遅延が小さくなるとされており、医療や車の運転など、ずれのない遠隔操作などを実現するのに大いに役立つ。

そして最後の多接続は、多くのモノがインターネットに接続するIoT時代に備え、1つの基地局に対して同時に接続する端末の数が、4Gの100倍になるというもの。ただしサービス開始当初の5Gにはこの仕様は盛り込まれておらず、後から追加される形になるとのことだ。

こうして見れば、確かに5Gは4Gよりも大幅に進化していることが分かる。だが現在スマートフォンを利用している人達からすると、現在の4Gの環境でも動画は快適に視聴できるし、別段困ったことはないと感じていることだろう。これまでにも、2Gから3G、3Gから4Gといったように、通信規格の世代が変わる毎に「キャリアが多額の設備投資をしてまで、新世代の通信規格を導入する必要があるのか?」という声は起きている。

増大し続けるトラフィックへの対処が最大の目的

では一体なぜ、携帯電話の通信規格は一定期間毎にアップデートする必要があるのかというと、その本質的な理由は非常にシンプルである。トラフィック、つまりユーザーが携帯電話やスマートフォンでやり取りするデータの量が増える一方なので、新しい技術を用いた通信規格を導入しないと、いずれパンクしてしまうためだ。

やや古い資料になるが、総務省が公開している「平成29年版 情報通信白書」を見ると、移動体通信のダウンロードトラフィックは、1年で約1.3倍という急速なペースで伸びているという。さらに世界の移動体通信によるトラフィックは、2015年から2020年の5年間で、トラフィックが7.8倍にまで増加すると予測されているのだ。

国内の移動体通信トラフィックの推移(総務省「平成29年版 情報通信白書」より)

ちなみに1Gから2Gにかけては、携帯電話自体が多くの人に広まり音声通話の利用が増えたこと。2Gから3Gにかけては「iモード」などの登場によって、音声だけでなくデータ通信の利用が広まりつつあったこと。そして3Gから4Gにかけては、スマートフォンの広まりによって音声からデータ通信へと利用の主体が大きくシフトしたことが、トラフィックの増加に大きく影響している。

そうしたトラフィックの伸びに対処し安定した通信を実現するべく、キャリアは基地局を増やすなどしてネットワークの改善を進めている。だがそれでもなお、これだけ急激なペースで伸びるトラフィックに対処するには不十分で、根本的な対処をするには通信の仕組みそのものを変える必要がある訳だ。それゆえ通信規格がアップデートされる毎に、従来使用できなかった電波を使えるようにしたり、電波の利用効率を高める技術を導入したり、一度に通信するアンテナの本数を増やしたりするなどして、より大容量通信に耐えられる体制が整えられている。

だが新しい通信規格を導入しても、それを利用するためのインフラやデバイス、サービスが整っていなければ、ユーザーは利用してくれず普及が進まないという問題も抱えている。それが顕著に表れたのが、2Gから3Gへの移行時である。

世界初の3Gによる商用サービスを2001年に開始したのはNTTドコモの「FOMA」である。だが2Gと比べると端末サイズが大きくバッテリーが持たない、3Gの利用に適したサービスが少ないなどの理由から長い間ユーザーの不評を買い、2004年に従来の2Gの携帯電話と同じ感覚で利用できる端末(「900i」シリーズ)が登場するまで、なかなか普及が進まなかったという経緯がある。

それゆえ3Gと同じ轍を踏まないよう、キャリアは5Gの導入に際して、ネットワークや端末に加え、5Gの利用を促進するためのサービス開発にも力を入れるようになった。実際NTTドコモは、東京・お台場や東京スカイツリータウンなどで「5Gトライアルサイト」を展開、5Gを活用したサービス創出に向けたさまざまなデモやサービスの一般展示を実施している。5Gに関してもそうした取り組みの成否が普及を大きく左右するだけに、2020年までキャリアが5Gに向け、どのような取り組みを見せるかはしっかり注目しておく必要があるだろう。

NTTドコモは5Gの早期普及に向け、東京スカイツリータウンなどで5Gを活用したサービス創出に向けた「5Gトライアルサイト」を展開している
ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

ゴンチャに日本独自メニューが登場 既存客層「以上」にリーチなるか

2018.09.26

台湾ティーカフェ「ゴンチャ」に日本オリジナルメニューが登場

独自に開発した「ほうじ茶のミルクティー」で客層の広がり狙う

既存店と同数を翌年に出店し、店舗網の拡大も

近年、台湾発のカフェがにぎわい、タピオカ入りミルクティーをはじめとした茶飲料が人気を集めている。

中でも若年層からの強い支持を受けているのが、台湾発祥のグローバルカフェチェーン「ゴンチャ」。日本への出店は他国と比較して後発となったが、2020年までに100店舗という目標を掲げ急拡大している。

このほど、ゴンチャは進出3周年を記念し、オリジナルの日本茶を国内の茶問屋と開発し、9月26日よりメニューに加えた。「台湾の茶」にこだわる同ブランドが、国産のオリジナルメニューに着手した理由とは。

日本独自メニューは「ほうじ茶 ミルクティー」

日本の茶、と言っても種類はさまざま。今回、ゴンチャが静岡の茶問屋・マルニ茶藤と開発したのは「ほうじ茶」だった。この新しい茶葉は、期間限定メニュー「ほうじ茶 ミルクティー」として提供される。

価格はSサイズ420円、Mサイズ470円、Lサイズ570円。既存ラインアップと比較すると「基本メニューより数十円高いが、スムージーよりは安価」という立ち位置にある。

同社の開いた試飲会で提供された「ほうじ茶 ミルクティー」。同日より"復刻"するトッピング「あずき」が追加されたもので、和を全面に押し出した構成だ

飲んでみると、ミルクと合わせてもほうじ茶の味わいが色濃く感じられ、既存商品とは違う口当たり。自宅やペット飲料で飲む"ストレート"のほうじ茶と比較して濃厚で、香りに華やかさがあり、渋みもなく飲みやすい。

ほうじ茶を決め打ちで開発したのではなく、煎茶、玉露、和紅茶、玄米茶、ほうじ茶で検討を開始し、ほうじ茶に決定した後も15種の茶葉、300のブレンドで試作が行われた。ちなみに、既存メニューの抹茶 ミルクティーはグローバルメニューのため、こうして日本での提供のためだけに開発された茶葉は初めてとなる。

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏(左)、マルニ茶藤 加藤重樹代表取締役(右)

ゴンチャ ジャパン 取締役社長兼COOの葛目良輔氏によれば、ほうじ茶を選択した理由は、「ほうじ茶が、近年デザート類のフレーバーで高い支持を得ていること」、「試作した他の種類に比べて、求める風味に一番近いのがほうじ茶だったこと」の2点にあったという。

確かに、ほうじ茶をベースにしたスターバックスのフラペチーノをはじめ、パフェやケーキなどにもほうじ茶を使ったものはあり、抹茶に次ぐフレーバーとして定着してきた感がある。

また、既存の茶葉はミルクティー・ストレートティーいずれでも選択できるが、ほうじ茶に関してはアイスのミルクティーでメニューが固定されている。これは、「自信を持って提供できる状態」がこのメニューであったため。

ゴンチャでは今回の限定メニューやスムージーなど一部を除き、茶葉の種類や氷の量、甘さなどをカスタマイズできる自由度を持ち味のひとつとしている。グラフ下部の四角い枠内の数字は、注文全体においてどの選択肢が選ばれたかというパーセンテージだ

その裏には、ミルクティーが注文の7割を占める人気という状況もある。「提供時期はホット・アイスどちらもご提供可能な季節ですが、アイスの仕上がりに自信があったので、アイスに絞って提供したいと考えた」(葛目COO)

外食で「茶」はまだ伸びる

試飲会の中では、コーヒーではなく茶を主軸とした「ティーカフェ市場」のポテンシャルについて、葛目COOのプレゼンテーションが行われた。

カフェ市場の規模と提供形態の割合

現在のカフェ市場の39パーセント、4000億円強がセルフサービス型コーヒーショップであるが、紅茶などのティーメニューの認知度はきわめて低い状況にある。

同社では、「ティーカフェ市場」のポテンシャルは1800億円に届くと予想

それに反して、「お茶」というカテゴリはペット飲料や茶葉含め市場規模が大きい。外食での提供機会がまだ少ないため、「ティーカフェ市場」には現在の3~6杯の市場機会があると考えている、と葛目COOは語った。同社の経営理念については、本誌が行った葛目COOのインタビューに掲載しているので、こちらを参照してほしい。

2018年の出店予定

続々と進めている出店について、2018年中にさらに店舗数を伸ばし、年末の段階では23店舗となることを発表。2019年は新たに約30店舗を出店予定で、既存店と同数を翌年に出店するような想定で伸ばしていく想定だという。

既存客層「以上」にもリーチ狙う

同社はターゲット層を「20代の女性」と設定しており、実際に店頭に列を成す人たちを見ると若い女性が中心。赤いストローの刺さった容器を持って飲み歩く姿を見ると、ゴンチャでの喫茶は若者のトレンド、という印象を受ける。一方、取材する側の記者にその年代はほぼいないため、現在の人気についての質問が相次いだ。

中でも、現在の客層より上の世代の支持の有無について質問を受けた葛目氏は、「若年女性に支持いただいている反面、それ以上の年齢層の方にとって遠い存在であることも事実と受け止めている。しかし、住宅地、ビジネスエリアの店舗では(客層は)その限りではなく、男性の来店者も全体の3割まで増えている」とコメントした。

今回開発されたほうじ茶の茶葉。収穫時期が最も早く、高品質な一番茶にカブセ茎茶をブレンドした。

今回リリースしたほうじ茶は「全年齢にリーチしやすい商材」のため、この新メニューで客層を広げていきたいと抱負を語った。

台湾発祥のティーカフェが新たに開発した「日本茶」メニュー。ほうじ茶に関して、反応次第で定番化も検討ということだが、葛目氏は今回見送ったその他の種類の茶葉についても、開発の意向をのぞかせていた。

ほうじ茶しかり、長く親しまれてきた日本茶は、客層拡大に寄与する可能性がある。台湾文化であるティーカフェが日本独自に広がっていく可能性について、今後も注視していきたい。

 

 

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第5回

「ロードスター」レストアの哲学とは? 安東弘樹がマツダに聞く!

2018.09.26

昔のクルマに乗って楽しみたい人には厳しい自動車大国・日本

そんな状況に憂い顔の安東弘樹さんがマツダへ

初代「ロードスター」のレストアを担当する梅下執行役員を直撃!

日本で古いクルマを楽しむのは大変だ。製造から年数の経ったクルマは税金が上がったり、維持していくのに必要な部品を見つけるのが難しかったりするので、あえて旧車を選んで乗るにはお金も手間も掛かるからだ。それであれば、どんどん新車に乗り換えていこうと考える人が多くても無理はない。

そんな状況に一石を投じたのが、1989年に発売した初代「ロードスター」のレストアを開始したマツダだ。この取り組みに共鳴する“クルママニア”安東弘樹さんが、マツダで同事業を担当する梅下隆一執行役員に話を聞いた。

※文はNewsInsight編集部・藤田が担当しました

挨拶早々、試乗したばかりの新型「アテンザ」について「購入するか迷っている」と切り出した安東さん。「アテンザ」の開発主査を務めたこともある梅下さんは「たくさんのクルマに乗っていらっしゃる、その目でご覧になってもいいクルマでしたか?」と笑顔で応じていた(対談風景の撮影:安藤康之)

なぜ自動車メーカーがレストアするのか

安東さん(以下、安):なぜ今、しかも「NA」(初代ロードスターのことをNA型と呼ぶ。2代目はNB型、4代目となる現行型はND型といった具合)のレストアなんですか? ユーザーからすると「485万円か……」って感じもありますよね?

※編集部注:マツダが始めた「NAロードスターレストアサービス」の価格は、「基本メニュー」が税込み250万円、「フルレストア」が同485万円。

もちろん、色々なリバイバルプランが各メーカーにあるんですけど、でも、当時200万円で買えたNAを、485万円かけて……。そういうお客さんがいるという目算はあったんですか?

左は初代から4代目まで勢ぞろいした「ロードスター」。初代は中央右(画像提供:マツダ)

梅下さん(以下、梅):いろんな側面で語れるんですけど、体験ベースでいうと、ロードスターって、ものすごく多くのファンの方に愛していただいているクルマで。毎年、軽井沢でファンイベントがあります。ここ数年は大体、1,200台くらい来るのかな? 僕もお邪魔することがあるのですが、基本的にファンのイベントなんですよ、マツダが主催しているわけでもなんでもなく。うちはそういうの全然やってなくて、ほとんどお客様におんぶにだっこなんですけど……

安:自然発生的なね。

梅:だから、まあ、ロードスターというのは、お客様に育ててもらっているクルマだなと。僕らは“生みの親”だけど、お客様が“育ての親”になっていて。そんな気持ちでイベントを見学させていただいてたら、お客様が「ちょっと来いよ」と。

安:梅下さんの立場を分かった上で、ですよね?

梅:面白いのは……(編集部に)話が長くなっても大丈夫ですか?

マツダ執行役員 カスタマーサービス担当 ブランド推進・グローバルマーケティング担当補佐の梅下隆一さん

ファンクラブの猛者たちに出会って

梅:そこへ行くと、ファンクラブの中に、NAを買った時に40代くらいで、今は60代後半~70代の方々で組んでいらっしゃるチームがありまして、その人たちから見ると、僕なんか“ひよっこ”なわけですよ。「マツダから来たぞ(若造が、みたいな感じ)」と。で、前夜祭みたいな懇親会があって、その晩は軽井沢プリンスホテルのコテージに泊まるんですけど、そこで、「梅ちゃん、今晩、何号室のコテージにおいで」と。そこに行くと、20人くらいのおじさまたちが……

安:猛者がいるわけですね!

梅:そこへ挨拶にいくと、最初から最後まで「あの部品がない、この部品がない」と。だけど、ぜんぜん怒ってないんですよ。

安:あ、怒ってない?

梅:ぜんぜん! 「ないんだよねー」ってニコニコして、皆でそれを話してる。僕は当時、開発のマネジメントの立場で行ってたんですけど、カスタマーサービス本部の立場になって行ってみるうちに、その言葉がだんだん自分ごとになってきて、「こらなんとかせにゃいかんな」と。

ちょうど開発の部隊も同じ思いを持っていて、今でもNAは2万台以上が走ってるんですけど、そのお客様がお困りのところもあるし、そこに何とか答えたいなと。そういう気持ちが1つ。

往年の「ロードスター」ファンとの出会いがレストアを考え始めたきっかけの1つと梅下さん

梅:もう1つは、もう少し広く、会社・ブランドの立場で考えてみると、そんな風に愛されていて、あんなにたくさん走っている30年前の日本車って、たぶん今、日本にはないと思うのです。だからこれは、僕らにとっても、日本にとっても、けっこう大切なものかなと思って。なので、このクルマがもっと、日本の社会の中で長生きできないかなとシンプルに思ったし、将来これが、「日本にもこんな名車があったよね」と言ってもらえるようにと。

あるいは、そこまで僕らが言っちゃいけないのかもしれないのですが、自動車の文化に、少しでも貢献できればという思いもあって。やるなら、一部の部品の復刻だけではなくって、部品も復刻するけど、きっちりと「これがオリジナルだ」というモノを提供できるカタチがあるのではと思って、レストアにしました。

安:内容が徹底してますよね。「ここまでやるのか!」と感銘を受けました。そのかわり、「それなりのお金を出してもらえれば、復活させますよ」というところも、中途半端じゃない。これって、なかなか日本メーカーが踏み切れないことですよね。例えばテレビ局なら、番組づくりとして「8時だョ!全員集合」をもう1回、同じカタチでできるかというと、できないんですよ! そこの情熱が、他のメーカーと違うし、僕は好感を持ってますね。

「ロードスター」のレストアをテレビの番組づくりに例える安東さん

安:そもそも、日本メーカーには古いクルマの部品がないじゃないですか。100年単位の欧州に比べると、たかだか30年前のクルマでもないって、逆にすごい。そんな日本で、30年前のクルマを、全く同じように作り直すと。お客さんが持って来たクルマを、部品も新しくして、組み立てをやるというのは、これはもう、なんだろう? 欧州メーカーから遅れていたのを、一気に追い越したような……

梅:まあ、追い越してはないですけど(笑)

ロードスターにもう1人の「育ての親」

安:メーカーが責任を持ってレストアするというのは、僕の知る限り、なかなかないですよ。特別なお客さんは別ですよ、例えば、ずーっと「ロールスロイス」に乗ってる人とか。でも、ロードスターは庶民のクルマじゃないですか。庶民のクルマで、ここまでのっていうのは……

梅:あ、庶民のクルマという意味では、(ここまでメーカーがやる例は)ないですよ。そこがだから、我々のチャレンジになるんです。先行している欧米のブランドや、日本だったら一部の高価なクルマならできてるんですけど、やっぱり、このクルマ(ロードスター)でやるのは、すごく大変でした。

※編集部注:例えばホンダは、初代「NSX」のリフレッシュプランを用意している。その価格はメニューの選び方によって大きく変動するが、「エンジンオーバーホール」「足回りオール」「外装オール」「内装オール」などを組み合わせていくと1,000万円近い金額になる。

梅:正直にいって、(レストアの)値段のほとんどは工賃なんですよ。工場でクルマを預かって、部品を一旦、全部取り外すわけですよね。それから塗装し直して、部品を換えて……。作業工賃が値段のマジョリティーなんですよ。で、高いクルマだろうがロードスターだろうが、レストアにかかる工数っていうか、人手はそんなに変わらない。だから、高めのプライシングができれば「なんとかやっていけるぞ」とソロバンも作れると思うんですけど、これをフルパッケージで485万円くらいというのは、これは本当に大変。ほとんど利益ないです。“赤”ではないが利益はないという、ギリギリの線でやっているのが現状で。

レストアでは「サンバーストイエロー」など車体色も選べる(画像提供:マツダ)

安:どのくらいの受注があるんですか?

梅:大体、40人前後のお客様が待っていらっしゃる状況です。実は、今の予定では年間数台しかできない。というのも、マツダなりに自信を持っているエンジニアというか、匠(たくみ)じゃなきゃ作業をやらせないので、そういう人はやっぱり、数人しかいないんです。そういう状態なので、どうやって増やそうかと思っている。

安:妥協したくないですもんね。

梅:そこが重要で、我々からするとロードスターって、僕らは生みの親だけど、育ててくれたのはお客様と、街のショップさんなんですよ。ずーっとケアしてくれたのがショップさんで。僕らが中途半端というか、メーカークオリティでレストアできないんだったら、ショップさんにお任せした方がいいんですよ。

むしろ僕らは、少数だけど、メーカーじゃなければできないクオリティでレストアすることに存在意義がある。一方で、「485万円は出せないけど、自分のロードスターもリフレッシュしたいよ」というお客様には、僕らも部品をお渡しするので、ショップさんにも、もっと仕事をしてもらいたいという思いがあるんです。

安:今回のレストアを機に、これまでより多くの部品供給ができるようになるんですか?

梅:そうです。今回の活動で「コレは復刻しなければいけないな」という部品が見えてきたわけですよね。それをリストアップし、150部品くらいを新たに復刻して、サプライヤーさんとも相談しながら作れるようになったので。

例えば「NARDI製ステアリングホイール」(木製のハンドル)などを新たに復刻した(画像は初代「ロードスター」、提供:マツダ)

「当時のまま」へのこだわり

安:どのくらいのレベルで復活するのか、本当に楽しみ。もし機会があったら、レストアしたクルマを運転してみたいくらい。限りなく、当時のクルマに近づけるのがテーマなんですか?

梅:もちろん。当時のまま、そのものに戻したいんですよ。だから、逆にいうと、当時より良くはならないんですよ。

安:だからいいんですよねー! そこなんですよ。別に、いじらないわけですよね?

梅:お客様のクルマは、8月9日に1号車を納車させて頂いたのですが、その前に、初めてのトライアルなので2~3台、作ってるんですよ。どこが難しいかとかを見るために。

レストア1号車納車式の様子(画像提供:マツダ)
NAロードスターレストアプロジェクト第1号車の持ち主は西本佳嗣(けいじ)さん(右)と奥様の眞里美(まりみ)さん(左)。愛車のユーノスロードスターVスペシャル(1.6L、ネオグリーン、タン内装、5MT)は、1992年に新車で購入したものだという。画像中央はマツダ副社長執行役員の藤原清志さん(画像提供:マツダ)

梅:僕も昔、NAを持ってて、今回はレストアしたクルマに乗ったんですけど、本当に当時のまま。ちょっとブレーキが甘いのも含め「このままや!」と(笑)

安:原点回帰というか、とにかく元に戻したわけですね。そういうのいいな……!

「ロードスター」の原点回帰に共鳴する安東さん

ひとしきりロードスターのレストアについて話した2人。いつしか話題はNA型そのものの話に移り、なぜ最近の日本には、若者でも手を出せる手頃なスポーツカーが少ないのか、あるいは存在しないのかという、より根源的なテーマへと進んでいった。その模様は次回、お伝えしたい。

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