業績回復の表れ!? 北海道の大地を疾駆した車両を大井川鐵道が導入

業績回復の表れ!? 北海道の大地を疾駆した車両を大井川鐵道が導入

2016.06.15

多くの観光客に囲まれた発車前のトーマス号

ひときわ多量の蒸気を機関車下部から噴出してほどなく、「ピーッ」という甲高い汽笛が大気を貫く。「シュッ」……そんな蒸気音を立てて車輪と連結棒が動き出すと、車輪は派手にほぼ一回転空転。だが、車輪とレールが噛み合いだすと徐々に速度を上げ、客車を牽引していく。満席の客車内の乗客は、ほぼ例外なく線路外にいる見物客に満面の笑みで手を振っていた。これは、6月11日に今年初めて運行を開始した大井川鐵道「きかんしゃトーマス号」の発車風景の一幕だ。

このトーマス号の人気は絶大だ。運行前の2013年、旅客数は21万7,000人だったが、トーマス号の運行を始めた2014年には27万2,000人まで押し上げた。また、大井川鐵道といえばSL急行でも知られる。トーマス号とSL急行はともに期間限定の運行となるが、この定期外が旅客収入の8~9割を占める。まさに同社の財産といってよい。

さて、そのトーマス号が今年初の旅立ちを迎えたこの日、大井川鐵道の拠点である新金谷駅から少し離れた作業場で、JR北海道から導入された客車がマスコミ陣に公開された。

北海道新幹線開通で廃止された「はまなす」

この客車は、3月20日まで青森・札幌間で運行されていたJR北海道の夜間急行列車「はまなす」の車両だ。はまなすは、青函連絡船の廃止にともない、1988年にその代替として運行が開始された。それから28年……2016年3月26日に開業した北海道新幹線の登場により、はまなすは廃止された。夜間急行列車としての最後の生き残りと知られ、その存続が惜しまれたが、静かに幕を降ろした。

そのはまなすを構成していた「スハフ14 502」「スハフ14 557」「オハ14 511」「オハ14 535」の4車両が、大井川鐵道に引き取られた。これから1年をかけて整備を行い、トーマス号と並ぶ大井川鐵道の“顔”、SL急行の客車として活用される。

左:作業場で整備される14系車両。右:整備のため台車が取りはずされていた
大井川鐵道では4両の蒸気機関車が運行している。写真はそのうちの「C56」

実は大井川鐵道がSL用客車を導入するのは、1992年以来24年ぶりのこと。導入の目的は車両の保有数を増やすことで、各客車にかかる負担を分散するためだ。

そもそも、大井川鐵道に属する蒸気機関車は昭和初期に生産され、客車も昭和初期・中期に製造されたものがほとんど。運用可能な状態で古い列車を保存する“動態保存”を目指す大井川鐵道にとって、とてもデリケートな存在だ。すでに入手不可能なパーツも多く、動態保存のために神経をとがらせなければならない。今回の客車導入はそのための施策といえるだろう。

動態保存の対象はSL急行やトーマス号だけではない。定期的に運行している普通電車もその対象といえるだろう。鉄道ファンや地元住民ならご存じだろうが、普通列車も退役した車両を全国から調達し、大井川鐵道で運用している。それらの製造年代も昭和中期と、非常に年季の入ったものである。

恥ずかしながら筆者はあまり鉄道に造詣はない。そのため今回導入された客車を撮影しに行くため金谷駅を訪れた際、停車していた古い車両をみて、「まだこんな電車が走っているのか」と、驚きとともにノスタルジックな感傷がわき起こった。また、首都圏の鉄道の場合、路線ごとに一貫性のあるデザインの車両が走るが、大井川鐵道では各車両の個性がそのまま残る。行きと帰りでまったく異なる車両に乗車でき、ワクワク感も得られた。

左:東急電鉄、十和田鉄道をわたり歩いた「7200系」(昭和43年製造)。中:南海電鉄から導入した「21000系」(昭和33年製造)。右:大阪セメント伊吹工場からきた電気機関車「いぶき501」(昭和31年製造)
トーマス号、SL急行の拠点となる新金谷駅

余談だが、大井川鐵道は定期外運行以外の柱として“物販”に注力している。新金谷駅横にある「プラザロコ」内に駅弁やオリジナルグッズが並べられ、人だかりができていた。当日は“トーマス号初日”ということもあったが、中国語が飛び交うなど、インバウンド観光客の姿も数多く見られた。

2011年に発生した東日本大震災の影響で、大井川鐵道を訪れる観光客が激減した。2012年に発生した関越自動車道での観光バス事故で、長距離バスの規制が強化され、バス事業も手がける同社の収益に大きな影響が出た。3期連続の赤字で一時は破綻すらささやかれた大井川鐵道だが、着実に回復しているようだ。24年ぶりの客車購入は、その表れともいえる。

そうそう、冒頭で紹介した今年初のトーマス号の発車シーンだが、動画撮影したので、ご興味あるならご覧いただきたい。

2016年6月11日、トーマス号発車の様子

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。