“開拓者”スバルは輝きを取り戻せるか? 中期経営ビジョンを検証

“開拓者”スバルは輝きを取り戻せるか? 中期経営ビジョンを検証

2018.07.20

完成車検査問題などで窮地に立たされ、社長交代を経たSUBARU(スバル)が新たな中期経営ビジョン「STEP」を発表した。水平対向エンジン、4輪駆動、アイサイトなど、際立つ個性で“Different”な存在感を発揮してきたスバルだが、この経営ビジョンのもと再び輝くことはできるのだろうか。

新しい中期経営ビジョンを発表するスバルの中村知美社長

気になった言葉遣い

スバルは2018年から2025年までを対象とする新たな中期ビジョンに「STEP」と名を付けた。「S」はSpeed(スピード感を持った取り組み)、「T」はTrust(信頼を取り戻す)、「E」はEngagement(お客様に共感していただける)、「P」はPeace of mind & enjoyment(安心と愉しさという価値の提供)の頭文字。社会の変化を乗り越えるための「JUMP」に備え、着実に、力強く、歩みを進める意志を込めたという。

だが、2014年の新中期経営ビジョン「際立とう2020」に比べると、STEPは印象に残りにくく、アルファベットを1文字ずつ説明しなければ意味が通じないところに、強い意思統一を促す力の弱さを感じた。

スバルが「STEP」で取り組む3つのこと

言葉遣いの話ではあるけれど、人は言葉によって心を動かされ、価値を共有することのできる生き物である。したがって、物事を前へ進める上で言葉はとても重要だ。同じ視点でいえば「JUMP」も、「飛ぶ」という単語の意味は分かっても、何をするのかが分かりにくい。さらに、「お客様にとって『Differentな存在になる』」との言葉遣いもまた、ほかと異なる存在と聞こえるだけで、何をどうしてスバルの個性を磨き上げるのか、スバル社員の成すべきことが見えてこない。

新中期経営ビジョンの個々の中身以前に、「STEP」「JUMP」「Different」という英単語の羅列が、目指す内容を曖昧にしているというのが、記者会見を聞いていての率直な感想である。

実際、新中期経営ビジョン「STEP」は具体的内容に乏しかった。

「正しい会社」になることが急務

今回の新中期経営ビジョンの柱となるのは、市場の信頼回復にあったのは間違いないだろう。完成車検査や排ガス問題による市場の不信と、顧客への背信という現状から一刻も早く脱却し、スバルのものづくり本来の姿を取り戻すことは急務である。

中期経営ビジョンの時系列

だが、それは社内の問題であって、「お客様第一」の経営理念をいかに全社員に浸透させるかに掛かっている。同時に、社会や時代の要請に対し、どのように商品を構築していくかという未来への展望や目標も、経営ビジョンには欠かすことができないのではないか。

正しい会社を作るためとして、膿を出し切るため、コンプライアンス、ガバナンス、マネジメントの3つを「STEP」では取り上げている。だが、同じことを「法令の尊守」「統治」(統制や監査)、「経営管理」という日本語で語らなければ、やろうしていることへの理解や重みに欠ける。スバルの全社員が日常的に英語に長けているなら別だが、必ずしもそうではないだろう。そこにカタカナの横文字が並んでも、右から左へ抜けていくだけだ。

「正しい会社」を作る取り組み

社内で一体、何が起きているのか。どうすれば課題を解決し、次の新しい体制や挑戦へつなげていけるのか。短時間の記者会見では説明しきれないところもあるだろう。しかし、そうであるからこそ、言葉1つで記者はもちろん、スバルの社員一人一人の腑に落ちる語り掛けをしなければ、何も改善できないし、改革できない。スバルの経営陣が本当にそこを胆に銘じているのかが伝わらない記者会見でもあった。

言葉は、話せば相手に伝わるものではない。相手が理解し、腑に落ちるように語らなければ、話したことにはならないのである。社長が、役員が、一方的にこうすると喋っても、社員一人一人の心に響き、瞬時に自分たちが成すべきことを思い浮かべられる言葉遣いをしなければ、スバルは再生しないだろう。

SUBARUづくりの刷新とは

そのことは、未来への目標や展望についても同様であった。

「SUBARUづくりの刷新」との言葉も語られたが、どのような商品(クルマ)を市場へ投入し、顧客の選択肢に加えてもらうかという具体像に乏しかった。

「2030年に死亡交通事故ゼロを目指す」とも語るが、それを何によって実現するのかが述べられていない。好評の「アイサイト」を基本とする「レベル2」の運転支援技術を磨くというが、それによって交通社会がどうなるのかとの見通しが欠けている。レベル2を磨けば事故ゼロになるのか。自動化ありきではないといいながら、ではなぜ事故ゼロを実現できるのかが不明だ。

また、高価な無人運転車ではなく、誰でもより運転を愉しむことができるアフォーダブル(ここも横文字)な自動運転技術を開発するとは、いかなる意味なのか。その違いが分からない。

主力車種のフルモデルチェンジを毎年実施し、SUVとスポーツモデルを強化していくというスバル

「電気自動車は過渡期」

自動車メーカーが対応を迫られている電動化についてはどうか。記者の質問を受けて中村社長は、個人的な見解として「電気自動車(EV)はまだ過渡期にある」と述べ、「当面の電動化には、水平対向エンジンを主体とする」と答えた。

日産自動車やフォルクスワーゲン、BMWが1回の充電あたり300~400キロの走行距離を実現したEVを市場投入するなかで、何をもって過渡期というのか。どういうEVであれば本格的であり、主流になると考えるのか。回答が中途半端だ。

EVに限らず、電動化に際して当面は水平対向エンジンを主体とするとのことだが、先ごろ発表した新型「フォレスター」で採用している「e-BOXER」は、電動化車両ではあるものの完成度は低い。燃費も特に優れているわけではなく、運転特性に改良の余地を残す。

スバルの新型「フォレスター」

単に電動化することと、魅力的な電動車両とは違う。完成度を高めるには時間を要するからだ。世の中が過渡期であるのではなく、スバル自らが遅れていることへの認識の欠如を思わせる。

EVはまだ市場が十分に形成されていないとの意見も世の中にはあるが、世の中に舗装路での4輪駆動車や、ステレオカメラを使った運転支援が存在しない、すなわち市場が形成されていない時にそれらを投入し、市場を切り拓いたのはスバルだ。なぜ、EVだけに後ろ向きであるのか理解しがたい。それはダブルスタンダードではないか。

もちろん、EV市場がまだ大きくないとはいえ、パリ協定に調印した各国は、1日も早いゼロエミッション(二酸化炭素などを排出しない)社会を望んでいる。中村社長も記者会見の冒頭で触れたように、西日本には気候変動により豪雨が降り、大きな災害が起きた。海水温度が上昇した今、ゼロエミッション社会の実現は喫緊の課題となっているのである。

電動化でも独自性を発揮できるのでは

過去、スバルが独自性を発揮できたのは、水平対向エンジンを縦置きで搭載し、4輪駆動を駆使することにより、低重心をいかし、4輪駆動制御による安定した走行性能を実現したからであるはずだ。

それであるなら、EVは床下にバッテリーを搭載すると低重心になり、モーター駆動の電力を電子制御すればエンジン以上に緻密な4輪駆動力制御を実現できる。エンジン車に比べはるかに効率的で安全で、楽しいEV4輪駆動を生み出すことができる。それこそスバルが目指す究極の「安心と愉しさ」なのではないか。

電動車ラインアップの拡充は明記してあるが、中村社長は「EVは過渡期」との見解を示した

この期に及んで、なぜ燃費の良くならない水平対向エンジンにこだわるのかが分からない。もちろん、社長も言及した通り、これは地元・群馬の部品メーカーらの事業や、従業員の生活に関わる話であり、一朝一夕に転換するわけにはいかないのかもしれない。しかし、だからといって、将来への具体像を語らないまま、ある日突然「もうエンジンは止めます」とはいえないはずだ。

アイサイトの進化においても、例えば新型フォレスターの「アダプティブドライビングビーム」(ハイビームを主体とし、前車や対向車の防眩を行う)がメーカーオプション扱いの車種がある。しかし、これを全車で標準装備とすれば、アイサイトを夜間にも積極的に活用し、安心をより高められるのではないか。

「安心と愉しさ」を掲げながら、安全装備でグレード差を設ける商品体系に平気でいるところに、社長の言葉を借りれば「Differentな存在」になれていない現実がある。

安全装備を全車標準装備とすることもスバルが「Differentな存在」となる1つの方法では

中期経営ビジョンは手順が逆?

以上の事例は、理念や標語の言葉を文字通りものづくりにつなげられていないスバルの実態を明らかにする。そこに実は、スバルが抱える問題もあるのではないだろうか。そして、英単語を並べた新中期計画の内容にも、上滑りな印象を受けてしまう。ものづくりをし、それを顧客に買ってもらって成り立つ製造業であることが、忘れられているのではないかという懸念すら抱いたほどだ。

ブランドとは、自らがブランドであろうとするのではなく、愚直に顧客満足の高い製品を作り続け、それを永年、ひたすら続けることではじめて、顧客がブランドと認識するものである。ブランドを作ろうとか、ブランドであろうというのは、おこがましいことであり、何よりまず、顧客第一の真摯な商品を、時代に適合させながらひたすらに作ることがスバルには求められている。そこに、おのずと顧客を尊重する真摯なものづくり精神も宿るはずだ。

今回の新中期ビジョンは手順が逆であることにより、曖昧でわかりにくい内容になったのではないだろうか。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu