議論白熱の自動運転レベル3、積極的なアウディと慎重なメルセデス

清水和夫の自動運転ソシオロジー 第9回

議論白熱の自動運転レベル3、積極的なアウディと慎重なメルセデス

2017.08.30

前回レポートしたアウディ新型「A8」の「トラフィックジャム・パイロット」は世界初の自動運転レベル3を目指して開発されている(自動運転のレベリングについてはこちら)。ここでおさらいすると、自動運転の自動化は現在6段階(レベル0~5)が定義されているが、その中でも、議論が白熱しているのがレベル3だ。

世界初の自動運転レベル3に踏み込むアウディ新型「A8」

人とAI、運転交代の難しさ

本格的な自動運転はレベル3から始まると専門家は考えている。というのは、レベル2の段階はどんなに機能が進んでいても「ドライバーが責任を持つ」という範囲を超えていないので、ドライバーは他の作業(サブタスク=スマホの操作など)が許されない。

1949年に制定された国連決議のジュネーブ条約では、「クルマの運転とはドライバーが責任を持つこと」と規定されており、この条約の改訂や解釈の変更がない限り、サブタスクは許されない。これをユーザーニーズから考えると、ドライバーはずっと前方を監視していなければならない自動運転には興味を示さないだろう。

しかし、システム(AI)が100%運転し、責任もシステムが持つ完全な自動運転(レベル4~5)なら、ジュネーブ条約を乗り越えることが可能だと専門家は考えている。つまり、条約で規定したドライバー(運転手)をAIと解釈すればレベル4~5が可能で、責任はシステムなので混乱も避けられる。

だが、悩ましいのはレベル3だ。このシステムはまだ半自動の段階なので、システムが都合が悪くなると人(AIやロボットに対して、自然人と書かなければならなくなった)にハンドオーバーすることになる。何秒あれば自然人にハンドオーバーできるのか、専門家は必死に研究しているが、交通状況はケースバイケース。システムから自然人にハンドオーバーするとき、自然人が対応できないとどうするのか。例えば、寝てしまったとか、急病で意識を喪失してしまったとか。考えれば考えるほど、悩ましい。

この辺りの悩ましさから、「レベル3はとても難しいからレベル2を進化させ、一気にレベル4に行く」と考えるメーカーもいるくらいだ。果たしてアウディは、どんな戦略でレベル3を実現するのだろうか。世界中の関係者が注目している。

悩ましいのは責任の所在

新型A8に搭載する「アウディAI トラフィックジャム・パイロット」は、アウディがレベル3を目指して開発してきたもの。これまで、ドイツ国内法(道路交通法)ではドライバーの運転責任が規定されていたが(ウイーン協定)、高速道路の渋滞時のみ(時速60キロ以下)、ドライバー責任を免除する限定的なレベル3をドイツ政府に申請した。その結果、ドイツでは法改正され、システムによる運転が可能となった。これでドライバーはハンドルから手を離し、サブタスクを行うことが可能となり、渋滞時の車内の過ごし方が大きく変わると期待されている。

法律を含め条件がそろえば、ドライバーによるサブタスクも可能とするアウディ

多くの人が心配する責任問題については、システムが運転しているときの事故はアウディの責任となると明言しているが、そのために事故時のデータはデータレコーダーに記録されることになる。ドイツの法律では所有者に責任があるので、所有者は保険に入り、その保険会社が調査をして、クルマに起因する事故だと認定されれば当然、それはメーカーの責任ということになる。

ところで、EUでは国によって法律が異なるので、各国で討議を重ねている。アウディが考える初期的なレベル3は、ドライバーのサブタスクは限定的でシステムがドライバーをモニターできる範囲に限定している。システムからのトランジッション・タイム(権限移譲)は10秒で、ドライバーがシステムからの要請を受け入れないときは自動で緊急停止する。

自動レーンチェンジ・システムはあえて搭載していない。スピードが高い後続車の認識に自信がもてない。システムのロバスト性を高めるために冗長性(Redundancy)が重要で、たとえば電源に関しては、48Vと12Vの二重の電源システムを持つ。法律問題が100%クリアされたわけではないが、2018年度にはEUの一部の国でレベル3の走行が可能になるかもしれない。

アウディとメルセデスで異なる積極性

しかし、こうしたレベル3は時期尚早と考えているのはメルセデス・ベンツだ。つい最近、試乗会に参加してきた新型「Sクラス」には、「アクティブ・ディスタンス・アシスト・ディストロニック」が導入され、カーナビで登録した目的地まで、自動で加速と減速を行ってくれる。例えば高速道路の出口、ランナバウトでは自動的に速度が減速される。HEREの地図から道のカーブを想定し、自動で速度が調整されるが、その加減速が見事な完成度であった。街の中心部に設置されるゾーン30(時速30キロ以内の速度で走るエリア)に近づくと、カメラは規制表示版を読み取る。

新型「Sクラス」に先進的な技術を積むメルセデスだが、レベル3については時期尚早という考え方だ

アウディとほぼ同じシステムを搭載するメルセデスは「レベル3はまだ難しい」と考えており、新型Sクラスに搭載したドライバー・アシスト・システムは「洗練したレベル2」だと述べている。レベル3に積極的なアウディ、慎重なメルセデス。両社の考えの違いが興味深いが、いずれにしても、法律が整備され、責任問題がクリアされるなら、レベル3も意味がありそうだと思う。A8の場合であれば、渋滞時にスマホのアプリを、車載モニター上で使用することが可能となるのだから。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある
【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

【平成最後】2018年度の「M&A」件数・金額は、過去最高に - 令和も活況続くか

2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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2019.05.20

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第43回は、大津の痛ましい事故で炎上した「マスコミ」問題について

滋賀県・大津市で散歩中の園児の列に軽乗用車が突っ込み、園児二名死亡、多くの負傷者を出す、という事故が起った。

池袋のプリウス事故の衝撃が冷めやらぬまま、また痛ましい事故が起ってしまった。池袋の事故では「高齢者の自動車運転問題」「上級国民疑惑」が大きく注目されたが、今回の事故では全く別のものが炎上した。

マスコミ問題である。

マスコミが保育園を追求したのは視聴者のため?

事件が起こった当日夕方、被害者の園児が通っていた「レイモンド淡海保育園」が記者会見を行ったのだが、そこで質問をした記者の血が青とか紫とかほとんど寒色系じゃないかと、大きく批判された。

記者会見が、どのような内容だったかというと「危険な場所という認識はあったのか?」「保育士が道路側にいたのか?」という、何としてでも保育園側に批があったようにしたくてたまらない質問、「園児たちの様子は普段と変わらなかったのか?」という意図のわからない質問、 「散歩したのは園に庭がないからか?」という「園に庭さえあればこんなことには…」という「ニ兆円さえあれば」に匹敵する、壮大なたられば論などが挙げられ、質問を受けた園長は号泣、それを記者がバッシャバッシャ撮影するという地獄絵図だったそうだ。

記者会見を見た多くの人が「何を食ったらそんな質問ができるんだ」と思っただろうが、この記者会見は、たまたまその場にプラスチックを食って育った選りすぐりのサイコパッシャーが大集結してしまったという、悪い意味でのアベンジャーズだったワケではないと思う。

記者が何故あのような質問をしたかというと、決して趣味ではなく、おそらく「視聴者の見たい画」「聞きたい言葉」を引き出そうとした結果なのではないか。もちろん「あんなもの見たくなかった」という人が大半だと思う。

しかし、池袋プリウス事故で加害者が即逮捕されないことが大きく批判されたことからも、現在の我々視聴者に「悪が一刻も早く、俺たちの目に見える形で処されるところが見たい」という「ニーズ」が少なからずあることが分かっているのだ。

つまり「お客様に一秒でも早く悪が吊るされる様をお届けします!」というニーズに応えようとする企業努力が、「悪くもない保育園をとりあえず悪にして即斬る」という、完全に間違った「悪・即・斬」になってしまったのではないだろうか。

「マスゴミ」問題は視聴者の問題?

しかし、「被害者側への無配慮な取材はいらん」というのも、今回の件だけではなく、視聴者側が何度も言い続けている「ニーズ」である。

何故それが無視されてこのような会見が行われるかというと、被害者の声まではいらなくても、やはり我々が平素「センセーショナル」な物を求めてしまっているからではないだろうか。よって記者たちは「とにかく刺激的なものを撮ってこい」と言われ続け、感覚がマヒし、本来配慮が必要なはずの取材にすら「センセーショナルさ第一」で臨んでしまい、まるで不倫記者会見のようなノリの質問が飛ぶことになってしまったのではないだろうか。

やはり報道というのは「視聴者が何を見たがっているか」が反映されるものだ、需要がなければ供給はなくなる。このような記者会見が行われなくするためには、何度でも我々が「こういうのはいらんのや、見んし、お前らの雑誌買わんわ」と言い続けるしかないだろう。

ところで、「質問をした記者を特定して処してやろう」という動きも当然のように起こったらしい。やはり我々の「悪を処したい」「処されるのを見たい」という気持ちは根深い物があるのだ。

ちなみに、今回の事故では当初、車を運転していた52歳と62歳の2人が逮捕された。「また高齢者か」という声も上がったが、この年齢で高齢者と呼べるかは微妙なところだ。結局「車を運転する以上誰でも事故を起こす可能性がある」ということである。

車を運転しない人は「歩道を歩いていて車が突っ込んでくるなんてどうしようもない」という被害者観点から絶望したと思うが、車を運転する人は加害者観点でも恐怖したと思う。

もちろん安全運転に越したことはないが、人間には「限界」と「不測の事態」があることでおなじみである。持病もないのに運転中に突然何らかの発作が起こる可能性だってあるのだ。「どうしようもないこと」で被害者になることもあるが、加害者になることもあるのである。

つまり、車がないと生活できない土地で、私が週一ぐらいしか外出せず、引きこもり続けているのは、近隣住民の命を守る草の根活動でもあるのだ。しかし、それは無職だからできる事業なので、多くの人が、少なからずリスクを負って車を運転しなければいけない。

そのリスクを減らすには、運転者が気をつけることはもちろんだが、何せ限界がある。つまり、人間がこれ以上、進化することなく、むしろ高齢化で退化する一方だとしたら、無機物の方を整備していくしかない。

事故が起りにくい道路作り、そして車だ。

現に、車の事故防止機能はどんどん進化しており、自動運転化の開発も進んでいるという。自動運転が本当に安全なのか不安もあるが、少なくとも老が運転するよりは確実に安全になるだろう。

しかし、今のところそういった事故防止機能がついた車を買うか否かは、任意である。そして、そのような機能がついた車は高くなる。よって私の車は金銭的問題で、タイヤとハンドルがついているぐらいであり、運転手がミスったら、そのミス通り事故を起こしてくれる、素直な仕様である。

現在でも事故防止機能のある車を購入した場合、補助がもらえることもあるようだが、導入が任意な以上、つけない人はつけないだろう。これからの車には、タイヤ、ハンドル、事故防止機能を、もう屋根ぐらい忘れても良いから義務付けるべきではないだろうか。

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