民泊のAirbnbが目指す“旅行の民主化”とその先 - 共同創業者が語る日本市場

民泊のAirbnbが目指す“旅行の民主化”とその先 - 共同創業者が語る日本市場

2016.06.16

カーシェアリング、Uber、クラウドソーシング、クラウドファンディング……最近よく耳にするこうした言葉は、全て一般生活者がビジネスに参加する「シェアリングエコノミー(共有型経済)」と呼ばれるビジネスモデル。近年、世界的にその規模は拡大し、日本国内でも2018年には462億円規模(矢野経済研究所調べ)の市場にまで成長すると言われている。

そうしたシェアリングエコノミーの市場を世界に生み出したパイオニアのひとつが、一般個人の住宅を観光客などに宿泊施設として提供するホームシェアリング(民泊)サービスの「Airbnb」だ。グローバルでは191カ国3万4000都市に200万の物件を展開し、これまでに8000万人が利用。日本国内でも3万5000の物件を提供し、最近ではTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブとマーケティング活動などにおけるパートナーシップ契約を締結。Airbnbをはじめとする民泊の市場拡大を受けて、行政も法整備や規制緩和を検討している状況だ。

2008年8月創業のAirbnb。民泊サービスの最大手で、現在は世界で200万の物件を展開する(画像は日本語版HPのトップ画面)

世界的な市場の創出を実現したAirbnbは、こうしたホームシェアリングが拡大する先にどのようなビジョンを描き、そしてシェアリングエコノミーの未来をどのように見据えているのだろうか。来日したAirbnb共同創業者のネイサン・ブレチャージク氏へのインタビューを基にレポートする。

日本で逼迫する宿泊施設の需給、民泊が解決策に?

日本におけるAirbnbのビジネス展開について、ブレチャージク氏は対前年比500%の成長を遂げているデータを挙げたうえで、「世界的に見ても、日本が最も高い成長を遂げている」と説明する。その背景にあるのは、国が全力を挙げて取り組んでいる訪日外国人観光客の増加によるインバウンド需要の拡大だ。

Airbnb共同創業者兼CTOのネイサン・ブレチャージク氏。同社の技術的戦略を指揮する

ブレチャージク氏は、こうしたインバウンド需要増加の動きはAirbnbの普及拡大にとっても大きなチャンスだとみている。「東京オリンピックが開催される2020年には、訪日外国人観光客が4000万人になるといわれている。日本における観光産業全体の成長とともに、Airbnbの著しい成長は続くだろう。訪日外国人観光客の急増によって観光客を受け入れる(ホテルなどの)キャパシティが大きな課題であることは明白であり、それに対してAirbnbが解決策を提案するというのは自然な流れではないか」とブレチャージク氏。観光客の増加に伴う宿泊施設の枯渇に対して、ホームシェアリングが価値あるソリューションになるというのだ。

旅行ビジネスの扉が個人にも開かれる

しかし、ブレチャージク氏が考えるAirbnbのビジョンは、ホテルなど既存の宿泊施設に置き換わる存在になることではない。同氏はそれを「旅行の民主化」「地域体験の創出」という2つのキーワードで説明している。

「民主化」というキーワードは、テクノロジーのイノベーションによく使われる言葉で、これまで企業が商品・サービスの企画・提供を主導してきたマーケットに個人が参加できるようになる場合に、「市場が民主化する」といわれる。企業がコントロールしてきた市場に、本来は利用者である個人が参加することで、そこに自由と多様性が生まれるのだ。出版社が主導してきた出版事業に、電子書籍の発行・販売という形で個人が市場参入できるようになったり、放送会社が主導してきた放送事業に対して、個人が自由にコンテンツを制作して配信して広告収入を得るYouTuberが登場したりした例が解りやすい。

ブレチャージク氏は、Airbnbのコンセプトについて、「最もエキサイティングなのは、以前まで企業にしかできなかった観光産業のエコシステムに一般の人が参加できること。“旅行の民主化”だ」と語る。つまり、観光産業に一般個人によるホームシェアリングが参入することによって市場に多様性が生まれ、旅行者にとっては選択肢が増加し、また住宅を提供するホストにとっては、自身の資産を活かした新たな収益機会の創出に繋がるのだ。「Airbnbによる“旅行の民主化”が進めば、宿泊以外の旅行ビジネスにも個人が参加できるチャンスが生まれるのではないか」(ブレチャージク氏)。

民泊の価値は地域体験にあり

では、Airbnbによる“旅行の民主化”は、旅行客やホストにどのような価値をもたらすのか。ブレチャージク氏は、「Airbnbが重視しているのは、(宿泊した)現地での体験。地域の良さをどのように地元の人たちと共有できるのか。そしてそれを、システムがどのようにサポートできるかを常に考えている。それは、田舎の小さい町でも、大都市でも変わらない。現地の人と触れ合いローカルなカルチャーを体験できることが、Airbnbの最も大きな価値だ」と語る。

利用者が現地のカルチャーを体験できるところがAirbnbの魅力と語るブレチャージク氏

Airbnbの利用者が宿泊するのは、街中にある宿泊施設ではなく住宅街の中にある一般個人の住居だ。地域に密着した宿泊環境を利用することを通じて、従来の旅行では見ることができない地域の表情に触れ、地元の人と交流することで従来の旅行ではできない体験が生まれると考えているのだ。この発想は、観光によって地域振興を目指したい地域や、過疎化が進む地域への流入人口を増やしたい地域にとっては、追い風となる考え方ではないだろうか。

シェアリングエコノミーを地域振興に活用した例では、個人が自家用車に利用客を乗せて旅客サービスを提供するUberが、富山県南砺市と協定を締結し、公共交通に課題を抱える地域においてボランティア市民ドライバーの自家用車を利用したシェアリング交通の実証実験を開始したケースがある。同じように、地域の観光振興を目的としてAirbnbの活用を積極的に推進していく自治体が登場する可能性も、今後は十分に考えられるのだ。

「Airbnbによって、小さな村、今までホテルが存在していなかった場所にもアクセスできるようになった。そこで地元の人と交流し、もてなしを受けることによって新しい経験が生まれる。日本国内の市場も今後更に成長するのではないか」(ブレチャージク氏)。

ここまでは、Airbnbがもたらす様々な可能性について説明してきたが、消費者の中には、一般個人の住居に宿泊するということに対する安全面での不安も少なくない。この点について、ブレチャージク氏はどのように考えているのだろうか。

ブレチャージク氏は、「私たちの新しいアイデアを世の中に受け入れてもらうために最も重要なのは“信頼”だ。そのために、スタッフは絶え間ない努力を続け、高品質なサービスを提供するためにテクノロジーを活用している。常に入ってくるデータを基に、どうすれば良い体験を創出し、悪質なユーザーを排除できるかという課題に取り組み続けている。おかげで、これまで世界で8000万人以上というAirbnbユーザーのほとんどが、ポジティブな体験をしている。Airbnbが世界中で信頼を得られているというのは、数字が物語っているのではないか」と語る。

信頼性を担保すべくシステムのブラッシュアップに注力するAirbnbだが、信頼性を支えるのは利用者の評価、つまりは“人の言葉”だ

シェアリングエコノミーはお互いを知らない個人同士で取引を行うことを前提としたサービスだ。そこで信頼性を担保するためには、Airbnbのようなプラットフォームを提供する事業者が取引の安全を担保したシステムを開発し、利用者の動向に合わせて常にブラッシュアップしていく必要がある。その姿勢を貫き通せるか否かで、サービスが世の中に受け入れられるか否かが判断されると言っても過言ではないだろう。そして、そのシステムによって生まれたポジティブな体験が、新たな利用者を生み出す原動力にもなるのだ。「Airbnbの信頼性を支えるのは人の言葉。Airbnbによって生まれたポジティブな経験やストーリーをシェアすることだ」(ブレチャージク氏)。

ブレチャージク氏のこの考えは、シェアリングエコノミーの未来にとっても非常に重要な示唆だともいえる。もしも今後、個人同士の取引にその意義さえ問われるような致命的なインシデントが起これば、世の中のシェアリングエコノミーに対する信頼は失われ、市場そのものの未来が断たれることになる。Airbnbが「信頼」という言葉に込めた思いは、非常に重いものなのだ。

ブレチャージク氏は、「260億ドルと言われるシェアリングエコノミーの市場には、まだまだ成長の可能性がある。その中では、様々なプレイヤーがこの市場に参加しようとトライし、隆盛と淘汰を繰り返していくだろう。そこで生き残るためには、世の中のパーソナルなニーズに合ったシステムであり、世の中の信頼を得られるシステムであり、そのシステムをスムーズに提供できるテクノロジーであることが求められる」と語る。

イノベーションは、一般的には世の中の課題を革新的なテクノロジーで解決するものと解釈されるが、実際には世の中にその考えが受け入れられ、信頼されてはじめてそれが「イノベーション」だと評価される。ホームシェアリングが真のイノベーションとして確固たる地位を築くために、Airbnbの挑戦はまだまだ終わらない。

日本で民泊利用者の裾野を広げることができるか、Airbnbの挑戦は続く
ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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