アプリのプラットフォーム化が肝に、開発者イベントから見えるアップルのスマホ戦略

アプリのプラットフォーム化が肝に、開発者イベントから見えるアップルのスマホ戦略

2016.06.15

アップルは6月13日に、米国カリフォルニア州サンフランシスコで、年次開発者イベントWWDC 16を開催した。抽選とスカラーシップで選ばれた5500人以上のApple開発者コミュニティの人々が、1週間にわたり、最新の技術やデザインに触れる。

初日の基調講演では、アップルの製品群であるiPhone、Apple Watch、Apple TV、そしてMacのための最新OSが披露された。いずれも開発者向けには即日ベータ版が公開され、秋のリリースに先駆けて、一般のユーザー向けにも、プレビュー版が7月に公開される予定だ。

年次開発者イベントのWWDCはiOSの最新技術やサービスについて発表されアップルの戦略を見る上で重要視される

アップルのビジネスの核は、自他共に、iPhoneであることを認めている。開発者向けのイベントであるWWDCでも、iPhoneに関するソフトウェア的な進化、そしてアプリ開発の上で利用できるようになった新機能についての解説に時間が割かれた。

新OSは、Androidの切り崩しなるか?

アップルは、グーグルと数々のデバイスメーカーが参加するAndroid陣営との間で、競争を繰り広げている。IDCの最新のスマートフォンシェアによると、2016年第1四半期、アップルのiPhoneは18.3%という結果だった。

世界全体での販売台数の成長が止まった状況において、アップルは、販売台数を牽引してきた中国市場のブレーキの影響を大きく受け、前年同期比16.3%減となった。

今回の発表されたiOS 10が、アップルのスマートフォン業界での勢力や、iPhoneの販売台数そのものを直接的に押し上げる要素になるか? と言われると、大きな影響はないのではないか、と考えられる。

最も安いiPhoneでも、iPhone SE 16GBモデルの399米ドルであり、今後成長市場として見込まれている新興国の平均的なスマートフォンの4倍の価格である。

とはいえ、値段を下げるiPhoneの低価格化に踏み切るよりは、アップルのブランド価値保ちながら、価値に共感してもらうユーザーを広げていくほうが良いだろう。iOS 10には"体験"というブランド作りに取り組むアップルの姿を見ることができる。

開発者とつくる体験というブランド

iOS 10では、10の新機能に注目してプレゼンテーションが行われた。この中でのキーワードは「APIの公開」だ。

音声アシスタントのSiri、地図アプリ、メッセージアプリという、iOSの主要な体験を構築するアプリについて、開発者が関与するチャンスが与えられたのだ。その方法は、開発者のアプリの機能を、Siriや地図、メッセージの中から、アプリを切り替えずに利用できるようにする、というものだった。

メッセージアプリ、地図、SiriといったiOSの主要アプリのAPIを開発者に公開。新たなアプリとしての発展が見込めるように

アップルのアプリはiOSというプラットホームの上で動いており、その構造は開発者のアプリも同様だが、アップルはSiriや地図、メッセージのアプリをプラットホームとして、その上で、開発者のアプリの機能を実行できるようにしたのである。

開発者は、自分のアプリを開いてもらわなくても、タクシー予約やレストラン予約、個人間送金といった機能を利用できるようになる。ユーザーは、メッセージや地図検索といった目的のアプリを離れずに、他のアプリの機能にアクセスする利便性がもたらされる。

地図アプリからレストランの予約やタクシーの予約が行えたりする

一般的に、アップルのプラットホームは閉鎖的だ、という印象を持たれやすい。しかし、アップルはWWDCのたびに、ユーザー体験を開発者とそのアプリによって作り出すことを強調し、連帯感を高めることを主張してきた。

今回のように、自前の個別のアプリを開発者に対してアクセス可能な「場」として設定する様子は、開発者の自由度を高める方向性に進めていくことを再確認するような行動、と捉えることができる。

その一方で、アップルは開発者の関与もまた、同社が作り出す整然とした体験の上で展開できるようにしている。結果として、洗練されたユーザー体験に開発者が参画する、という構図を作り出すことができるだろう。

グーグルはAndroidプラットホームの牽引を、グーグルのサービスを中心にして行っているように映る。この点が、アップルとグーグルの違いとして見出すことができるのだ。

メッセージという新たな可能性

iOS 10でより注目すべきなのは、進化するメッセージアプリだ。

iOS 10では、LINEやFacebookメッセンジャー、Skypeといった外部のメッセージアプリでの音声通話着信に全画面の着信画面を解放するなど、純正通話アプリと同じような体験をユーザーが行えるようにするVoIP APIを提供するようになった。

その一方で、アップル純正のメッセージアプリに対しては、前述の通り、開発者がメッセージのコミュニケーションの中で、アプリの機能を呼び出して利用できるプラットホーム化に取り組んだ。

Facebookメッセンジャーが対応アプリへのリンクを表示する仕組みを備えていたが、アップルのメッセージアプリも、よりシームレスに外部アプリとの連携を実現するようになる。

メッセージアプリも外部アプリとの連携により送金機能など従来にない機能を備える

メッセージ内で機能を利用できるアプリは、App Storeだけでなく、メッセンジャーから直接見つけることができる仕組みも取り入れた。友人がアニメーションを共有した際、そのアニメを作るアプリ名が表示され、そこからアプリをダウンロードできるのだ。

開発者にとっては、コミュニケーションの中でアプリが流通する、新たなユーザーとの接点を取り入れることができるようになる。

また、メッセージアプリ自体の表現力も強化した。絵文字のサイズはこれまでの3倍となり、入力した文章の単語を絵文字に変換する機能まで備えた。

メッセージアプリは、根本的な表現力の強化が行われた

それだけに限らない。投稿を表示する吹き出しにアニメーションなどの効果を仕掛けたり、スワイプしないと内容が見られない効果を取り入れている。また、画面全体を使って紙吹雪や風船を飛ばす効果も設定できるようになり、メッセージアプリでのコミュニケーションが、一気にエンタテインメント性を高めた。

メッセージアプリに関する2つの視点

こうした変化については2つの視点を考えることができる。

1つ目は、新興国でのiPhoneの優位性の向上だ。

メッセージアプリは先進国においては、最も占有時間の高いアプリの1つであると同時に、新興国においては「削除を免れるアプリ」となっている。価格が安いが少ないストレージしかスマートフォンが主流の新興国においては、空き容量対策で、アプリは消される傾向にある。しかしメッセージアプリは、コミュニケーションのため、削除されない可能性が高いのだ。

追加アプリを入れずに楽しめるメッセージアプリの競争力の向上は、iPhoneプラットホームの拡大やユーザーの定着、トレンドの生成に一躍買うのではないだろうか。

一部で、iMessageのAndroidサポートについて指摘されていたが、筆者は、今回のメッセージアプリの強化で、むしろ、その可能性は遠のいたのではないか、と考えている。

2つ目は、Snapchatの「次」を取りに行く、という狙いだ。

メッセージやソーシャルのアプリは、特に米国では、世代によって使うツールが違う。若者はSnapchatを楽しむが、親世代と同居することになるFacebookを避けるのだ。しかし、Snapchat世代が成長していくことで、その「次」が必要になる。アップルはメッセージアプリを、Snapchatの「次」として定着させようとしているのではないだろうか。

これらの狙いは、世界のメッセージアプリの覇権争いを狙うLINEにとっては、非常に大きな障壁となり得る。加えて、グーグルの新メッセージアプリAlloや、Facebookメッセンジャーにとっても、脅威を与えることになるだろう。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。