元SEが、大工の技で“積み木“を創ったワケ

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第4回

元SEが、大工の技で“積み木“を創ったワケ

「利益が出ない」などの理由から新規事業が打てず、硬直してしまっている企業は多いのではないか。だが、ベンチャーなら早さが信条。連載「先鋭ベンチャー LOCK ON!」では、奮闘するスタートアップの姿をレポートする。

伝統的な「木組み」を玩具に落とし込む

木目が美しいその積み木は、すべて同じカタチでできている。18cm×3cm×3cmの長方体。ただ途中、2つの凹部があるのが特徴的だ。

「この“みぞ”同士かみ合わせると……ホラ、こんなふうにいろんなカタチを組み立てることができるんですよ」。積み木の生みの親、井上慎也さんはそう言いながら、積み木で大きなロボットを作り上げた。

「宮大工などが使う“木組み“のしくみを積み木のカタチにしたんです。この加工は『相欠き(あいがき)』といいます。シンプルな一種類しかないピースから、こんな風に思いもつかないような複雑なカタチもつくれる。むしろシンプルだからこそ可能性が拡がるわけですよ」(井上さん・以下同)。

木組みの積み木「KUMINO」。杉の質感をしっかりと残したつくりで、使い込むほど味わいがでるようになっている。1セット(14ピース)4800円~。オフィシャルサイトからも購入できる

「木“組みの”積み木」の真ん中を切り取って「KUMINO(クミノ)」と名付けられたこの積み木は、昨年生まれたばかりの新しい玩具だ。井上さんは、滋賀県東近江市でこの玩具を発案。現在は自ら積み木セットを手作りして、ネットやイベントでの直販とともに、一部玩具店やセレクトショップなどに卸している。

「なるほど。大工が匠の技術を転用した新規事業か……」と思われた人もいるかもしれないが、違う。井上さんは、元システムエンジニア。SEを辞めて、職業訓練校で学んだ大工の技術をヒントに「KUMINO」を着想。東近江の地で起業家になった。

「むしろ本当に大工、職人だったら創れなかったはず。そもそも大工の技術を伝える……というより『東近江の森、日本の木の良さをもっと伝えたい』という思いがありましたから」。

木を木として使うことのハードル

KUMINO工房代表・井上慎也さん。1978年京都生まれ。滋賀県立大学で森林生態学を学んだ後、システムエンジニアに。「森にかかわる仕事を!」と職業訓練校で大工修行。木組みの技術を学ぶ中で、これを積み木に活かした「KUMINO」を着想。2016年、地元・滋賀県東近江市で起業に至る

日本の国土の2/3以上は森林で、これはフィンランドについで2番めに高い割合だ。ところが、木材自給率はぐっと下がり、約3割程度だという。

「割安な輸入木材が多く使われてきましたから。コストの高い日本で伐採や製材した木材は市場価値で歯が立たなくなっていた。一枚板のテーブルにも使えそうな大きな材がチップになると聞いたときには、なんとかならないものかと思いました」。

実は、井上さんはそもそも滋賀県立大学で森林生態学を学んだ。子どもの頃から森林の中で遊ぶことが多く、自然と「自然保護」や「エコロジー」に関する意識が高まり、選んだ道だった。

「大学時代、地元の里山保全活動を行う団体で活動したことでも、森林への興味が強まりました。人手の入っていた森は手付かずで残すより、薪や材にするなど人が継続的に加わったほうが整備されて、むしろ生態的にも環境が整う。そう考えると、森にある資源を価値に変え活動を維持できるアイデアが重要であるかな、というテーマが僕のなかに生まれた感じです」。

もっとも、大学生だったのは20年近く前。当時はまだ旧態依然としていた林業に飛び込むのは、躊躇した。国産木材にこだわったうえで、デザインに凝った付加価値の高い家具を製造するメーカーへの道も考えたが、いわく「おしゃれな家具づくりのセンスは持ち合わせてないと自己評価して」選べなかった。

「結局、大学院まで進んだのですが、卒業後は2カ月ほど無職。さすがにこのままではまずい……と思って。縁があるところならどこでも良いかと、その時住んでいた近くで就職先を探したら、隣の市でシステムエンジニアの募集があり就職したというわけです」。

その後、順調にSEを勤めながらも、常に「森に関わりたい」「木のものづくりがしたい」という気持ちはくすぶったまま残った。そして数年が過ぎたある日、妻子と住んでいた自宅をリノベーションしたとき、思わぬ転機が訪れる。

「古くなった畳の部屋のリフォームを考えていた時、大工の友人が『節ありでも良かったら無垢の杉材が安く手に入るから、それに張り替えては?』と提案してくれたんです。それなら、とその友人と一緒に張り替えてみたら……」。

やわらかく気持ち良い杉材の触感。床から熱を逃さないので暖房をつければ部屋がしっかり温まる断熱性。杉材の価値をしみじみと実感した。

「僕自身、かつては『森林は大切』とか『木の製品はいい』なんて言っていたけれど、実際にそれを体感した上で言っていたかというと違ったんですよね。自分の育ってきた環境を思い返すと、本物の杉材の良さに触れる機会ってなかったんですよ。知らないと選択肢にも上がらないと思うんです。そうした本物の木の良さ、あるいは地元の木材に触れる機会があることが、木材の価値を高め、森を守ることに繋がるのではないかと」。

環境が人をつくり、経験が人を動かす。日々の居場所に杉材を取り入れたことで、じわじわと井上さんの中にあった「森に関わるる仕事がしたい」「木のものづくりがしたい」という思いを再燃させることになった。40歳目前だったことも後押ししたに違いない。

「そこで会社をやめ職業訓練校に1年通い、フローリング作業で面白いと体感した大工の実務技術を学ぶことにしたんです。SEとして10年働き、それなりに成果を出し、貯金もあったので『留学したと思って時間とお金を使わせてくれ』と妻には言いましたね」。

手先は器用なほうだった。言われたことを真面目にコツコツこなす性格もあいまって、職業訓練校では、誰よりもうまくこなした。制作物は周囲の手本とされるほどだった。ただし、大工の仕事を知れば知るほど、「一人前になるには10年以上かかる」「現場で数をこなさなければプロとはいえない」という職種としての厳しさを知ることにもなった。

「総合的に判断して大工で食べるのは難しいなあ……ということが修了が近づくにつれてますますハッキリしてきたんですよ。さて、これからどうしようかなって」。

悩んでいた頃、今につながるヒントが職業訓練校の課題というカタチで舞い降りる。「天井づくりの課題があったんですが、僕はわりと手先が器用だったから、他の人と違って『井上、お前は“格天井(ごうてんじょう)“をやってみろ』といわれたんですよ」。

格天井とは神社仏閣などでもみられる木に凹凸をつけて、それを組み合わせて格子状にした天井のこと。そう、「相欠き」によって組まれる天井だ。

SIBに託された、東近江市民の期待

きれいにはまる凹凸をつくった木組づくり。課題の「格天井」に取り組みながら、井上さんはひらめいた。「この相欠きで積み木をつくったらどうだろう?」。

数年前、長女とヨーロッパ製の積み木で遊んだ経験も、着想の後押しになった。「シンプルなカタチの、いいおもちゃだなあ」と思いつつも、「このカタチなら、日本の山の木からでもつくれたはずなのに……。日本の家みたいな木組み風の建物を作るのは難しいな」とも感じていた。その答えが、格天井をつくりながら見つかったわけだ。

「環境が人をつくるなら、子供たちが自然にふれる積み木を、地域の山の木を最大限に活かしてつくったら、自然と木の良さに気づける。森林への意識が自然とインストールされる、そう考えたんです」。

そもそも「おもちゃコンサルタント」の資格をもつ積み木マニア。世界中の色々な積み木についての知識があり、この形の積み木は世界初のデザインであることを確信していた。また「組む」という、新しい感覚、新しい面白さを何よりも実感していた。

さらに、井上さんは木組みの積み木に勝算を感じた理由があった。

木組みは本来、一度はまったら外れないように、緻密に木組みをつくりあげるものだ。しかし、積み木にはその発想は仇になる。「あえてかみ合わせを甘く」しなければ、いろんなカタチをつくり、こわし、またつくる……という、積み木の役割を果たさないからだ。 「そもそも相欠きは最もシンプルな木組みのカタチ。それだけを積み木にして、しかも甘く仕事する、なんていうのは、本職の大工にしてみたらプライドが許さない。だからこそ、これまでに生まれなかった新しいデザインだと思うんです」。

「KUMINO」で遊ぶ子どもたち。木組みを活かした玩具はほかにもあるが、ここまでクリエイティブな拡がりをもって、多種多様なカタチがつくられるものは少ない

予想は的中した。早速、杉材を使って「KUMINO」の試作をつくり周囲に見せると「たしかに、ありそうでなかったな!」「木の面白さがすぐ伝わる」「子どもたちが遊びながら、木の良さに気付けるね」とポジティブな声が殺到した。

東近江の杉を使い、地産地消のビジネスとすることも、支持の声を大きくしたようだ。 山には杉をはじめとした木々がたくさんある。その出口を探し、それぞれの現場で模索していた彼らにとって、井上さんの「木組みの積み木」のアイデアは、小さくともキラリと光る希望の星だったわけだ。

「東近江から材木を使った新しい事業を立ち上げる。そんな思いに共感していただける多くの方々がいたからこそ、僕もこれを事業化への勇気をもらえた気がします。家具でも大工でもなく、新しい積み木で起業しよう!」という。

もらったのは、勇気だけではなかった。世界的にも注目される「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)」。行政が指定した社会的事業に対して、市民の投資を募り、成果が出た分を市民にリターンするというあたらしい助成のしくみだが、東近江市はこれを昨年から独自にスタート。井上さんの「KUMINO」を、その採択事業のひとつに指定したのだ。東近江の杉を使い、雇用にも繋がり、地域経済を活性化させることを期待したためだ。

「このSIBを機に人の繋がりもうんと増えた。市民の方々から投資を受けるようなカタチで、試作品やパッケージデザインなどがまかなえ、今いる鈴鹿山脈の奥深くにある素晴らしいロケーションの工房も紹介され、格安で借していただきました」。

そして昨年10月。製品となった「KUMINO」は、直販からスタート。エコイベントや木工イベント、玩具展示会などに積極的に参加し、じわじわと販売先を増やしている。新宿四谷の「東京おもちゃ美術館」をはじめ、県外のショップでも置かれるようになった。さらに、10月29日に東京日本橋にオープンする滋賀県情報発信拠点「ここ滋賀」でも、取り扱われることになった。

また井上さんは、東近江だけじゃなく、「各地域の木材を使って、各地域の『KUMINO』をつくり、売る」というビジネスモデルにも踏み込み始めた。たとえば、岐阜の杉でつくった岐阜の「KUMINO」。秋田の広葉樹でつくった秋田の「KUMINO」といった具合だ。先述したように日本の至るところで活用されずにいる木材に、新たな付加価値をつけて、産業を生み出す。さらには木の良さを伝え、森林保護にまでつながるようなきっかけのひとつとして、「KUMINO」をひろめていこうというわけだ。

「9月には、コープしがさんが管理している『コープの森』で伐採した杉を使ってオリジナルの『KUMINO』を制作する予定です。それは『コープしが』の託児コーナーで使ってもらいます。こうしたCSRなどの取り組みとしてある森林保全事業の出口としても、子どもたちが使う積み木はとても親和性が高い。こうした取り組みにどんどん活用していただけるとうれしいですね」。

まだまだ成長過程の「KUMINO」だが、これからも想像以上に多くの人を繋ぎ、多くの森や地域を結んでいきそうだ。「木組みの積み木で、木の良さを伝えていきたい……」。事業への思いもビジネスモデルも、シンプルだからこそ可能性が広がるのだ。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

上場後振るわぬソフトバンク、次は「行政指導」

2019.01.24

ソフトバンクの通信障害、総務省が行政指導へ

再発防止のためのさまざまな対策立案を支持

上場前後で「運がない」ソフトバンクに求められるもの

総務省は1月23日、昨年12月に大規模な通信障害を起こしたソフトバンクに対して行政指導を行った。

通信障害は、ソフトバンクのLTEに関する交換機の不具合が原因で起こったもの。それによって同社の4G LTE網に障害が発生し、音声・データ通信ともに圏外になる、もしくはつながりにくい状態が長時間続き、大きな話題になっていた。

通信障害は12月6日の13時39分頃発生し、その後同日18時4分頃まで、4時間25分に及び、約3060万人の利用者に影響を及ぼした (ソフトバンク ニュースリリース)

総務省は今回、同社の代表取締役取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏宛に「電気通信事故に関する適切な対応及び報告について」と題した文書を提出。

ソフトバンクの宮内謙代表

文書では、ソフトバンクが2018年中に同件を含めて3回の重大事故を発生させていることを挙げ、「このような事故の発生は利用者の利益を大きく阻害するもの」とし、社内外の連携体制の改善や利用者への周知内容・周知方法の改善、通信業界内での教訓の共有等の実施を勧告。さらに、それぞれの具体的措置の内容を2月末までにまとめ、報告するよう義務付けた。

携帯電話は、通話やメッセージのやり取りはもちろん、決済サービスや災害時の情報収集ツールとして、今や国民のライフラインになっている。

総務省は同文書で「事故における教訓を業界全体で共有することが重要である」ともしており、今後の再発防止策等の詳細について、ほかの携帯電話事業者に説明し、情報共有する機会を設けることも求めた。

昨年末に鳴り物入りで上場したが、なかなか株価が振るわないソフトバンク。その背景には、通信障害や「PayPay」のクレジットカードの不正利用、さらには同社が通信設備を使用している中国・ファーウェイの米中対立やCFOの逮捕などの問題などが影響していることだろう。

ソフトバンクグループは昨年11月に行われた2018年度第2四半期決算説明会で、「RPA(Robotic Process Automation)の導入により通信事業の人員を削減し、新規事業に力を入れていく」としていたが、新規事業の前に、まずは逆風吹く通信事業の早急な立て直しが求められている。