クリーンエネルギーの代表格「水力発電」の現場を見学

クリーンエネルギーの代表格「水力発電」の現場を見学

2018.07.21

EV「BMW i3」で丸沼ダムを目指す

尾瀬探索に隠されていた東京電力のねらい

尾瀬人気の低迷も大きな課題

MINIのショールームが併設されたBMW GROUP Tokyo Bay

7月中旬。東京・お台場にある「BMW GROUP Tokyo Bay」に数人のメディア、BMWジャパンのスタッフ、東京電力の職員らが集まった。総勢10名強。なぜBMWと東京電力の組み合わせなのか不思議に感じる方もいらっしゃるだろうが、両社はある取り組みにおいて同じベクトルを向いている。

ちなみに、BMW GROUP Tokyo Bayは、BMWグループのフラッグシップ・ショールーム。BMWはもちろんのこと、同グループのカーブランドMINIのクルマも展示されている。付近にはトヨタの多目的型ショールーム「MEGA WEB」もあり、クルマ好きにはたまらない地区だ。

さて、なぜBMWと東京電力が同じベクトルを向いているのか。まず、東京電力だが、知ってのとおり福島原発において大きな事故が起こった。以前から再生可能エネルギーの活用を模索していた同社だが、この事故以降、その姿勢は一層加速した。一方、BMWは電気自動車(EV)の普及に積極的だ。つまり、水力発電によるクリーンな再生可能エネルギーと、クリーンなEVの組み合わせを意識づけるために、今回メディアが招待されたのだ。

そして、この招待のもうひとつの理由が「アクアエナジー100」という電気料金プランをローンチしたこと。これは、水力発電100%のプランで、自宅のクルマがEVならば、このプランによりCO2排出が限りなくゼロに近くなる。料金は通常プランよりも約2割増しになるが、その分、環境保全に生かされる。今回は、そのプランのプロモーションも兼ねたメディアツアーでもある。

目的地は丸沼ダム

目指す場所は群馬県・丸沼発電所(以下、丸沼ダム)、そして移動手段は「BMW i3」。当日は数台のi3が用意され、メディアやBMWスタッフ、東京電力職員が分乗し、関越自動車道を北上した。

コンパクトな「BMW i3」。テールの形状がカワイイ

実は筆者は、EVに乗るのは初めてだった。そのためEVに対して誤った固定観念を持っていた。「高速道路を走行する性能はないのではないか」「山道を登坂するパワーはないのではないか」「航続距離が短く実用的ではないのでは」といったことだ。だが、この日、i3に乗ってみて、そのすべてが間違いだったことを思い知った。高速道路では、追い越し時にグイグイ加速するし、登坂時もスムーズ。むしろガソリン車よりも速いのではないかと感じるほどだ。給電も往路で1回のみ。サービスエリアで30分の急速充電が可能なので、昼食を食べているあいだに完了する。

SAの急速充電器。プラグを差し込んで充電する

EVの実用性は十分だし、そしてクリーンなことを考えれば、もっと日本で普及してもよいのではないかと思った。ただ、今回乗せていただいたi3は、諸経費を含めると600万円ほど。国から補助金が出るとはいえ、やはり価格で躊躇している方も多いのだろう。ただ、ガソリンが高騰している折、ランニングコストを考えれば、もとは取れそうな気もするのだが……。

丸沼ダム見学に戻ろう。今回は一泊二日の旅程だったが、ダム見学は2日目で、まずは宿泊宿のある尾瀬ヶ原に向かう。尾瀬にはクルマが乗り入れられないので、途中の駐車場にi3を駐車。あとは乗り合いバス(ワンボックスの乗り合いタクシー)で、尾瀬入り口まで進んだ。

そこから約1時間ほど、ブナ林の中に設けられた遊歩道を歩く。基本的には緩やかな下りなのであまり苦ではなかったが、帰りに今度は登りになることが頭をよぎった。だが、ブナ林ならではの木漏れ日や吹き抜ける風、そして東京では味わえないさわやかな気温が、そんなことを忘れさせてくれた。

そして到着した宿は「尾瀬ロッジ」。いかにも山間の宿といった風情の外観だが、内装は清潔で旅館などと遜色はない。食事も品数豊富で満腹感が得られる。ちなみに夕食のメインディッシュはお肉の陶板焼きで、ビールやワインも飲むことができた。クルマが通行できないところで、お肉やお酒が楽しめるのは「ボッカさん」と呼ばれる運搬係の貢献があるからだ。食事のハナシのあとで申し訳ないが、トイレの一部がオシリ洗浄機能付きだったのを付け加えておく。

いかにもな雰囲気の尾瀬ロッジ。食事は陶板焼きがメインで、ポン酢を付けて食べる

何もみえない漆黒の闇

さて、ロッジでの印象的な体験を2つ。ひとつは、夜間外に出てみると、まったくもって漆黒の闇だったこと。視界は皆無といってよい。星空が見えればよかったのだが、どうやら空は雲で覆われているらしい。何十年も生きてきたが、これほどの闇は初めての経験で逆に新鮮だった。できれば、その闇をお目にかけたいのだが、カメラで撮っても仕方がない。フラッシュをたいてしまうと、そもそも闇ではなくなる。

そしてもうひとつがロッジの水。ミネラルウォーターを買うためにフロントに行ったのだが、置いてないという。「洗面台の水を飲んでください」といわれ、そのとおりにしたのだが、冷たくてウマイ! こんな水が蛇口から飲めるのならば、ペットボトルの水など確かに不要だろう。

そして20:30ぐらいに消灯。やはり山の夜は早い。

翌朝、朝食のあと、尾瀬探索に向かった。メディアはもちろん、BMWスタッフ、東京電力職員も一緒だ。

今回は丸沼ダム見学が主目的だったが、東京電力のねらいが尾瀬探索に隠されていた。実は尾瀬の約4割が東京電力の土地。もともと水力発電のために用地を取得したのだが、観光客の増加、住民の反対(最初は一人だけが反対運動)などがあり、計画を断念した。以降、保全という立場に回り、尾瀬の土地を守っている。ある意味、CSRといえるだろう。さらに国立公園特別保護地区にも指定され、開発は不可能になっている。

そして今回、尾瀬探索にメディアを招待したのは、尾瀬人気の復活のため。最盛期には約70万人が訪れていたが、現在は30万人ほどまで減ってしまったそうだ。これには、ある仮説がある。尾瀬人気が高かったころ、「夏の思い出」という歌がヒットし、小学校や中学校の合唱では、定番の曲となっていた。

尾瀬人気が低下している理由は?

ところがだ。現在はこの曲を歌う学校が激減しているという。それにともない、尾瀬の知名度が低下した。実際、筆者がよく行く居酒屋のアルバイトに「明日から尾瀬に行く」と伝えたところ、「それどこですか?」という返事が返ってきた。

さて、尾瀬ヶ原はまさに写真などでみる景観と一緒だった。広大な湿原の中に木道が延び、燧ケ岳(ひうちがだけ)や至仏山(しぶつさん)がみえ、白樺も点在している。実はこの木道、東京電力や群馬県、福島県、新潟県などによって設置されたものだ。もし、尾瀬を訪れることがあれば、木道の板を確認してほしい。設置した企業や自治体、いつ造られたのかといった刻印が押されている。

左上:木道がどこまでも延びる、尾瀬おなじみの光景。右上:沼に燧岳が映る「逆さ燧」。残念ながら山頂部は雲に覆われていたが、これはこれで風情がある。左下:白樺林が点在し、高原の雰囲気を演出。右下:木道に刻まれた、TEPCOのマークと設置時期

ただ、それは気づいたときでいい。やはりみるべきは広大な湿原と点在する沼、そして豊かな植生だ。残念ながら尾瀬のシンボルともいえる水芭蕉のシーズンは終わっていたが、「ニッコウキスゲ」や「ヒオウギアヤメ」など、数々の花が咲いていた。本来、取材できたのだが、花の図鑑でも作るのかというくらい、さまざまな花を夢中で撮った。

尾瀬の花々。左上:ニッコウキスゲ、右上:ヒオウギアヤメ、左下:オゼヌマアザミ、右下:コオニユリ

尾瀬探索のあと、本来の目的である丸沼ダムを目指す。ブナ林の復路で駐車場に向かった際「オヤッ!?」と思ったのは、国際色が豊かだったこと。ハイキングではすれ違うハイカーに挨拶するのが基本だが、私の「おはようございます」の言葉に、「ニーハオ!」「グッドモーニング」という言葉が返ってきた。尾瀬人気は低下しているが、インバウンドの知名度は高いのかもしれない。

さて、いよいよ丸沼ダムだ。このダムは昭和3年から建設され昭和6年に完成。コンクリートが少なくて済む「パットレスダム」となっている。当時、マンパワーはあったが、コンクリートが高価だったのでこの方式が採られたという。日本には8カ所しかなく(うち2カ所は廃止・現在6カ所)、貴重な存在なのだそうだ。

その証拠に、「ぐんまの土木遺産」、そして国の重要文化財に指定されている。そのダムの上を歩かせていただいた。普段は関係者しか通れないので、柵は低めだが、景観がすばらしかった。丸沼を東西に分けるように堰堤が延び、ダムの上流と下流でかなりの高低差がある。

重要文化財を示す石碑と重要文化財指定書。下段は堰堤の上から上流側と下流側を撮った写真。同じところから撮ったが、上流(左)と下流の水面の高さがかなり異なる

美しい景観の丸沼ダム

ただ、丸沼は美しく、エメラルドグリーンの水が印象的だった。多くのダムは川をせき止めるため、大雨が降ると土砂が流入しやすい。ところが、丸沼には小川しか注いでなく、大雨が降っても濁りにくいのだそうだ。上流にも下流にもボートが浮かび、フライフィッシングなどを楽しむ釣り客も多かった。水面をみると、40cmぐらいのニジマス? が悠々と泳いでいるのが確認でき、しかも人の目の前でライズ(水面の虫を補食すること)を繰り返していた。あまりの警戒心のなさに、少し驚いた。

そしていよいよダムの中へ。70段以上の階段を降りると、堰堤の最下部に出る。ここからダムの全景が見わたせる。高さ約32m、長さ約88mの堰堤は圧巻だ。ただ、瀑布のように水を流し発電タービンを回すのではない。沼上流から水を取り込み、それを下流の沼底から排水する仕組みだ。なので、ボート客に与える恐怖は少ない。

ダムの最下部に向かうには、秘密基地のような階段を降りていく。丸沼ダムの全景。この堰堤の向こう側が上流側

こうして、丸沼ダム見学は終了した。BMW i3に分乗し、復路を走った。残念だったのは、あのロッジの水をもう一度飲みたかったこと。ところが、片品村で訪れた建設中の道の駅「尾瀬かたしな」で、尾瀬の水を引いた水くみ場があった。飲むのは自己責任とのことだが、躊躇なく飲んだ。もちろん、おいしかった。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

Appleで何が起きているのか、クックCEOの手紙に波紋 - iPhone SE2の可能性も

2019.01.23

Tim Cook氏の投資家向けレターが波紋を呼ぶ

大きな誤算だった新型iPhoneの販売状況

中国勢に翻弄されるApple、噂の「iPhone SE2」は?

AppleのTim Cook(ティム・クック) CEO

1月29日に発表される米Appleの2019年度第1四半期(2018年10-12月期)決算に合わせ、投資家らに宛てた同社CEO Tim Cook氏のメッセージレターが波紋を呼んでいる。

1月2日に発信されたこのメッセージには、当初890-930億ドルとしていた同四半期の売上が840億ドル程度と最大1割程度減少することが記されており、その理由として世界情勢の悪化やそれにともなうiPhone売上減少が挙げられている。この報告を受けて同社株価は1割程度も急落し、iPhoneに部品を提供するサプライチェーンにも影響が拡大している。現在Appleに何が起きており、今後同社はどこに向かうのか。

Tim Cook氏が投資家向けメッセージで語ったこと

Appleが決算発表前のガイダンスを下方修正することは過去にも何度かあったが、iPhone発売以降の現行体制に移行してからは過去最大のインパクトとなった。熱心なAppleウォッチャーとして知られるDaring FireballのJohn Gruber氏はこの件について「2002年6月以来」と述べており、ドットコムバブルがはじけた直後の新製品リリースに苦戦していたAppleの苦境に近い状況を想定しているのだろう。

さて、今回の下方修正最大の要因は中国市場にある。下記はTim Cook氏が投資家らへのメッセージで語った内容だが、中国では2018年後半に経済減速が始まっており、iPhone、Mac、iPadのすべてのカテゴリで売上減少が発生しているという。

> While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China. In fact, most of our revenue shortfall to our guidance, and over 100 percent of our year-over-year worldwide revenue decline, occurred in Greater China across iPhone, Mac and iPad.

> China’s economy began to slow in the second half of 2018. The government-reported GDP growth during the September quarter was the second lowest in the last 25 years. We believe the economic environment in China has been further impacted by rising trade tensions with the United States. As the climate of mounting uncertainty weighed on financial markets, the effects appeared to reach consumers as well, with traffic to our retail stores and our channel partners in China declining as the quarter progressed. And market data has shown that the contraction in Greater China’s smartphone market has been particularly sharp.

もちろん経済減速を意識して中国の人々の間で旺盛な消費意欲が減退して、高価なApple製品を買えなくなったという話もあるだろう。一方で、特に中国ではiPhoneの競争力がなくなりつつあるという指摘もある。例えばWall Street Journalが1月3日(米国時間)に公開した記事では、本来は中国市場などをメインターゲットに「安価で大画面」をうたって登場したはずの「iPhone XR」が10万円近い値付けで非常に高く、Huaweiなどの競合製品と比較しても機能面で見劣りして魅力的ではないと説明されている。

実際、カメラ機能でいえばより安価な価格帯でHuaweiのP20 ProやMate 20 Proといった製品が提供されており、背面が単眼カメラで値付け面でもiPhone XRは不利だ。価格競争力という点ではXiaomiというライバルもおり、中国市場におけるiPhoneは「iPhone」というブランド価値でしか勝負できていない。

現行のiPhone XR

もともとサプライチェーンの最適化で世界最高レベルの手腕を持つTim Cook氏が中国に築いたiPhoneの製造エコシステムは、Appleを大きく成長させる一方、中国で強力なライバルを育て競合を激化させた。いまや世界で最もスマートフォン激戦区となっている市場において、中国に育てられたAppleが、中国で生まれた競合らによって弾かれつつある。

Appleの誤算と将来

Apple不調の話はいまこのタイミングで出てきたわけではなく、一昨年2017年にiPhone Xをリリースした直後にはささやかれはじめ、昨年2018年にiPhone XS、XS Max、XRをリリースしたことで確信に変わったという流れだ。

特にAppleからオーダーを受注するサプライヤ各社は、生産量の動向を事前に把握しており、昨秋に何段階かにわたってiPhone XRの製造量が当初見込みの半減以下になったことを受けて、このトレンドが確かなものだと認識しただろう。もともとiPhone XRの製造台数は全iPhoneのうち3-4割程度を見込んでいたが、現状では1割強の水準にとどまる。

iPhone XSとXS Maxもすでに販売が頭打ちのため、iPhone Xの製造ラインを復活させて(オーダー済み)在庫部品を消化したり、iPhone 7や8といった旧モデルの流通数量を増やして全体の販売台数を調整したりと、新モデル不調を旧モデル復活で穴埋めする状態が続く。

さらに、すでに製造済みの流通在庫や部品消化のためiPhone XRを大量に販売しなければいけない状況であり、Appleが携帯キャリアにバックリベートを渡す形で値下げを進めたり、トレードインプログラムを介して旧機種の下取りを条件にiPhone XRのみを比較的安価に販売したりと、さまざまな施策が続いている。

米カリフォルニア州サンフランシスコにあるApple San Francisco店舗の入り口に掲げられたiPhone XRの宣伝文句
店内ではトレードインプログラムによるiPhone XRの割引販売告知が掲げられている

iPhone XRの製造数は専用部品である液晶パネルの数量から想定できるが、もともと製造量の少なかったLG Displayはともかく、フォアキャストの大幅減少を受けて最大のサプライヤであったJDIは非常に大きな影響を受けているといわれ、新型iPhoneに関わりの深かったサプライヤほど少なからぬダメージを受けている。結果として、昨年2018年第4四半期(10-12月期)時点ですでに一部サプライヤが大幅な業績の下方修正を行っている。筆者の推測だが、後述のAppleの製造計画を見る限り、今後もしばらくはサプライヤの苦難の時代が続くだろう。

Appleの製造計画に詳しい複数の関係者の話によれば、同社は2019年秋に新しい3モデルのリリースを計画しており、それぞれ「6.5インチのOLED」「5.8インチのOLED」「6.1インチのLCD」という現状のモデル構成をそのまま維持する。機能面での大きな違いは「カメラ性能」で、最上位モデル(6.5インチ)は「3眼カメラ」を採用し、残りはすべて「2眼カメラ」となる。

「3眼カメラ」については競合のHuawei製品とは異なり、望遠や広角ではなく「深度計測」に特化したセンサーになるようだ。主にポートレート撮影を想定したもので、「強力なコンデジ」を突き詰めた競合製品との違いとなっている。また現行モデルではiPhone XRとしてリリースされた普及モデルでも2眼カメラであり、「カメラ性能で競合と比べて不利」という状況を覆す狙いがあると考える。

一方で、2018年モデルでLCD搭載製品の需要があまり見込めないと判断したAppleは、2020年モデルで「OLED搭載モデルのみ」に絞ってリリースする可能性がある。現状聞こえてくるのは「大画面」と「中画面」の2モデル構成で、それぞれの需要をカバーする。また同年代のモデルでより大サイズのカメラセンサーを搭載するという話も出ており、ライバル対抗を隠さない方針のようだ。

次期モデルは高値傾向がより問題に

反面、部品原価は高くなる一方で、この場合カメラモジュールのコストが一気に跳ね上がり全体のBOM (Bill Of Materials)を圧迫する。BOEなど中国系メーカーへのOLEDパネル製造の打診もあるようだが、LG DisplayでOLEDパネル製造が上手くいっていない現状を見る限り、今後も少なくとも1-2年はSamsung Displayによるほぼ独占供給状況が続き、パネル価格も高止まりを続けることになるだろう。つまり2020年も引き続きiPhoneの高値傾向は続き、場合によってはさらなる値上げという可能性も出てくる。

現行ラインアップで最上位機種の「iPhone XS Max」(右)と、その小型版の「iPhone XS」(左)

高価格が敬遠されるなか、iPhone XS、XS Max、XRの世代ではForce Touchの機能を省いてコスト削減までしておきながら、さらに値上げ要素を維持する狙いは何なのか。

これを筆者はイノベーションのジレンマのようなものだと考えている。iPhoneの機能としてはほぼiPhone 6の世代で完成しており、以後は大きなイノベーションなく製品の更新が続いている。一方で、大きな競争にさらされた競合メーカーらは最新機能やアイデアを惜しみなく投入し、「世界初」的なアピールを続けている。

ユーザーの目からすれば「そんなのは微々たる差でスマホの機能自体はたいして変わらない」と思うかもしれない。だがAppleの目にはそう映っておらず、焦りのようなものがあったのかもしれない。その結果、Tim Cook氏の号令で大きく舵を切って登場したのがOLED全面採用モデルである「iPhone X」や、そこに据えられた「Face ID」のような仕組みというわけだ。

おそらく、Appleが一番意識しているのは中国メーカー各社と中国市場で、昨今の大画面化や搭載機能の強化傾向(カメラなど)を見る限り、これはほぼ確信に近いと考える。もしAppleの最近の動きがおかしいと感じる方がいるのなら、それは「中国のライバルに翻弄されているから」と考えていいのかもしれない。

「iPhone SE2」の可能性はあるのか

最後に、昨今話題になりつつある「iPhone SE2」の可能性に触れて締めたい。

つい先日、iPhone SEが再販されて一瞬で売り切れたことが話題になったが、このオリジナル「iPhonse SE」が登場したのは2016年春。ちょうどiPhone 6SとiPhone 7が登場する合間のタイミングのことだ。

色々いわれているが、iPhone SEのもともとの登場経緯は、iPhone 6の不調で部品が消化しきれず、iPhone 5の筐体にiPhone 6Sの部品などを組み合わせ、「小型画面で最新機能」という形で売り出された。価格が最新のフラッグシップモデルよりも安価に設定されていたこともありユーザーからの反応もよかったが、iPhone全体のASP(平均販売価格)を引き下げる要因となった。Appleとしてはあまり積極的に販売したくないモデルでもあり、最大の販売チャネルである携帯キャリアにはあまり商品を流さず、製造も絞っていたという話を聞いている。ある意味苦肉の策で登場した製品といえる。

今回、特にiPhone XRの流通在庫が余る傾向にあり、iPhone SE2が登場する条件が整いつつあるという見方もある。だが、ある関係者の話によれば「iPhone XRは専用部品が多く使い回しが難しい」という理由もあり、高コストな製品をあえて値下げした状態で売るほどApple側にも余裕がないとう状況のようだ。少なくとも、最新機能を搭載した製品を安価に入手するルートとしての「iPhone SE2」は出てくる確率が低いだろう。

クックCEOはこれまで以上に難しい舵取りを迫られる

一方、LG DisplayなどにLCDパネルの発注を行い、今春にも安価なiPhoneの登場を示唆する声も聞く。その関係者の話によれば、実際にこうしたLCDパネル受注が増えているのは事実だとしているが、この情報だけからiPhone SE2のような新しい製品か、あるいは単に旧モデルの製造数を増やしているのかを推測するのは困難だ。

iPhone SE2のような製品を発売して既存の上位モデルの売上をカニバライズするよりも、iPhone 7や8のラインの製造を増やしてローエンド需要を満たすほうが現実的かもしれない。実際、iPhone XS MaxやXSの不調に比して旧製品の大画面モデルは販売数が伸びており、実際にこの予測を補強する。ライバルとの競合に加え、自身の製品の市場バランスを崩さないという両方に気を遣わなければいけないというのも、Appleのつらいところだろう。