【サッポロホールディングス】「サッポロブランド」の創造・育成・浸透に固執する戦略の是非は?

【サッポロホールディングス】「サッポロブランド」の創造・育成・浸透に固執する戦略の是非は?

2016.06.16

【サッポロホールディングス】「サッポロブランド」の創造・育成・浸透に固執する戦略の是非は?

 ロシアの南下政策への対抗策として1869(明治2)年に設置された開拓使で、外国人技師を招へいしてつくられた官営工場「開拓使麦酒醸造所」。そこで77年に本場ドイツで修業した日本人初のブラウマイスター中川清兵衛によって仕込まれた第1号商品冷製「札幌ビール」、それがサッポロホールディングス<2501>(以下、サッポロHD)の起源となる。

 87年前後には、中小の資本家によってさまざまなビール会社が設立され、サッポロビールの前身である「日本麦酒醸造会社」も三井物産会社の資本参加により醸造所の建設と製造を始め、90年に「恵比寿ビール」を発売した。

 1901(明治34)年に麦酒税法が施行され中小醸造業者が撤退する中、市場シェア70%を超える札幌麦酒・日本麦酒・大阪麦酒の3社合同による大日本麦酒が誕生し、大正・昭和とビールの需要が伸びていく過程で、醸造技術、原料の品種改良などの役割を果たした。戦後の49年に大日本麦酒は、過度経済力集中排除法の適用を受け、日本麦酒と朝日麦酒の2社に分割され、日本麦酒が『サッポロ』『ヱビス』の商標を継承し、その後サッポロビールへ商号変更した。

 現在のサッポロHDは、「国内酒類事業」「国際事業」「食品・飲料事業」「外食事業」「不動産事業」の5つの事業セグメントを持ち、『「新しいNo.1」となる商品やサービスの創造と提供を積み重ね、 世界各地で、お客様の豊かな生活のためになくてはならない企業になる』ことを目指して事業を行っている。

 ここで、サッポロHDのM&Aの歴史を見てみよう。

■サッポロHDが行った主なM&A(グループ内再編含む)

年月 内容
1974.12 丸勝葡萄酒(現サッポロワイン)の全株式を取得(現連結子会社)
2004.11 札幌ホテルエンタプライズ(ウェスティンホテル東京運営会社)を譲渡
2006.4 焼酎事業を営業譲受によって取得
2006.1 カナダ(ゲルフ)のSLEEMAN BREWERIES LTD.の株式を取得し子会社化(現連結子会社)
2010.3 ベトナム(ロンアン)のSAPPORO VIETNAM LTD.の株式を取得し子会社化(現連結子会社)
2011.3 ポッカコーポレーションの株式を取得し子会社化
2013.1 ポッカサッポロフード&ビバレッジ㈱が札幌飲料及びポッカコーポレーションを消滅会社とする吸収合併を実施

 上記表を見て分かるように、1876年の北海道開拓使麦酒醸造所設立から140年近く経つが、M&Aの実績は少ない。2007年10月に公表された「サッポログループ新経営構想」においても、グループ戦略として「戦略的提携の実施」は明言しているものの、M&Aを戦略として掲げていない。国内の他ビール事業会社が、国内の人口減少の危機感から、また、ABインベブや世界の巨大ビール会社と伍して戦うために、国内海外問わず大型M&Aを繰り返す中で、サッポロHDのこうした立ち位置は、他社と一線を画しているように映る。

 では、少ないながらもサッポロHDはどのような戦略・背景の下M&Aを行ってきたのか。06年のカナダ(ゲルフ)のSLEEMAN BREWERIES LTD.株式の取得、10年のベトナム(ロンアン)のSAPPORO VIETNAM LTD.株式を取得2つのM&A当時のプレスリリースを見てみよう。

 (以下サッポロHDリリースより引用)

06年8月12日
1. 株式取得の目的 今回スリーマンビール社を傘下に取り込むことにより、カナダのビール市場への本格参入、北米におけるサッポロブランドの価値向上、国際事業におけるノウハウ蓄積などの目的が達成されます。(以下略)
09年12月10日
1. 出資持分取得の背景と目的
サッポログループは、平成19年10月に発表しました新経営構想の中の重要なグループ戦略である「戦略的提携の実施」および「国際展開の推進」の具体策として、ベトナムにおけるビール製造販売事業に進出します。年率10%以上の成長が続いている有望なベトナムビール市場において日本のビールメーカーとしては初めてとなるビール製造販売の拠点を構築し、積極的なマーケティング投資により同国におけるサッポロブランドの確立、市場シェアの早期獲得および事業の拡大を図ります。
プレミアムブランドとしてのサッポロビールをベトナムの消費者にアピールしていきます。(以下略)

 この2つのプレスリリースで注目すべきは「ブランド」という言葉であろう。07年10月に公表された、創業140周年に当たる16年をゴールとした「サッポログループ新経営構想」で、グループ戦略の1番最初に書かれていることは、「高付加価値商品・サービスの創造」である。サッポロHDでは、特に『ヱビスブランド』に対し強いこだわりとプライドを持っており、ブランド価値の向上・浸透を通じて、企業価値を向上させようとしていることが分かる。16年4月11日号の日経ビジネスで、上條社長も「我々はビール“バカ”のメーカーとして商品とブランドを突き詰める」とインタビューに答えている(2016年4月11日号 日経ビジネスより)。

 では、他の国内ビール会社と一線を画した戦略がうまくいっているのか、上場している他の国内ビール会社と営業利益率の比較を見てみよう。

■営業利益率推移比較

 他の2社と比較しても、営業利益率で半分以下の実績しか出せていないのが現状のようである。上記表は連結決算における営業利益率比較であるため、必ずしもビール事業における成果のみを表しているわけではない。しかしながら、上場会社である以上、株主還元も考慮に入れなければならないことを考慮すると、現状は満足のいく結果とは言えないであろう。

 こうした現状において、15年2月にリリースされた「経営計画」で、創業150周年に当たる26年に向けた時期長期経営構想策定の考え方が記載されている。

 (以下サッポロHDリリースより引用)

■グループの目指す姿
サッポログループは、「新しいNo.1」となる商品やサービスの創造と提供を積み重ね、 世界各地で、お客様の豊かな生活のためになくてはならない企業になります

■企業行動の指針
(1)イノベーションを追求し、お客様へ「価値あるNo.1」を提供し、お客様のより豊かな生活に貢献します
(2)お客様同士のコミュニケーション活性化に役立つ商品・サービスの創造に努めます
(3)環境変化に対応し、効率的な経営の実践に努めます

 まだ次期長期経営構想ができていないものの、上記のように、あくまでもサッポロHDとして、「サッポロブランド」の創造・育成・浸透をもって企業価値を向上させる戦略を遂行するようである。

 日本市場におけるビール類の課税済み出荷量が、15年まで11年連続でマイナスとなり、16年も前年割れの公算が大きい中、他の国内ビール会社はM&Aを積極的に行い、海外に成長を求めている。海外においても、ABインベブ、ハイネケン、華潤ビールなど、巨大な資本を武器にM&Aを積極的に実行しているのが今のビール市場である。

 現況下、サッポロHDの「サッポロブランド」の創造・育成・浸透といった経営戦略がどこまで通じるのか、今後の展開を期待し見守りたい。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

何がゴーンに起こったか? 日産で発覚した不正と権力集中の経緯

2018.11.20

ゴーン氏による3つの重大な不正とは

不正は「ゴーン統治の負の遺産」と西川社長

ゴーン不在でアライアンスの今後は

カルロス・ゴーン氏が日産自動車で働いた不正が発覚し、東京地検特捜部に逮捕される事態となった。企業再生の旗手ともてはやされた豪腕経営者は、自らが代表取締役会長を務める会社の資金を私的に使うなどの理由で失墜してしまった。なぜ、このような不正が起こったのか。その理由を探るため、西川広人(さいかわ・ひろと)社長が出席した日産の記者会見を振り返ってみたい。

日産の西川社長は、11月19日に記者会見を開催した。横浜の日産グローバル本社には200人を超える報道陣が詰め掛け、質疑応答は深更に及んだ

ゴーン依存から抜け出すチャンス?

西川社長の説明によると、ゴーン氏が日産で働いた不正は「開示される自らの報酬を少なく見せるため、実際より少なく有価証券報告書に記載」「目的を偽り、私的な目的で日産の投資資金を支出」「私的な目的で日産の経費を支出」の3つ。内部通報を受けて数カ月間の調査を行った結果、不正が判明したという。不正の首謀者はゴーン氏と同氏側近のグレッグ・ケリー代表取締役の2人。11月22日には取締役会を招集し、不正を働いた2人の職を解くことを提案するという。

会見で西川社長は、本件について「残念というより、それをはるかに超えて、強い憤りというか、私としては落胆が強い」との感想を述べた。不正の具体的な経緯や内容については、検察当局の捜査が進行中であるため、詳細には説明できないという。「約100億円の報酬で約50億円しか申告していないとすると、消えた50億円を日産ではどのように処理したのか」という記者からの質問に対しても、「今の段階では」回答できないとして明言を避けた。

この問題は日産の、ひいてはルノーと三菱自動車工業を含むアライアンスの今後に、どのような影響を及ぼすのか。「将来に向けては、極端に特定の個人に依存した状態から抜け出して、サステイナブルな体制を目指すべく、よい機会になると認識している」というのが西川社長の言葉だ。

検察当局の捜査が進行中で、不正の内容については多くを語れないとした西川氏だが、一刻も早く自らの言葉で状況を伝えたいという理由から、このタイミングで記者会見を開催したという

ルノーと日産のCEO兼務が権力肥大の温床に

逮捕の時点で、日産と三菱自動車では会長、ルノーでは会長兼CEOを務めていたゴーン氏には、西川社長が「極端」と表現するほど、権力が集中していた。なぜ、このような体制となったのか。「長い間に、徐々に形成されたということ。それ以上に言いようがない」とした西川社長だったが、1つの要因として「ルノーと日産のCEOを兼務した時期が長かった」点を指摘し、「このやり方は、少し無理があった」と述懐した。

業績不振の日産にルノーから乗り込んだゴーン氏は、日産を立て直し、2005年にはルノーのCEOにも就任して、両社のトップに立った。その当時を西川社長は、「当たり前に、日産を率いるゴーンさんが、ルノーのCEOをやるのはいいことじゃないかと考えて、あまり議論しなかった。どうなるかについては、日産としても、十分に分かっていなかった」と振り返る。

誰かに権力が集中したからといって、その企業で必ずしも不正が起こるとは限らないし、権力を持ちつつ、公正な企業経営を行っている人もたくさんいる。そう語った西川氏ではあったが、今回の不正については「長年にわたるゴーン統治の負の遺産」であり、「権力の集中が1つの誘引となった」と結論づけた。経営陣の1人でありながら、ゴーン氏をコントロールする役割を果たせなかった責任については、「ガバナンスで猛省すべきところはあるが、事態を沈静化して、会社を正常な状態にする必要もある。やることは山積している」とする。

権力者が去った日産は今後、どのような企業になっていくのか

内部通報によりゴーン氏が日産を去るという構図は、クーデターに見えなくもない。不正が日産ブランドに与える負の影響は計り知れないが、これを機に、有機的で透明性の高い企業統治の在り方を追求できるかどうかが、日産とアライアンスの今後を左右しそうだ。ゴーン不在の新生日産にとって、真の実力を問われる局面になる。

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

「食事に合う」缶チューハイをつくってしまったストロングゼロの仕掛け

2018.11.20

サントリー「ストロングゼロ」の新商品が11月20日より発売

「食事に合う」を押し続けた広告展開の狙い

-196℃製法は居酒屋の「不味い」チューハイから誕生?

サントリーの缶チューハイ「-196℃ ストロングゼロ」という商品に、どのような印象を持っているだろうか?

飲みやすい、度数が高い、お手頃価格――。さまざまなイメージを想起することかと思うが、サントリーの打ち出すメッセージは、一貫して「食事に合う」だ。特に、「唐揚げとよく合う」という点を全面に押し出した広告を見たことがある、という人も多いのではないだろうか。

確かに、味そのものを広告で伝えるのは難しいし、度数が高いからお得に酔えるとお茶の間に出すのはなんだか気が引けるのも想像できる。とはいえ、コーンポタージュ味のガリガリ君くらいディープなイメージになりかねない「食事に合う」缶チューハイというメッセージも、かなりの勇気が要ったのではないだろうか。

なんで缶チューハイが食事に合うなんて言ってるの? サントリー商品開発センター(神奈川県・川崎市)で聞いてきた

居酒屋の「美味しくない」チューハイがキッカケに

そもそも、ストロングゼロのきちんとした商品名で記載される「-196℃」とは何だろう。これは、果実などを-196℃で瞬間凍結し、パウダー状に微粉砕したものをアルコールに浸漬してチューハイに仕上げるという、サントリー独自の「-196℃製法」を意味するもの。

ストロングゼロの開発に携わるサントリースピリッツ商品開発研究部の藤原裕之氏によると、この製法が誕生したキッカケは、居酒屋での「美味しくないチューハイ」にあったのだという。

「居酒屋で飲む“生絞りチューハイ”って、美味しいですよね。でもある日、レモンは入っているのに、全然美味しくないチューハイがあったんです。なぜ同じ組み合わせなのに、味が変わるのか。それは“自分でレモンを絞る・絞らない”の違いにあったんです」(藤原氏)

「-196℃」製法、誕生のキッカケは居酒屋にあった

つまり、美味しさの要因は「手についたレモンのフレッシュな香り」にある、というのだ。

そこで、「レモンを、丸まる1つ使ったチューハイを作りたい」というコンセプトのもと、「果実」だけではなく、「果皮」に含まれる香り・美味しさ成分まで余すことなく作る製法として、果実を瞬間冷凍し、まるごと砕いてお酒に入れる「-196℃製法」を開発した。同じようなコンセプトのチューハイは他社でも見られるが、この製法はサントリーの特許技術だ。

こちらは「-196℃製法」を再現した実験。写真は液体窒素を容器に流し込んでいるところ
ちなみに、液体窒素の中に花を入れると、すぐに凍ってしまう。軽く握っただけでパラパラと粉々に砕ける
レモンを数十秒いれると、こちらも完全に凍ってしまった。さすがに素手で砕くのは無理だそうで、本来は機械でクラッシュしてパウダー状にしているそう

市場拡大の追い風に乗り、「食中酒」として存在感増す

余談になるが、ここ最近はストロングゼロを筆頭に、「ストロング系チューハイ」がSNSで異様な広まりを見せている。昨年末には「#ストロングゼロ文学」という大喜利ネタが流行り、今年も「#わたしのストロングゼロ」なるハッシュタグが誕生し、盛り上がった。このあたりの話題に興味のある人は、こちらの記事(「ストロング系チューハイ」、なぜ人気? 愛飲者が理由を分析)も読んでみてほしい。

では、なぜここまでの人気がある商品になったのか。それは、市場全体の盛り上がりをタイミングよく追い風にできたことも大きい。

「RTD(Ready to drink:缶チューハイやカクテルなど、フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料のこと)市場は、2007年から、10年連続で伸長しています。この傾向は2018年も継続しており、本年度は1~9月だけで、前年比111%増えています」(藤原氏)

RTD市場・アルコール度数別販売状況。ちなみにサントリーが「-196℃」シリーズを発表したのは2005年、ストロングゼロシリーズが生まれたのが、2009年だ

RTD市場の中でも、特に高アルコール(アルコール8%以上のもの)飲料が市場を牽引する存在になっていて、これらは2012年に市場シェア24%だったところ、2017年には33%にまで伸長している。

高アルコール飲料が伸びている理由は「お得に酔える」ことが求められたからと考えられるが、「経済性のみでここまでの伸びがあるとは思えない」と藤原氏は説明する。

「なぜ、高アルコール飲料を飲む人が増えているのか。我々の見解としては、それは『食』にあると考えています。2015年、2018年の『食事中にRTDを飲んでいる数』を比較すると、ここ3年で約5%伸びていることがわかりました」(藤原氏)

特に40~50代の伸びが大きく、これまで食事中にビールを飲んでいた所を、チューハイに置き換える傾向にあるようだ。スーパードライやプレミアムモルツ、一番搾りといった人気ビ―ルの度数は、5~5.5%。そこから流入した層が、「低アルコールのチューハイでは物足りないから」と、高アルコールのものを選ぶようになっているのかもしれない。

そこでサントリーは、「食事に合う」チューハイという立ち位置を明確にする戦略に動いた。味の改良だけでなく、世の中のニーズの変化にも敏感に反応した結果の、「食事に合う」だったのだ。

「食事に合う」というイメージ訴求を続けてきたサントリー

市場を牽引する「ストロングゼロ」、次の一手

サントリーが初めて「-196℃」の缶チューハイを商品化したのが2005年。それ以降、RTD市場の成長に沿って売り上げを伸ばし続けている。特に、-196℃のラインアップに高アルコールの「ストロングゼロ」を追加してからの成長が顕著だ。市場の成長に沿って、というよりはむしろ同社のイメージ戦略も相まって、「市場を牽引している」ともいえるかもしれない。

「-196℃」シリーズの販売実績。ストロングゼロが誕生したの2009年以降、急激な成長を遂げている

「食事中のお酒にチューハイが選ばれるキッカケとなったのは、『レモン』味のフレーバー。今後もレモンをRTD市場の成長のキードライバーと捉え、力をいれていきたいと考えています」(藤原氏)

既存の人気商品「ストロングゼロ ダブルレモン」に続き、ストロングゼロが次に指す一手も、やはり「レモン」だ。さらにレモンを”マシマシマシ”した、その名も「ストロングゼロ トリプルレモン」で、まだ食事中に缶チューハイを飲んでいない新規層への訴求を目指す。

「-196℃ ストロングゼロ トリプルレモン」は、11月20日より販売開始。価格は350mlが141円、500mlが191円(税抜き)
同社が押し出す「食事と合う」チューハイ。見ているだけで仕事を放棄したくなってくる