【短期集中連載】人事で制する日本のM&A/マーサージャパン 島田圭子氏インタビュー(第3回:完)

【短期集中連載】人事で制する日本のM&A/マーサージャパン 島田圭子氏インタビュー(第3回:完)

2016.06.15

【短期集中連載】人事で制する日本のM&A/マーサージャパン 島田圭子氏インタビュー(第3回:完)

日本企業が外国企業を買収するアウトバウンドの大型M&Aは活発 になっている。だが、PMI(Post Merger Integration、買収後の統合プロセス)がうまくいかず、思うようなリターンを上げられないケースも多い。PMIのカギを握るのは、買収先企業の 経営陣との関係だ。国内外の企業のM&Aに関わる人事デューデリジェンスや組織・人事面での統合を中心としたコンサルティングに豊富な実績を持つ マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門 プリンシパルで、この4月1日に部門代表に就任した島田圭子氏が語るM&Aを成功に導く人事施策のカギを短期集中連載する。 最終回は、後継育成計画について伺った。

現経営陣の留任に成功したら、後継育成計画に着手する

――ガバナンスの構築には、現地経営陣の理解を得ることも重要なのでしょうか。

 日本側から派遣できる経営者がいなければ、買収先の現経営者をリテインする(留任してもらうように働きかける)ことが重要です。留任の条件として、多くの経営者が求めるのは、従来の権限を維持するオートノミーです。一方で、リテインするために、相手の要求を丸呑みして、必要なガバナンスを利かせられなくなることは避けなければなりません。たとえば、経営会議についてはCEOの権限を維持するが、取締役会の決議事項を変えてガバナンスを利かせる。プライドの高いCEOなら、部下からのレポートラインや部下から見える権限を変えずに、メンツを守る工夫をすることも大切でしょう。本社のさまざまな部署がバラバラに報告を求めることも、CEOのモチベーションを下げる大きな要因なので、レポートラインと情報共有を明確に分け、指示命令として報告を求める場合にはCEOのレポート先の役員から依頼することをきちんと守るといった配慮も必要だと思います。

――経営陣のリテンション(人材の引き留め)を成功させるために注意すべき点は何でしょうか。

 情報が非常に限定されている場合には、まずCEOの経歴、出身業界や、年齢、家族状況等可能な限りのバックグランドを把握します。たとえば、Sellerがプライベートエクイティのケースで、プライベートエクイティファンドから雇われたCEOは、買収に際して多額のトランザクションボーナス(売り手企業が売却の完遂を動機付ける為に取引成功時に重要関係者に支払うボーナス)を受け取るので、特にハッピーリタイアメントを頭に描いている年齢層ののCEOの場合は、留任の可能性は低くなるでしょう。買収対象事業の事業領域の経験の浅い、再建専門の経営者も同様です。逆に、同じ業界・地域出身で、その時期にCEOを求めている会社が同地域で他に見当たらなければ、留まる可能性は高まります。このように当たりをつけた上で、現行の処遇条件等も請求した上で精査し、その上で経営陣と個別インタビューを行い、ポストディールに関する期待や不安等を含めて経営陣の意向を多面的に把握するよう努めます。弊社がご支援する場合には、現地のシニアな役員報酬専門コンサルタントが第三者として現地語でインタビューをすることによりうまく引き出すよう工夫をします。先述してきたように、ガバナンス面でCEOのモチベーション維持に配慮するほか、家庭の事情や勤務形態等についても、柔軟に対応することで、留任の確率を上げることができるでしょう。その上で非常に鍵となるのは、今後の事業構想を買収側の代表者が伝え、それに経営陣が心から賛同できるかどうかになります。

――CEOの辞任に対しては、どう備えたらよいでしょうか。

 それでも、さまざまな事情からCEOが辞めてしまうリスクは避けられないので、備えとしてコンティンジェンシープラン(非常事態に備えた計画)を検討しておくことも重要です。後継者については、社内における候補者の有無や、その候補がすぐに代替できるのか、もう少し育成のための時間が必要なのか、といった状況を把握します。社内に後継候補者が不在ならば、外部からの採用も検討しなければなりません。

 最近は、サクセッションプラン(後継者育成計画)について、日本企業の関心も高くなってきました。一人の経営者に頼っていると、事業環境の変化に対応できなくなるリスクもあるので、常に後継者のことは考えておくべきだという理解は広がっています。後継者についての人事会議を定期的に開催し、後継者の人材プールの状況や、ディベロップメントプランの進捗状況をモニターし、すぐに交代可能なのか、1年後なのか、3年後なのかといったタイムラインとプランのアップデートが必要になります。日本企業のグローバル経営人材の不足は一朝一夕には解決しませんが、中長期的なキャリアパスを設定し、30代の若手から執行役員候補クラスまで、いくつかの階層に分け、育成計画を設計する動きも見られますので、その成果が期待できると思います。

 海外子会社経営者の後継は、人材要件と評価の仕方を可視化して、親会社と海外子会社の認識を整合させておくことも大切です。買収して、経営者をリテインできたら、すぐに後継者の第二層のアセスメントを始めるべきでしょう。日本企業は、人材アセスメントをすると、相手から人員整理の準備と取られるのではないか、と遠慮を働かせる向きもありますが、タイミングを逸すると、一層やりにくくなります。海外では、買収した会社のガバナンスのためにサクセッションプランニングも必要だという考えは理解を得やすいはずです。後継者育成のためという前向きな目的を示して、早期に始めるべきです。

――M&Aについて、日本企業と海外企業との違いはどこにありますか。

 日本企業の競争力向上の手段として企業買収という選択肢はこれからますます重要になるでしょう。ところが、M&Aは本来、買収時の株価に上乗せしたプレミアムまで含めた投資回収ができてこそ成功と言えるのに、日本企業の成否基準はそうはなっていません。欧米企業は、お金を投資してどれだけのリターンを得られるのか、という点を重視している一方で、日本企業は投資回収の意識が薄いとなれば、競争力を高めるはずのM&Aが、逆に競争力を失わせることになりかねません。

 M&Aを成功させるには、高い目標を設定して、経営陣にやらせきる厳しさも必要です。現地子会社が、買収時に立てている計画は高めに設定されているため、現地経営陣は、目標を保守的に下げようとする話はよくありますが、買収時にCEOがコミットした計画なら、簡単に折れずに達成を強く要求し続けるべきでしょう。経営陣のパフォーマンスが上がらずに計画が達成できないなら、報酬に反映させたり、辞めさせたり、報酬決定や任免といった人事の権限を活用すべきです。それを可能にするためにも、先述のサクセッションプランは重要になってきます。

――ありがとうございました。(完)

1回目:マネジメントを任せるならガバナンスをしっかり利かせるを読む

2回目:実際にガバナンスを機能させるために、意思決定プロセスを把握せよ

編集:M&A Online編集部

島田 圭子(しまだ・けいこ)略歴 マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門代表 プリンシパル

国内外の企業に対する、M&Aに関わる人事デューデリジェンスおよび組織・人事面での統合支援を中心としたコ ンサルティングをリード。2002年より企業再生案件、ファンドの投資案件、日系企業同士の大型合併案件に伴う組織・人事統合の支援多数。2004年以降 は主に日本企業のクロスボーダーM&Aに伴うプレディールからポストディールまでの一貫した支援をリード。支援した業界は、IT・通信、半導体、 重機械工業、化学、製薬、電機・精密機械、食品、物流・運送、金融等と多岐にわたる。企業規模も数名のベンチャーから数万人規模の上場企業まであらゆる組 織の支援実績を有する。タレントコンサルティングでの3年間のコンサルティング経験及び日本企業の海外現法の人材マネジメントサポートの豊富な経験も有す る。直近では、外国企業による日本企業投資・JV設立・買収支援及びPMI支援案件も複数リードしている。
著書に『A&R 優秀人材の囲い込み戦略』東洋経済新報社(共著)、『人事デューデリジェンスの実務』中央経済社(共著)、『M&Aを成功させる組織・人事マネジ メント』(日本経済新聞社、共著)、『合併・買収の統合実務ハンドブック』(中央経済社、共著)がある。

日系企業人事部を経て現職。

青山学院大学国際政治経済学部卒、 シカゴ大学経営学修士(MBA)修了。
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

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なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○清水和夫の自動運転ソシオロジー
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○「食べる」をつくる科学と心理
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○山下洋一のfilm@11
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○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu