商売が最も落ち込む2月に携帯電話業界が繁忙期を迎える理由

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商売が最も落ち込む2月に携帯電話業界が繁忙期を迎える理由

2018.01.16

携帯電話業界における最大の商戦期は、実は新入学シーズンを控えた、1~3月にかけての春商戦である。一般的に閑散期とされる2月に繁忙期を迎える珍しい業界でもあるのだが、なぜ夏冬のボーナス商戦期などより、春の商戦期が最も重視されているのかというと、そこには国内の深刻な市場環境が大きく影響している。

安さが求められる新入学生の獲得を重視する理由

今年も携帯電話業界で最大の繁忙期ともいえる、春商戦がやってきた。1月から3月にかけての春商戦は、新入学を迎える学生をターゲットに、各社がさまざまな割引施策を打ち出すなどして大きく盛り上がる時期。特に2月は「ニッパチ」とも呼ばれ、一般的には8月とともに売上が下がる時期ともいわれているが、携帯電話業界にとって2月は、進路が決まり、新生活に向けてスマートフォンを購入する学生が増えるため、むしろ最大の書き入れ時なのである。

実際この時期には、毎年大手キャリアが、学生をターゲットとした割引施策、いわゆる「学割」を次々と打ち出して注目を集める。今年の学割施策は、ソフトバンクのワイモバイルブランドが、昨年の12月から今年の5月末までに加入することで、基本料を最大3ヶ月間0円、次の機種変更時までデータ通信量を2倍にする「タダ学割」を展開。他のキャリアがこれに追随したことで、学生の進路がまだ決まっていない12月から春商戦がスタートするという、異例の事態となっているようだ。

春商戦に向けて各キャリアが力を入れるのが学割施策。今年はワイモバイルが、昨年12月から「タダ学割」を仕掛けたことで例年より商戦時期が早まっている

また先にも触れた通り、この時期にターゲットとなるのは学生だが、実際のターゲットはその親、つまり子育て世代であることから、価格の安さが求められる傾向にある。実際、春商戦に目立つ新機種が投入されるケースは少なく、各キャリア共に低価格モデルのラインアップ強化するか、既存モデルの値引き販売に力を入れる傾向にある。

今年の春商戦に向けてauが投入したのは、「Qua Phone QZ」など一括3万円台で購入できる、低価格のミドルクラスのモデルが主だ

それゆえキャリア間で番号ポータビリティ(MNP)による顧客の奪い合いが過熱していた2014年の春商戦までは、キャリアを乗り換えると端末が実質0円で購入できるだけでなく、数万円、多い場合には10万円を超えるキャッシュバックがもらえるという異常事態にまで発展。この状況を問題視した総務省の施策により、スマートフォンの実質0円販売が事実上禁止となるなど、従来の商習慣に大きなメスが入ることにもつながっている。

だが低価格を求める人が多いとなると、夏や冬のボーナス商戦や、新iPhoneの登場で大きく盛り上がる秋の商戦期のように、高額なスマートフォンやサービスの販売が盛り上がる訳ではなく、ビジネス的に見ればメリットが薄いようにも見える。にもかかわらず、なぜ携帯電話業界では春商戦が最重要視されるのだろうか。

純粋な新規顧客を獲得できる貴重な機会

その理由を一言で表すならば「少子高齢化」ということになるだろう。毎月の通信料収入が売上の中心となっている、ストック型のビジネスを展開している携帯電話会社にとって、売上を高めるには端末を売ることより、むしろ契約数を増やすことが強く求められる。だがその契約数拡大を阻んでいるのが、少子高齢化なのである。

電気通信事業者協会が公開している事業者別契約数を見ると、最新の数字となる2017年度第2四半期で、大手3社の合計が1億6412万8400に達しており、契約数が既に日本の人口を大きく超えている状況だ。しかも日本は少子高齢化の影響で人口減少局面にあるため、これ以上新規契約を大幅に増やすのは困難だ。かつては端末代の値引きやキャッシュバックなどで、MNPにより他社から顧客を奪い、新規契約数を増やすことができたが、総務省によってその手法を事実上取ることができなくなってしまった現在、キャリアが新規の顧客を獲得できる余地はほとんど残されていないのだ。

そして、ほぼ唯一といっていい新規顧客獲得の機会となっているのが、実は新入学シーズンを機としてスマートフォンを利用し始める子供世代を獲得できるタイミング、つまり春商戦なのである。それゆえ各キャリアとも、貴重な新規契約獲得のタイミングを逃すまいと、春商戦に最も重きを置いて販売施策を強化している訳だ。

だが実際のところ、新規で携帯電話を契約するタイミングは、せいぜい高校に進学するタイミングくらいまで。最近では高校生になると既にスマートフォンを持つことが当たり前となっており、大学生以上を優遇しても新規顧客の獲得にはつながらなくなってきている。

そうしたことから各キャリアの学割施策も、従来は25歳までを一律に優遇していたのが、MNPによる奪い合い競争が難しくなったことを受け、2017年からは18歳以下、つまり純粋な新規顧客となる高校生までの年齢だけを優遇するようになってきた。最近では中学生のスマートフォン保有率が高まっており、小学生からスマートフォンを持つ割合も増えているなど、スマートフォン所有者の低年齢化が進んでいることから、今後はスマートフォンの低年齢化に合わせる形で、学割のターゲットがより低年齢になっていく可能性も、十分考えられそうだ。

昨年auが実施した学割施策「auの学割天国」では、25歳までを優遇していた従来の学割施策を変え、18歳以下を明確に優遇するようになった
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大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

カレー沢薫の時流漂流 第43回

大津の園児死亡事故で炎上した「マスコミ」批判

2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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2019.05.20

トヨタが5世代目となる新型「スープラ」を発売

直列6気筒のFRで伝統を踏襲、最上級グレードに予約集中

BMWとの共同開発について気になる点を友山副社長に聞く

トヨタ自動車は新型「スープラ」(GR Supra)を発売した。先代スープラの生産終了から17年ぶりの復活だ。価格は3リッターの直列6気筒(直6)ターボエンジンを搭載する「RZ」が690万円、2リッターの直列4気筒ターボエンジンを積む「SZ-R」が590万円、同「SZ」が490万円。直6+FR(フロントエンジン・リアドライブ)という歴代モデルの伝統を踏襲した5世代目は、トヨタとBMWの共同開発で誕生した。

新型「スープラ」。ボディサイズは「RZ」で全長4,380mm、全幅1,865mm、全高1,290mm。こだわったのは「短いホイールベース(前輪と後輪の間の幅、2,470mm)」「幅広いトレッド(左右のタイヤの幅、RZでフロント1,595mm、リヤ1,590mm)」「低い重心高」の3つの基本要素だという

儲からなければ儲かるまで“カイゼン”

新型スープラはBMW「Z4」のプラットフォームとエンジンを使っている。企画とデザインはトヨタが、設計はBMWが担当した。

トヨタでは月間220台の販売台数を想定していたが、2019年3月に予約注文の受付を開始すると、新型スープラには予想を超える数のオーダーが殺到した。事前受注は約1,400台に達したという。予約注文のうち、約7割が最上級グレードのRZに集中したことも予想外だったようで、トヨタは一時的に、同グレードの予約受付をストップしていた。

増産やグレード変更などの生産調整により、現在、RZの受注は再開している。とはいえ、今からRZを注文しても、納車は2020年1月ごろになるそうだ。

「マットストームグレーメタリック」をまとった新型「スープラ」(画像)は限定車。2019年度分の24台については、6月14日までWeb限定で商談の申し込みを受け付ける。商談順は抽選となるそうだ

「モビリティカンパニー」になると宣言したトヨタが、スポーツカーのスープラを復活させる理由については、最近、テレビやラジオのコマーシャルでもしばしば耳にする「馬がクルマに置き換わっても、競走馬は残った」という言葉の通りだ。つまり、電動化や自動化でクルマの在り方が変わっていっても、単なる移動手段ではなく、所有したり乗ったりすることで、喜びを感じられる存在として残るクルマもあるので、そういった製品を作り続けたいというのがトヨタの思いである。

新型「スープラ」はトヨタとBMWが2013年に包括提携を結んでから初の商品となる。生産はマグナ・シュタイヤーに外部委託し、オーストリアのグラーツ工場で行う

とはいえ、スポーツカーは年間何万台も売れるクルマではないし、採算が取れないおそれもある。その点については、新型スープラ発表会に登壇したトヨタの友山茂樹副社長も「スポーツカーは儲からない、売れないという冷ややかな見方があることは事実」と認めるところだ。しかし同氏は、「儲からなければ儲かるようになるまで、売れなければ買ってもらえるようになるまで、歯を食いしばってでもカイゼンを続ける」ことがトヨタ本来の姿であるとし、「クルマは五感で感じるものだというDNAを次の世代に継承しなければならない」との考えを示した。

新型「スープラ」は歴代モデルと違って2シーターだ

「BMW製では?」の声に友山副社長の回答は

気になるのは、スープラがBMWとの共同開発であり、エンジンとプラットフォームというクルマの中心部分がBMW製であるという点だ。「トヨタの思いは分かるけど、結局、BMWのクルマなのでは……」という見方があるのは、おそらく間違いないだろう。

こちらがBMW「Z4」。大きな違いはスープラがクーペでZ4がオープンカーであるところだ。「Z4」の価格を見ると、3L直6エンジンを積む「M40i」が835万円、2L直4エンジンを積むエントリーモデル「sDrive20i」が566万円となっている

そのあたりについて、友山副社長が語ったところをまとめると、まず、「スポーツカーは数(販売台数)が限られる割に、開発には莫大なコストがかかるので、単独で作るのは難しい」とのこと。今回のスープラは企画とデザインがトヨタ、設計がBMWと説明しているが、クルマの開発は「そんなに簡単なものではないし、(明確に役割を)区切れるものでも」なく、企画の段階で、トヨタとしてどんなクルマを作りたいか、どんな味を出したいかといった点については徹底的に詰めたという。それに、これは多少、冗談めかした発言ではあったものの、「BMWが作ったクルマだから」という理由でスープラを購入する顧客もいるそうだ。

トヨタの友山副社長。自身は先代「スープラ」を改造して乗っていて、トヨタの役員駐車場で警備員に止められたこともあるという

スープラを「BMW製」だと見る人たちに対して友山副社長は、「どこ製ということではなく、これは『スープラ』なんです。両社のいいところを組み合わせた最高の合作、それがスープラです。乗ると分かりますが、Z4とは全然違います」とのメッセージを伝えたいそうだ。

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