ユーザーとともに創る日本マイクロソフトのイノベーション戦略

阿久津良和のITビジネス超前線 第5回

ユーザーとともに創る日本マイクロソフトのイノベーション戦略

2018.04.23

多くのIT企業はハッカソン(ハックとマラソンを掛け合わせた造語)やコンテストを実施し、新たなビジネスの創出に努めている。Microsoftおよび日本マイクロソフトは学生向けITコンテスト「Imagine Cup」を2003年から、日本マイクロソフト独自施策としてスタートアップを支援し、技術革新を表彰するコンテスト「Innovation Award」を2007年から例年開催してきた。

過去のInnovation Award受賞者には、法人向けクラウド名刺管理・共有サービス「Sansan」を展開するSansan 取締役 富岡圭氏(2009年度優秀賞)など、ビジネスの第一線で活躍する方も少なくない。2017年から日本マイクロソフト 業務執行役員 コマーシャルソフトウェアエンジニアリング本部長に就任したドリュー・ロビンス氏は「技術スキルに磨きをかける場を提供したい」とその意義を語る。

2016年4月23日に開催した「Innovation Award 2016」の様子。Imagine Cup参加者を交えた記念撮影が行われた
2017年3月22日開催の「Innovation Award 2017」。Information Award受賞者たち

2018年4月16日に都内で開催した「Innovation Award 2018」は、Imagine Cup 2018日本代表最終選考会とInnovation Award最終審査、そして両者の表彰式を行うイベントだ。本稿ではInnovation Award受賞者に焦点を当て、自社の新ビジネス創出につながるアイディアを紹介する。

小型ドローンで各所を保守検査

イベントスポンサーの冠を持つOrange Fab Asia賞 兼 サムライインキュベート賞 兼 東京エレクトロンデバイス賞 兼 三井不動産賞を受けたLiberawareの「LAPIS(Liberated Activation Platform for Information Strategy)」は、非GPS環境下で小型産業用ドローンを活用し、屋内空間のデータ化とAI(人工知能)解析システムを用いた施設および基盤の管理やメンテナンスを可能にするソリューションである。

下水道管や物流センター、植物工場や洞道といった狭い空間に小型産業用ドローンが踏み入り、情報収集や予兆保全などに用いることが可能だとLiberawareは説明する。1例として地下施設内の基盤保守検査について、「Microsoft Azureを活用した機体管理やデータ解析、飛行設計などを行うLAPISを、Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)を組み合わせることで、劣化したパイプを可視化するといったシナリオを実現」(Liberaware 関弘圭氏)できると語った。

Liberawareの小型産業用ドローンを音声で制御するデモンストレーション

ドローンから得た空間情報をサーバーに送信し、映像として構成したHoloLensのディスプレイに映し出すという。既に数社とプロジェクトを開始しつつ、音声やジェスチャーを用いたドローンの遠隔操作に着手している。さらなる小型化は可能かと審査員から問われると、同社は「センサーの小型化が課題」(関氏)とドローンを構成する部品の進化が影響を及ぼすと説明した。

顧客とデザイナーのイメージをVRで共有

PR TIMES賞を受けたのは、これまで莫大な費用を必要したVR(仮想環境)空間作成を、3D CADデータを読み込ませるだけで作成し、同空間内で打ち合わせや意思決定を行う空間・建築デザイナー向けのVRビジネスツール「SYMMETRY」。DVERSEの沼倉正吾氏は、「デザインの現場では顧客とデザイナーが互いのイメージを共有しなければならないが、人によって感覚は異なる」と述べ、その差異を埋めるのがSYMMETRYだと説明した。

DVERSEの「SYMMETRY」はWindows Mixed Reallyデバイスを装着し、顧客とデザイナーの間で建築物のスケール共有や修正が可能とする

カメラアングルを変えた背景画像や家具の画像を、教師データとして機械学習に与えることで、VR空間を作成する。顧客とデザイナーはWindows Mixed Reallyデバイスを装着し、VR空間に滞在してイメージをすり合わせるが、3Dモデルの物体認識率は学習済みが98%。未学習画像でも93%の正解率に達するという。DVERSEは、「市場規模は約12.7兆円。デザインの現場で必要だった確認・修正・承認のフローを改善する」(DVERSE 沼倉正吾氏)と述べ、建築や店舗、展示会など幅広い市場での展開を目指す。

懇親会で披露した「SYMMETRY」。デバイスを装着して体験する参加者も少なくなかった

量子コンピューティングをビジネス分野へ開放

プロトスター賞を受けたのは、MDRの「Wildcat」。機械学習などに用いられるプログラミング言語のPython用開発キットを利用し、量子コンピューティングと古典コンピューターの開発環境をクラウド経由で提供するソリューションだ。統計的な変動を用いた、確立リカレントニューラルネットワークの一種であるボルツマンマシンは、規模の拡大に応じて学習の正確性が欠落することから、実用化に大きな課題を残す。同社は「量子コンピューティングは、10年内に古典コンピューターを超えるため、ビジネス分野に明るい方々が量子コンピューティングを使える環境が必要」(MDR 小林俊平氏)だと語る。

MDR「Wildcat」の概要。Microsoft Azure上で稼働する

MDRは量子コンピューティングにまつわる課題を解決するため、ボルツマンサンプリングの計算負荷や精度不足を改善し、"古典+量子コンピューティング"のハイブリッドプログラミング環境を提供するWildcatを用意した。NVIDIAと協力したGPU並列化シミュレーテッド量子アニーラを用いて、ボルツマンのサンプリングを行い、それ以外は古典コンピューターで実行する仕組み。1GPUで5,000量子ビットの演算を可能にし、複数GPUでマルチノード並列化を実装している。今後の展望として同社は、ゲート型量子コンピューターのGPU並列化シミュレーター、量子アニーラや量子コンピューター用独自チップの開発、既存の量子コンピューターへの接続交渉を重ねているという。

Wildcatを支える「GPUアニーラ」の概要

ビジネスパーソンでもデータサイエンスを実行可能へ

弥生賞を受けたのはデータビーグルの「Data Diver」。エンジニアやコンサルタントの専権事項であったデータサイエンスを一般的なビジネスマンが利用可能にするツールだ。同社 代表取締役 西内啓氏は「統計学は最強の学問である」の著者でもある。「新しい統計手法を作っても使われないため、大学を辞めて個人でコンサルティング業務を続けていた。すると、顧客課題は共通項が多いことに気付き」(西内氏)、パッケージ化して同社を起業したと説明した。

データビーグル 代表取締役 西内啓氏

Data Diverは開発言語を用いないノンコーディングシステムで、取り出したい情報にまつわる条件設定を付与することで、RDBMS(関係データベース管理システム)内のデータを引き出せる。出力結果はスプレッドシートのため、エクスポートすれば会議資料にそのまま利用可能だという。データビーグルは現在、「B2Cの小売業界に注力し、既に利用案件が増加中」(西内氏)だと説明した。

データビーグルの「Data Diver」

自然言語理解を用いた情報分析

's ACADEMY賞を受けたのは、コージェントラボの「Kaidoku」。従来のNLP(Natural Language Processing: 自然言語処理)では難しかった言語情報解析にNLU(Natural language understanding: 自然言語理解)を用いて、自動分類や類似検索、視覚的分析を可能にするシステムだ。1例として、米国政府の金融商品に関する30万件のクレーム情報を読み込ませると、顧客が住所変更を行っていないようなデータ欠損や、類似するクレームは特定地域で発生したことが、視覚的に把握できるという。

コージェントラボの「Kaidoku」

コージェントラボの飯沼純氏は、資料作成の時間短縮やコミュニケーションツールに対する検索結果を業務利用する際、Kaidokuが役立つとアピール。「(複数のツールを併用することで業務フローと生産性に混乱が生じた結果、)約4.3兆円/年の機会損失回避や、長時間労働、労働生産性の低下を解決する」(飯沼氏)。

楽曲フレーズの均一性を抽出して類似曲をリコメンド

聴講者からの投票で一番人気となるオーディエンス賞を受けたのは、メタルテックの「SongsLink」。既存の曲推奨機能は音楽的特徴よりも評価や閲覧履歴と言ったメタデータを重視し、自身が聞きたい曲が流れにくい。そこで、イントロダクションのメロディラインやギターソロといったフレーズをデータ化することで、該当するフレーズで他の曲を推奨する。

メタルテックの「SongsLink」

事前の聴者趣向データを登録する必要はなく、Webサイトのウィジェットとして貼り付けることで得られる広告収入や、APIリクエスト課金モデルで収益化を目指すが、現在はYouTubeを基盤としているため、音楽配信会社との連携を図る。作者である長尾俊氏自身がヘビーメタル好きのため、緩急が激しい曲は分別しやすいという。

エッジコンピューターでも機械学習を実現

優秀賞を受けたのは、エイシングの「エッジライトコンピューティングを実現する機械学習AI」。同社はAIパラメータの調整を必要とせず動的な追加学習やエッジ側のリアルタイム学習を実現するDBT(Deep Binary Tree)エンジンを用いたソリューションを紹介した。組み込みを念頭に開発したDBTは、Raspberry Pi 3上で稼働させても50マイクロ秒の応答性を実現する。

DBTをエッジ側に実装することで、大幅な時間短縮と精度向上が可能になる

現在DBTはSaaSソリューションとして提供中だが、DBTアルゴリズムを焼き込んだFPGA版のリリースを予定中。エイシングは事業戦略として船舶エンジンや光学センサー分野で展開し、市場規模の観点から見ても1兆円を超えるビジネスにつながると説明する。授賞の感想を求められた出澤純一氏は、「この賞に恥じないユニコーン企業を目指してまい進する」と語った。

左から日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント 代表取締役社長 榊原彰氏、エイシング 代表取締役社長 出澤純一氏

計算手法を見直してNN演算を高速化

そしてソフトバンクテクノロジー賞および最優秀賞に輝いたのは、アラヤの「ニューラルネットワークの演算量削減・高速化技術」。同社が考案したフィルタを圧縮する設計を加えると、必要な部分だけ計算するため、ニューラルネットワークの精度を落とさずに演算量を10分の1から50分の1まで削減する。

アラヤの演算量削減技術概要

さらに他の演算手法と組み合わせることで、画像のリアルタイム処理を汎用的なFPGAで可能にする。通常はGPU付きワークステーションなどを必要とするが、スマートフォンや白物家電といったエッジ側の性能を飛躍的に向上させる可能性が出てきた。

物体認識のデモンストレーションでは約10倍の処理高速化を実現。FPGAで実装するれば、30fpsを超えるリアルタイム検出も可能になる

本技術を普及させる施策としてアラヤは、Microsoft Azure上に演算量削減版ニューラルネットワーク自動生成ツールを搭載して、顧客に提供する。同社は大手自動車メーカーと車載デバイス、某通信事業社とドローンの共同開発を進めており、「いずれも消費電力や小型化が必要条件のため、確実に勝てる部分でビジネスを進める」(アラヤ 松本渉氏)。授賞の感想を求められた松本氏は、「我々のプレゼンテーションは地味なので、他のチームが優勝すると思っていた。AIによる社会変革を目指すため、ご支援頂きたい」と語った。

アラヤの松本渉氏(右側2番目)

コミュニティのパワーを新ビジネス創出へ

本イベントの責任者であるドリュー・ロビンス氏は、「我々は顧客と共に技術革新を起こし、参加した学生や企業が他者から刺激を得て活躍する場面を増やしたい」と、長年イベントを続ける意義を語る。

日本マイクロソフト 業務執行役員 コマーシャルソフトウェアエンジニアリング本部 ドリュー・ロビンズ氏

自身も日本マイクロソフト参加する以前から、Microsoft MVPとしてコミュニティに参加してきた経緯を持ち、「技術革新を求めるエンジニアが一堂に会すると、個人ではなし得ない何かが生まれてくる。自分が(1990年代に開催していた)Microsoft Developer Daysに参加した際、Microsoft社員の支援を受けつつ最後までたどり着くことができた」(ロビンス氏)と、コミュニティのパワーを強く感じた経験をつまびらかに明かした。

だからこそ、Microsoft/日本マイクロソフトはImagine CupやInnovation Awardといったコンテストに注力し、2018年2月にはスタートアップを多角的に支援するプログラム「Microsoft for Startups」を開始している。「もしかしたら今日のイベントを切っ掛けに学生やスタートアップのキャリアが大きく変化するかも知れない」(ロビンス氏)イベントを開催し、新ビジネスの創出を目指してきた。

筆者は本イベントの取材を開始して3年足らずだが、Imagine Cup日本予選にチャレンジする学生たちのレベルは年を重ねて高まっている。Innovation Award参加企業も昨年まではアイディア性が際立っていたが、今年は機械学習など時代を反映したソリューションをプレゼンテーションする企業が際立った。いつの時代も世の中を変えるのは、たわいもない発想とそれを実現する熱量を持つ人々である。我こそはと奮起する学生やスタートアップ、もしくは自社の事業に新風を招きたいと考える企業は、来年の本イベントに参加することをお薦めしたい。

Innovation Award 2018受賞者の皆さん

阿久津良和(Cactus)

あらゆる面で様変わり!  新型「デリカ D:5」試乗で感じた格段の進歩

あらゆる面で様変わり! 新型「デリカ D:5」試乗で感じた格段の進歩

2019.03.26

三菱自動車の新型「デリカD:5」に試乗

顔つきの変化に目を奪われがちだが中身もすごかった

本質を追求する三菱自動車の着実な技術開発が奏功

三菱自動車工業が2019年2月に発売した新型「デリカD:5」は、印象をガラッと変えたフロントマスク(顔)に注目が集まりがちだが、注目すべきはその中身だ。三菱自動車らしく本質を追求した改良により、クルマの性能は先代に比べ格段に進歩している。その出来栄えを試乗で確かめてきた。

三菱自動車の新型「デリカD:5」

12回目の改良で大幅に進化した「デリカD:5」

三菱自動車工業の「デリカ」が誕生したのは1968年のこと。その車名は「デリバリーカー」に由来しており、目的地まで人や物を運ぶクルマとして当初は商用を主体としていたが、翌1969年には9人乗りの「デリカコーチ」という乗用の車種が登場した。そして一昨年、デリカは誕生から50周年を迎えた。

左が初代「デリカ」、右は改良前の「デリカD:5」

現在の「デリカD:5」はデリカの5代目ということで、この名が付いた。50年を超える歴史の中では、1982年の2代目で早くも4輪駆動車を設定し、ディーゼルエンジンを搭載した。この2つは、今日もD:5を特徴づける要素となっている。

3代目までは「キャブオーバー」といって、エンジンを運転席下に搭載するワンボックス車の形態だったが、4代目からは客室の前にエンジンを搭載するミニバンとなった。そしてデリカD:5は、2007年のモデルチェンジによって登場し、すでに12年の歳月を経ようとしている。この間、三菱自動車は11回も一部改良を実施していて、今回が12回目となる。歴代デリカは1つの車型を長く継承する傾向にあったが、ことに今回の改良では、大きな進化を遂げたと感じる。

2019年2月に発売となった最新のデリカD:5は、外観の輪郭は従来のままだが、ことに顔つきが大きく変わり、押し出しの強い造形となった。その効果は、例えば今回の試乗で、大型トラックがやや無理な車線変更をしようとした際、ミラーに映るデリカD:5の顔を認識し、一瞬、動きを躊躇した様子にも見てとれた。この造形は、三菱が2015年の「アウトランダー」以降、フロントの共通性として各車で採用している「ダイナミックシールド」の概念に基づいた変更である。

改良を経て大幅に変わった「デリカD:5」の顔つき

またフロントの造形は、主に市街地などでの利用が多い顧客向けに新しく車種設定した「アーバンギア」と、標準仕様といえる「D:5」とで異なる意匠を採用している。

こちらが「デリカD:5 URBAN GEAR(アーバンギア)」。「D:5」には4つ、「アーバンギア」には2つのグレードがあり、価格は384万2,640円~421万6,320円となっている

いずれにしても、この大胆な顔つきの変更が注目されがちだが、それ以上に今回の改良は、走行性能や上質さといった面での進化が大きく、格段の進歩と驚かされるほどであった。なかでも、ディーゼルターボエンジンの改良と、変速段数を6速から8速へと増やしたオートマチックトランスミッション(8速AT)の効果は絶大だ。

SUV顔負けの悪路走破性に上質な乗り心地をプラス

エンジンの基本は変わらないが、新たに「尿素SCR」と呼ばれる排ガス浄化装置が取り付けられ、その精度が高まった。走行のための燃料である軽油のほかに、排ガス浄化用の尿素水溶液を補給する手間は増えるが、いまやディーゼルの排ガス浄化は尿素SCRなしでは語れない時代となっている。

その上で、エンジン内部の摩擦損失を減らしたり、燃焼室の改良や新型燃料噴射装置を採用したりするなどの改良により、最大トルクを増大し、アイドリングストップ後の再始動性を改善している。

2.2Lコモンレール式DI-D(ダイレクト・インジェクション・ディーゼル)クリーンディーゼルターボエンジンを搭載

8速ATは発進で使う1速のギア比を大きくして力強さを上げ、それ以後のギア比は従来の6速に比べ小さくすることで、滑らかかつ燃費に効果的な変速を可能にしている。

車体は、もともとデリカD:5の特徴であった「リブボーンフレーム」と呼ばれる骨格構造に加え、車体前部の剛性を上げる改良が施された。4輪駆動による悪路走破で、SUVの「アウトランダー」や「パジェロ」などに引けを取らない性能を発揮するデリカD:5は、強靭な骨格構造により、大きな凹凸のこぶ路面で、前後のタイヤが対角線上で持ち上げられ、車体にねじれが加わった状態でも、後ろのスライドドアを開閉できる車体剛性を持つ。それが他では真似できない特徴の1つだった。そこに車体前部の剛性の強化が加わり、舗装路での走りの上質さが改善されたのである。

試乗をしてみると、それらの改善が、D:5の走りを格段に進歩させていた。

新型「デリカD:5」および「アーバンギア」のボディサイズは、全長4,800mm、全幅1,795mm、全高1,875mm、ホイールベース2,850mm、最低地上高185mm。車両重量はグレードによって違うが1,930キロ~1,960キロだ

試乗で実感、性能は「様変わり」

ディーゼルターボエンジンは、始動後にディーゼルらしい音を発生させるが、軽やかに聞こえるので嫌な気分にならない。1,900キロを超える重い車体であるにもかかわらず、4輪駆動車であることから、発進時の動き出しは軽やかだ。その際もエンジンはうなることなく、ほぼアイドリング回転に近いところで走り出した。

エンジン内部の摩擦損失が軽減されたこと、同時にトルクが増大されたこと、さらには8速ATの1速ギア比が大きくなり、ギア比の力でエンジンを助ける効果などにより、このスムーズな発進が実現できたのであろう。

また今回、パワーステアリングが電動化されたので、発進してすぐに曲がる場面でも、クルマは軽やかに進路を変えた。

パワーステアリングは油圧式から電動に変わった

この走り出しの時点で、すでにデリカD:5の大きな進化を実感した。さらに、アクセルペダルを踏み込んで加速させていくと、わずかなペダルの踏み込みで速度を増していく。しかも、速度が上がるに従って、ディーゼル音は気にならなくなるほど静かになり、快適だった。8速ATの効果でエンジン回転を上げ過ぎないこともあるし、防音や吸音を増した車体の効果も静粛性に効いている。

高速道路に入っても、エンジンやトランスミッションの効果、また快適な室内の様子は変わらない。時速100キロで走行中のエンジン回転数は、アイドリングから少し上の毎分1,500回転ほどでしかない。従来のディーゼルエンジン車では、この速度で巡行するには騒音が大きく、音に疲れる印象があったが、様変わりである。

走り出しでも高速道路でも改良の効果が感じられた新型「デリカD:5」

乗り心地も、車体前部が強化されたことにより、路面の凹凸を乗り越えた際の衝撃が緩和され、改善されたことを実感した。走行感覚も乗り心地も、明らかに上質なミニバンとなった。この快適性であれば、D:5でもっと遠出をしたい気持ちにさせられるはずだ。

「様変わりした」というのが、まさしく適切な評価だろう。そこには、モデルチェンジによらず、実績を踏まえて一歩ずつ改良を加えていく三菱自動車のよさが現れている。

先進的だが着実、三菱自動車の技術開発

三菱自動車は2000年のリコール問題や2016年の燃費不正などを経験し、今日に至る。社内の隠蔽や規律違反などを抱えながら、一方で、技術開発においては先進的な取り組みを続けてきた側面がある。

1996年の直噴ガソリンエンジンの量産化や、同年の電子制御を活用した4輪駆動力制御などで、三菱自動車は先駆的な技術開発力を発揮してきた。同時に、1970年代からのラリー競技への出場や、1980年代からの「ダカールラリー」(パリダカ)出場などにより、悪路走破性のみならず、舗装路での俊足の走りを追求してきた歴史がある。

今日、三菱自動車は電動化とSUVに的を絞った商品展開で、存在感を発揮しようとしている。その両方の技術を合わせた象徴的な商品が「アウトランダーPHEV」だ。同車は世界で最も売れているプラグインハイブリッド車である。

電動化とSUVにフォーカスする三菱自動車の象徴的な商品が「アウトランダーPHEV」だ

三菱自動車が力を注いできた4輪駆動についてはデリカの歴史の中で触れたが、電動化に関しても同社は、1966年に電気自動車(EV)の開発を開始し、2009年には世界初の量産EV「i-MiEV」の市販にこぎつけるなど、先駆的な歩みを進めてきた。

いずれの技術も世界の主要自動車メーカーが開発に取り組んでいるものだが、それを量産化し、一般へ市販して世に問うことを、三菱自動車は長年にわたり粘り強く続けている。さらに、その技術を一時的な流行で終わらせることなく、磨き続けるのが同社の特徴にもなっている。それを可能としているのは、そもそも同社が、本質的な原理原則を追求した技術開発にこだわってきたからなのであろう。

世界初の量産EVとなった「i-MiEV」の現行モデル

デリカD:5においても、例えば「車体剛性」のような、一見しただけでは消費者には分かりづらい部分において、「リブボーンフレーム」という本質的な剛性構造を採用することで、ミニバンとしては悪路走破性で抜きん出た性能に仕上げている。そこが土台となり、乗り心地が格段に改善しているのだ。

技術革新といっても、目新しさをやみくもに追うのではなく、本質的な課題解決の道を探ることが、長年にわたり技術を進化させ、磨き続けることを可能にする。今度のデリカD:5においても、まさにそうした三菱自動車の開発姿勢が発揮されたと実感した。すでにD:5を所有している人でも、今回の改善には驚き、食指が動くことだろう。

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iPadのビジネス利用が広がる? アップルの地味な新製品への期待

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2019.03.25

iPad、iMac、AirPods…アップルが3日連続で新製品

一見地味な製品アップデートだが、その狙いは?

メインストリーム需要の受け皿としては充実

3月18日からの3日間は、アップルの新製品ラッシュとなった。「iPad Air」と「iPad mini」の新型を皮切りに、19日には「iMac」、20日には「AirPods」を立て続けに発表し、世界的に話題を巻き起こした。

iPad製品群に「iPad Air」と「iPad mini」の新モデルを追加

個々の製品はいずれも既存モデルのアップデートにとどまっており、見た目の変化も少なく地味な印象だ。果たしてアップルの狙いはどこにあるのだろうか。

目立ったわりにアップデートは地味

今回アップルが発表した製品に共通しているのが、見た目に大きな変化はなく、中身のアップデートにとどまっている点だ。

新しいiPad AirとiPad miniは、いずれも既存モデルとサイズや画面の大きさがほとんど同じだ。最新世代のiPad Proはデザインを一新したのに対し、2つの新製品は既存モデルの金型や部品を流用しやすい構造となっている。

新型「iPad Air」の見た目はiPad Pro 10.5とほとんど同じだ

専用ペンの「Apple Pencil」も第1世代の対応にとどまっている。第2世代のペンは無線充電方式になっており、これに対応させるとなればiPadのフルモデルチェンジは避けられなかっただろう。

プロセッサーはiPhone XSやXR世代の「A12 Bionic」を搭載した。この点についても、スマホ需要が伸び悩む中、販売不振が指摘されるiPhone XRのプロセッサーを流用したのではないかと邪推したくなるところだ。

新しいiMacは最新の第9世代Coreプロセッサーを搭載したものの、基本デザインは従来モデルから変わっていない。AirPodsの再生時間は最大5時間のままだが、新チップの搭載で接続性が高まり、ワイヤレス充電のケースが加わった。

ディスプレイ一体型「iMac」の新モデル

 

新しい「AirPods」はワイヤレス充電対応モデルも

いずれも既存モデルの順当なアップデートだが、3日連続という異例の発表スタイルを採ることで、発表会の中に埋もれることなく注目を浴びることに成功したと言えるだろう。

新生活には朗報、ビジネス利用もお手軽に

新しいiPad AirとiPad miniに期待されるのが、ペン入力への対応や低価格化によるビジネス利用の拡大だ。

小型タブレットのiPad miniは、主にコンテンツの再生用途に使われてきた。だがスマホが大画面化する中で、再生用途だけでは買い換え需要が伸び悩んでおり、2015年のiPad mini 4を最後に製品投入が途絶えていた。

これに対して、第5世代となる新モデルは専用ペンの「Apple Pencil」に対応したことで、ビジネス利用の可能性が広がっている。メモ用途に最適なサイズとして、iPad miniの対応を待っていた人も多いのではないだろうか。

 

第5世代のiPad miniはペン入力に対応した

新iPad Airは、専用キーボードの「Smart Keyboard」に対応した最も安価なモデルになる。ペンとキーボードを合わせて購入しても10万円に収まるようになり、ビジネスパーソンや学生に訴求する価格帯に降りてきたといえる。

iPadのビジネス利用にあたっては、iOSの機能やアプリ対応の面で課題が多い。だが、低価格帯のiPadが登場したことは、春からの新生活に合わせてiPadの購入を検討していた人には朗報だろう。

2018年に登場した最新のiPad Proは、プロのクリエイター用途などハイエンド寄りになっていた。その中で登場した新しいiPad AirとiPad miniは、ビジネス用途をカバーするメインストリームの製品として売れ行きに注目したい。

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