なぜスマートフォン開発はうま味のないビジネスになってしまったか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第11回

なぜスマートフォン開発はうま味のないビジネスになってしまったか

2017.12.04

携帯電話業界の花形として注目を集め続けるスマートフォン。だが現在、アップルを除く大半のスマートフォンメーカーは、端末を開発しても儲からない、つまり"薄利"に苦しんでいる。なぜスマートフォン開発は利益率の低いビジネスとなってしまったのだろうか。

スマートフォンを作っても利益が出ない

今や日常生活に欠かせない存在となったスマートフォン。非常に多くの人が使っている生活必需品だけに、それを開発しているメーカーは非常に儲かっているのではないか? と思っている人は多いかもしれない。だが実際のところ、スマートフォン開発は今やあまり儲からないビジネスになっているというのは、ご存じだろうか。

その傾向は国内メーカーの業績からも見て取ることができる。例えば「Xperia」ブランドのスマートフォンを提供しているソニーモバイルコミュニケーションズを傘下に持つ、ソニーの2017年度第2四半期の業績を見てみると、スマートフォン事業を含む「モバイル・コミュニケーション」分野の売上高は1720億円であるのに対し、利益はマイナス25億円。年間の業績見通しは売上高7800億円に対し、利益は50億円となっている。

一方、同じソニーの事業の中で、年間の売上高見通しが6500億円と、モバイル・コミュニケーション分野より少ないイメージング・プロダクツ&ソリューション事業を見ると、営業利益の年間見通しは720億円と、10倍以上となっている。同様に売上高見通しが7300億円の音楽事業も、利益見通しは940億円だ。「その他」事業を除けば、ソニーグループの中でモバイル・コミュニケーション分野が、最も利益の出ない事業となっているのだ。

ソニーの2017年度第2四半期決算説明会より。スマートフォンを含むモバイル・コミュニケーション分野は利益が非常に低い状況だ

また、日本や米国でスマートフォンなどの開発を手掛ける京セラの2018年3月期第2四半期決算を見ると、スマートフォン事業などが含まれる「コミュニケーション」事業は売上高が約669億円に対し、利益は約11億円。コミュニケーション事業が京セラ全体の売上に占める比率は17%だが、利益の比率は1.6%に過ぎない。こちらもやはり、スマートフォンから利益が生み出せない状況を見て取ることができる。

売上を伸ばしても利益が出なければ、企業として事業を継続するのは難しくなる。ゆえにこうした数字を見れば、多くの日本メーカーがスマートフォン事業の撤退・縮小を余儀なくせざるを得なかったというのも、よく理解できるのではないだろうか。

市場変化で急速にうま味のないビジネスへ

実際のところ、スマートフォンの開発・販売で高い利益を上げている企業は非常に少ない。各種調査を見るに、スマートフォンの利益のうち8割近くはアップルが稼いでいると言われており、2、3割をサムスン電子が、そして残りをそれ以外のメーカーが上げている、という状況のようで、大半のスマートフォンメーカーが利益をほとんど出せていないのである。

しかしなぜ、スマートフォンはそんなに利益の出ない、うま味のないビジネスになってしまったのか。その理由の1つは市場の変化にある。

スマートフォンは当初、先進国や新興国の富裕層などから販売が拡大していったのに加え、端末の選択肢も現在ほど豊富ではなかった。つまりこの時はメーカー側からしてみると、単価が高いハイエンドモデルだけを作り、それがどんどん売れていくことで高い利益を出せる、うま味のあるビジネスだったわけだ。

スマートフォンの黎明期には少数のハイエンドモデルが多数売れていたため、キャリアやメーカーも大規模な販売イベントを実施するなど積極的な姿勢を見せていた

しかしながらスマートフォンの販売が広がるにつれ、市場のニーズが細分化してくる。そうすると端末も男性向けや女性向け、サイズの大きいものから小さいものまで、幅広いのバリエーションを用意しなければならなくなってくる。モデル数の増加は製造単価が上がる一方、ハイエンドモデルだけ販売するわけにはいかなくなり単価は安くなるため、利益が減り事業としてのうま味を落とす要因となったのである。

さらに時間が進むと、先進国などではスマートフォンが多くの人に行きわたって飽和する一方、販売の中心は新興国、途上国へと移ることになる。そうなると今度は、現地の所得水準に合わせたより安価なスマートフォンが求められる。安いスマートフォンを開発するには利益を減らさざるを得ず、従来より一層多くの数を販売しなければ、利益を出すことさえ難しい状況となってしまった訳だ。

そこで求められるのは、スマートフォンを安く製造でき、なおかつ新興国での広い販路を開拓できる力である。近年中国のスマートフォンメーカーが急速に台頭してきた背景には、そうした新興国向けのビジネスに強みを持ち、利益率が低くても販売数を稼ぐことで業績を伸ばすことができたが故といえるだろう。

一方でアップルだけが高い利益を出せているのは、現在も少数の高額なハイエンドモデルだけを、世界各国で販売しているからである。だがそうしたビジネスを展開できるのは、自らハードだけでなくOSやサービスなど全てを一体的に提供できるアップルだからこそといえ、他のメーカーが真似をするのはなかなか難しいだろう。

アップルは10万円を超える「iPhone X」など、少数のハイエンドモデルを世界的に広く販売することで高い利益を確保している

またサムスン電子は、世界的に販売網を広げることでトップシェアを獲得し、なおかつハイエンドモデルにも強みを持つことで、アップル程ではないにせよ比較的高い利益を確保できている。それ以外のメーカーはことごとく利益率の低下に苦しんでいるというのが、スマートフォン市場の現在なのである。この傾向は今後一層進むと考えられ、スマートフォン市場から脱落する企業はこれからまだまだ出てくる可能性が高いといえそうだ。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。