先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

阿久津良和のITビジネス超前線 第4回

先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

2017.11.16

日本マイクロソフトのMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」が、ビジネスシーンを塗り替えようとしている。同デバイスは2016年12月2日から予約受付を開始し、2017年1月18日より順次提供を開始し、そろそろ1年を迎えつつあるHoloLensの歴史を振り返ってみたい。

先端技術として注目を集めたHoloLens

日本国内でHoloLensを披露したのは2016年4月18日に開催した日本航空(JAL)の発表会だった。同社はMicrosoftと提携し、ボーイング787型用エンジン整備士訓練生向けツール、そしてボーイング737-800型機運航乗務員訓練生用トレーニングツールを発表。VR(仮想現実)デバイスではなくMRデバイスを選択した理由として、日本マイクロソフトの関係者は「パイロットの訓練は視覚だけはなく触覚で覚えることが必要。さらに目の前に自身の手が動く様が大事。エンジンの内部構造を目の前にすると、(環境情報を遮断する)VRデバイスでは移動時に恐怖を覚えてしまう」と説明している。

また、別の発表会ではMRデバイス及びアプリケーションの導入背景として、航空機が安定することで修理機会は減り、保守点検期間も広がる傾向があると述べていた。もちろん経営観点から見れば望ましい結果だが、整備士は目の前の航空機に触れて知識が血肉となる。訓練用航空機の確保も困難になるため、アプリケーションの開発に至ったと言う。「航空機・エンジン企業の協力を得ないまま、撮影した写真を3D化して開発に至った」(日本航空 整備本部部長 兼 JALエンジニアリング 人財開発部長 海老名巌氏)と関係者は当時の苦労を吐露していた。

日本マイクロソフトで開催した日本航空の発表会。HoloLensを手にするJALの現役パイロットと整備士、中央はMicrosoft HoloLens担当General ManagerのScott Erickson氏

HoloLensの存在は、2015年4月末から米国で開催した開発者向けカンファレンス「Build 2015」で明らかにしていたが、前述の発表会が日本初上陸と相まって、多くの報道関係者が会見場に詰め寄っていった。筆者もHoloLensを始めて体験した際は、エアタップ(人差し指を立てて、まっすぐ下に倒すジェスチャー)で3Dホログラム化したエンジンを、あらゆる角度から見て回った感動は今でも思い出せる。

前述のように日本マイクロソフトは2016年12月から予約受付を開始しているが、その前に世界各国にある海外拠点のグローバルセールス及びマーケティングサービスを統括するMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏を招いて、HoloLensを中核とした展開について説明した。「航空機を(デジタル空間に)持ち込むコンセプト」と、JALとの協業結果を説明し、Courtois氏は日本マイクロソフトを含めたグローバルで支援することを表明している。

HoloLensを手にするMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏

日本マイクロソフトのHoloLensに対する注力具合は、これまでの製品・サービスの中でも群を抜くものだった。HoloLens出荷日に合わせて開催した2017年度下期の方向性を説明する記者説明会では、同社代表取締役 社長 平野拓也氏が、「デジタルトランスフォーメーション(変革)を推進する上で(HoloLernsは)鍵となる技術。初動実績も他国(西欧など6カ国)の合計数を3倍にあたる予約を頂き、驚いている。建設業界や製造業、ヘルスケア、そして教育現場。この4分野での展開に注力したい」と説明した。なお、HoloLernsは法人向けのCommercial Suite(税込み参考価格55万5,800円)と開発者向けのDevelopment Edition(税込み参考価格33万3,800円)の2種類を用意しているが、圧倒的に開発者向けが多く、「日本人がデジタルに対する親和性の高さや、ビジネスモデルの可能性に対する期待値、関心の高さを感じられる」(平野氏)好例と言えよう。

日本マイクロソフト品川本社ロビーでは、出荷開始日に合わせてHoloLensを披露していた

平野氏の説明どおり2017年4月20日には、建設業界におけるHoloLernsの展開として日本マイクロソフトは、小柳建設とHoloLernsを活用した連携を行うことを発表した。小柳建設はHoloLensを用いて業務の透明化や、近未来のBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)/CIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)データの活用、建設現場や施工主を含めたコミュニケーションを実現する「Holostruction」プロジェクトを推進している。HoloLensを採用した理由として、小柳建設は「政府のデジタル化推進(国土交通省が推進するi-Constructionなど)や建設業界の迷いに一石投じたいという思いがあり、HoloLensが直感的に『来る』と感じた」(小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏)と説明し、小柳建設もMicrosoft及び日本マイクロソフトの3社連携で取り組むと説明した。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏(左)と、小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏(右)

拡充するHoloLensのB2B/B2Cビジネス

このように増加傾向にあるHoloLensのビジネス利用だが、日本マイクロソフトの普及活動が実を結び、同社が音頭を取らなくてもビジネスとして成立しつつあると感じたのが、2017年11月8日に開催した「Tech Summit Japan 2017」では、「Microsoft Mixed Realityパートナープログラム」参加企業によるHoloLensアプリケーションの体験コーナーを設けていたが、前述した建設業に留まらず、新築マンション販売コンテンツや仮想マネキンよる試着体験、脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーなど多くのコンテンツを用意していた。

2017年5月23日に開催した「de:code 2017」の基調講演には、HoloLensの父であるMicrosoft Windows and Devices Group Technical Fellow, Alex Kipman氏も登壇した

例えば「ホログラフィック・マンションビューアー」を展開するネクストスケープは、「デベロッパー所有のデータを3Dデータ化し、HoloLensで閲覧できるように加工している。室内まで見えるとさらに価値は高まるが、HoloLensを装着した状態で歩くことは空間スペース的に難しく、ジェスチャー操作で仮想空間内を移動しても体験的に面白くなかった」(ネクストスケープ クラウド事業本部 クラウドレンダリング事業開発部 部長 岩本義智氏)と語る。業界初を目指すため2017年4月上旬に着手し、ほぼ1カ月で基本システムを完成させた同社だが、背景には「都庁周辺のビル群を3Dモデル化するテストモデルを事前に作成し、実空間に投影しても正しく設置できることを検証してから、本プロジェクトに取り組んだ」(同氏)経緯があるため、アジャイル的な取り組みを実現できた。

「Tech Summit 2017」に設けたHoloLens体験コーナー。写真だけでは分かりにくいが、ディスプレイの先には3Dモデルが現実世界と融合し、さまざまな世界を実現している

試着体験をHoloLensで変えると意気込むハニカムラボは、未来の試着環境を作り上げようとしている。取り組みを始めた理由として同社は、DMM.makeと共同事業を行い、「バーチャルフィッティング事業に対する最新プロトタイプで、オンラインショッピングの可能性を広げるのが目的。当初は『オンラインだと洋服が自分に似合うのかなど(実店舗と比べると)不明確な点が多い』という意見が多く、既にある3Dモデル化の技術を使って取り組んだ」(ハニカムラボ 代表取締役/ソフトウェアエンジニア/クリエイティブディレクター 河原田清和氏)と理由を説明した。現時点では具体的なビジネスモデルに至っていないが、現在いくつかの案件が稼働中だと言う。当初は先端技術に位置していたMRだが、気付けば我々のビジネスシーンにも点在し、既存のソリューションを変えようとしている。

脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーと、共有可能な音声アノテーションコンテンツに取り組むホロラボは、既に稲波脊椎・関節病院と共同開発を続けてきた。「(遠隔地から会議などに参加し、距離を問わずに共同作業を行う)機能にいち早く実装した」(ホロラボ 創業者兼CEO 中村薫氏)ことで、他局や別の病院にいる医療関係者が知見を述べるなど、これまでの治療と一線を画するソリューションを実現する。また、同社はHoloLensに限らず、Windows Mixed Realityデバイスや同モーションコントローラーを利用するソリューションも合わせて用意した。「細かい操作を行う際は(HoloLensの視点移動やジェスチャー操作だけでは)不慣れな方は使いづらい。(今後実装予定の)編集機能でもWindows Mixed Realityモーションコントローラーの方が使いやすく、視野角も広い」(同氏)と言う。

一連のアプリケーションで注目すべきは、一般消費者がMRの恩恵を得られるという点だ。新築マンションや仮想試着は説明するまでもなく、CTスキャンビューアーも医療現場に導入されれば、患者がHoloLensを装着して視覚的に自身の患部を把握しやすくなるだろう。

会場裏側に設置したホロラボのリモートシステム。遠隔地にいる医療関係者の視点をシミュレーションし、音声による相互コミュニケーションも実現する

そして、2017年11月14日にエアバスは、JAL及びJALエンジニアリングの協力によって、HoloLensを用いたA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品を開発したと発表した。「アプリケーションの実現には、航空機の3DデータとIT技術の進化に対応する人材」(海老名氏)という2つの課題があった。JAL及びJALエンジニアリングが独自に人材を抱えるのは現実的ではないため、今回はオブザーバーとしてエアバスの開発に参画し、エアバス本社はプロジェクトチームや社内トレーニング専門部署を設け、本アプリケーションの開発に取り組んでいる。

こちらのアプリケーションも体験する機会を得たが、コックピットや航空機のデータを持つ企業自身が開発しているため、その現実感は非常に高い。筆者はコックピットでエンジンを作動させるまでの手順トレースを10分ほど試してみたが、操作もしくは確認すべき計器やスイッチに視点を合わせるだけで操作でき、1年前のJAL製アプリケーションと比べて、ユーザー体験的も大きく向上しているように感じた。

エアバスによるA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品。今後改良を重ねつつ、実稼働を目指す

エアバスの発表会に参加していた日本マイクロソフト関係者は、「我々は技術支援を行う立場で、エアバスさんとJALさんによるビジネスソリューション」だと今回のアプリケーションを説明している。つまり、HoloLensは日本マイクロソフトが注力してきた市場開拓に成功し、MRの可能性に気付いた他企業同士が意思決定の迅速化や生産性能の改善など既存ビジネスソリューションを書き換えようとしているのが現在の状況だ。

IT技術で建設業界を牽引する存在を目指す小柳建設

さて、小柳建設は早期からMicrosoft及び日本マイクロソフトと連携しながら、建設業における計画・工事・検査の効率化と、アフターメンテナンスの履歴管理を可視化する「Holostruction」プロジェクトを続けてきた。現在の進捗として遠隔地からの建設情報の確認や、問題の共有などが現実化しつつある。このように建設業界の変革にチャレンジする小柳建設だが、同社代表取締役社長 小柳卓蔵氏に話を伺う機会を得たので、その内容をお届けしたい。

小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏

--2017年4月からの現在までの進捗状況は

リモートコミュニケーションの実装です。事前の実証実験としてシアトル・日本間で同機能を検証しましたが、感動の一言に尽きます。アバターのデザインは(日本マイクロソフトに)お任せしましたが、相手が前かがみして首を動かすなど、さまざまな動きが再現されます。

また、音響効果も現実性を高める要素でした。例えば相手が左から話しかければ、(HoloLensのスピーカーを通じて)左方向から声が聞こえてきます。まるで相手が存在するかのような臨場感がありました。確かにコミュニケーション自体はSkypeのビデオ通話でも可能です。しかし、(HoloLensは)相手の顔こそ見えませんが、「直感的に五感で相手を認識できる」体験を得られます。

このリモートコミュニケーションを実装することで、遠隔地の作業員や関係者がアバターとして仮想空間に参加し、同じ物体を見ながらコミュニケーションを実現するアバターの視点や動作、物理的距離を超えて同じ空間を共有することを実現できたのは、(Holostructionをビジネスソリューション化する上で)もっとも大切なことでした。

--次に実装する機能は予定済みか

その点は私(日本マイクロソフト エンタープライズサービス部門 エンタープライズサービス営業統括本部 ソリューションスペシャリスト 鈴木保夫氏)からお答えします。2017年4月の時点でHolostructionの開発に必要な課題項目を列挙しており、日本マイクロソフトは継続的支援を行ってきました。現在取り組んでいるのは、橋梁などホログラフィックデータを建設現場に投入する際に必要な施工図をインポートする機能です。これにより、3Dモデルなど対象物の自由度が大きく高まります。

HoloLens体験コーナーでは、遠隔地にいる関係者と会話を交わしながら工程表の問題点を話し合うなど、リモート会議を経験できた

--Holostructionは現場で稼働しているのか

2017年9月から1件稼働させています。まだデータ入力を開始したところですが、鈴木さんのご説明にもあったように、どのような建設物でも、すべてホログラフィックに投影できる状態を目指しています。現状では今後1年に3~4現場で(Holostructionの利用に)チャレンジする予定です。

「Holostruction」のイメージ図。実際にHoloLensを装着すると、工程表を元に音声でコミュニケーションを取りながら、進捗状況を複数の参加者で確認し合うことが可能だった

--2Dの施工図を3D化する苦労は

大手建設企業などは施工図の3D CAD化に取り組んでいますが、地方の中小建設企業では未着手というのが現状です。その要因の1つは「難しそう」というイメージと、「3Dで書いて何の意味がある?」という意見が少なくなりません。年配の熟練技術者は頭の中で施工図から立体的なイメージを作り出すため、(3D CADの)必要性を感じていません。「2Dの図面を見て3D化できれば、ようやく一人前になった証し」と、建設業界に入る若者に対しても同じプロセスを提示するため、障壁となっています。ベトナムなど東南アジアでは、日本人が現地でBIMデザイナーを育てるという企業も出てきました。人材不足については海外からの流入に頼る部分も今後は出てくるかも知れません。

--HoloLens活用で他社の追従を感じるか

他の建設企業が我々にライバル心を持って頂かなければ、業界自体がデジタル変革を起こせません。新潟という地方の中堅中小企業である我々が、IT技術を活用した建設ソリューションを作り上げようとしています。だからこそ危機感ではなく、むしろ我々が「(IT技術+建設業界を)牽引する存在」を目指したいと考えています。

大手総合建設企業さんが取り組んだVR(仮想現実)ビューアーなどを目にしても、施工プロセスの部分的なところを切り出しているように見受けられます。さらに開発しているのがシステム部門と思われるため、現場の整合性や利便性を考慮していないものもありました。あくまでも推察の域を超えませんが、Goサインを出す上層部の方々が年配層でIT技術に理解がなく、食い違いや取り組みの遅延が発生しているように感じます。

ただ、我々がHolostructionに取り組めたのもタイミングによるところが大きいです。3年前に金融業界にいた自分が社長となりましたが、先端技術の重要性に気付ける若さと、チャレンジ精神を備えていたこと。そして鈴木さんを始めとする日本マイクロソフトさんとの出会いも重なって、始めて構築できました。価値に気付くのは年齢だけではありませんが、足の遅さが障壁となっているように見受けられます。

--Holostructionのロードマップは何合目

5合目に達していないか、という状態です。政府関係者にはHolostructionのデモンストレーションをご覧になって頂き、大変興味を持ってもらいましたが、いまだに建設業界全体は変化していません。皆がパラダイムシフトを起こして変革するタイミングを5合目と捉えています。この5合目は断崖絶壁と言えるほど厳しい部分ですが、垂直登攀(とうはん)で5合目を越え、業界関係者がHolostructionを使うようになれば、頂上に達したと初めて言えます。

--本日はありがとうございました。

阿久津良和(Cactus)

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。